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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
87/336

第二十話「二人の鬼」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十話「二人の鬼」前編


 ザスッ!ザスッ!ザスッ!


 ザスッ!ザスッ!ザスッ!


 「うぎゃ!」


 「ぐぉっ!」 


 「がはっ!」


 雨霰と矢が降り注ぎ――


 そしてそのどれもが命中するという神業!!


 天駆ける無数の矢は、一矢たりとも地面に触れる事は無く――


 代わりにそれを受けた兵士達が地表を埋め尽くした。



 「ちぃっ!なんて腕だ……これが宮郷(みやごう)紅の射手クリムゾン・シューターなのかっ!」


 ブォォンッ!


 平地に屍を敷き詰めるばかりで一向に砦へと近づけぬ苛立ちからか、馬上より手にした剣を虚空に斬りつける鎧姿の男。


 「コソコソと遠見から姑息な……」


 苛立つ男は、まるで天を突くような二本の直角な角を生やした特徴的な造りの兜を被っていた。


 「落ち着かれよ、尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)殿!敵は寡兵だ、直ぐに矢も尽きよう」


 そして、その二本角兜の男を(いさ)めるのは、直ぐ後ろで槍を片手に持った黒い仮面の男。


 こちらの武将は鎧兜と額から鼻まで覆った黒い仮面を装着し、露出した(あご)には立派な髭を蓄えている。


 「鹿助(かすけ)殿か……しかし、それでは我が隊の被害が大きすぎる!」


 二本角兜の尾谷端(おやはた) 允茂(のぶしげ)は、黒仮面男の忠告をそう言って否定して馬の腹を蹴った。


 ヒヒィィーーン!


 「尾谷端(おやはた)殿っ!…………ぬぅ……止むを得ぬか」


 自隊を率いて構わず特攻する二本角兜の男の背を見ながら、黒仮面の男、山道(やまみち) 鹿助(かすけ)も仕方ないといった溜息を()いてから、自身の兵を率いてそれに続いたのだった。



 ザスッ!ザスッ!ザスッ!


 ザスッ!ザスッ!ザスッ!


 「うぎゃ!」


 「ぐぉっ!」


 「がはっ!」


 雨霰と矢が降り注ぎ――


 そしてそのどれもが的確に相手を貫く!


 只管(ひたすら)繰り返される攻防により、攻め手である旺帝(おうてい)軍兵士の骸が量産されるばかりで、折り重なって倒れた兵士が、砦の高台に陣取る(くだん)の射手まで続く道を埋め尽くしていた。


 「…………ふぅ」


 小さく吐息を漏らす(あか)い唇。


 尾宇美(おうみ)城の東部に位置する砦に設置された(やぐら)から、深紅の弓を構えて旺帝(おうてい)軍の猛攻を抑え続けているのは……


 「(まと)、多過ぎ……困ったものね、目を(つぶ)っていても当たるわ」


 小国群のひとつ、宮郷(みやごう)領主代理の宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)であった。


 「宮郷(みやざと)様っ、新手来ますっ!一斉射撃の真ん中を強引に突き進んで……」


 長い黒髪を後ろで束ねた、少し気怠(けだる)そうな軽装鎧姿の女、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)が深紅の弓を構えて立つ(やぐら)の足下から、弓部隊を指揮している、おかっぱ頭の少女が手に持った西洋風”十字弓(クロスボウ)”を掲げて声を張り上げてくる。


 「…………多いわ……ほんと……はぁ」


 弥代(やしろ)は数メートルの高度はある(やぐら)から”それ”を確認するが、既にその無鉄砲な敵軍団は味方の屍を踏み荒らしながら砦の目前まで迫って来ていた。


 おおおおおぉぉぉぉっ!!!!


 犠牲もなんのその!


 突き進み迫り来る敵部隊の先頭に、おかっぱ頭の少女は二丁拳銃の如き構えから両手にもった若干小型の西洋風”十字弓(クロスボウ)”の引き金を引く!


 バシュッ!バシュッ!!


 「ぎゃっ!」


 「ぐわっ!」


 同時に放たれた矢は見事に二人の兵士の眉間を射貫くが……


 おおおおおぉぉぉぉっ!!!!


 「くっ!これでは……」


 そう、まんま”焼け石に水”だ。


 「捉えたぞぉぉ!小賢しい敵弓部隊を蹴散らせぇぇいっ!!」


 おおおおおぉぉぉぉっ!!!!


 とうとう敵軍の侵入を許して、砦前は敵味方入り乱れた混戦状態と化していた。


 ザシュゥーー!


 「うぎゃっ!」


 ズバッ!


 「きゃぁぁっ!」


 混乱する戦場に所狭しと閃く刃が放つ銀光の数々!!


 混戦状態に持ち込まれた天都原(あまつはら)軍、尾宇美(おうみ)城の東部砦守備隊は、弓兵が隊の半分を占める独特の構成上、肉弾戦に持ち込まれては歯がたたない!瞬く間に蹂躙されてゆく。


 トスッ!トスッ!


 「ぎゃっ!」


 「ぐわっ!」


 「よし……次っ!」


 迫り来る敵兵二人を両手の十字弓(クロスボウ)射殺(いころ)したおかっぱ頭の少女は、直ぐさま次の敵に照準を合わせようとするが……


 ギィィィーーン!


 「きゃっ!」


 後ろから右手の十字弓(クロスボウ)を斬り落とされ、そこに尻餅をついてしまう。


 「おおっ!指揮官の首頂きだぁっ!!」


 少女の眼前で血走った(まなこ)の男が、ここまでで十分血を吸った真っ赤な刀身を振り上げていた。


 「くっ!すみません……陽子(はるこ)さま」


 ザシュゥーー!


