表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
93/336

第二十三話「籠城戦」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十三話「籠城(ろうじょう)戦」


 「……」


 俺の鼻先にはキラリと凶暴な光を宿す切っ先が(きら)めいていた。


 「どういう事だ七子(ななこ)、このような不審者を事もあろうか姫様の寝室に潜り込ませる手引きをするとは!」


 怒声と共に女のつり上がった左目がギラリと光りを放ち、俺の隣から少し下がった位置に控える給仕(メイド)に視線移動する。


 鋭い眼光の左目、そして右目は……


 革製の大きな眼帯……といえるのか?


 右顔半分をも覆う程の、最早”仮面”と言えるほどの革製眼帯を装着した、奇抜な風体の天都原(あまつはら)軍女士官は、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)の寝室前廊下で俺と給仕(メイド)を睨み付けていた。


 「一枝(かずえ)、無礼ですよ、最嘉(さいか)様は我らが主、陽子(はるこ)様をお救い下さるためにこの尾宇美(おうみ)の地まで(はる)(ばる)と来て下さった偉大なる()(かた)、空のように広く、海のように深い度量とこの戦国で並ぶ者の無い最高の知謀を併せ持たれた方です」


 殺気立った空気も一向に気にせずに、ニコニコとした笑みを浮かべたまま、本人がこそばゆくなる様な賛辞を並べて同僚を諭す給仕(メイド)姿の……七山(ななやま) 七子(ななこ)嬢。


 「最嘉(さいか)?……臨海(りんかい)王の鈴原 最嘉(さいか)か?なら尚更正気とは思えん!そのような”いかがわしい”男を姫様の寝室にとは……貴様、ほんの数ヶ月の臨海(りんかい)潜入任務で”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”としての心構えも、主に対する忠誠心も無くしたかっ!」


 ――いかがわしい……俺って他国ではそんな風に思われてるのか?


 「おいおい、俺はだな……」


 巨大眼帯の女士官が放った言葉に、俺は多少引っかかって不満顔で反論を試みようとしたが……


 その瞬間!


 女士官、一原(いちはら) 一枝(かずえ)とやらの左目の奥に力が閃き、宛がわれていた剣先がズイッと俺の喉元に伸びる!


 ギィィン!


 俺の喉元に伸びる切っ先を、いつの間にかに直ぐ隣で抜刀した七子(ななこ)の短刀が、間一髪で上方に()らせる。


 ――うわっあぶなっ!……てか、鼻の頭を(かす)ってったぞ、おい……


 「ここに至っても邪魔立てするか!七山(ななやま) 七子(ななこ)ぉぉっ!!」


 「まさか、貴女に単騎戦で勝てるとは思っていないわ……けどね、一原(いちはら) 一枝(かずえ)ぇっ!」


 ――うぉ!?


 俺の隣で短刀の柄を両手で握り、相手の剣先を()らせた構えのままの給仕(メイド)は……(にこ)やかに微笑んだままの表情で、その視線だけを戦場の瞳に変貌させていた。


 「……」


 「……」


 睨み合う二人の女。


 ”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”の一枚目と七枚目……同僚のはずの二人。


 「お、おいおい……そう殺気立つなって、人には会話が必要だぞ」


 俺は女二人のただならぬ殺気に晒され、思わず仲裁をしていた。


 ――てか、なんで俺が……


 どっちかというと”王族特別親衛隊(おまえら)”が話し合えよ、仲間だろうに。


 「これは……失礼致しました、最嘉(さいか)様の御名(みな)に傷を付けるが如き無礼な態度につい……」


 そう応えて七山(ななやま) 七子(ななこ)はアッサリと手の短刀を鞘に戻し、給仕(メイド「)服の胸元にそっと仕舞う。


 「おぉ……」


 ――そんなところに入るのか!?……いや、なんていうか興味深い


 「……ちっ!」


 シャラン!


