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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
7/337

第五話 「最嘉と希なる捨て石」(再改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第五話「最嘉(さいか)と希なる捨て石」


 ――蟹甲楼(かいこうろう)、陥落せしめし!


 その報が大国、天都原(あまつはら)を駆け巡ったのは、鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)達、小国群連合軍と南阿(なんあ)の主力部隊が天都原(あまつはら)領、日乃(ひの)でぶつかった三日後であった。


 そして”蟹甲楼(かいこうろう)”とは、本州中央南部の大国、天都原(あまつはら)から天南(てな)海峡を挟んだ向こう側の島、西の統一国家、南阿(なんあ)が誇る不落の要塞のことである。



 島国”(あかつき)”は四つの大島からなる列島だ。


 ひとつは中央に存在する最も面積の大きい島”本州”


 次に大きいのが、その本州から北に浮かぶ島”北来(ほらい)


 そして南に浮かぶ島”日向(ひゆうが)


 最後に西に浮かぶ島”支篤(しとく)



 西の島、つまり支篤(しとく)の国家群を統一した大国である南阿(なんあ)は、本州中央南部を押さえる大国、天都原(あまつはら)に対してほぼ三分の一程度の領土規模を誇る。


 果たして――


 支篤(しとく)の統一を果たした”南阿(なんあ)”は本州侵攻への野望のもと、天南(てな)海峡を挟んで接した隣国、天都原(あまつはら)へと侵攻した。


 そして十余年……


 長らく続く天都原(あまつはら)国と南阿(なんあ)国の国境での戦場は大きく分けて二通りあった。


 ひとつは二国間の間を分断する天南(てな)海峡を挟んだ天都原(あまつはら)側の領地、”日乃(ひの)領”。


 そしてもうひとつが”小幅轟(おのごう)”という、天南(てな)海峡に浮かぶ南阿(なんあ)領の小島だ。


 天都原(あまつはら)としては南阿(なんあ)の本拠地である支篤(しとく)へ侵攻するにはどうしても天南(てな)海峡に浮かぶ南阿(なんあ)領の小島、小幅轟(おのごう)島、そしてそこに存在する要塞の攻略が必須であった。


 しかし小幅轟(おのごう)島に存在(ある)る要塞は――


 グルリと三百六十度の絶壁に囲まれた天然の要害で、(そび)え立つ城は黒き鋼鉄の壁。


 さらに駐留する海軍は”(あかつき)”最強の海軍とも呼ばれる海洋国家”南阿(なんあ)”の誇る無敵艦隊である。


 堅き黒甲羅を纏う大蟹(だいかい)、”蟹甲楼(かいこうろう)”。


 それは天都原(あまつはら)軍にとって、まさしく難攻不落の要塞だった!


 ――



 「なんと目出度(めでた)いことか!」


 「おぅ!南阿(なんあ)の野蛮人共と争って十年余、とうとうあの堅物を攻略したのだ!」


 「くぉぉ!今までどれだけの将兵達がその眼前に散っていったことか……」


 「数多の部下を失ったのは貴殿だけでは無い。だが、これからは……」


 天都原(あまつはら)国内は歓喜で満たされ、その偉大な功績を残した人物を称える声が至る所で響き渡っていた。



 「人民は将軍から庶民に至るまで宮を称えております!」


 荘厳な造りの広間でそれを聞いていた、玉座の前に佇む少女は……


 ――


 透き通る様な色白の手をそっと上げてそれを制する。


 大国、天都原(あまつはら)の王都である”斑鳩(いかるが)領”


 そこ君臨する王宮”紫廉宮(しれんきゅう)”で――


 本州屈指の大国、その政治・軍事の中枢たる場所で、


 「……」


 数多の臣下達の歓喜を聞いていた少女の表情に別段の変化は無い。


 腰まで届く降ろされた緑の黒髪は緩やかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った肌と対照的な(あで)やかな紅い唇が人々の賛辞にも興味なさげに結ばれている。


 ――”紫梗宮(しきょうのみや)”・京極(きょうごく) 陽子(はるこ)


 王弟(おうてい)京極(きょうごく) 隆章(たかあき)の第三子であり、若干、十七歳にして天都原(あまつはら)国軍総司令部参謀長を勤める才女で、大国、天都原(あまつはら)にあって王位継承第六位の王族でもある超の付く要人(ブイ・アイ・ピー)


 「……岩倉(いわくら)


 闇黒(あんこく)色の膝丈ゴシック調ドレスに薄手のレースのケープを纏った美少女は、臣下の(ほう)へ僅かに視線だけ動かして報告を促す。


 「はっ!」


 (あるじ)である少女の仕草を敏感に感じ取り、若干緊張気味にピシリッ!と姿勢を正す老騎士も少しだけ対応に遅れる。


 長年仕える老家臣にとっても、この少女の双瞳(ひとみ)には心を奪われるのだろう。


 ――そう……まことに(まれ)なる美貌の少女の極めつけは漆黒の双瞳(ひとみ)だった


 対峙する者を(ことごと)く虜にするのでは無いかと思わせる美しい眼差しでありながら、それは一言で言うなら”純粋なる闇”


