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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
84/336

第十八話「不協和音」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十八話「不協和音」


 「反対です!」


 枝瀬(えだせ)城玉座の間はその一言で静まりかえった。


 「…………」


 俺は両肘を玉座の肘掛けに置き、口元の前で両手を組んだ格好でその人物を見据えている。


 「赤目(あかめ)攻略はもう目前です、ここは小津(おづ)を中心に、枝瀬(えだせ)戸羽(とば)鍬音(くわね)という既に手中に収めた各地を盤石にし、その威勢を以て敵の最終防衛ライン、那原(なばる)城を攻略すべきでしょう!」


 声の主は、宗三(むねみつ) (いち)


 俺の側近中の側近で、今回の赤目(あかめ)遠征軍の方針転換に際し、那原(なばる)城攻略の最中である鍬音(くわね)城から急遽呼び戻した。


 「最嘉(さいか)様、ここは我が主が自ら指揮を執って頂き、我ら臨海(りんかい)赤目(あかめ)遠征全軍を率いて出陣、一気に那原(なばる)を制圧するのが最も効果的であると具申致します!」


 「…………」


 (いち)の意見は尤もだ。


 そもそも俺もそのつもりで今の状況を作り出したのだから。


 ――しかし……


 「分を弁えよ、宗三(むねみつ) (いち)!我が君の意に反するかっ!」


 玉座脇、俺の隣に控えていた黒髪ショートカットの少女が、段下の(いち)に向かって一喝し、半歩前に出る。


 「意に反する?いいや考え違いをするな鈴原 真琴(まこと)!我が主の目的は赤目(あかめ)の攻略、そしてその後の旺帝(おうてい)への足がかりを作るためのこの戦だったはずだ、それが最嘉(さいか)様の戦略であり、真意であったはず!」


 「宗三(むねみつ) (いち)!それこそ考え違いよ!我が君の”今の言葉”こそが絶対、それ以外真意など無いわ!」


 「…………」


 「…………」


 段上、段下で繰り広げられる二人の剣幕に、居並ぶ諸将達もただ言葉を呑み込み狼狽するしかない。


 此所(ここ)比堅(ひかた) 廉高(やすたか)神反(かんぞり) 陽之亮(ようのすけ)などの古参の重鎮が居たのならば、また状況は変わってきたのだろうが……


 「真琴(まこと)よ……忠臣とは主の王道の一助となれるのならば、あえて一時のご不興を(たまわ)っても過ちを指摘する事を(はばか)らない者の事を指すのだ」


 「忠臣?……(いち)、貴方は考え違いをしているわ、私たちにとって最嘉(さいか)さまの成す事が真実、あなた如きが差し出口など……」


 「もういい、真琴(まこと)


 俺はそこまでだと言わんばかりにその口論を制していた。


 「は、はい!……我が君」


 真琴(まこと)は恐縮して俺に一礼し、半歩下がって元の位置である玉座に腰掛けた俺の隣に控える。


 「…………」


 (いち)も一旦は頭を下げたが……

 再び顔を上げた表情は、まだ言い足りなさげだった。


 「……」


 「……」


 そして、玉座の間に控える諸将も重い沈黙の中、俺の発する次の言葉を待っていた。


 ――(いち)の言うことは尤もだ。俺もそう考えていた……だが


 「宗三(むねみつ) (いち)……”(あかつき)”の各大国が一時的とは言え共闘して天都原(あまつはら)(はる)……紫梗宮(しきょうのみや)を排除に動くとは俺も予測は出来ていなかった、それは俺のミスだ。だが状況が変わった以上は我が臨海(りんかい)もそれに応じた行動に出る必要がある」


 俺は話しながらも考える。


 ――そうだ、一刻一刻と変化する状況には柔軟に対応しなければならない


 ――しかし今の俺は本当に臨海(りんかい)の為に動いているのか?


 答えは否だ。


 俺は……鈴原 最嘉(さいか)は……


 ただ、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)を失いたくない!


 その想いを叶えるため、後付けで理由を取って付けているだけなのだ。


 「……では、天都原(あまつはら)国軍総司令部参謀長、紫梗宮(しきょうのみや)にはそれだけの価値があると?」


 宗三(むねみつ) (いち)は段下から問う。


 ――それだけの価値……臨海(りんかい)にとって目前の赤目(あかめ)攻略を諦めるほどの価値……か


 「紫梗宮(しきょうのみや) 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)は、我が臨海(りんかい)にとってはまだ利用価値がある。少なくとも我が臨海(りんかい)に敵意を剥き出しにしている王太子、藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)天都原(あまつはら)を統べるような事があれば、臨海(りんかい)天都原(あまつはら)旺帝(おうてい)という(あかつき)最大の国家に挟撃される状況にさえなるだろう」


 「ならば矢張り、ここは赤目(あかめ)を完全に手中にしておくべきでは?そもそも今、六大国家の内の四カ国までが参加する大包囲網戦に我ら臨海(りんかい)が割って入ってどうにかなるとも思えません!」