 そしてその立派な胸元を思わず凝視していた俺に、明らかに面白くないという視線を突き刺した眼帯の女……


 一原(いちはら) 一枝(かずえ)とやらも、一応は手に持った片手剣を腰の鞘に戻す。


 「と、ともかくだ、えっと、一原(いちはら) 一枝(かずえ)といったか?俺は陽子(はるこ)を助けるために来た。そしてたった今、本人にも許可を貰ってきたところだが、どうだ?」


 尾宇美(おうみ)城にいる(きょう)(ごく) 陽子(はるこ)麾下の天都原(あまつはら)軍指揮を引き継ぐこととなった俺は、今は兎に角、時間が惜しい。


 だからこうして結論だけをせっかちに求めたわけだが……


 「それを信じろと?先の南阿(なんあ)との戦で、貴様の臨海(りんかい)はドサクサに紛れて我が領土を掠め取ったも同然の……」


 「……」


 ――だろうなぁ……正常な反応だ


 「一枝(かずえ)、それは貴女(あなた)が一番解っているでしょう?姫様近くに控える事が多い(この)()貴女(あなた)なら、陽子(はるこ)様が最嘉(さいか)様にどう接しておられるか、どのように想っておられるか」


 ――そう、(むし)ろこの七子(ななこ)の方が珍しいといえる……


 「むぅ……だが……」


 七子(ななこ)の言葉に一枝(かずえ)が難しい顔で考え込んだ。


 ――なるほど……多分、これは頭で理解していても感情的な部分で割り切れていないって顔だ


 「最嘉(さいか)様、一枝(かずえ)南阿(なんあ)戦では他の任務で珍しく陽子(はるこ)様のお(そば)を離れておりましたが、普段は姫様の(この)()兵の任務を果たす”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”でも随一の忠臣です。故に今回は最嘉(さいか)様に問題なく協力してくれると……」


 「ちょっ!ちょっと待て!私は……確かに姫様は何故かこの鈴原 最嘉(さいか)なるペテン師を信頼しては……いる……いるようだが……だが……」


 平然と笑顔を絶やさず続ける七子(ななこ)に、一枝(かずえ)は完全にペースを握られていた。


 ――恐ろしいほどの会話スキルだ……七山(ななやま) 七子(ななこ)、家事だけで無くこんな特技もあるのか?


 中々に得体の知れない七山 七子を眺めながらも、俺もそれに乗ることにする。


 「なんなら、陽子(はるこ)に聞いてみるか?そうすれば……」


 せっかく休んだ陽子(はるこ)の事を考えるとそれも余り気が進まないが、こんなところで時間を浪費するわけにも行かないことから、俺は渋々とそう提案をした。


 「………………姫様は……お休みになったのか?」


 俺の顔をジッと睨みながらも、一枝(かずえ)はそう問いかけてきた。


 「ああ、あの疲れようなら今頃はもう夢の中の住人だろう」


 俺は正直に答える。


 「…………ならいい、了承した」


 そして一枝(かずえ)は、俺の答えにそう言うと完全に腰の剣から手を離していた。


 ――なるほど


 陽子(はるこ)を気遣う気持ちは本物か……

 なら同じ人物を気遣う者通し、俺達は上手くやれる。


 俺は”一原(いちはら) (かず)()”のその反応でそう確信した。


 「なら、話は早い。俺はこれから”ちょっとした変装”と、もうひとつばかり所用があるから……お前等は先に司令部に行って他のメンバーを集めておいてくれ」


 「変装だと?」


 俺の言葉の一部を捉え、怪訝な顔をする一枝(かずえ)


 「畏まりました、一枝(かずえ)には口裏を合わせられるように説明しておきますが……」


 察しの良い七子(ななこ)が一つの問題にはそう応えるが、もう一つの方は、流石に思い至らなかったようだ。


 「ああ、ちょっとな……報告にあった”アレ”に会ってから行く」


 俺はそれだけ言うと、既に二人の”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”に背を向けて歩き出していたのだった。


 ――多分な……今後、鍵を握るのは”アレ”との交渉だ……

 ――それなくしてはこの戦いは……


 ――

 ―



 「燦太郎(りんたろう)様、燦太郎(りんたろう)様……」


 ――!?


 暫く目を瞑っていた俺は、その声に閉じていた(まぶた)をゆっくりと上げる。


 「…………」


 「燦太郎(りんたろう)様、八十神(やそがみ) 八月(はづき)が前線に到着しました。城門前を守る岩倉(いわくら) 遠海(とうみ)様の部隊にいる十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)とも連絡がついた模様です」


 そうだった……


 俺は、”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”の十四枚目の一枚(カード)、”鈴木 燦太郎(りんたろう)”という偽名をここで名乗る少し前……陽子(はるこ)の寝室前での出来事を思い出しながら、尾宇美城司令室(ここ)で今後の策を頭で(まと)めている最中だったのだった。


