表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あーあー。てすてす  作者: かさはらたま
4/9

そばとる

 蕎麦は、うどんと違って食べても血糖値の上がり方が比較的に緩やかだとか、急激に上がると脂肪がつきやすくなると聞いたことがあります。だからっていっぱい食べても太らない訳ではないでしょうが。


 あーあー。


 えー。少しだけ変わった蕎麦の店があった。看板は蕎麦とだけ書いてある飾り気のない看板。ただ、変わったところといえば縦書きであった。少しだけ入り口から覗いてみるとその店内は広く、小さめの体育館と言えるぐらいの広さ。

「なんだここ?でかいな」


 興味が湧いたせいで、うっかり入ってしまった。

「いらっしゃい!食券を買ってお好きな席へどうぞ」


 若く威勢のある男の店員が挨拶をしてきた。天ぷら蕎麦の食券を買い、空いていた席に座る。


 店内を見回してみると、一点に視線を奪われた。

 店の奥に舞台があり、そこにレジの台が置いてあり、傍らにはサンドバッグとグローブ。椅子に座ったスキンヘッドの巨漢の男。ショーでも演るのだろうか。


 ダンッ!


「しゃっ!」

 隣で食ってた男が汁まで飲み干した椀を乱暴に置き、いきなり大声を上げて気合いを発して立ち上がった。肩を揺らしながら舞台に向かった。周囲で歓声が湧きおこる。


「ただいまより、おあいそバトルを始めます、舞台の方を注目してください」

 さっきの挨拶をしていた店員がマイクでアナウンスを始めた。

「30秒、1本勝負、店長を倒すことが出来ればお代はお返しします!」


「あれ、店長か」


 舞台の上で腕を組んで座っていた男が立ち上がり、挑戦者にグローブを渡した。


「お手柔らかに頼んます!」

 スキンヘッドの店長はノースリーブのシャツから出た太い腕と全身の隙のない筋肉。

 わりと柔らかい物腰が強キャラ感を滲ませている。まぁ、腕っぷしに自信が無かったらこんな事やらないわな。


「へっ!今日こそは見てな」

 対する客は、中年の中肉中背の見た目。スーツを脱ぎネクタイを少しだけ緩める。左右に身体を振りながら、状態を確めているのだろう。

 お互いに、ヘッドギアとグローブを身につけて睨みあう。


 カンッ!


 ゴングが鳴った瞬間、中年の客は一歩下がったと思えば、宙に飛び上がりながら振り下ろしの左の裏拳。店長は、軽く後ろに下がるだけで避けた。中年の客は、避けられたタイミングで左手を引き付けて右のストレートを放つ。

 そのままスキンヘッドの顔面を捕らえたかに見えた瞬間。


 くの字に折れ曲がった客の鼻から蕎麦の麺が出ていた。驚きの表情のまま前に、ゆっくりと倒れていく。


 店長は、突き刺したボディブローを刀を引き抜くかのように、拳を下げた。床に手をついて倒れる事は免れた客だったが、さっき食べた蕎麦を怒涛の勢いで吐き出した。


 カンカンカン!


「毎度ありー!」


 勘定を済ませた客は、フラフラしながら開いていた席に座った。

「あっはい。休んでいって大丈夫ですよ。お冷どうぞ」

 戦いを終えた客に店員が駆け寄って、中年の客と何かしら会話をしていた。


「ちょっと!」

 そりゃ、思わず店員を呼ぶ。女性の店員がこっちにやって来たので制止して、アナウンスしてた店員を指差し合図を送る。

「あの俺ですか?」

「なあ店員さん。ここは、穏便に殴りあいせずに」

「無理ですね。最低一発殴られるのが、この店のルールですよ」と間髪入れずに、返答された。


 壁には張り紙があり、殴りあいを強制される代わりに、店長に一発当てれば、どのメニューでも無料と書いてある。


 そんな理不尽な蕎麦屋があってたまるか!


 その間にも、次々と勘定を済ませていく客達、全て店長の見えないボディブローによる一発KOである。

 おかげで、全く箸が進まない。すると、さっきの客が復帰したのかこちらに歩み寄ってきた。


「兄ちゃん、ありゃカウンタースキルだわ。技で攻撃すると発動するパッシブスキルやないかな」

 中年は酸っぱい臭いを吐きながら、コッソリと耳打ちしてくれた。


 んー。


 いや、違うなアクティブなスキルだ。自動反撃ならば、中年の一撃目の隙の大きな裏拳を拾っても良かったはずだ。恐らくクールタイムか準備動作が必要なのだろう。今、戦っている客達の戦いを1人、2人観察する。間違いない、それならば。


 一気に天ぷらにかぶりつき、汁を流し込む。麺は半分以上残した。くそ不味い。シャツを一枚脱ぎ椅子に掛ける。


「なら対決ろうか」


 ずんずんと舞台に立つ。ゴングが鳴った。


 自分は両足を開き、両手を胸の辺りに持ち上げ、掌を下にしてゆっくりと息を吸い込む。その手を降ろしながら一気に息を吐き出す。


「ほう、やりますね。これは、なかなか良い気合いです」と店長が余裕の表情を僅かに引き締めた。


 これで普段の1.5倍の速度と2倍の攻撃力だ。そこから、フットワークを始める、両手を交互に回して店長の周りを後ろを取るように回り込む。目を合わせ、息を合わせ心理戦が始まった。


 そして、2度目のゴングが鳴った。


「はい、時間終了。殴られなかったので、お釣りの300円です」と店員は、レジを打ってくれた。


「良い体さばきでした」と店長。

「そちらこそ」と自分。



 変わった体験でございました。殴られなくて良かった。


 感想は、こんな店は二度と来ない。潰れちまえでした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