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14:ハローグッバイ

「それにしても、なんかオナカすいちゃったね!」

リルが平たい腹を撫でながら言った。

「んもう、さっき朝ごはん食べたばっかりでしょ!」

そう言ったミドの腹が、クーキュルキュルと悲しげに鳴った。パッとミドは赤面した。しかし、もっと大きな腹の音がした。グゴゴゴギュルるる…とでも表記したら良いのか、遠雷のようないっそ荘厳さすら感じられる音だ。

「ああ、俺も急に腹が減った…」

トールだ。

この三人だけではない、アングルボダとグリンブルスティ、少食なヘルまでもが空腹を訴えていた。

ミドの言う通り、朝食を食べてまだそんなに経っていないのに、皆が同時に腹を空かしてしまうなんて不自然だと首を捻りかけた途端、また景色が変わった。


キーンコーンカーンコーン…懐かしい、チャイムの音だ。そして、少し掠れたビートルズの楽曲が小さめの音量で流れ出す。周りを見渡すと、白衣の子どもたちが給食の準備に追われている。

牛乳、グリーンピースごはん、ひじきの炒め煮、レーズンサラダ。全て俺の食べられないメニューだ。見ているだけで吐気すらしてくるくらい、嫌なラインナップだ。

俺は気づいた。先刻の運動会といい、このウトガルドの城塞の主人は、俺に徹底的に嫌がらせをしようとしているのだと。

俺は腹が立ってきた。いつもは怒りよりも先に、辛い悲しい情けないといった感情で胸がいっぱいになってしまうのだが、今は明確な怒りが燃えている。

「くそッ、馬鹿にしやがって。」

俺は怒ることに不慣れなせいか、甚だ月並みな没個性的な台詞を吐いてしまった。こんな時にはどんな言葉を発することが相応しいのだろうか。俺は怒ることすら下手くそなのかと、少し悲しい気持ちになった。


「救世主さまー!!お召し上がりにならないんですかー?」

ミドの声で我に返った。メシアが召し上がる…唐突に新しいダジャレを思いついた(おそらく発表の機会は永遠に来ない)。

「これオイスィー!!!」

「おお、こんなにたくさん食ってもいいのか!!」

見ると、仲間たちが一心不乱に給食を食べていた。多量の牛乳瓶や、金属製のバットや食缶が見る見る空になっていく。その様子をボンヤリと眺めているうちに、嫌いなメニューがどうしても食べられなくて担任の教諭に叱られながら、午後の授業が始まるまでずっと給食と向き合っていた記憶の重量が目減りしていくような気がした。


「ご馳走様でした!!」

皆の大きな声が響きわたると、また幻の教室は掻き消えた。俺はやれやれと、安堵の息をついた。そこで急に、蜂の群れのような猛烈な眠気に襲われた。ビートルズのハローグッバイが耳の奥で鳴り続けていた。

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