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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
89/336

第二十一話「最嘉と陽子」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十一話「最嘉(さいか)陽子(はるこ)」前編


 カターン!


 石造りの床に何か堅い物が落ちた音が響く。


 ――っ!?


 激しい攻防戦最中(さなか)尾宇美(おうみ)城司令室で、昼夜問わず職務を遂行していた天都原(あまつはら)の高官達も一様にその音の方向へ注意を向けた。


 そこには――


 「……」


 腰まで届く緩やかにウェーブがかかった輝く緑の黒髪と、白く透き通った肌が美しい少女が立ち尽くしていた。


 「は、陽子(はるこ)様!大丈夫ですか、姫様っ!」


 直ぐに、側に控えていた若い女性士官が黒髪の美姫に寄り添って華奢な肩をそっと支える。


 「…………問題ないわ、少し手が滑っただけ」


 闇黒(あんこく)色の膝丈ゴシック調ドレスに薄手のレースのケープを(まと)った類い希なる美少女。


 恐ろしいまでに他人(ひと)を惹きつける”奈落の双瞳(ひとみ)”が印象的な、天都原(あまつはら)きっての美姫。


 紫梗宮(しきょうのみや)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)はそう応えて、自身に寄り添う女性士官に離れるように促した。


 「姫様……少し休まれた方がよろしいのでは?開戦からもう幾日も十分な睡眠を取っておられないのではないですか」


 女性士官は主人の意を汲んでそっと離れはしたが、そう言う言葉を付け加える。


 そしてその場に(かが)んで、主が今しがた落とした物を拾い上げた。


 ――コトリ


 それを司令室に設置された大テーブルの上、陽子(はるこ)が見つめていた遊戯(ゲーム)の盤面上に戻す。


 ――ロイ・デ・シュヴァリエ


 それは、二つの陣営に別れた白と黒の多様な駒を駆使して優劣を競う盤面遊戯(ゲーム)


 陽子(はるこ)が落とした物は、精巧な細工の施された美しいクリスタルの駒のひとつだった。


 「……」


 深淵の瞳をした美少女は、ただ沈黙してロイ・デ・シュヴァリエの盤面を見つめている。


 そう、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)は策を構築するときも、戦術指示も、実際の地図を広げずにこの遊戯(ゲーム)の盤面で全て行う。


 彼女の頭の中にはその地の地形と敵味方の陣形は勿論、その後の敵味方の動きやその予測さえも全て入っており、それをロイ・デ・シュヴァリエの盤面に反映するという彼女独特の作戦立案の方法を採る。


 「陽子(はるこ)様!私の話をっ!」


 「不眠不休なのは()()に居る者たちも、現在(いま)も戦場で戦っている将兵達も同じだわ」


 「姫様っ!」


 明らかに青白い肌色で事も無げにしれっとそう言う主に、女性士官はグイッと近寄った。


 「…………」


 主に対して少しばかり無礼な行動、しかしその女性士官は……


 降ろすとそれなりに長そうな黒髪を首元で簡単に(まと)め、整った白い顔の右顔半分を覆い隠す様な最早仮面とも言える大きさの革製眼帯を着けた女は、一歩も引き下がる様子も無く言葉を続ける。


 「ここにいる者達は交代制(ローテーション)で少しは休めています、しかし姫様は殆ど休んでいないでは無いですか!それに姫様は身体的には”ごく普通”の女性です、訓練を受けた私共軍人とは違いますっ!」


 女性士官の臣下とは思えぬ剣幕で詰め寄る様に、その場で各自作業をしていた者達も思わず目を丸くしていた。


 「一枝(かずえ)……そう……ね、総司令部参謀長である私が倒れたりしたら、それこそ本末転倒ね」


 必死な部下の自身を案じる言葉に、とうとう陽子(はるこ)は折れて苦笑いを浮かべて頷く。


 特異な革製眼帯で右顔半分を覆ったこの奇抜な風体の女性士官は、先任で陽子(はるこ)の補佐に付いていた同僚、十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)に代わって護衛の任についた”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”が一枚、一原(いちはら) 一枝(かずえ)という人物だった。


