第十九話「”暁”最強部隊?と鋼の協力者?」後編(改訂版)
第十九話「”暁”最強部隊?と鋼の協力者?」後編
長州門の”両砦”が一角、菊河 基子率いる歩兵部隊と京極 陽子の天都原軍が激突していた時と同時刻に――
尾宇美城北側に展開する、対”七峰”軍防衛砦は……
「くっ!次から次へと……きりが無いわね」
突貫工事で築かれた幅二メートルほどの堀代わりの溝と、腰まで積み上げられた土嚢の壁に仕切られた向こうに設置された陣にて女は苛立った声を漏らす。
「これまで……陽子様の策で七峰軍の再三に亘る突撃を撃退してはいるけれど、それも何時まで持つか……」
長い黒髪を簡易的に後ろで束ねた背筋がスッと伸び凜とした女は、簡易的な金属製の籠手と臑当という戦場ではやや役不足ではと思われる申し訳ばかりの軽装鎧姿であった。
「ここを抜かれれば後は……陽子様の居られる尾宇美城までは八月が守る最終防衛ラインしかない……いざとなれば」
決意に満ちた瞳でそう呟いた女は、そっと立てかけてあった槍に手を伸ばす。
「うぎゃぁぁーー!!」
「ぐあっ!」
「っ!!」
そして彼女が槍を掴んだまさにその瞬間、陣内に雪崩れ込む人影が五人!
ガギィィーーン!
目前で金属同士の火花が散り、刀を折られて押し返された男が後方へ弾け飛ぶ。
「六実っ!ごめん抜かれたぁ!もう”この陣”まで七峰軍が迫ってる!」
雪崩れ込んで来た人影のひとつ、男を弾き飛ばした三つ編みの女が剣を片手にそう叫んで槍を握った女の前に背を向けて立つ。
ザザザッ!!
そして直ぐにそこには……
残った三人の敵兵だけで無く、後続として十人以上の兵士が二人の女を包囲するように集結していた。
敵兵と共に剣を構えて飛び込んで来た三つ編みの女は、天都原王家に仕える特殊精鋭部隊、”王族特別親衛隊”が一枚、三堂 三奈。
そしてその後ろで槍を手に取った、長い黒髪を後ろで束ねた女は、同じく六王 六実。
共に天都原国軍総司令部参謀長、紫梗宮、京極 陽子付きの精鋭であった。
ザザザッ!
ザザッ!
忽ち囲まれる二人。
彼女達を取り囲む武装した兵士達の数は瞬く間に膨れ上がり、今はその数二十人以上……
「…………これまでね、なら」
六王 六実は槍を低く構え、陽光をキラリと反射する穂先を敵兵士達に向けた。
「そだねぇ、後はちょっとでも殺っちゃって後ろの八月の負担を減らすっきゃないかぁ……」
血塗られた剣を握った、散々に返り血を浴びた三つ編みの少女。
三堂 三奈は諦めたように笑って剣を構える。
「ええ、三奈もこの際だから”制御弁”外していいけど、私は巻き込まないでよ」
「うーん、それは六実が私の前にでなきゃいいことだよ」
「はぁ……」
「えへへ!」
生真面目と不真面目、正反対の女二人は恐らく最後と言葉を交わし、お互い命の捨て所だと確認していた。
「……いざっ!」
王族特別親衛隊が一枚、六枚目、六王 六実が槍を手に覚悟を決め!
「あはっ、いくよぉっ!」
王族特別親衛隊が一枚、三枚目、三堂 三奈が心なしか寂しく笑って剣を振り上げた。
――時だった
シュォォーーン!!
「なっなに!?」
「うひゃっ!」
自らの役目の終わりが近いことを自認した女達の目の前が一瞬で白く染まって――
――
―
「うがぁぁっ!」
「ぎゃふっ!!」
「がふぉっーー!」
間を置かず、白んだ視界零の景色の中……
その場には幾つもの悲鳴が重なっていた!
「……三奈」
槍を用心深く構えながら六王 六実は、次第に戻る視界の中で同僚の名を呟いた。
「…………」
血糊でベッタリな剣を構えた三堂 三奈も張り詰めた空気のまま、無言で頷く。
何が何だか解らない状況……
一瞬で奪われた視界から徐々に復帰していく世界で、瞳を必死に凝らせて槍を握り直す六王 六実と剣を緊張のまま構える三堂 三奈の前には……
「っ!?」
「……六実!誰かいるよ」
ようやく戻った彼女達の視界の先には独りの男の姿があった。
「驚かせて悪かったな、俺は……」
「……」
――この男は初見だと
――さっきまでの七峰兵士達の中には居なかったと
それどころか、見た目上は七峰軍でさえ無さそうだ。
六王 六実は瞬時に思考を巡らせるが……
「おいおい、物騒だな」
戯ける正体不明男に向けて、依然と槍を構えたままで、六王 六実は殺気を消さない。
彼女にとって、この状況を安全だと判断するには余りにも場違いな風景が其所に広がっていたからだ。
「うう……」
「……」
倒れた七峰軍の兵士達が散乱し、立っているのは自分達、王族特別親衛隊である二人と、目前の正体不明男だけ。
そして――
キュイィーーン
シュゴォォーー
謎の男の背後には、数人の……
いや、”数体”の得体の知れない影が三つ!
