表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
81/336

第十五話「転身」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十五話「転身」


 「では、雪白(ゆきしろ)小津(おづ)城に無事入城したのか」


 俺は腹心の少女からの現況報告を聞きながら、枝瀬(えだせ)城の玉座の間へ向かって歩いていた。


 「はい、最嘉(さいか)さま。鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)小津(おづ)を放棄したようで、一戦も交えずに自領の東の端、”那原(なばる)”まで撤退したと報告が入っております」


 「そうか……」


 俺は歩きながら考える。


 ――解せないな、名だたる堅城の小津(おづ)城を放棄して、さして立地条件の良くない那原(なばる)の小城へ?なにを企んでいるんだ、あの妖怪じじい


 「これで赤目(あかめ)領土の大半が臨海(おれたち)のものだ。しかし、領都である小津(おづ)を無抵抗に差し出すなんて、とても勝つ気があるとは思えんが……」


 「……」


 共に歩いていた少女の……俺の顔をウットリと眺める視線に気づいた俺は()(こと)を見る。


 「最嘉(さいか)さまは流石ですね、厳しい戦いの最中でさえ、急激に大きくなりつつある臨海(りんかい)の先を見て動かれてます」


 そして俺と視線の合った黒髪ショートカットの美少女はニッコリと微笑んでそう言った。


 「それは……今回、雪白(ゆきしろ)小津(おづ)城攻略部隊の総大将に任命した事か?」


 俺は真琴(まこと)の言葉から彼女の意を汲み取って答える。


 「はい、他国の将であった彼女に早々に臨海(りんかい)での実績を与え、古参を納得させる。また、直属の部下も部隊も無い彼女が孤立しないよう、副官に木崎(きさき)を付け、鍬音(くわね)城に後詰めとして(いち)の部隊を配置されました……本当に最嘉(さいか)さまだからこそ出来る人事だと!」


 「そ、そうか……真琴(まこと)には副官の木崎(きさき)を借りて悪いな、部隊編成に苦慮しているだろう?」


 「いいえ、最嘉(さいか)さま!私はそのおかげで、こうやって最嘉(さいか)さまのお側におられるのですから!大歓迎です!!適材適所ですっ!そうです、(むし)ろそれなら木崎(きさき)雪白(あのひと)にあげましょう!」


 ――いやいやいやいや!!それはどうだろう?……てか木崎(きさき)……哀れな


 少女は大きめの瞳をキラキラさせて、(あなが)ち冗談でもなさそうなテンションで言うが、俺はそれに心中でツッコんでいた。


 「だが……適材適所というなら、そろそろ雪白(ゆきしろ)にも専属の副官を付ける事を考えないとなぁ」


 例えば、慎重で堅固な戦術を是とする宗光(むねみつ) (いち)には、状況判断の標準的考えを常時確認出来るように(わざ)と凡庸を絵に描いたような温森(ぬくもり)という男を、


 優秀だが攻撃に継投しがちで前のめりになりがちな真琴(まこと)には、慎重で細かい事に気がつく木崎(きさき)を……と、俺なりに人事には色々と気を遣ってきたわけだが……


