第十九話「”暁”最強部隊?と鋼の協力者?」前編(改訂版)
第十九話「”暁”最強部隊?と鋼の協力者?」前編
尾宇美城へ通じる迂回路の山道で激しい戦闘が繰り広げられていた。
ギィィィーーン!
「ぐはぁぁっ!」
一方は数百の歩兵部隊で旗印は”長州門”の象徴、一の文字の下に三本の鏃が図案化された”一字三矢”が掲げられ、もう一方の勢力は……
ザシャァァッ!!
「ぎゃぁぁっ!!」
奮戦していた指揮官らしき人物が斬り倒され、僅かに残った兵達も我先にと蜘蛛の子を散らすかのように敗走し始める。
ワァァァァッッ!!
そしてそこに残る揉みくちゃに踏まれた旗印……
それは鮮やかな紅地に円く白い太陽、そこに大らかに羽を広げた堂々たる鳳をイメージした図案の……
天都原王家の御旗、”白陽鳳凰”であった。
「はあっはっはっはぁーーーー!!」
敵が去った山道で甲高い高笑いが響く。
その声は、四人の壁の様な屈強なる鎧武者がお互いの背を向かい合わせに警戒する中央付近から聞こえてくる。
「はあっはっはっはぁーーはぁーーはぁっ!」
前後左右を雄雄しい武者達に囲まれた中央付近で、
如何に武者らが大柄な体格揃いとは言え、その囲いの中で彼らの胸ほどまでもないであろう声の主の姿は……
囲いの外部からは殆ど確認が出来なかった。
「はっはぁーーっ!?がっ!がはっ!ごほっ……はっ……うぇっ」
少しばかり勝利に浸る尺が長すぎたのだろう。
調子に乗りすぎたともいう。
「がはっごほほっ!うえぇぇーー」
声の人物は噎て咳き込み、人物の頭の両サイドで束ねたツインテールがピョコピョコとコミカルに跳ねる。
「だ、大丈夫でありますかっ!?菊河隊長殿っ!」
「がはっげほっ……」
咳をする度にガチャガチャと鎧の繋ぎ目が擦れて鳴る人物は、
自分の四方に立つ兵士達どころか、自らが着込んだ鎧にさえ埋もれてしまいそうな……
腰に差したどこにでもある刀が長すぎて、まるで串に突き刺された雀のような見た目の極めて小柄な少女であった。
「げほっ、けほっ……ふ……ふはぁ」
やがて少女の咳は次第に治まっていった。
「無理して高笑いなんてするからですよ、基子ちゃん」
呆れた様な声で、少女を囲っていた兵士の一人が忠告をするが……
「……って、誰が基子ちゃんかぁっ!!私の事は菊河隊長、若しくは基子様と呼ぶことっ!」
――カチャ!カチャ!
ひっこんだ咳が治まっても少女の鎧の擦れる音が続くのは……
怒鳴る少女が今も……いや、先程からずっと”つま先立ち”でいるから。
――カチャ!カチャ!
お尻と脹ら脛の筋肉が緊張することで、少女の小さい身体がプルプルと小刻みに震えているからだ。
「いや……でもなぁ」
「う、うむ……」
威圧的に上位者然とした言葉使いで部下を一喝する少女であったが、
如何せん、見た目は幼気な少女……
なんとも妙な感覚に、思わずお互いの顔を見合わせる彼女の部下達。
キッ!
