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17/19

17:やぶれた世界

王冠を被った男は、音も無く立ち上がった。影になっていた顔に、強い光があたった。


リルとミドが息を呑んだのが分かった。

トールとアングルボダは、最初からこの城塞の主人を知っていたのか、その顔を確認する程度に見遣ると、静かに頷いていた。

しかし、俺の位置からは全く顔の造作が判らなかった。


「み、て、は、い、け、な、い!!!」


ヘルが破れ鐘のような絶叫をあげながら、いつもの彼女からはとうてい考えられない素早さで、歪んだ銃弾のように駆け出した。瘦せぎすな身体には不釣り合いな大きすぎるマントが、俺を庇うように視界いっぱいにひろがった。

愚かな俺が、手をのばした刹那。

ヘルは、大理石になった。

大理石は一瞬のうちに風化し、砂となり、崩れた。

ヘルであった空間が、ぽっかりと黒く切り取られていた。

世界がのっぺりとしている。

いや、ヘルの開けた空間にだけは、奥行きがあった。


オーク材の床とローテーブル、群青色のラグマット、青いベッドカバー、そして淹れたてのコーヒーの匂い…。

俺は、この空間を、よく知っていた。

だって、そこは、俺の部屋だ。

その見慣れた部屋に、一人の男が倒れている。

ずぶ濡れのスーツ、苦しげに折り曲げられた体、鳩尾の辺りを掻き毟る左手、助けを求めるかのように玄関に向かって真っ直ぐに伸ばされた右手。


「頼む。俺を、助けてくれ。」


頭上から降ってきた声に我に返り、はっと顔を上げた。

王冠の下の青白い顔は、そこに倒れている男と同じ顔、俺と、同じ顔だった。


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