0-3 三十人目の勇者、遅れて爆誕?
自分でも分かるほど、1-6.5までの文章はクオリティが低いのでいずれ書き直します。それまでの文章は殆ど日常だから飛んで問題ありませんので、初めての方は1-7から1-10までを見ていただいてから続きを読むかを判断してくださると嬉しいです。
反乱は不満が貯まるから起こるもの。
だからこそ短期間の圧政はある程度アメを添えると反乱が起きれなくなる。
それでも心のしこりは残るけれどね。
そんな遺恨の残る【勇者生誕の儀式】の最後に、我が主人公が生まれました。
カルデア暦2370年12月30日 天龍帝国・海港都市ミドルブルー
【ミドルブルー】
その名前を知らないものは世界中を探してもそうはいないでしょう。
天龍帝国第二の首都とまで呼ばれる超巨大都市、5500万以上の人口を誇り、三つのダンジョンと海を有するその都市。
その実、人口、経済、物流、教育、冒険者や商人……それらのどれを取っても首都天楽城以上の世界最大都市。
その大都市はしかし今、どんよりとした雰囲気に囲まれている。
理由は誰もが知っている。
この一か月間、ミドルブルーでたった二人しか子供が生まれず、そのうち一人目は産まれた翌日、治療が間に合わず死亡。もう一人の子は天楽城に連れていかれたものの、『道中魔物に襲われて亡くなった』
それだけでなく、まだ百万人にも上る妊婦がこの都市の臨時病院で己の子供を失う苦しいを只々待つしかないのだ。
邪法の呪いか、はたまた生まれる筈の子達の憎しみか、ダンジョンは活性化しており、しかし治療師達は妊婦にかかりっきり。
それでも妊婦の数が多いせいで治療のレベルが低く、毎日二十万位のこの一か月間ですら妊婦の死亡率が平常の20倍、それが今日はその五倍。
天龍帝国は皇帝の信仰者を増やすことによって力を得るため、出産の治療には力を入れており、ほぼ無料で治療を提供する上、本来、ちゃんと治療を受けていれば妊婦の出産死亡率は一万人に一人。
それが今月は五百人に一人が死んだ。
それだけでなく、冒険者の治療が間に合わず、今月死んだ冒険者は十万人にも上る。いつもの倍である。
その上、老人や病人の治療も間に合わず、増えた魔物に襲われた一般人も増え、それらの死者数、六十万
年間平均死亡率にして15パーセント、年間平均出生率にして0パーセント
どう見てもヤバイ数値。
でも反乱は起きなかった。否、起きるはずもなかった。
反乱すればそれ即ち適齢女性七百万人の死。犠牲の大きさはそれだけで人を躊躇わせる。
もしこれが数ヶ月も続けば反乱は起きたでしょう。でも天龍帝国は二千年以上の歴史を誇る大帝国にして実力主義の官僚体制をもつ国。有能な統治者はそのラインを見誤る事なく、故にこその三ヶ月の邪法と一か月の儀式。
さて、視点を変えよう。
物語の中心、それはこのどんよりした都市の中央北部にある貴族と大商人の住む貴族街、その南西側。私人治療師を持たない貴族やお金持ち、そして西のミドルブルー国立学園の生徒、または私人治療師の治せない怪我や病気を治療するの高級治療院【ミドルブルー中央治療院】
その最上階、中級並び高級貴族のみに許された場所。
汚れ一つもない真っ白な壁、いかにも高級なカーペット、一目で高級品だと分かる絵が黄金の額縁に飾られており、聖なる魔力によって常に浄化され続ける空気。本来、その廊下は魔道具によって常に人体に最適な温度に保たれる筈だった。
しかしどうやら今日は違うようだ。
突如として凍ったり、または炎に飲まれたかのような熱さを感じたり、その廊下の温度は目まぐるしく変化している。まるで炎と氷の精霊が戯れ合っているかのように、而してそこから感じる不機嫌なオーラから決してそうではないことが分かる。
芸術品の保存の知識を持つ者ならきっとこの光景に激憤することでしょう。でも怒りを覚えてもきっと何も言えない。否、もしかすると怒りを感じるよりも前に、恐怖で気絶するかもしれない。
何故なら温度の変化は単なる余波でしかなく、もしも魔力を見える者がここにいたらきっとこうなん光景を見るでしょうーー赤と青の渦がまるですべてを飲み込まんとするように恐ろしい速度で回転しているっと。その魔力は例え一般人の目には見えなくとも、感じてしまう程禍々しいく、そして大きい。
しかし、
「ひゅう~荒れているね~カルシウムが足りていないのでは?」
その魔力が一瞬膨れ上がると、まるで最初からなかったかのよう消えた。
廊下には二人の男が立っている。
銀色の髪の男と金色の髪の男
二人共二十代位に見える。