 意外かも知れないが、雪白(ゆきしろ)はアレで将軍としてはかなりバランスが良い。


 武力が突出しているのでそうは見られにくいが、実は守りも堅く、状況判断も早い……


 問題があるとすれば、それは占領後の人心を掴むような……

 いや、それ以前に部下とのコミュニケーション能力が(ほぼ)皆無という事。


 「最嘉(さいか)さま」


 ――いや、それを言うなら、俺もそろそろ参謀が必要だろう


 「最嘉(さいか)さま……あの」


 今まで、基本全てを(こな)してきた俺だが、これだけ版図が広がれば手も目も耳も足りない。

 真っ当な王というのは、元来多忙なのだ。


 特に、最も手間がかかり、即刻、国の存亡に関わる軍事関連の参謀が出来れば二、三人は欲しい。


 とはいえ、勿論優秀で無ければ意味が無い。


 俺より優秀か、()しくは同等……


 そう言った人物が居れば言うことが無いが……


 「最嘉(さいか)さ……」


 「っ!?……おっ、あぁ悪いな、真琴(まこと)……なんだ?」


 真琴(まこと)の声に気づいた俺は、我に返って彼女の視線の指し示す先を見る。


 「……」


 目的地である玉座の間がある扉の前には、意外な人物が待っていた。


 首元に大きな数珠を幾重にも巻いた中年坊主。

 坊主は通常の倍はあろうかという酒壺を肩に担いだまま、俺にペコリと頭を下げる。


 「数酒坊(かずさのぼう)か、()(たび)枝瀬(えだせ)及びその後の戸羽(とば)鍬音(くわね)の速やかな収拾見事だ、ご苦労だったな」


 俺の(ねぎら)いの言葉に坊主はニカッっと大きく口端を上げて笑い、禿げ頭をペチペチと叩いた。


 「いえいえ、全ては最嘉(さいか)様の比類無い才気と王者の器、それに臨海(りんかい)の精鋭軍が成せる(わざ)、我らはほんの微々たる手助けをさせて頂いたに過ぎませんよ」


 このなんとも一見人当たりの良い、しかし恐らくはかなりの食わせ物であろう男は……


 那伽(なが)領主、根来寺(ねごでら) 顕成(けんじょう)の家臣である、根来寺(ねごでら) 数酒坊(かずさのぼう)だ。


 独立小国群の一つである那伽(なが)領が、我が臨海(りんかい)に協力する証として俺の手助けのため送り込まれた人物だった。


 「ところで最嘉(さいか)様、ぜひお耳に入れたい情報が……」


 謙遜しながらも坊主は、ここで待ち伏せていた本題に入ろうとする。


 「数酒坊(かずさのぼう)殿、我が主への上申は手続きを踏んで行ってもらえますか?」


 直ぐさま真琴(まこと)が俺の前に出て、それを阻止した。


 「むぅ……それは困りましたなぁ、此方(こちら)はそれでも一向に構わないのですが、最嘉(さいか)様にはこの情報は早ければ早い方が宜しいかと」


 「……」


 俺の名を出した上での持って回った言い回しに、真琴(まこと)の大きめの瞳が不機嫌に細められる。


 ――”臨海(りんかい)にとって”では無く、”俺にとって”……か


 なるほど、この坊主、何か掴んだと言う事だろうな。


 俺は真琴(まこと)の肩を軽く叩いて下がるように促す。


 「数酒坊(かずさのぼう)、俺への個人的な情報が本来手順を踏む国情よりも火急というなら此所(ここ)で聞くが、そうで無いなら俺はこれから真琴(まこと)と政務があるから後に……」


 「火急ですな、なにせこれは天都原(あまつはら)の姫の生死に関わる案件……っ!」


 坊主はそこまで言いかけて言葉を止めた。


 いや、その言葉に反応した俺の視線が多分尋常でなかったため、言葉を思わず呑み込んだのだろう。


 「……その……最嘉(さいか)様……?」


 「話せ……但し、それが的外れや虚言なら……」


 思わず低くなる俺の声に、流石の生臭坊主も緊張で口元が固まっていた。


 「は、はい……では……実は我が故国、”那伽(なが)”からの情報なのですが、どうやら天都原(あまつはら)を含む本州の四大大国に大同盟の動きがあるようでして……」


 「大同盟……」


 ――旺帝(おうてい)天都原(あまつはら)が?……それは……ありえるのか?


 俺はそう重いながらも顎で次を促す。


 「は、それで、中心で話を進めているのは天都原(あまつはら)藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)様と旺帝(おうてい)の王、燐堂(りんどう) 天成(あまなり)様……それを裏で画策したのはどうやら赤目(あかめ)鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)らしいのです」


 ――っ!


 俺の思考はそれらのキーワードで直ぐに”ある危険性”に辿り着いていた。


 「陽子(はるこ)は!既に斑鳩(いかるが)を出たのかっ!?」


 「うっ!ぐ……」


 そして冷静さを欠いた俺は、同時に坊主に掴みかかっていた。


 「さ、最嘉(さいか)さま!」


 慌てて真琴(まこと)が俺の腕を掴んで(すが)る。


 ――くっ……駄目だな、これでは……


 必死に(すが)り付く真琴(まこと)の瞳に視線を合わせてから頷いた俺は、静かに数酒坊(かずさのぼう)から離れた。


 「悪かったな数酒坊(かずさのぼう)……で、どうなんだ?」


 そして出来るだけ冷静に、今一度聞き返す。


 「ぐっ、はぁはぁ……は、はい、勿論、天都原(あまつはら)国軍、総参謀長の肩書きを持たれる紫梗宮(しきょうのみや) 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)様は、藤桐(ふじきり) 光興(みつおき)王に同行する形で少なくとも二週間以上前には王都”斑鳩(いかるが)”を出立したと報告が……」


