表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
96/336

第二十六話「城壁の外」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十六話「城壁の外」前編


 「しかし、これはどうしたものか」


 天を突くような二本の直角な角を生やした特徴的な造りの兜を被った武将が、腕組みをしながら渋い顔で立っていた。


 ――尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)


 ”(あかつき)”最大の国家である”旺帝(おうてい)”を代表する将軍、”旺帝(おうてい)八竜”が一角を担う人物だ。


 「此所(ここ)まで来て多少無念ではあるが、一度兵を(まと)め引くか?それともこのまま力押しで押し通るか……」


 平野に陣を構えた軍の将は、目の前の城壁を見上げ思案に(ふけ)る。


 ――ザッ


 「…………阿薙(あなぎ)殿か?これ以上の助力は不要、後方へ下がっておれ」


 いつの間にか後ろに立っていた男、鋭い眼光を宿した、長めの黒髪を雑に(まと)めた男に、尾谷端(おやはた)は振り返りもせずに言う。


 「……」


 細身であるが引き締まった体つきで、如何(いか)なる時も一分の隙も見当たらない恐ろしい男。


 ――阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)


 天都原(あまつはら)国が王太子、藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)の懐刀で、天都原(あまつはら)”十剣”の一振りである”剣の鬼”


 そして現在(いま)は、一時的に共同戦線を張る旺帝(おうてい)軍に客将として同行している男。


 「あの”(くれない)の夜叉”相手はご苦労だったが、ここから先は旺帝(おうてい)軍の先鋒を預かるこの”八竜”の仕事だ、出しゃばらないで頂こう」


 「…………そうか、(あい)()かった」


 そう言い捨てる尾谷端(おやはた)に、背後に立つ鋭い目つきの男は、言葉少なく了承すると後方で陣取る軍の中へ去って行く。


 「ふん……共同戦線のための客将と(てい)の良い事をほざいていても、実のところは只の間者(まが)い、精々が我が旺帝(おうてい)の動向を探っておるのであろう」


 天都原(あまつはら)の眼光鋭き男が去ってから、相変わらず難しい視線を眼前の城壁に張り付かせた二本角兜の男は、苛立たしげに吐き捨てていた。


 ――


 さても、さても……直近の問題は後ろの男で無く前の城門……


 尾宇美(おうみ)城、東門城壁だ。


 この堅城の東側を守備していた砦を攻略した旺帝(おうてい)軍であったが、東門(ここ)で足止めせざるを得ない状況に陥っているのには理由があった。


 「どぉぉうしたぁぁーー!?旺帝(おうてい)の腑抜け共がぁぁっ!二度ほどの痛手で既に戦意が失せたかぁー!ハハハァァーーッ!」


 高く(そび)える尾宇美(おうみ)の城。

 その東門城壁の上から兵を引き連れた一人の老将が、

 見た目の年齢ではあり得ないほどの”迅雷が如き”怒声をまき散らしていた。


 「我と思わん者は今一度、我が守護するこの城壁に挑んでみてはどうだぁっ?ハッハッハァァーーッ!!」


 かなり年月を重ねた人物であるが……

 立派すぎるほどの大柄な体躯を誇り、顔中が戦傷(いくさきず)で埋め尽くされた、隻眼の一際風格のある将軍だ。


 「ぬぅぅ……言わせておけば、弱小の臨海(りんかい)軍め」


 胸の前で組んでいた両腕の二の腕部分をプルプル震わせて、二本角兜の尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は唇を噛んだ。


 臨海(りんかい)軍……本来は此所(ここ)にいるはずのない小国の軍隊。


 尾宇美(おうみ)城、東側砦守備軍を蹴散らした旺帝(おうてい)軍であったが、ここに来て東門城壁で足止めせざるを得ない状況に陥っている理由はそれであった。


 砦を突破し、そのまま勢いに乗って尾宇美(おうみ)城攻略へと一気呵成にと突き進んだ彼らだが、城壁上(そこ)に突如、天都原(あまつはら)国周辺の小国群のひとつである臨海(りんかい)軍の旗が(ひるがえ)り、現在(いま)、眼前の頭上で大言壮語をまき散らす老将によって、旺帝(おうてい)軍は散々に蹴散らされたのだ。


 「如何(いか)に我ら旺帝(おうてい)軍が宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)とその守備隊によって一定の被害と疲労を(こうむ)っていたといっても、それを破った勢いは相当なもの……その勢いをこうもアッサリ跳ね返すとは噂に違わぬ将ですな」


 尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)の後ろには、先程の天都原(あまつはら)の将とは入れ替わりに、黒い鎧兜姿に額から鼻まで覆った黒い仮面を装着し、露出した顎には立派な髭を蓄えた男が立っていた。


 「確かに、城壁という地理的優位を頭に置いても……忌忌しいがあの老将は噂通りの難敵と認めざるを得ないか……とは言え、敵を褒めてばかりもおられまい、(いか)()する?鹿助(かすけ)殿」


 尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は渋い顔のままだが、認めるところは認める事にして後ろの軍師に攻略手段を求める。


 二本角兜の尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)の後ろに立つ山道(やまみち) 鹿助(かすけ)という人物は……


 尾谷端(おやはた)と同じ”旺帝(おうてい)八竜”の一竜であり、尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)が託された旺帝(おうてい)軍の先鋒隊に軍師として同行していた。


 「そうですな……このまま力押しというのは直前の戦で(こうむ)った被害を考えると良き手とは言えますまい」


 山道(やまみち) 鹿助(かすけ)も溜息交じりにそう答えるが、黒仮面から光る眼には何やら続きがあるようであった。


 「あれは確か……臨海(りんかい)比堅(ひかた) 廉高(やすたか)だったな、(かつ)旺帝(われら)天都原(あまつはら)の戦で名を売ったという」


 尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は軍師である山道(やまみち) 鹿助(かすけ)の含んだ眼光には気づきながらも、それを流して会話する。