 「では、()()は暫し他の者たちに任せ、暫く自室にてお休み下さい」


 「…………そうね」


 陽子(はるこ)はそっと室内を見渡して頷いてから、その場を離れる。


 「…………」


 「…………」


 「え……と、一枝(かずえ)、自室に戻るだけだから別についてこなくても良いわ」


 「いいえ!私の任務はあくまで姫様の護衛ですので、当然ながらお供致します!」


 「…………」


 力一杯に、それだけが自身の成すことだと言わんばかりで答える一原(いちはら) 一枝(かずえ)に、陽子(はるこ)は呆れて溜息をついたが、それ以上はもう何も言わずに自室に戻ったのだった。


 ――

 ―



 ガチャリ


 自身の私室前に控えるという一原(いちはら) 一枝(かずえ)を置いて入室した陽子(はるこ)は、小さく溜息を()くと明かりを灯すのも億劫だというような、司令室に居た時は決して見せなかった疲れた表情で鏡台の前に移動する。


 ――シュルリ……


 肩から滑り落としたケープを椅子の背に掛けて、滑らかな曲線の膨らみに白い指を添え、胸ボタンに……


 「……」


 彼女の繊細な指が次の動作を行う前に……


 ――っ


 彼女は何か違和感を感じて停止していた。


 「だれか……いるの?」


 家具の輪郭が(うっす)らと確認出来る程度の暗がりで、彼女は漆黒の瞳を懲らせてその違和感の正体を探る。


 「そこに誰か……」


 ガバッ!


 ――っ!?


 警戒し、確認しようとした瞬間、暗黒の美姫は後方から何者かに羽交い締めにされてしまった!


 「な!?……何者っ!……このっ!」


 グイッ!


 「くっ!……んん……」


 咄嗟に抵抗する陽子(はるこ)だが、男の引き締まった腕に背後から抱きすくめられ、持ち上げられた彼女の身体(からだ)は為す術無く毛足の長い絨毯から足先が数センチ上方へ浮いた。


 「かっ……かず……うっ……むむ…………」


 そして整った(あか)い唇が、自室前に控える”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”を呼ぼうと開くが、それも直ぐに大きな手で覆われて、言葉に成ることはなかった。


 「んん……うっ」


 陽子(はるこ)如何(いか)に武術も何も(たしな)んでいない普通の華奢な少女とは言え、こうもアッサリと手中に制圧する技は見事で……


 「うう……このっ……や……」


 背後から抱きすくめられ捕獲された黒髪の美姫は、為す術無く持ち上げられた身体(からだ)を……


 ドサッ!


 少しだけ乱暴に、自らが休む予定であったベッドの上に投げ置かれた。


 雑に投げ出された肢体……

 少し乱れたスカートの裾から黒いストッキングを着用した太ももが露出する。


 「ぶっ、無礼者!……っ!」


 声を上げる千載一遇の機会、しかしこんな状況でも彼女は……


 (きょう)(ごく) 陽子(はるこ)は乱れた下半身に意識が向き、そしてスカートの裾を即座に戻そうと手を伸ばし――


 ギシッ!


 「むっ!……はっ……むぅぅ……」


 ――た瞬間に、


 男は図々しくも仰向けの陽子(はるこ)の上に跨がり、強引に彼女の両手首を掴んでその頭上に(まと)めて拘束し、自らの左腕一本で諸共固定してから、もう一方の手で彼女の唇を塞いだ。


