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罪なき償い  作者: 桜咲春亜
2/2

episode 2



「はい、さっき取った魚」


こうやってスマートに手渡せるのがイケメンというステータスの持ち主なのだろう。スッペクが違うのだ。生きている世界が違うのだ。


テントの外で焚き火を挟んで向かい合う俺と希。あたりはすっかり静まり返り、星なんかも見え出した。


この村は9時を過ぎると基本的に外出禁止となる。理由を聞くと治安を乱さない為だという。9時以降の外出には村長に連絡する必要がある。


そんな規則を守るため、5時半と少しはやいが夕飯を食べている俺たちは既に手続きを終わらせていた。テントも広めのものが支給された。村の規則では最高8人までなら暮らせるらしい。といってもこの村は一人も既婚者がいない。不思議だが何か事情があるのだろう。


「明日からどうする?」


希に聞かれて少し考え込む。二つほど候補はある。一つはバイト、二つ目は採集。


「明日はバイト先を探す前に今日手に入れた種とか苗を植えるのはどうだろう?」


まあそれが妥当か……


「なに買ったんだっけ?人参とりんごとキャベツだっけ?」


「あとトマトだね。この村の気候は温暖差がないていう情報だから基本何を植えてもいいらしい。品種もそういう風に改良されているらしいし」


この進んだ技術にまったりとした解放感。これに憧れてこの村に引っ越してきたんだ。


ピキッ



食事を終わらした俺達は一先ず引っ越し祝いも兼ねてテントの中で酒でも飲もうという話になった。


「やっぱり青にして正解かもね、黄色だと落ち着かなさそうだよ」


「ああ、流石に赤は絶対にないと思って最初に捨てたけど案外黄色が一番ない色かもな」


そんなだらけた会話を続けていると希が潰れた。俺は静かに毛布をかけて一人で飲み続けることにした。


グラスの中にうつる赤紫の液体をぐるりと回してからちょびっと口に入れる。酒は飲んでものまれるなとはよく言ったもので世の中の人達は希のようによく潰れる。


「結構な頻度で飲んでた気がするのに……久しぶりに飲んだ感覚」


その証拠にいつもより酔いが早い。


らしくないけどグラスに残ったワインを呷る。空いたグラスを簡易テーブルに軽く叩きつける。

テント内には簡易テーブルと寝袋とライトなどの必要最低限のものしかない。それらが少し歪んで見えた後、俺の意識は遥か遠くへと飛んでしまった。


ピキッ



朝起きると毛布が掛けられていて、希は既にいなかった。こたつの机並みの高さしかない簡易テーブルで寝たためか腰が重く、起き上がるのにも少し手こずってしまった。キッチンがないのでと昨日買っておいた菓子パンを手に外に出る。大好きなジャムマーガリンが挟んであるコッペパン。

いちごジャムの甘さとこのコッペパンのパサつきがなんとも言えない。この村にきて初めての朝食。懐かしい味だ。


原っぱとも言える場所をウロウロしていると声をかけられた。ニット帽を被った長身の男だ。ニカッと笑うのが特徴的で無愛想な俺はニヤッと笑っているのだろうと想像すると自分事だが気持ち悪い。


「最近越してきたんですか?」


「あ、はい。昨日越してきたばかりです!」


「俺は垣本冴。さえは女っぽいから似合わないてよく言われます。よろしく!」


長身で、笑顔が素敵で、コミュ力あり。これはスッペクが違いますね。


「桧田涼介、25歳です。よろしく」


ユーモアセンスもない俺の自己紹介はよく言えばシンプル、悪く言えば淡白。これだから社会で上手く立ち回れないんだ。



「もう少し話したいところだが、今からバイトなんだ。また会ったときにでも!」


「さようなら〜」


こうして知り合いを一人作り、その背中を見つめ見送る俺は新生活においての充実を少なからず感じていた。人生においてリラックスは必要不可欠なものであろう。心が清らかになる。そんな村なのかもしれないな、ここは。


失礼だと思い外した菓子パンを再びくわえ、テントに戻ることにした。よく考えたら希が何しているか忘れてぶらぶらするところだった。


案の定青のテントの横のスペースにレンガを置き、花壇を作っている希がいた。足音に気づいたのか?こちらを振り返った。


「おはよう!よく寝れたみたいだね」


「ああ、すっかり酔いつぶれたらしい。二人とも早かったな」


「疲れが溜まっているんだろうね。引っ越し当日だったし」


希は立ち上がり土が入った袋を指差す。


「けど寝たから回復したはずだよね?働いて貰うよ!」


このままだと全部やって貰うことになり、それは気が引けるので、モタモタといつまでもくわえていた菓子パンを急いで飲み込む。詰まりかけたがなんとかなった。そして土を用意された枠に詰め込む。しっかりとスコップで叩いて馴染ませる。


その間に希は朝飯を取ってくるとテントに戻って行った。


「にしてものどかだな〜」


俺は着々と作業を進める。家庭菜園はやったことないけど意外と簡単だ。

村全体の土がいいのか緑豊かだ。気候以外の環境も恵まれている。


敷地はフェンスで区切られているため喧嘩になることはなさそうだ。そういえばお隣さんに挨拶してないな。あとで希と一緒に行こうかな。








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