 「左様、臨海(りんかい)軍将軍統括、比堅(ひかた) 廉高(やすたか)……老いたりとはいえ、現在も臨海(りんかい)では随一の将と聞き及んでおる。実際目の当たりにさせられたあの戦いぶり、臨海(りんかい)の”王虎”の異名は伊達ではないですな」


 山道(やまみち) 鹿助(かすけ)もそういったやり取りを続けるが、やはり口元には幾許かの余裕がある。


 「ふん……で貴殿は如何(いか)な策がある?」


 先ほどは山道(やまみち) 鹿助(かすけ)の含んだ眼光を流した尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)であるが、元来、直情型の猛将である尾谷端(おやはた)は持って回った言い方は好まない。


 「そうですな、攻めるのは本隊の……天房(あまふさ)様の軍が到着してからで良いかと」


 「……」


 尾谷端(おやはた)は無言であるが、如何(いか)にも面白くない策だという表情があからさまに顔に出ていた。


 そしてそれは山道(やまみち) 鹿助(かすけ)も百も承知。


 ”燐堂(りんどう) 天房(あまふさ)”は旺帝(おうてい)の王、燐堂(りんどう) 天成(あまなり)の嫡子にして次期王と目される人物だ。


 だが、野望でのしあがった父、天成(あまなり)とは違い、その息子、天房(あまふさ)は平凡もよいところ……実際、この尾宇美(おうみ)城大包囲網戦で旺帝(おうてい)軍側の総大将に抜擢されたのも戦で全く功績の無い天房(あまふさ)に実績を作るため。


 天都原(あまつはら)領、尾宇美(おうみ)に隣接する旺帝(おうてい)領、香賀美(かがみ)の領主でもある天房(あまふさ)の為の実績作りに過ぎなかったのだ。


 だからこそ、実際の戦には旺帝(おうてい)八竜である尾谷端 允茂(じぶん)山道(やまみち) 鹿助(かすけ)が駆り出された。


 ”燐堂(りんどう) 天房(あまふさ)”の露払として……

 お飾りである総大将の手足として……


 それが武人たる尾谷端(おやはた)には気に入らなかった。


 聞けば、香賀美(かがみ)領主としての治政や軍事も補佐役である旺帝(おうてい)八竜の伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)が殆どを(こな)しているという。


 「ふ……ん、旺帝(おうてい)随一の将と云われし伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)殿も、現在(いま)は子守が仕事とはご苦労なことだ」


 尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は主君である燐堂(りんどう) 天成(あまなり)に含むところも、ましてや逆らう気など毛頭無い。


 だが生来の武人気質たる尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)にとって、こういうやり方はあまり好ましいとは思えなかったのだ。


 「そうですなぁ……本隊が到着するまでこの状況を放置して、敵に余裕を生ませるのは頂けないかと」


 そして、頃合いを見計らって山道(やまみち) 鹿助(かすけ)はそう付け足す。


 それは尾谷端(おやはた)のそういう心情を理解しているからの言だ。


 ここまでの武功を、努力を……例え王の嫡子だからと、横から()(さら)われては面白く無い。

 何より勇敢に戦い負傷している兵士達、死んでいった兵士達にも申し訳が立たない。


 こう言った心理が働いた状態の尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)なら、目前の膠着状態を効率良く崩す策が在るのなら多少の”武人に在らざる行為”も看過するであろうと……


 山道(やまみち) 鹿助(かすけ)は企んだのだ。


 「…………」


 そういう仮面の軍師が歪んだ笑みに、尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)はというと、”そら来たか”と渋い顔を見せる。


 尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は知っている。


 確かに有能ではあるが、少しばかり歪んだこの策士の思考を。


 この黒仮面の軍師は(ただ)(ただ)試したいだけなのだ……


 自身の策が何処(どこ)まで相手に影響するのか、その実証にこそ此奴(こやつ)は存在する。


 「兵力に劣り、守りに徹するしかない相手には心理的な余裕が無い。つまり()()を揺さぶることで、この後の展開もかなり楽なものとなり得るでしょう」


 互いの性格を知りつつも、互いの相性を良く思っていなくとも……

 二人の八竜はそれでも発した個々の利益のため、利用し合う。


 「……それは?」


 それ故、尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は黒仮面の軍師が策に耳を傾けたのだ。


 「先の戦で捕らえた敵将の無様さを晒してやるのはどうか?」


 案の定、黒仮面の軍師は卑劣な策を巡らせていた。


 「…………」


 しかし二本角兜の武将は無言で却下する言葉は発しない。


 それは現場指揮官としての責任のため。


 「都合の良いことに”容姿の優れた年頃の女”である事であるし、このような策には持って来いと言えるだろうかと」


 共に命懸けで戦っている部下に対して正統な対価を与えられるよう、手柄を奪われる訳にはいかないという責任に、提示された卑劣な策に尾谷端(おやはた)は頷いた。


 「なるほどな……尤もな策であるな」


 この時、一軍の将である尾谷端(おやはた)にとって、多少の卑劣は許容範囲になったのだ。


 そして、結果として軍師である山道(やまみち) 鹿助(かすけ)が示した策を受け入れた尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は、麾下の兵士を数人呼び寄せた。


 ――


 それは……


 山道(やまみち) 鹿助(かすけ)が言うところである”心理戦”


 尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)が感ずるところの”卑劣な策”


 その準備を指示する為であった。


 第二十六話「城壁の外」前編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