第二十二話「十四番目の男(ワイルドカード)」前編(改訂版)
第二十二話「十四番目の男」前編
「で、七子さん、これで全員か?」
「はい、さい……燦太郎様。現在この尾宇美城に集結している”王族特別親衛隊”はこの六名と今現在戦場に出陣ている二名の計八名となります」
俺の問いかけに、戦場には場違いな給仕姿の聡明そうな女性が答える。
「そうか、わかった」
俺は目前に整列した六名の女達を眺めていた。
――一原 一枝、
革製の最早、仮面といえるくらいの大きな眼帯で右顔半分を覆った奇抜な風体であるが、露出した左半分から見える顔は、細く涼しい瞳にキリリとした口元と如何にも勝ち気な美人という武将然とした女。
――三堂 三奈、
ニコニコと愛嬌が良いが緊張感の少し欠けた、ある意味、飄々とした雰囲気の三つ編みの剣士で、余談だがボン、キュ、ボンっとスタイルはかなり良い中々の美女。
――四栞 四織、
ジトッとした三白眼で俺をジッと睨む、なんだか無口で無表情で小柄な謎少女。
しかし、その小さい身に確かに殺気を纏った……
多分、懐に多数の凶器を隠し持つ”暗器使い”であろう少女。
――六王 六実、
長い黒髪を簡易的に後ろで束ねた、凜とした佇まいの見るからに生真面目そうな美女。
簡易的な金属製の籠手と臑当という戦場ではやや役不足ではと思われる申し訳ばかりの軽装鎧姿で、得手は”槍”、特に”騎馬槍”だそうだ。
――八十神 八月、
くせっ毛のショートカットに、そばかす顔の本来は快活そうな少女であるが、
真面目でちょっと融通が利かない性格からか、どうも難しい顔がクセになっているらしい堅物少女。
だが、その瞳には澄んだ叡智が見て取れる……
俺が見るに、間違い無く策士の部類だろう。
――最後に……七山 七子、
長い髪をアップに纏めた如何にも温和そうな落ち着いた大人の女性。
古風なシルエットのロングスカートワンピースにエプロン姿、頭にはレースのヘッドドレスという、鎧の類いを一切身に纏わない戦場には全く似つかわしくない、伝統的な給仕。
それと家事全般が神級の腕前で、俺が知る”陽子の王族特別親衛隊”の中で最も測れない女だ。
あと……は、さっきの七子の説明にもあった通り、各戦場から未だ戻っていない二宮 二重と十三院 十三子という二名を入れて今現在、尾宇美城に集結しているのは計八名らしい。
「…………」
――これが陽子の切り札……”王族特別親衛隊”か、
なるほど一見、見目麗しい女性、少女揃いだが、その実は中々の面構えの猛者共ようだ。
――
「燦太郎様?燦太郎様!」
「っ?……ああ、そうだったな」
六人の見目麗しい女性達を観察していた俺は、七子の声で我に返る。
――そうだ……今の俺は、”鈴木 燦太郎”だった
”尾宇美城”での俺は、天都原では反感を買っている元属国扱いの臨海王、鈴原 最嘉では無くて、鈴木 燦太郎と名乗っていた。
”王族特別親衛隊”の十四枚目の一枚……”鈴木 燦太郎”
俺が急遽、用意した設定だ。
京極 陽子が温存していた”切り札”として、俺はこの場に現れたという設定なのだ。
――
「聞いてないわ、七子、王族特別親衛隊の中に、こんな怪しげな人物が居るなんて」
真面目そうな、六王 六実という女が俺を皆に紹介した七子に不審な目を向ける。
「そうだよねぇー、顔もぐるぐるの包帯巻きで怪しさ爆発だよぉ!」
そう言ってケラケラと子供のように笑う三つ編みの三堂 三奈という女。
「燦太郎様は幼少時に顔に大火傷を負ったのよ、三奈、失礼でしょう」
七山 七子は落ち着いた口調で、あっけらかんとした同僚を諫めた。
「……」
――火傷……ねぇ、ホントあの幾万 目貫なる怪人の設定もろパクリだなぁ……
俺は自分で決めた設定であるにも拘わらず、七子が”王族特別親衛隊”にする説明を苦笑い混じりで聞いていた。
――とはいえ……
このままでは話が一向に進まないだろう。
「えー、まぁ、諸君等が俺を不審に感じるのも仕方が無いと思うが、今は緊急事態だ、どうか姫様に全権を委任された俺に身を委ねて欲しい」
俺の言葉に七山 七子と一原 一枝を除いた四人が一層、怪訝な顔を返すが……
「鈴木 燦太郎の実力は私も保証する!陽子様からの一時的全権委任の件の経緯も七子と私が間違い無く見届けた。故に我らはこのペテン師……もとい、”軍師殿”の指揮下で働くのが姫様のご意向だ!」
――ペテン師って……おい、本音がチラチラと垣間見えてますよ、一原 一枝さんとやらっ!