二メートルはあろう人型の影……
キュイィーーン
シュゴォォーー
そう、人型……
一目見て理解出来る。
決して”人”では無い存在が、
関節の隙間などからピコピコと何色もの光を明滅させて、おかしな音を漏れさせてい異形が……
其所に存在したのだ。
――”鋼鉄”の……兵士?
頭部に赤く光る二つの円形のモノは、この異形の双眼なのだろうか?
六王 六実は目前の怪異を考察しながら槍を突き出す。
「珍妙な……何者!」
緊張感を保ったまま、いや寧ろ敵兵に囲まれていた時よりも険しい表情で六王 六実は槍を突き出すが……
「おぉっ!!」
彼女の相棒である三堂 三奈は剣を下げてすっかり戦意を置いて、興味本位のキラキラした瞳と驚きの声を漏らしていた。
「こ、答えなさいっ!」
六王 六実は相変わらず能天気な相棒に内心、苛々しながらも、槍先を更に男に向けて突き出した。
「お?お?いや、ちょっと待てって、俺は別に敵じゃ無い……てか、これは機械化兵っていって俺の造った……」
「……機械化兵」
慌てた様子で、敵意は無いとばかりに両手を万歳する男を注意深く見ながら、槍を構えた六実はその”異形”を更に注意深く観察する。
「そうそう、俺はちょっとな、お前らの主人、紫梗宮、京極 陽子殿に会いたくて遠路はるばる”恵千”からやって来た……だからその物騒な槍を下げてくれ」
「…………」
六王 六実は臨戦態勢のまま、再び考える。
――”恵千”?
”恵千”とは旺帝領内の半島にある僻地の地名だ。
――東の最強国”旺帝”絡みで異形の兵士、機械化兵?と若い男……
――それにあの”右目”は……
六実は何度も目前の男と後ろの異形に対して交互に視線を移していた。
――年の頃なら陽子様と変わらないくらいの男で、あの右目の光……
――眼鏡越しに見える僅かに鈍い光りを放つ右目は恐らく……”義眼”
「隻眼で、異形の兵士を従えた若い男……つまり貴方は……」
六王 六実の中で知識と情報が繋がってゆき、やがてそれはピタリとパズルのピースが填まるようにある結論に辿り着く。
「つまり貴方は旺帝の……」
「おおっ!旺帝の”独眼竜”!!穂邑 鋼じゃないのぉ!ねぇ?ねぇ?六実!そうだよね?ね?」
「…………三奈」
自身の台詞尻を強引に奪ったばかりか緊張感も無く、半ば有名人にあったミーハーのように騒ぐ同僚。
そんな三堂 三奈を呆れた様に一瞥してから、六王 六実は油断なく問いかけた。
「敵で無いとは?旺帝の貴方がどういうつもりですか、穂邑 鋼!」
そして殺気を纏った穂先をグイッと突き出す!
「いや、だから先に槍を……」
「曾ての”旺帝二十四将”に最年少にして名を連ねし”独眼竜”は確か、失脚した旺帝の前女王である”黄金竜姫”……燐堂 雅彌の騎士だったと聞いていますが……」
「へぇ、博学だねぇお姉さん……まぁな、とりあえず天都原一と評判の美姫”無垢なる深淵”に会わせてくれよ、話はそれからだ」
穂邑 鋼と呼ばれた右目の光りが少し鈍い義眼の若い男は緊張感無く笑うと、
パチンッ!
指を鳴らして、その場に膝を折った。
「っ!?」
「わぉ!」
殺気の残る相手の前にて、異国の男が取った大胆な行動に二人の”王族特別親衛隊”は意表を突かれる。
ブゥゥーーン…………
ブゥゥーーン…………
ブゥゥーーン…………
さっきの指音が男の指示であったのだろう。
男の後ろに控えていた機械化兵と呼ぶらしい異形の赤い双眼から不気味な光は消えて、それらは微動だにしなくなっていた。
そして件の人物自身は……
両手を万歳して頭の後ろに組み、地に両膝を着いたまま、降伏の意思を露わに、さも平然と無防備に身を晒す。
「旺帝の”黄金竜姫”、燐堂 雅彌の使者として来た穂邑 鋼だ。天都原国軍総司令部参謀長、紫梗宮、京極 陽子殿に目通り願いたい!」
そしてそう言って、旺帝の”独眼竜”、穂邑 鋼という男はニヤリと不適に微笑ったのだった。
「ふふふ……」
「……」
「……」
両手は万歳で膝立ちという、誰がどう見ても情けない状態で……
第十九話「”暁”最強部隊?と鋼の協力者?」後編 END