 恐ろしいまでに他人(ひと)を惹きつける……”奈落”の双瞳(ひとみ)であった。



 「南阿(なんあ)の領島、小幅轟(おのごう)にある蟹甲楼(かいこうろう)攻略と同時に進めていた我が領内、日乃(ひの)領での防衛戦は敗北したとの報を受けております」


 岩倉(いわくら)と呼ばれた彼女の側近の老人騎士はそう報告する。


 「確か……日限(ひぎり)領主の熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)宮郷(みやごう)領主の娘、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)這々(ほうほう)(てい)で逃げ帰って来ていたな」


 「少しは名の知れたとは言え、しょせんは属領如き匹夫の勇、実際はそんなものだろう」


 宮廷内では天都原国(あまつはらこく)重臣や将軍達によって当事者の二人を軽んじる声が此見(これみ)よがしに飛び交っていた。


 「まぁまぁ、諸将よ、先ずは申し開きを聞こうでは無いか。近日中に参内する予定なのだろう?」


 「そうだな、その(のち)に相応の処分を下しても遅くはあるまい」


 言いたい放題の面々ではあるが、その実、天都原国(あまつはらこく)の重臣という彼らの立場上は今回の(いくさ)の意味を十分承知しているのも事実であった。


 今回の(いくさ)における第一目標は――


 自領である”日乃(ひの)”に相手の本軍を誘い込み、手薄になったもう一つの航路、相手領内で自軍を阻む”小幅轟(おのごう)島”の要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”を攻略する事。


 つまり――


 天都原(あまつはら)に属する小国群連合軍はその役割を十分に説明されぬまま、いいや、(むし)ろ騙されたとも言える状況で敵軍の猛攻を防ぐ壁役に利用されたのだ。


 結果――


 本来の敵軍の規模や意図を伏せられて戦わされた小国群連合軍は多大な被害を被った。


 それを知っていて(なお)!彼らは鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)達小国群連合軍をこうして安全な後方地にて軽んじていた。


 いや!本来なら最も過酷な場所を受け持った功労者ともいえる彼らに敗戦の責を負わせて処罰を与えようとさえしている。



 「それで?小国群連合軍の指揮を執っていた鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)は……どうなったのかしら?」


 ――っ!!


 黒い装いの美姫が放つ言葉に、小国群連合軍の敗戦を肴に賑わっていた天都原(あまつはら)国重鎮達は静まりかえる。


 否が応でも注目を集める暗黒の美姫。


 それは大国、天都原(あまつはら)に集う……


 これだけの重臣と諸将にさえ一目置かせるだけの実績と存在感を、この十代そこそこの美少女が既に備えている証拠だった。


 「報告では行方不明との事です」


 「……」


 老騎士の答えを聞いても美しい容姿を寸分も変えない少女。


 「実は敵に降伏したとも、討ち取られたとも……噂はありますが現在(いま)のところ明確な子細は不明。如何(いかん)せん、かなりの混戦であったため情報が錯綜しておりまして……」


 「臨海(りんかい)は?」


 美姫はそのまま質問を続ける。


 「はい、臨海(りんかい)領に撤退した鈴原(すずはら)の軍は鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)の側近である宗三(むねみつ) (いち)なる人物が代わりに率いたようで、領土の留守を守っていた同様に側近の鈴原(すずはら) 真琴(まこと)が現在は暫定的に領内を治めているようです」


 「……」


 「何にせよ、その鈴原(すずはら) 真琴(まこと)という者も近日中に出頭させ、速やかに経緯を説明させた上で領地を召し上げるなり何なりの処置を……」


 「臨海(りんかい)は同盟国であって属領ではないでしょう?領地の召し上げは出来ないわ」


 黒い装いの美姫は静かに、理不尽とも言える天都原(あまつはら)側の一方的な裁定を口にする老騎士、岩倉(いわくら)の言葉を指摘する。


 「ほほ、確かに形式上はですなぁ。しかし同じようなものでしょう。領地を切り取るにしても、その鈴原(すずはら) 真琴(まこと)なる人物を(てい)の良い傀儡(かいらい)として後釜に据えるにしても……盟主国である我らの胸三寸であることには変わり在りますまい」


