12:扉を開けて
暁は酷く慌てた様子で東の空を駆け上がる。狼が迫っているのだろうか。薄紫色の空に、真っ黒な切り絵のような城塞が浮かび上がっている。
朝靄の冷たい匂いが喉の奥を抜けていく。自分自身の鼓動が重低音になって臍の奥にまで響いている。手が、足が震えている。怖い。前に進みたくない。額から背中からジワジワと汗が滲み出る。胸があぶっている。息をするのが酷く難しい。
「よーし!この扉をブチ破るぞ!!」
俺の内心と真反対の大声が背後から轟いた。トールだ。彼はいつもながらの力強い足取りで巨大な門扉に近付くと、ドッシリと腰を落として四股を踏んだ。ちょっとした地震といっても差し支えない程の地響きが夜明けの森を揺さぶった。
「どすこーい!!」
「よいしょー!!」
トールの四股に合わせて、ミドとリルが合いの手を入れる。いつの間にかすっかり仲良くなっていたようだ。彼らの陽性の気が、俺の恐怖や緊張を忽ちに掻き消してくれた。彼らもまた、俺の頼れる仲間なのだということが突然に肚に落ちてきた。
袖を捲って筋骨隆々たる腕を露わにしたトールが、いつものハンマーをガッチリを握りしめ、地面をグッと踏みしめて十分に力を溜めると、稲妻のような発条を以って門扉に叩き込んだ。バリバリバリバリッと凄まじい音が空気を振動させる。
しかし、俺たちは予想外に息を呑んだ。門扉は、破られていなかった。俺の身長程の亀裂こそ入ってはいたが、重く気難しげな鈍色の扉は我々の前に堂々と立ち塞がっている。
トールはそのまま第二打を叩き込んだ。今度こそはと期待を込めた俺たちの視線を嘲笑うかのように、扉は、しかしそのままで立っていた。
息を飲む俺たちの耳の奥に、何者かの声が鳴った。
「なんだよ、こんな朝早くから。開けて欲しいなら、そこの呼鈴を鳴らせばいいじゃないか。全く非常識だなあ!」
驚いて周囲を見回す俺たちをよそに、今までビクともしなかった門がスーッと開いた。
「俺に何の用事か知らないけど、開けてやるから睡眠の邪魔しないでくれよ。」
心底面倒そうな声はそれだけ言って、消えた。俺たちは全員、顔を見合わせてから頷き合って城門を潜った。