「はっはいっ!了解いたしました菊河隊長殿っ!」
「はっ無論承知致しております!基子様!」
幼子のようなドングリ眼でツインテールの少女にひと睨みされた二人は、姿勢を正して慌てながら敬礼する。
「ふんっ!全く……基子はね、早く戦果を挙げて”お姉さま達”に、うんっっと誉めて頂かないといけないのよ!?」
この小さい身体を四方の山の様な男達に埋もれさせながらも、精一杯”つま先立ち”で必死に威厳を維持する?ある意味で健気な少女。
彼女こそが、本州西の大国”長州門“の三番手である菊河 基子だった。
小柄で可愛らしい風貌とは裏腹に、軍を率いては”天性の直感”と”呆れるほどの強運”を備え、凶悪なまでの軍の強さを誇るという……
――通称”戦の子”
参謀である”智”のアルトォーヌ・サレン=ロアノフと並び立つ”武”の菊河 基子は、本州西の大国”長州門”の両砦”が一角にして主力部隊だ。
更に付け足すなら、長州門君主であり”焔姫”または”覇王姫”と呼称されるほどの個の武勇を天下に轟かせるペリカ・ルシアノ=ニトゥと合わせ立った時には、長州門の”三要塞の魔女”と恐れられる不敗の象徴でもあった。
「えーと、でわっ!!引き続き”天都原王”と”無垢なる深淵”が引き籠もる尾宇美城へ進軍を再開するのだぁっ!」
――とはいえ、
見た目は完全に小学生高学年……
そんな名将にはとても見えないが、実際、彼女は歴とした十八歳である。
天都原の”無垢なる深淵”、京極 陽子が仕掛けた神算鬼謀の策に阻まれ、各大国の部隊が中々中心部に辿り着けない中、唯一ともいえる快進撃を続ける彼女の部隊は確かに噂通り驚異の一言。
長州門君主、ペリカ・ルシアノ=ニトゥが普段から周囲に、菊河 基子の率いる歩兵部隊は”暁”最強!と嘯くだけの事はあると言えた。
「敵襲っ!!我が部隊側面に伏兵部隊、三時の方向ですっ!」
「にゃにぃぃっ!側面なのか……三時?三時……えっと……」
部下の報告に、全く明後日の方向を睨みながら叫ぶ基子。
「三時って?どっちだぁ?……えっと……うんっと……」
「基子様!味方部隊が浮き足立っております、ご指示をっ!!」
「う……うう……むきーーーー!!」
指示をせっつく部下の声に、少女のツインテールが逆立った。
「三時……三時……のおやつはブンメイどうぅぅーーっ!!」
菊川 基子は意味不明のフレーズを叫びながら見当違いの方向へ突撃を始める。
ガチャガチャとサイズの合わない鎧に埋もれながら……
「ちょ、ちょっと!?菊河隊長ぉぉーー!!」
「基子ちゃ……さまぁぁーーっ!!」
慌てて護衛の四人がそれに続き――
おおぉぉぉぉっーー!!
続いて兵士達も其方に雪崩れかかって進軍していった。
ドドドドドドドッ!!
ドドドドドドドッ!
「うわっ!!」
「な、なんだとっ!?」
そして其所には……
なんという偶然か!
将又、神の悪戯かっ!?
綿密に計算され尽くされたはずの京極 陽子の次の一手……
第二の伏兵部隊が待機状態で伏せていた場所であったのだ!
「にゃっ?にゃっ?……ちょうどいいのだ!蹴散らせーー!!」
おおぉぉっーーーー!!
「わぁぁっ!なんだ!?どうして長州門軍が後ろからぁっ!?」
「ぎゃぁぁっ!!」
「うわぁぁっ!!」
完全に不意を突かれた天都原の伏兵隊は蜂の巣をつついたような大混乱で、為す術無く蹴散らされてゆく。
そして、基子の部隊に最初に仕掛けた方の伏兵隊は最初から囮部隊であったため、こんな形で主力の部隊を壊滅させられたら堪らない!
「て、てったい!撤退だぁ!!」
否応なく、その場からの離脱を余儀なくされる。
「基子様!正面の敵は壊滅状態です!続いて側面に張り付いていた伏兵を!」
「ん……おおぅ!!よし!再度突撃するぞぉぉっ!」
ただでさえ寡兵を補うための陽子の伏兵戦術……
散り散りに敗走する天都原軍には最早、組織立った抵抗は不可能であり、蹂躙の限りを尽くされるがままであった。
ワァァッーー!!
オォォォーー!!
「くそっ!滅茶苦茶だっ!終始支離滅裂すぎる……こんな、こんな指揮官に我らがっ!?」
ドドドドドドドッ!!
ドドドドドドドッ!!
ドドドドドドドッ!!
「ぐっぐあぁぁーーーー!!」
こうして――
ここまでなんとか耐え凌いできた京極 陽子の構築した頑強なる防御陣は……
長州門の”両砦”が一角、菊河 基子率いる歩兵部隊によって崩されたのであった。
第十九話「”暁”最強部隊?と鋼の協力者?」前編 END




