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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
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第十三話「暗躍する怪老」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十三話「暗躍する怪老」後編


 「…………」


 ――(あか)()四十八家の合議から数刻後


 誰も居なくなり、ガランとした小津(おづ)城の一室には……


 「…………」


 薄暗くなった頃合いにも(かか)わらず、明かりもつけずに座する老人が独り。


 「…………」


 唯々、広い板敷きの床に地図を広げて何かを思案していた。


 ――


 「主よ……本当に我が鵜貝(うがい)軍のみで臨海(りんかい)を?」


 いつの間にか、部屋には確かに独りだけだった老人の背後に立つ男。


 闇に溶けるように全く気配の無い黒装束の男は、逆に闇が空間に染みてできたかのように()()に存在する。


 「軒猿(のきざる)か……ふん、そのような”愚策”を何処(どこ)の馬鹿者がとるのじゃ?」


 「…………」


 老人の言葉はあの軍議とは全く別のもので……


 しかし、問いかけた黒装束の男も半ばそれを察していたかのように、老人の背後で微動だにしない。


 「では、諸将が理解したように、”小津(おづ)”を囮にして”那原(なばる)”で決戦をというのは?」


 「カカッ、肉を切らせて骨を断つ?”小津(おづ)”は誰もが知る赤目(あかめ)の要衝中の要衝じゃ、何処(どこ)の世界の戦術に、囮として”頭”や”心の臓”を差し出す馬鹿者がおるか……ふん」


 老人は悪びれもせずにそう応える。


 「…………では?」


 「赤目(あかめ)(しま)いじゃ、いいや、それこそが”完全なる世界”の第一歩……その為なら赤目(あかめ)の存続など意味も無い些末事じゃろう」


 「…………」


 黒装束の男は、自らの主が放ったとんでもない発言にも、矢張り眉一つ動かさない。


 「軒猿(のきざる)よ、お主も知っておろう?今回の策はもう幾年も前から仕込んだ(わし)の生涯の策……この天下を一つとするための一世一代の大策ぞ」


 「心得ております、主」


 「……うむ」


 忠実な(しもべ)の返事に老人は頷く。


 そしておもむろに傍らに寝かしていた杖を手に……


 「先ずは”旺帝(おうてい)”!」


 カッ!


 老人は杖の先で”(あかつき)”随一の大国を指し示す。


 「次いで”七峰(しちほう)”」


 カッ!


 続いて宗教国家”七峰(しちほう)”を指した。


 「そして……”天都原(あまつはら)”の()(せがれ)!」


 カッ!


 老人の杖先は、今度は天都原(あまつはら)七峰(しちほう)の国境を指し示す。


 「カカッ!流れによっては”長州門(ながすど)”も巻き込んでの”大包囲網戦(おおとりもの)”じゃ」


 老人はしわくちゃの顔を破顔させ、子供のようにはしゃいだ声を出していた。


 「カカカカッ!」


 「…………」


 上機嫌な老人と無言で立つ黒装束の男。


 「…………そこまで……そこまで必要なのですか」


 老人に付き従う忠実なる影は……軒猿(のきざる)は、珍しく主に疑問を発していた。


 「…………うむ」


 老人は笑いを収め、目の前に広げた地図に再び視線を落とす。


 赤目(あかめ)の地図では無く……それは”(あかつき)”全土を現した地図。


 「必要じゃ……”かの者”を亡き者にし、その後に我が大策の続きを以て、この”(あかつき)”を統一すべき覇者に献上する」


 「…………」


 軒猿(のきざる)はもう疑問の言葉を発しない。


 ――


 只黙って主の横で膝をついて(かしず)いた。


 「策の第一段階は”かの者”……天都原(あまつはら)紫梗宮(しきょうのみや)、”京極(きょうごく) 陽子(はるこ)”を確実に抹殺する為の大包囲網戦……その前段階として、ともすれば邪魔に成りかねん臨海(りんかい)を我が赤目(あかめ)深く誘い込んだのだ」


 「…………」


 主の言うことは絶対だ。


 軒猿(のきざる)にとってそれは、勿論、忠義でもあるが、今までの経験からの真実(こたえ)でもある。


 彼にとって主は、鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)は、決して間違えることなど無い完璧な人物なのだ。


 「…………」


 ――だが、彼は今回に限り、心の中でこうも思う


 大国、天都原(あまつはら)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)が脅威なのは軒猿(じぶん)にも理解できる。


 あの姫の才覚は、認め難い事であるが我が主に匹敵する。


 近年の天都原(あまつはら)の破竹の勢い……それを見ても”無垢なる深淵(ダークビューティー)”の天稟は我が主、鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)に伍するだろうと。


 そして古き良き安定を望む自身の主と、古き世の破壊と新たなる秩序の創世を是とするかの姫との価値観の違いは明白で、我が主にとってそれが決して天下を治めさせてはならぬ相手という事も……


 ――しかし臨海(りんかい)はどうだ?


 確かに最近の躍進には目を見張るものがあるが、とはいっても臨海(りんかい)は所詮小国だ。


 今回の主の策に、敵に(りん)(かい)如きが加わったところで何の障害になろうか。


 その王、鈴原 最嘉(さいか)なる人物は優れた将帥ではあろうが、果たして主が……鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)ともあろう者が赤目(あかめ)の領土全てを引き換えにしてまで警戒するに値する相手なのだろうか?


 そこまでして警戒する男なのか……軒猿(のきざる)にはそれが未だに理解できない。


 「…………」


 ――できないが……


 彼は主である鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)に絶対の信望を抱いているが故に、この場ではこの疑問は心の奥底に沈めたのであった。


 「軒猿(のきざる)よ、我らは早々に天都原(あまつはら)へ向かうぞ」


 「天都原(あまつはら)旺帝(おうてい)ではなく?」


 今回の”計画”……それのための大戦を先導させるのは懇意の”旺帝(おうてい)”ではないという事実に軒猿は少々驚いた。


 「カカッ、主には別件を任せておったからこの仕込みは知らせておらなんだの……旺帝(おうてい)は確かに大国じゃし今回は大いに肩入れもした、じゃがのぉ……真の支配者たる者は他におる」


 「……」


 ――だとすると……


 (そもそ)もこの策の第一段階は天都原(あまつはら)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)を打倒するための包囲網だったのだから、この場合、行き先の天都原(あまつはら)とは領都”斑鳩(いかるが)”では無いだろう。


 つまり、もう一つの王位継承権を持つ有力な人物……


 「…………(いびつ)な……英雄」


 頭の回転の速い軒猿(のきざる)には主の指し示す相手が解った。


 「相手方には既に話を通してある、即刻下準備を整えよ!まごまごしておると他の四十八家(ばかども)同様、あの臨海(りんかい)(わっぱ)に飲み込まれるぞ」


 「……はっ!」


 軒猿(のきざる)は一礼すると、音も無く一切の空気の揺らぎも無く……


 闇の中に溶けたのだった。


 第十三話「暗躍する怪老」後編 END

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