 「…………」


 ――不味いな……既にそんなに時が経っているとは……


 「チッ!」


 ――こんな情報を見逃していたとは……くそっ!臨海(ウチ)の情報部隊は……


 「っ!?」


 俺の表情から何かを察しただろう、俺の腕に(すが)ったままの真琴(まこと)の手に力が籠もり、視線を向けた俺に、彼女の黒い瞳が真っ直ぐに向けられていた。


 ――そうか……そうだな……


 その瞳に、俺は如何(いか)(はか)りか熱を冷まして多少の冷静さを取り戻す。


 今回は四大国による大同盟、そしてお膳立てしたのはあの老獪……

 情報の秘匿は幾重にも用意周到に施されていただろう。


 それに今回は俺だって無警戒だった。

 そういう事なら各情報部隊の長である神反(かんぞり) 陽之亮(ようのすけ)花房(はなふさ) 清奈(せな)を攻めるのは酷だ。


 「……流石は全国に門徒を抱える那伽(なが)領主、根来寺(ねごでら) 顕成(けんじょう)殿だ、貴重な情報感謝する」


 考えを改めた俺は、ざわつく感情を押し殺しつつ、目の前の坊主にそう答えてから玉座の間、扉の方へ踏み出した。


 「いいえ、我が主君も最嘉(さいか)様のお役に立てて光栄でしょう」


 そして、流石の数酒坊(かずさのぼう)も空気を読んだのか、神妙にそう返して俺を見送っていた。


 ――俺は……くっ!


 玉座の間に入った所で俺は立ち尽くす。


 ――自分が嫌になる……近代国家世界で……あの六大国家会議の後、ホテルで……(はる)は俺に……


 ――なのに俺は気づかなかった……”臨海(じしん)”の”赤目攻略(こと)”ばかりに気が行って……俺は……


 「最嘉(さいか)さま……最嘉(さいか)さま!」


 「!?」


 俺に続いて入室した真琴(まこと)が俺に向けた呼びかけで、俺はまたも我に返った。


 「ま……こと」


 「取りあえずお掛けになってください、最嘉(さいか)さま。御御足(おみあし)の方、あまり調子が良くないのではないですか?」


 「……」


 優しく微笑む少女に俺はドキリとする。


 ――まったく……今日の俺はダメダメだ


 感情の制御が全く利かなくて……話にもならない。


 「真琴(まこと)……」


 「ふふっ、最嘉(さいか)さまに関する事ですから……勿論気づいてましたよ、あの枝瀬(えだせ)攻略戦の時から」


 そんな風に自己嫌悪に陥る俺に、真琴(まこと)(わざ)と空気を読まない穏やかな笑顔……読んでいるからこその優しい笑顔だ。


 こんなふうに普段から”支配者としての俺”を影から補佐してくれる一つ年下の従妹の少女は、鈴原 最嘉(さいか)で無く、”最嘉(もりよし)”の(もろ)いところを()る、母のような存在でもあった。


 「……そうか、気づいていたか」


 俺は少女の柔らかな微笑みに少しずつ心が落ち着いてゆくのを感じながら、促されるまま玉座に腰を掛けた。


 「私と(いち)を信頼なさって下さっているのは十分承知致しておりますが、あの戦いで最嘉(さいか)さまが終始、座されておられたのは御御足(おみあし)があまり宜しくなかったからでしょう?最近少しそういう事が多く感じられますが……」


 玉座に座った俺の正面で、自らの両膝を折って(かしづ)いた少女は、俺の右側のブーツを脱がせにかかる。


 「…………」


 そして俺はそんな彼女の行動を止めること無く、成されるがままに身を委ねていた。


 ブーツが脱がされた後は靴下を、そしてズボンの裾を丁寧に畳みながら捲り上げていく真琴(まこと)


 やがて俺の右足は膝まで露出し、彼女は俺の正面に両膝を着いたままで、取り出した清潔な白いハンカチに腰の水筒を傾けて水を染みこませる。


 「……」


 ――()ずは事の真偽を確認するのが先だ。花房(はなふさ) 清奈(せな)に連絡を出して……いや、それでは間に合わない……


 幼馴染みの少女のお陰で、俺の頭は徐々に冷静さを取り戻しつつあったが、それでも状況不明である暗黒の美姫を想うと焦りが先に立ってくる。


 「真琴(まこと)、”赤目(あかめ)”の攻略は目前だ。那原(なばる)()もったという鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)の軍と、後は各領地の残党共……攻め落とすか、屈服させるか、どちらにしても”臨海(おれたち)”の勝ちは揺るがない」