 「ぎゃぁぁっ!!」


 少女が覚悟した瞬間、獣の如き(まなこ)の男は袈裟掛けに体を斬り裂かれ、噴水のように鮮血を巻き上げて倒れていた。


 「…………み、宮郷(みやざと)……さま!」


 尻餅を着いたまま、驚いて瞳を大きく開くおかっぱ頭の少女。


 「…………」


 彼女の前には、先程まで(やぐら)の上で神業を披露していた女が、深紅の弓を両手に装備した二振りの細い剣に持ち替えて立っていたのだ。


 「宮郷(みやざと)さま?」


 「…………はぁ」


 おかっぱ少女の声にも無反応に、頭の後方に束ねた艶やかなる黒髪ポニーテールを(なび)かせて、女の背が溜息と共に肩を落とす。


 「貴様っ!ここの総大将か!?」


 「よ、よくもっ!かかれっ!」


 斬り殺された旺帝(おうてい)兵士の後ろから次々とギラついた刀身を光らせた新手が押し寄せてくる!


 「これはもう……やるしかないわね……はぁ……面倒くさ」


 そして、殺気立つ敵兵士達を前に場違いなやる気の無い溜息を()いた女は、そっと気怠げな視線を背後で尻餅をついたままのおかっぱ頭の少女に投げかけた。


 「ああそうだ、フタエちゃん?……そうそう、二宮(にのみや) 二重(ふたえ)ちゃん!あなたはあなたの残兵を連れて尾宇美(おうみ)城の司令部に戻って、紫梗宮(しきょうのみや)にこの場の戦況を伝えてもらえるかしら?」


 「は?……え、あの……」


 「死ねぇぇっ!」


 ザシュ!


 「がはっ!」


 余りに場違いな女の口調と言葉に、つい間抜けな声で聞き返す”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”が一枚、おかっぱ頭の十字弓(クロスボウ)少女、二宮(にのみや) 二重(ふたえ)


 「()()はもう数刻も持たないわね……じゃ、取りあえず……」


 「どりゃぁぁっ!」


 「やぁぁっ!」


 ズバァァッ!


 ドスゥゥー!!


 「ぎゃっ!」


 「ぐふぉっ!」


 さらに斬り寄せる旺帝(おうてい)兵を気怠(けだる)そうに”いなして”斬り伏せた女の表情(かお)は……


 「…………」


 ゆっくりと唇が(いびつ)に口角を上げて歪み、女の整った口元に浴びた血飛沫を妖艶な赤い舌先がペロリと舐め取っていた。


 「なっ…………!」


 ――ゾクリッ!


 尻餅をついたままの二宮(にのみや) 二重(ふたえ)は、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)の見せた仕草に……


 気怠い表情から一転して見せる狂気に……


 背筋に冷たいものが走って固まっていた。


 「ああそうね、もう少しは持たせるつもりだから……」


 そんなやり取りをしている間にも怒濤の如く襲い来る敵を、


 ズバァァッ!


 ドスゥゥー!!


 「ぎゃっ!」


 「ぐふぉっ!」


 「……その間になんとか手を打って欲しいと……聞いてる?」


 自在に跳ねる後ろ髪(ポニーテール)と左右の剣で次々と切り倒しながら、気怠(けだる)げだった女は浴びた返り血を拭うこと無く、事も無げに問いかけてくる。


 「あ……えと、しかし、宮郷(みやざと)様は……」


 少し前までの宮郷(みやごう)の”紅の射手クリムゾン・シューター”、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)は、噂通りの気怠(けだる)げな女だった。


 しかし返り血で赤く染まってゆく宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)の姿はその赤を増す度に……


 ザシュ!


 「ぐわっ!」


 ドスゥ!


 「がはぁ!」


 無情なる刃を振るう度に……


 垂れ目気味な彼女の瞳は尋常な色を無くしてゆき、


 (べに)の薄い唇は口角を(ゆが)めて上がってゆく……


 「は……はぅ」


 二宮(にのみや) 二重(ふたえ)は思う。


 その姿は……”別人”……”人”……”ひと”?


 いや、その姿は血肉を貪る……”夜叉”


 ザシュゥ!


 「ぎゃはぁぁっ!」


 また一人、旺帝(おうてい)兵士が斬り捨てられ――


 目の前の指揮官に……

 味方であるはずの(みや)(ごう)領主代理の戦士に……


 「ひ……は……あ……」


 ”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”が一枚である二宮(にのみや) 二重(ふたえ)は恐怖が顔に出る。


 血に染まった敵兵はもう何人目かも解らない。


 「…………聞いてる?フタエちゃん?」


 「っ!?……宮郷(みやざと)様っ!……はい! 宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)様、りょ、了解致しました!」


 我に返った二宮(にのみや) 二重(ふたえ)は、驚いてそう答えたものの……


 「…………あ、あの」


 その後、少し躊躇した。


 三方を大群の敵に囲まれた戦場。


 死地に――


 ただでさえ少ない兵を引き連れて、自分が城に戻ってしまっては、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)は……


 その戸惑いが、恐怖心から戻ったばかりの二宮(にのみや) 二重(ふたえ)の足を(とど)めさせていた。


 「…………あの、宮郷(みやざと)様……やはり……」


 そんな少女を察しただろうか、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)は言う。


 「早く行った方が良いわ、だって……」


 宮郷(みやごう)の”紅の射手クリムゾン・シューター”改め”紅夜叉(くれないやしゃ)”は言う。


 「()()に居る者は(ことごと)く、”(くれない)化物(けもの)”が殺戮の巻き添えを食うわよ」


 返り血をたっぷり浴びて(あか)に染まる女は――


 垂れ気味の瞳を細め、薄く微笑して少女を促したのだった。


 第二十話「二人の鬼」前編 END

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