「まぁ……一枝がそう言うのなら」
「だねぇ」
だが、一原 一枝の言葉は覿面で、六王 六実が渋々同意し、三堂 三奈もニッコリと笑いながら戯けた仕草でブンブンと頭を過剰に振って頷く。
「わかりました」
「…………わかった」
続いて残りの二人も言葉少なく頷いた。
――やはり……七子の言う通りに、先ずは一番の難物である”一原 一枝”を説得しておいて正解というところか
俺は頷くと、一枝に目配せした。
「……ふん」
が、あからさまに仏頂面で視線を外される。
「……」
――まぁなぁ……
あの時……陽子の部屋前での一枝との”やり取り”を思い返せば、俺に対する態度もそんなものだろうな。
俺は自らぐるぐるに巻いた包帯の下で苦笑いをしてから、目の前に存在する作戦図ともいえるもの……
つまり、司令室中央に設置された大テーブルの上にある遊戯盤に視線を落としたのだった。
「…………」
――”盤面遊戯”……ね
そうだ。
京極 陽子は策を構築する時も、戦術指示も……
実際の戦場地図を広げずに、この遊戯の盤面で全て行う。
戦場の地形、敵味方の陣形、更にはその後の兵の動きの予測……
それら全てをこのシンプルな遊戯の盤上に反映させ、そこから神算鬼謀を構築する。
彼女独特の手法だ。
――で、これは……
「十面埋伏か、そして……」
俺は様々なクリスタルの駒が並ぶ盤面から彼女の意図を読み取ろうと脳味噌を忙しく働かせ……
やがて”それ”を得ていた。
「とりあえず、第一に正面の天都原軍……いや、藤桐軍には二千の兵を、第二に背後の旺帝軍には千五百の兵、この二箇所に主力を注いでなんとかこの局面を耐え凌ぐ……側面に展開する七峰軍と反対側の長州門軍には各五百の兵にて対応する」
盤面を見つめたまま大雑把な配置を促す俺に、七子を除いた五人の女の眉が明らかに顰められる。
「正気……ですか、現在最も火急に対応すべきは、姫様の防御陣さえ尽く無力化してこの尾宇美城の咽元まで押し進む非常識な長州門の両砦が一角、菊河 基子の軍で……」
彼女らを代表するかのように、八十神 八月が俺に意見する。
「菊河 基子?ああ、”三要塞の魔女”ね……そうだな、あれは放置でいい」
「なっ!?」
そして、五人を代表するように異論を唱えた、くせっ毛のショートカットにそばかす顔の少女……八十神 八月は、にべもなく自身の意見を却下した俺に明らかな敵対心の籠もった瞳を向けてくる。
「鈴木 燦太郎といいましたか?貴方はあの小娘の軍が持つ恐ろしさを戦場で見たことが無いのでしょう?突破力に特化し、信じられない程の武運に恵まれたアレは……あの軍の精強さは異常ですっ!」
”王族特別親衛隊”が一枚、八十神 八月……その瞳には澄んだ叡智が見て取れる。
彼女は同じ策士として、特に俺の方針がどうしても受け入れられないのだろう。
”王族特別親衛隊”の十四枚目の一枚……
京極 陽子が温存していた取って置き、”切り札を名乗る鈴木 燦太郎という怪しい男。
その化けの皮が早くも剥がれたとばかりに、俺に呆れた視線が集中していた。
――はいはい、そういう特異な視線は馴れっこなんだよなぁ
俺は五人の女達が向ける侮蔑や疑心暗鬼を含んだ視線の集中砲火にも余裕で笑う。
そして――
そうだな……最初の攻略口はお前だ、八十神 八月!
俺は五人の中でも最も俺に疑問の視線を突き刺す少女に向き合った。
「神が振るサイコロはな……高い目しか出ないって知ってるか?」
――っ!?
予測もしない返答だったのだろう、八月は間抜けな顔で言葉を無くし、他の四人も似たような顔で俺を見ていた。
「なにを?……いったい」
ようやっと、そう絞り出した少女に俺は続けた。
「他に”策”を宛がうって事だよ、いいか、信じられない程の強運、異能、神魔……そんな理不尽級な輩と相対するなら、そういう反則を相手にするっていう覚悟と……後は」
「…………あ、あとは?」
ゴクリと生唾を呑み込むような切羽詰まった八月の顔。
”八十神 八月”は眉唾ものの”鈴木 燦太郎”を特に信頼していない。
だが、そうは言っても、その紛い物が騙る方法だとしても、それでも興味を隠せない。
――それは彼女が……叡智に魅入られた”策士”だから……
俺の言葉に静まりかえる司令室で……
俺を推し量ろうとする面々の無言の視線で重くなる空気の中で……
俺は応えた。
「適当な”如何様”が必要かもなぁ……」
――
―
そして、その場は……七子を除く五人の女達の視線は……
例えようも無いくらい冷え込んだのだった。
第二十二話「十四番目の男」前編 END