 「早いな、流石、(はる)……姫様の最精鋭部隊と言ったところか」


 俺は七山(ななやま) 七子(ななこ)の報告を受けて椅子から立ち上がると、おもむろに司令室中央に設置された大テーブルの上にある遊戯(ゲーム)盤に手を伸ばす。


 コトリ、コトリ……


 そして盤上のクリスタル製の駒をいくつかを動かした。


 ――ロイ・デ・シュヴァリエ


 天都原(あまつはら)の”無垢なる深淵(ダークビューティー)”、(きょう)(ごく) 陽子(はるこ)の作戦図とも言えるものだ


 「よし、これで最前線から尾宇美城司令室(ここ)までの連絡系統が通ったな」


 この尾宇美(おうみ)城から城前に展開する守備隊、岩倉(いわくら) 遠海(とうみ)の部隊にいる十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)、そしてその先の最前線に向かわせた八十神(やそがみ) 八月(はづき)


 さらにその左右に展開していた各”伏兵部隊”に向かわせた三堂(さんどう) 三奈(みな)六王(りくおう) 六実(むつみ)……


 この戦場での情報系統の背骨は……八月(はづき)十三子(とみこ)、そして城の司令室で俺の(そば)に控える七子(ななこ)と……


 つまり、センターラインを知謀と情報戦に精通した人材で通したことにより、この戦の指揮系統は最短で統一され、司令室(ここ)からでも戦場の様子は、かなりハッキリと把握できる……はずだ。


 さっき俺は落ち込む八十神(やそがみ) 八月(はづき)にも言った、”直接戦場に居ては見えないものもある……”と、だが前戦の情報を素早く分析できるのもまた戦場……


 俺はこの尾宇美(おうみ)の地を城を……

 (ふじ)(きり)(きょう)(ごく)、両天都原(あまつはら)軍ほど()らない。


 だからこそ、”より詳細な情報”を”より正確”に、逐次更新されゆく状況を把握する必要がある。


 その為に陽子(はるこ)の用意した城までの撤退戦の経路を、そのまま情報収集の拠点として活用させてもらった。


 「この地を知り尽くし、尚且つ優秀な”王族特別親衛隊”(おまえら)がいてくれて助かったよ」


 そう言った俺に、七子(ななこ)はニッコリと笑った。


 「燦太郎(りんたろう)様にそう言って頂けるとは光栄です。各人には燦太郎(りんたろう)様から支給された”梟文(ふくろうふみ)”も持たせておりますし……なんというか可愛らしい連絡手段ですね」


 七子(ななこ)はそう言いながら、この司令室にも待機させている小型の(ふくろう)を幸せそうな顔で眺めている。


 ――動物好き?

 ――意外な……でもないか


 「後は、後方の対旺帝(おうてい)に配置された宮郷(みやざと)様の軍の状況ですが……」


 そして彼女は直ぐに表情を引き締めて報告を続ける。


 ――宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)……日乃(ひの)領、堂上(どのうえ)城での交渉以降会っていないが……


 「ああ、それは未だ詳細不明か……確かそこは」


 「はい、宮郷(みやざと)様には二宮(にのみや) 二重(ふたえ)が補佐役として従軍しているはずですが、彼女からも未だ連絡はありません」


 「……」


 ――旺帝(おうてい)軍……か、確かに難敵だが……


 弥代(やしろ)ならば暫くは、なんとか凌げるだろう。


 「申し訳ありません、情報部隊を増援して対応はしておりますが、詳細な状況報告は今暫しお待ちを……」


 「いや、仕方無いだろう。少し前に届いた斥候の報告ではかなりの激戦らしいからな、混戦で情報が(さく)(そう)するのは戦場の常だ、七子(ななこ)さんには速度より確度を重視して収集の指揮に当たってくれ」


 俺の言葉に七山(ななやま) 七子(ななこ)は深く頭を下げた。


 「……兎にも角にも藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)だ。早々に正面の藤桐(ふじきり)軍を退けなければ、この戦はかなり厳しい事になる」


 その時、俺の意識は確実に正面の敵、大同盟の要たる男に向いていた。


 そしてそれは……


 この籠城(ろうじょう)戦……


 ”(あかつき)”の四大国家が参戦し、多くの英傑が集った希に見る大戦。


 後に云う”尾宇美(おうみ)城大包囲網戦”を、より大きなうねりへと迷い込ませる序章となるのだった。


 第二十三話「籠城(ろうじょう)戦」END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