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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
68/336

第八話「終(つい)の天使」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第八話「(つい)の天使」前編


 ――ヒュヒュ!ヒュオン!


 暗闇の中で白い閃光が二度、いや、三度閃く!


 「あ……が……が……」


 「いった……い……なに……が……」


 「ぐはぁぁっ!」


 ドサッ!ドサッ!ドサリッ!


 そして、その光の軌跡の線上で、間を置いて三人の黒い影が地面に崩れ落ちた。


 「……」


 ――白い刀身


 プラチナブロンドの美少女が携える”白刃(ソレ)”は……

 中々に見事な一品であった。


 細みの刀身に(しな)るように切っ先まで突き抜ける流麗な刀影(シルエット)


 天を彩る星々の瞬きを直刃(すぐは)刃文(はもん)が白く内包する白雪の刀身。


 鈴原 最嘉(さいか)によって贈られた彼女の愛刀である”白鷺(しらさぎ)”は――


 ――(まこと)に映える見目麗しき純白の佳人……


 そういう表現が脳裏に浮かぶ、(まさ)に至高の逸品だった。


 スチャ


 プラチナブロンドの美少女は、その芸術品とまで言えるような出来映えの片手剣を(ごく)自然な所作で鞘に収めた。


 少女の腰に下げられた名刀に相応しい精巧な飾り細工の施された、白漆の鞘が艶っぽく輝いている。


 「うん……やっぱり……”良い()”」


 そして、星光と夜闇の只中に佇む、白金(プラチナ)の髪と瞳が眩しい美少女が所持する桜色の唇がそっと、そう零す。


 ともすれば、表情の乏しいと感じる整った容姿の少女は、この瞬間は、口元を僅かに(ほころ)ばせ、美しい瞳を細めていた。


 白磁のようなきめ細かい白い肌。


 整った輪郭に、それに応じる以上の美しい目鼻(パーツ)


 白い肌を少し紅葉させた頬と控えめな桜色の唇。


 ――そして特筆するべきはその双瞳(ひとみ)……


 プラチナブロンドの美少女の瞳は、輝く銀河を再現したような白金(プラチナ)の瞳。


 小高い丘の上から独り占めできる満天(まんてん)の星空をも霞ませる魅惑の双瞳(ひとみ)


 それは(まさ)に、幾万の星の大河の双瞳(ひとみ)であった。


 「く、久井瀬(くいぜ)様……」


 自らの剣の柄に手を添えたまま固まった兵士が、唖然とした表情で少女を見て名を呼ぶ。


 「……全部?」


 そこに佇んだ、プラチナの髪と瞳で白金(プラチナ)の軽装鎧を身に(まと)った少女は……

 全身が輝くように純白(しろ)い美少女は、事も無げにそう問う。


 「は、はいっ!……し、周囲にもう刺客は見当たりません……これで全てかと……」


 少女と数人の兵士達の周りには、斬り伏せられたばかりの黒い影が十人ほど……


 兵士は全く出る幕の無かった自分たちの状況と、その純白(しろ)い美少女の卓越した剣技に戸惑いを隠せない表情であったが、それでもなんとか報告(しごと)を済ませた。


 「…………さいかの言った通りだったわ」


 プラチナブロンドの美少女、久井瀬(くいぜ) 雪白(ゆきしろ)はすっかり感心した微笑みで呟くと、未だ呆然とした兵士達をチラリと見る。


 「合図……さいかに合図して」


 「はっ!……はいっ!」


 結局、戦闘では全く出る幕の無かった臨海(りんかい)兵士達は……

 雪白(かのじょ)に命令され、慌てて山頂に見える城に向けて合図を送る作業に移ったのだった。



 ――

 ―


 「ぬぉぉぉーーっ!!」


 絶叫しながら、筋肉質の小男が血の滴る腕を押さえて後方に跳び退いた。


 「どうした?鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)とやら……()くなる上はこの場で俺達を仕留めるんじゃなかったのか?」


 俺は主座前で立ち、抜き身の愛刀を壇下の荷内(にだい) 志朗(しろう)に向けたまま、筋肉達磨と交戦する部下に目配せする。


 「はっ!」


 筋肉達磨の前で刀を構えた俺の腹心の部下、宗三(むねみつ) (いち)は、大きく踏み込んで――


 シュオンッ!