 ――


 「そうだ!小国家などこの機会に潰すに限る!」


 「うむ、役にも立たぬ辺境者たちをこれ以上狩ってやる義理もあるまい」


 「我が天都原(あまつはら)の国生み神と異なる(いにしえ)神を信仰する野蛮な奴らだからな」


 当然の様にそう答える老騎士の言に、集った天都原(あまつはら)の重臣達も彼方此方(あちこち)で相づちを打ったり頷いたりしていた。


 ――そして……


 「……」


 その流れを見届けてから、美姫は老騎士が密かに主君たる少女に見せた”呆れた様な笑み”を確認する。



 ――そう……それは”ガス抜き”だった


 なにかにつけて小国家群を見下す天都原(あまつはら)重臣達と、その小国家群、特に臨海(りんかい)を有効活用する自身の主君である美姫の間に必要以上に軋轢が生じないようにとの老家臣、岩倉の配慮であった。


 「…………そうね」


 細やかな気遣いを欠かさない家臣の行動を察する彼女の闇黒(あんこく)の瞳は()も無関心にそれを受け流し、結果的には何も処断せぬ”あやふや”なまま、この話題をこれにて畳もうと……


 ――


 「しかし、流石はこの天都原(あまつはら)が誇る叡智、”無垢なる深淵(ダークビューティー)”と称えられる京極(きょうごく) 陽子(はるこ)様ですな。宿願である南阿(なんあ)の要塞を攻略せしめたばかりか、小国群なる目障りで無能な奴らをここまで廃物利用なされるとは……いやはや、将官も感心してしまい言葉もありません」


 少し空いた時間を好機とばかりに、ある将軍の彼女への”おべっか”が無粋に割り込む!


 「…………」


 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)は誰もが気づかない僅かな一瞬、美しい眉の間に影を落としたが……


 「……宮」


 「そうね……直ぐに南阿(なんあ)の攻略にかかるわ」


 老家臣により気持ちを切り替え、今後の方針を挙げて簡潔に断を下す。


 「はっ?」


 「え!?」


 「い、いま……直ぐにですかっ?」


 浮ついた雰囲気から一転して諸将は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった後、(にわか)に浮き足立った。


 「その為の蟹甲楼(かいこうろう)攻略だったはずでしょう?」


 しかし暗黒色の美姫は当然の如く促す。


 「いや、しかし……兵にも休息が……」


 「そ、そうです!蟹甲楼(かいこうろう)を落とした以上は今後はこちらが圧倒的に有利、ならばここは焦らずとも……」


 ふわりっ――


 泡を食う諸将には目もくれず、薄手のケープを翻してその場を去ろうとする美少女。


 「……あ、あの!?」


 「……ひ、姫」


 それを呆然と見送るしか出来ない男達の間抜けな視線の先で……


 ――


 彼女は思い出した様にそっと立ち止まった。


 「………………”ふたつ”訂正」


 そして振り返りもせず、静かな口調で言葉を発する。


 「ひとつめ。優勢だからこそ”兵は拙速を(たっと)ぶ”……天の時を見逃すのは愚か者のすること」


 「お、(おろ)かっ!?」


 諸将の前で公然と愚かと言われ、流石に険しくなる将軍達の表情!


 「ふたつめ。”壁役”は誰にでも務まるわけでは無かったわ。”鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)”……あれ以外で、あの戦況で、見事に壁を全うできる”(まれ)な捨て石”がこの中にいるのかしら?」


 しかし、美姫は構わずに続ける。


 「なっ!?」


 「……くっ!」


 堂々たる大国、天都原(あまつはら)の重臣諸将達は自分達が”たかが”と見下す小国の王である鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)如きと比べられたばかりか、十代の少女に暗に無能と(そし)られて面白いわけが無い!


 それでも相手は王族であり、王位継承権を所持する京極(きょうごく) 陽子(はるこ)だ。


 王宮、紫廉宮(しれんきゅう)に集った重臣達の双眸が奥底に明らかな不満と敵意の炎が(くすぶ)っているのは一目瞭然であったが、彼らは不承不承ながらも口を(つぐ)み、代わりに刃の仕込まれた厳しい視線を投げつけるだけだった。


 「……」


 一転、無数の敵意に晒されて独り佇む暗黒の美姫。


 老家臣の心遣いを無に帰す愚行とは理解(わか)りつつも、その少女は“鈴原 最嘉(かれ)”に対する”侮蔑(それ)”をどうしても見過ごせなかったのだろう。


 ――


 なんとも言えぬ嫌な緊張感が支配する無音空間で……


 「……」


 くるりと……


 美しく輝くウェーブのかかった緑の黒髪を僅かに揺らせ、暗黒の(まれ)なる美少女は振り返った。


 「うっ!」


 「……っ!」


 そこには――


 「…………ふふっ」


 思わずゾクリと背筋が凍るような……


 比肩し得る存在が想像すら出来ない氷の如き美貌が……


 絶世にして暗黒の美姫、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)白氷(はくひょう)の肌に一際()える(あか)い唇が……


 ――薄く淡く……(ほころ)んでいたのだった


 第五話「最嘉(さいか)と希なる捨て石」END

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