 「…………」


 真琴(まこと)は俺の言葉を聞きながら作業を続ける。


 ――ヒヤリ


 熱を持って疼いていた膝に心地よい感触が染み渡る。


 「赤目(あかめ)の攻略は目前なんだ……これは旺帝(おうてい)への道、つまり天下統一への道……だが俺は……」


 「…………」


 真琴(まこと)からは返事は返ってこない。


 ――俺は何を言おうと……してるんだ?


 「俺達は勝った……このまま侵攻を続けるだけで……俺は」


 ――ここに来て……確証の無い事で……


 ――いや、(そもそ)もが臨海(りんかい)とは関係の無い事で、何もかも”ふい”にしようとする?


 「…………」


 軽く頭を振る俺。


 ――そうだ、こんな馬鹿な話は……


 「宜しいかと思います」


 ――!?


 少女の言葉に、独り語っていた俺の顔は固まった。


 「ですから宜しいかと……最嘉(さいか)さまの思うままに」


 「真琴(まこと)っ?しかしそれは臨海(りんかい)にとって!」


 ここまで来て赤目(あかめ)を放棄するなど……正気の沙汰では無いだろう。


 これだけの出兵をして退却とは、即ち敗北と同じ。


 周辺国の動静だけじゃない、急激に版図を広げつつある臨海(りんかい)には新参の者も多くなった。

 前回の日乃(ひの)といい護芳(ごほう)といい……この赤目(あかめ)で手に入れた各地でもそうだ。


 この機に乗じて……とは、多分にある話だ。


 「赤目(あかめ)旺帝(おうてい)も天下も……現在の臨海(りんかい)は全て最嘉(さいか)さまが為し得たものです、ですから最嘉(さいか)さまの思うようになさるのが宜しいかと真琴(まこと)は思います」


 ――予期せぬ言葉


 ――臨海(りんかい)にとって不利益でしか無い事柄……


 ――なにより京極(きょうごく) 陽子(はるこ)関連の事で、真琴(まこと)が……


 「…………しかし、それは一国の王として……な」


 ――いや、俺は心の底では真琴にそれを求めていたのだろう……


 ”卑怯者”だ……明らかに過ちであるだろう判断を下す一助に()(こと)を使った……


 「…………」


 葛藤というのも()()がましい。


 俺に陽子(はるこ)を見捨てるなんて選択肢は最初から有り得ないだろうに……


 俺は罪悪感も重なり、自分自身の心に往生際の悪い足掻きをしていた。


 ――ヒヤリ


 「うっ!」


 不意打ちの感覚に思わず小さな声が出る。


 「ま、真琴(まこと)?」


 そして冷たいハンカチでそれを行った張本人は……


 「…………最嘉(さいか)さまは”卑怯者”なんかじゃないです」


 ――ドキリとした


 この少女はやはり俺の事ならお見通しなのだと。


 俺の前に(かしず)いたまま、俺の剥き出しの膝にそっと(おでこ)を預けていた。


 「鈴原 真琴(まこと)は、鈴原 最嘉(さいか)さまにのみ仕える女です……臨海(りんかい)という国家にも、鈴原本家という肩書きにも……私の心があるのは我が君だけ、最嘉(さいか)さまのしたいことが私の成すべき事……私の心ですから……」


 「…………」


 ――誰にも強要されたわけで無い真琴(かのじょ)の心


 それはたとえ、()(こと)が敬愛するだろう鈴原 最嘉(さいか)にさえ強制されない俺への親愛。


 俺は言葉を発せられずに()(こと)を見ていた。


 昔から……

 あの時、俺が嘉深(いもうと)を殺めてからずっと変わらないで俺を慕ってくれる一つ年下の従妹(いとこ)


 「最嘉(さいか)さまもお心のままに……どうか後悔をなさらぬように……真琴(まこと)はついて行くだけですから……」


 少し朱い顔で、真琴(まこと)はその体勢のまま俺を上目遣いに優しく微笑(ほほえ)んでいた。


 第十五話「転身」END 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