 ――全く以てその通りだ……


 ――二の句が継げない


 俺の取ろうとしている行動には、(そもそ)も三つの大きな問題がある。


 ひとつは、今から駆けつけて間に合うのか?という事。


 これは、正直もうどうにもならない。


 陽子(はるこ)の能力と頑張り……そして運……しかないだろう。


 二つ目は、現状で四大国が上辺だけとはいえ協力する大軍勢に、臨海(りんかい)程度でどう対応するというのか……だ。


 勿論、(まと)()な戦では話しにもならないだろうから、俺の取る策は……

 大国達の仮初めの連合になんとか付け入り、上手く協力関係を崩して……だろうか。


 ――並大抵では無いな……相手がどの大国だろうと現状の俺には相手に示せる代価が無い


 臨海(りんかい)天都原(あまつはら)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)陣営に(くみ)すれば、現状以上の利益を得られるという事を提示できなければ四大国全てが敵に回ることになる。


 そして最後に……


 臨海(りんかい)がそんな無謀な戦に走った後に起こる各地の反乱。


 臨海(りんかい)はここ暫くで急激に版図を広げつつある新勢力だ。


 つまり新参地域の領主や武将がここぞとばかりに反旗を翻し、決起しても全くおかしくない。


 というか、新参で無くても沈む船から脱出しようとする者がいても当然だろう。


 ――だからこそ、(むね)(みつ) (いち)が言うように、現在不用意に”かの戦”に関わるのは愚策……


 「現在(いま)は先ず足元を固め、天下の動勢がどう変化するのか見極めた後で我が国の方針を……」


 ガタッ!


 俺は(いち)の言葉を最後まで聞かずに立ち上がった。


 「!?」


 宗三(むねみつ) (いち)の……諸将の……視線が俺に集中する。


 「藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)天都原(あまつはら)を統べるような事になればどうなるか……結果は自ずと解るだろう……なら」


 「しかしっ!」


 「黙れ(いち)っ!我が君のお言葉を遮るとは不敬も甚だしいわっ!」


 俺の横に控えたショートカットの黒髪少女が、すかさずそれを一喝する。


 「…………」


 (いち)には珍しく……

 というか初めてだろうな……


 不承不承だというのがあからさまに見て取れる態度で一応は頭を下げて控える。


 しかし俺はあえてそれを見なかったかのように続けた。


 「強大な相手が攻めの一手を打つというのなら受け手に回るのは不利でしか無い!そして今後何らかの手を打つために鍵となるのが天都原(あまつはら)王家の血を受け継ぎ、王位継承権を所持する紫梗宮(しきょうのみや)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)だ」


 「…………」


 俺は諸将に向けて啖呵を切るが、(いち)は頭を垂れたままだ。


 「真琴(まこと)、今すぐ動かせる兵はどれくらいだ?」


 「はい、この枝瀬(えだせ)に三千、戸羽(とば)に千五百かと」


 少女の言葉に俺は頷く。


 「では、俺は道中、戸羽(とば)で兵を補充しつつ、天都原(あまつはら)領、尾宇美(おうみ)城に向かう。宗三(むねみつ) (いち)、お前は赤目(あかめ)の要である小津(おづ)城に入り赤目(あかめ)一帯に睨みを利かせろ」


 「…………」


 (いち)は即座に返事をしない。


 「宗三(むねみつ) (いち)っ!」


 「…………承知……しました」


 そして、真琴(まこと)の一喝で渋々とそう応えた。


 「…………」


 玉座の間の空気は重い。


 俺の側近である宗三(むねみつ) (いち)と鈴原 真琴(まこと)が激しい口論を展開したのもそうだが、自身に対する反対意見を威圧的に押しつぶす俺に、場は恐縮しきりだった。


 自らの側近中の側近であり、俺の旗揚げ以来の功臣である宗三(むねみつ) (いち)の尤もな意見に全く取り合おうとしない主君。


 ――彼をここまで”なおざり”にする俺に諸将が疑問を抱くのはごく自然だろう……な


 「最嘉(さいか)さま……」


 立ち尽くしたままの(いち)……

 ついそちらに視線を向けてしまっていた俺に、真琴(まこと)が心配そうな声をかけてくる。


 「ああ……この枝瀬(えだせ)荷内(にだい) 志朗(しろう)に任せる、久井瀬(くいぜ) 雪白(ゆきしろ)には引き続き那原(なばる)城攻略を続けさせろ、攻撃は最大の防御だからな」


 「は、はっ!」


 俺の指名を受けた、白髪頭の髪を後ろで束ねた初老の男、荷内(にだい) 志朗(しろう)(いち)に次いで頭を下げた。


 「一応言っておくが……これは決定事項だ。我が臨海(りんかい)赤目(あかめ)のような合議制では無い、絶対君主制だ。俺の言葉がいかなる時も最終決断だと肝に銘じよ!」


 「…………ははっ!!」


 ビシリと空気が張り詰め、玉座に控えた将兵達は新旧問わず頭を深々と下げたのだった。


 ――

 ―


 玉座の間を後にした俺……


 ――今はこうするしか無い……


 空気の思い玉座の間に残る諸将……

 特に宗三(むねみつ) (いち)の姿が何時(いつ)までも頭に残る俺は、軽く頭を振り払い直ぐに出陣の準備に……


 ――!?