よく見る、銀髪の男がさっきの魔力の中心にいた。彼がその恐ろしい魔力の元凶でしょう。如何にも不機嫌そうな表情、瞼の下には濃いクマがある。元々つり目なのもあってか、威圧感がビシビシ伝わるイケメンだ。
「何の用だ?」
彼は不機嫌な顔を更に顰め、短く返事をした。
相手の金髪男は笑顔のまま。如何にもチャラいイケメン顔、ピアスが派手に光を反射しており、何故か冬にもかかわらず半袖シャツ一枚。そのシャツでは隠し切れない鍛えられた筋肉とさっき涼しげに銀髪の男に声を掛けたことから分かるように、この男もまた只者ではないでしょう。とは言え、そのコーディネートにはセンスの欠片も無いのでモテるかどうかは判断に困る。
「いやなに、我らが氷炎のまoっちょ!いきなり何しやがる!」
金髪男がからかう口調で喋っている途中、氷の礫がその顔へ超高速で飛んでった。しかし彼の体から一瞬で出てきた金色の何かに当たると粉々になって綺麗なダイヤモンドダストになって消えた。彼は笑顔のまま慌てるふりをするだけ。
「俺は今機嫌が悪い、次はないぞ、カリウス・D・イブン」
「そんなに怒るなよ~副団長サマ~」
次の瞬間、百を超える氷の礫がカリウスを囲んだ。
「分かった、分かった、ごめんってばジーク」
カリウスが手を挙げて降参のサインをすると氷が消えた。どうやらこう言ったやり取りをするほどには二人の仲がいいようだ。
【ジークフリード・C・マキナ】、帝国第五騎士団にしてミドルブルー守護騎士団の副団長、それが銀髪の男の正体。
「それで、やっぱリンナちゃんの心配?」
「……」
「……」
「……」
「やれやれ、だんまりか」
「貴様とは関係のない話だ」
……………………
………………
…………
どうやら図星のようだ
【リンナ・C・マキナ】、ジークフリードと結婚する前の名前は【リンナ・B・ラウレンス】。
ジークフリードの愛する妻はしかし王命によっていま苦しんでいる。
彼女は今出産を控えているため、病室の中にいる。
そして今は夜11時59分。
もうすぐで年を跨ぐことになる。
(俺が不甲斐ないばっかりに……)
そしてジークフリードもまた、悔しさで苦しんでいる一人。
多分この時、彼には既に愛国心の欠片も残されていないでしょう。
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ジークフリードとリンナにとって、生まれる子供が死ぬことも、勇者であることも、そのどちらであっても望ましい事とは言えない。
我が子が生きる権利を奪われるのも、我が子が兵器になるのも、嫌だからだ。
とある夜、リンナはジークフリードにこう言った
「私、頑張るの。この子を邪法の終わった後に産むように我慢するから」
貴族のみ知ることだが、邪法が働くのは11月から12月まで、そして蠱毒が作用するのは十二月だけ。もしも十二月を越えて産まれた場合、例え勇者でなくとも無事生きていける可能性があると。
だから彼女は決意した。産気ついても何事もないふうに演技して、我慢して我が子の誕生を遅らせると。
でもその決意には何の意味もなかった。良い意味で。
何故なら今は既に2371年1月1日零時十分。でも我が子が産まれようとする感覚はいまだ来ない。
彼女は困惑しながら治療師に聞くと、帰ってきた答えは『知りません』のみ。
「ふうぅー」
リンナが調子抜けて溜息を吐いた、しかしその次の瞬間、陣痛が彼女を襲った。
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産まれた子供から鳴き声は終ぞ聞こえなかった。
(まるで魂が入っていない出来の良すぎる赤子の人形のようだ)そんなことを思いながら帝国魔導士団所属の魔導士は言った:
「この子は勇者ではありませんようです。単なるイレギュラーでしょう。
でも勇者生誕の儀式の影響か、霊体と肉体が噛み合っていないようです。
それに体もとても弱っていますね。
でも多分数年ぐらい時間が立てばちゃんと反応するようになるでしょう。……(数年も生きて行けたらな)」
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産まれた赤子は【ルナリーナ・マキナ】、成長した後、成年の儀式を持って【ルナリーナ・C・マキナ】となる子。
三十人目の勇者、真白な勇者ルナリーナ
彼女は五歳になって漸く赤ん坊レベルの意識を得る。
しかし今はまだ、誰もそれを知らない。
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