1-9 真白の少女と初めての模擬戦 1
こんな七歳児なんてあってたまるか!と思いながらチート勇者ルナの初めての戦いを書きました。
ルーペルトはちゃんと身体能力を十分の一ぐらいに抑えており、その上闘気や魔力による強化もしていないので、いざという時はいつでもルナを守る余裕を持っている。
その上、実はルナの今着ている服は防御力を引き上げる魔法がついているからこそのこの模擬戦。
これはルナの初めての戦い、その前半。
それでは本編をどうぞ
今までのやり取りもあってか、それなりの人が集まってきた中、ルナとルーペルトが訓練場の一角で相対している。
「えっと、準備はいい?」
「ん」「おう!」
ダフネの問いに対して肯定の返事をする二人、やる気に満ちている顔をしている。
「それでは……
はじめ!」
合図とともに先に駆け出すのはルナの方。体制を低く維持しながらも素早い速度で駆け抜ける。
待ち構えるルーペルト、その目はしっかりとルナを捉えている。
シュっと突き出されるメイスは空気を切り裂くに留まる。
ルーペルトはまず右足を右前方へ移動させてから左足で地面を蹴りつけて右足を軸として体を回転させ、ルナの左側に回り込もうとする。が、直ぐに右足で地面を蹴って離れる。
遅れて数瞬、彼の行こうとした位置にルナの肘が通った。
油断なく構え直す二人。仕切り直しだ。
数秒睨み合ったあと、今回はルーペルトの方が先に動いた。
ルナの三倍以上の速度によって一瞬で詰められた距離。奇しくもルーペルトの繰り出す初撃は同じく突き。
それに対してルナはしゃがみながら前進し、同時にルーペルトの右足を狙ってメイスを振り下ろす。
十分な距離がないためにスピードもパワーも足りていないその振り下ろしはしかし、躊躇に右足で地面を蹴る事によって避けられた。
これによって両者ともに体制崩したかに見える
でもルナは右手で地面から体を支えながら左手でメイスを持ち、振り下ろしの勢いを利用してぐるりと一回転、同時に足で地面を蹴る事によって斜めの振り下ろしとともにルーペルトへ接近する。
同時にルーペルトもバランスを崩す体制に合わせてわざと倒れ、左手で体を支えて、ルナの攻撃を見て慌てて左足で地面を蹴ってトンボ返えて避ける。
エビの様にぐの字に体を折ることによってどうにかルナの攻撃を避けたルーペルトはそのついでに右手の剣を振るうことによってさらなる追撃を防ごうとする。
それに対してルナは体制を更に低くすることによって回避し、同時に前へ飛び込んで攻撃。
こちらの目論見を潰すための些か無理のあるその攻撃を見て、流石に避けれないと判断したルーペルトはそのまま地面に倒れながら剣でメイスの軌跡に合わせて、自分の剣に巻き込ませてメイスをずらす。
それによって更にバランスが崩れたルナはしかしその驚きのセンスによって手を支えにし、縦に体を一回転させて無事に着地してみせた。でもその隙でルーペルトもまた驚きの速さで立ち上がり、構え直す。
又もや仕切り直しとなった。
こんなやり取りを終えた二人、この場の総ての者が心の底から驚いている。
ルーペルトの顔には冷や汗が浮かんでいる。別にさっきので全力だという訳ではない。彼が見せた力はまだまだ片鱗でしかなく、力を抑えているが故に技術もまたちゃんと発揮できているとは言い難い。それでも出している身体能力はルナの三倍以上であることに変わり無く、それでも危うく一撃を貰いかけているのは最早冗談とすら思える出来事だ。もっと力を出さないとルナに怪我させないだけの余裕を保てない、そう思って彼はギアを引き上げた。
ルナもまた、驚いている。ルーペルトが最後にやった逸し技、ルナは何が起こったのか、優れる感覚で見えていながらもしかし全く理解出来ないでいる。賢すぎる彼女にとって一度見たことの殆どは真似できる、だがさっきのは?今の自分にはどうあがいても出来そうもない技だ。もしもそれが今の自分には使えない闘気や魔法によるものであったらまだ良かった、でもさっきのは紛れも無く技術によるもの。ルーペルトの隠れている技量との差に興奮している頭に冷水をかけられたかの様に一気に冷静になるルナ、彼女もまた遊び気分から本気モードになる。
だがそんな二人よりも遥かに驚いているのは観客の者たちだ。微笑ましい子供のおままごとを見る筈が蓋を開けるとそれはそこいらの兵士なら瞬殺であろう二人の演武。闘気や魔法抜きであればもしかすると弱い騎士以上ではと思わせるルナ、それも覚醒の儀を済ませていない七歳の子供が、だ。
こんなルナですら勇者じゃない、それに気づいてしまったあるものが「え、も、もしかして勇者ってんのはルナさん以上のばっかりだったり……」
「い、いやいやいや、そ、そんなわけ…え、マジかよ、」
…………
しんっと静まり返る騎士たち
愕然と勇者の化物っぷりを想像しだして、彼らは来るべき戦争のヤバさに心の底から恐怖した。
死なないためにと一層訓練に力を入れようと危機感のある者たちの心の中がシンクロした。
そんな彼らが最もヤバイのはやっぱりルナだと気付くのに意外にも十日とかからない、でもそれはまた別の話だ。
無言で対峙する二人からは始めたときよりも遥かに凄い気迫を感じる。それはまるでさっきのやり取りは単なる小手調べとでも言うかの様だ。
ピリピリとした緊張感と恐ろしい静かさが場を包む
二人の戦えはまだ始まったばかりだ。
ルーペルトは本来テクニックタイプで、いなす、逸らすなどが主体の戦い方をする。
でもそういう技は意外にも相手に負担が掛かるので体の脆い子供に使いたくないと思って彼は回避メインで戦うと決めた。
現代の太極拳は殺し技などが抜けているが、本来太極拳などの逸し技とは相手を破壊する動きが付き物です。相手の勢いを利用して相手に負担を掛ける事によってかなり酷いダメージを与えます。
相手を傷つけないためでは無く殺すためにできた剣術を使うルーペルトがルナを傷つけないためには技をできる限り使わない必要がある。本来の戦い方なら例えルナの半分の身体能力でもルナに勝てる…訳ではないね、それだとそもそもの話として立てない。ともかく本来なら同じく身体スペックでもルーペルトが数倍強い。