 入ろうとした俺の前に、一人の女性が膝をつき深々と頭を垂れていた。


 「どういうつもりなの?……七山(ななやま) 奈々子(ななこ)


 真琴(まこと)がすかさず、庇うように俺の前に立ち、鋭い視線を投げかける。


 ――七山(ななやま) 奈々子(ななこ)


 日乃(ひの)攻略で手に入れた人材。


 有能故に俺自らが日乃(ひの)領の那知(なち)城から引き抜いた給仕長で、今回の赤目(あかめ)攻略にも同行させていた。


 「臨海(りんかい)領主様……いえ、鈴原 最嘉(さいか)様、今回のご判断、我が主に成り代わりまして、感謝申し上げます」


 「?」


 彼女の言葉の意味が解らず不思議な顔をする真琴(まこと)に、俺はそっと肩に手を置いて下がるよう促す。


 「…………」


 真琴(まこと)は警戒を維持しつつも、その人物に敵意が無いと確認すると、そっと俺の後ろに下がった。


 「…………七山(ななやま) 奈々子(ななこ)、その言葉は”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”としてか?」


 俺の言葉に女性は、平伏した頭を更に深々と下げた。


 「ご慧眼、恐れ入ります」


 俺はそうだ……

 この七山(ななやま) 奈々子(ななこ)なる人物の正体には薄々感づいていた。


 日乃(ひの)での戦いの時……覧津(みつ)城の城主、下野(しもつけ) 永保(ながやす)の不可解な戦い方。


 勇猛果敢で知られ猪突猛進な一面はあると聞くが、中々の良将らしいとも聞いていた下野(しもつけ) 永保(ながやす)の選択した愚かな戦法は明らかに不自然だった。


 それはつまり、何者かが日乃(ひの)の地で我ら臨海(りんかい)を影で支援するために動いていたのではと……

 そう考えると、九郎江(くろうえ)での戦いで真琴(まこと)の救援作戦で何者かが画策した七峰(しちほう)への介入タイミングが俺と測ったように絶妙だったのも頷けると……


 「”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”は確か天都原(あまつはら)王家に仕える極秘の特殊精鋭部隊だったな……お前の行動を見るに現在は陽子(はるこ)に仕えているということか?」


 「そこまでご存じでしたか……本来”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”は天都原(あまつはら)でも知る者はごく僅かですのに、流石は陽子(はるこ)様が見込んだ御方」


 俺が他国の間者かも知れないと警戒していた事を彼女なりに感じ取っていたのだろうが、それが京極(きょうごく) 陽子(はるこ)で、その所属部隊までを突き止めていたことには流石に驚いたのであろう、七山(ななやま) 奈々子(ななこ)は一瞬、ビクリと肩を震わせたが、直ぐに取り繕って俺を賛辞する。


 「それで?」


 「はいっ!改めまして……私は、天都原(あまつはら)国軍総司令部参謀長、紫梗宮(しきょうのみや)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)様付き”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”が一枚、七山(ななやま)七子(ななこ)”……本来の”奈々子(ななこ)”の字は、数字の七と書きます」


 ――”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”が一枚、七山(ななやま) 七子(ななこ)……奈々子(ななこ)でなく七子(ななこ)ね……


 ――なるほどそういえば、天都原(あまつはら)の”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”は、一から十三の数字を重ねた名を持つ十三枚の”構成員(カード)”からなると、たしか諜報部隊隊長、花房(はなふさ) 清奈(せな)の情報にあったな


 「鈴原 最嘉(さいか)様、今までこの身と目的を秘匿していた事、誠に申し訳ありま……」


 「余計な事は良い、それより陽子(はるこ)の情報……現在の尾宇美城(せんじょう)の情報を聞かせてもらうぞ、時間が無いから道中での事となるが……」


 ――そうだ、俺は万が一が起こったときを考えて、七山(ななやま) 奈々子(ななこ)、いや、七山(ななやま) 七子(ななこ)を泳がせていた


 陽子(はるこ)との最後の連絡手段として、この七山(ななやま) 七子(ななこ)を身近に置くべく、今の今まで連れ回していたのだ。


 「七山(ななやま) 七子(ななこ)、俺達は直ぐに出立するが、お前は……」


 「勿論、ご一緒させて頂きます!」


 臨海(りんかい)の給仕長改め、天都原(あまつはら)国、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)付で”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)”のひとりである七山(ななやま) 七子(ななこ)は、もう一度深々と頭を下げたのだった。


 第十八話「不協和音」END 

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