 「……ん……ぅぅ!」


 必死の抵抗を試みようとする陽子(はるこ)はもう、重なって覆い被さる男に制圧された虜囚だ。


 (まと)()に動くことも出来ず、大声を出すどころかくぐもった吐息を漏らすのがやっと。


 「…………」


 薄暗闇の中でも、自分を見下ろす男の視線を感じる。


 ここ数日は(まと)()に使用していなかった場所に仰向けに放り出された肢体……


 「うぅ!……ん……」


 陽子(はるこ)の全身に注がれる視線の主を見極めようと薄暗闇の中で暗黒の瞳を凝らせる少女だが……


 ガバッ


 「っ!」


 その視線を(かわ)すように陽子(はるこ)の顔の直ぐ横に、男は押し倒した美姫の肢体の上に覆い被さって自らの顔を彼女の直ぐ横に寄せた。


 「むむ……む……」


 少女はもう完全に制圧された虜囚だ。

 後は無惨に蹂躙されるだけ……


 「……」


 陽子(はるこ)の暗黒の瞳が、深淵の瞳が薄暗闇の中で鈍く光り、彼女は何かを決意する。


 決してそうはさせまいと、自らの純潔に触れえる人物はひとりだけと……


 陽子(はるこ)は心の中で決意して”深淵の魔眼”に力を込め……


 「っ!」


 少女がその決意を実行しようとした瞬間だった。


 「大人しく言うことを聞け、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)……お前は俺の手の内だ」


 仰向けに固定された陽子(はるこ)の顔の左側に、彼女の視線を(かわ)すように持ってこられていた相手の顔、その口が耳元でドスの効いた声で告げる。


 「っ!?」


 途端に……


 押し倒され、押さえ込まれ、上に乗られた少女の漆黒の瞳が薄暗がりの中で、一回り大きく見開かれた。


 続いて陽子(はるこ)の紅い唇から離れた無作法な手は、そのまま彼女の白い首筋から流麗な曲線を描く(あご)に添えられる。


 「……」


 だが、陽子(はるこ)は唇を解放されても声を出さなかった。


 暗黒の美姫をいつでも、どう料理することも出来ると、生殺与奪を握られた相手に恐怖してそうできないのか、それとも……


 ――それとも?


 少しの間、男の指先は少女の形の良い(あご)(さき)、白い頬……と、繊細な肌の感触を愉しむように動いていたが、その違和感にだろうか?、程なく無粋な手は制止していた。


 「諦めたのか、お前……」


 「随分と礼儀を知らない手ね、乙女の肌に」


 すっかり為すがまま、抵抗を()めた美姫は、体勢はそのままに驚くほど落ち着いた声で男の質問を上書きする。


 「そ、そうか?……だがこれからだお姫様、さぁ、この後どうしてくれようか?」


 ()()た台詞を吐いて男は、その指を彼女の瑞々しくも(あか)い唇に触れさせた。


 「……」


 「?」


 しかし美姫はピクリとも反応しない。


 「ど、どうした?抵抗はもう()めたのか?」


 為すがままの相手に疑問を感じた男は、ピタリとその行為を()めて怪訝な声を発する。


 「好きにしたら?どうせ抵抗できないのでしょう」


 驚いたことに、貞操の危機にも(かか)わらず、落ち着いた口調のまま平然とそう返す少女。


 「い、いいのかよ?……ほんとに?」


 「ええ」


 「す、凄いことするぞ……」


 「どんな?」


 「いや、だから……その……む、胸を揉んだりとか……ふ、服を脱がせて……アレだその、色々な辱めを……」


 陽子(はるこ)は相変わらず落ち着いた口調のままで、(むし)ろ声がうわずっているのは押し倒した男の方だ。


 先ほどまでの雰囲気から一転、すっかり攻守が入れ替わったかのような状況である。


 「そう、ドキドキするわ」


 「…………」


 男は……


 ”俺”は……自分の下で仰向けに寝た少女の体温を感じるほど密着した状態で……


 「ふふ……くすくす」


 なぜか愉しげに口元を綻ばせる少女に……


 「おい……(はる)……お前、気づいてたのかよ」


 押し倒した少女にそう言っていた。


 「なぁに?最嘉(さいか)……もうお終いなの?残念ね」


 そして俺に組み敷かれたままの獲物は、もの凄く愉しげに微笑(わら)ったのだった。


 第二十一話「最嘉(さいか)陽子(はるこ)」前編 END

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