 斬られた腕を押さえた男に追い打ちの二撃目を打ち込む!


 「く!何故だぁぁーー!何故、俺の鋼鉄の身体(からだ)を切り裂けるぅぅっ!!」


 今までのように余裕で刃を弾き返す仕草は見せずに、大きく仰け反って無様に避ける筋肉達磨こと望月(もちづき) 不動丸(ふどうまる)


 「ふ、不動丸(ふどうまる)っ!」


 傍らで同じく、俺の腹心である鈴原 真琴(まこと)と対峙していた黒笠男が助けに入ろうと動きかけるが……


 「真琴(まこと)!」


 「はい!我が君」


 シュタッ!


 俺の声に即応して、真琴(まこと)が猫の如き低姿勢から、両手に携えた特殊短剣を前面に突進する!


 「ぬぉっ!……こ、小癪な!」


 黒笠男……千賀(せんが) 千手(せんじゅ)は仲間の方へ向けた軸足を正面の()(こと)に戻し、素早いバックステップで下がって”遠隔攻撃手”である自分の距離を保ち、真琴(まこと)を迎え撃つ用意をする。


 「小娘っ!我が”黒き雨”の餌食となれいぃっ!!」


 そして千手(せんじゅ)の黒マントが勢いよくブワッと広がって……


 バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!……


 無数の黒い鉄球が、最短距離で直進する真琴(まこと)を襲った!


 真琴(まこと)は襲いかかる無数の黒い凶弾の雨に怯むこと無く突進したまま、

 前面に構えた両手の特殊短剣の……その持ち手にある輪っか状の柄に人差し指を差し込んだ特異な握りで――


 「はっ!」


 ギュルルルルゥゥゥゥーーー!

 ギュルルルルゥゥゥゥーーー!


 ――それを手首の返しで勢いよく弾いた!


 途端に真琴(まこと)の前面に(かざ)された両手先で回転する左右二本の短剣!


 ”羽根車(プロペラ)(さな)らの形状で回転するそれは、即席の”円盤状の小盾(スモールシールド)”を形作って唸る!


 ギィーン!ギィーン!ギィーン!ギィーン!

 ギィーン!ギィーン!ギィーン!ギィーン!……


 翳した二振りの刃、()(こと)の愛刀、”前鬼(ぜんき)後鬼(ごき)”は、鉄壁の刃の盾を構築して(ことご)くの黒き雨を()()けるっ!


 「なっ!なんだとぉぉ!?」


 千手(せんじゅ)がその声を上げたときはもう既に終わっていた。


 ダッ!


 至近まで近づく事に成功した真琴(まこと)は、敵前で沈み、更に低い姿勢から跳び上がって――


 ガッ!

 ガッ!


 一息に相手の肩に両の足で着地する。


 「さ、させぬぅっ!!」


 そして、千手(せんじゅ)がそれを振り払おうとして取る一挙動より更に速く!!


 パシィィッ!


 今度は両肩を蹴って、二段目の飛翔で宙に舞う小柄な身体(からだ)


 ヒュン!


 空中で両足を抱え込むように折り曲げて……


 「こ、こむす……」


 バキィィィィーー!!


 落下速度と両足を伸ばす反動で、黒笠男の無防備な顔面に両足蹴りを入れた!!


 「がっがはぁぁっ!」


 両足蹴り……というより、空中で畳んだ両足を勢いよく伸ばして相手の顔面を地面に突き刺す打撃は、一条(ひとすじ)の槍そのものだ。


 「が……が……ぁぁ……」


 真琴(まこと)に顔面を踏みつけられ、その勢いのまま後方にブリッジして倒れる”雨の千手(せんじゅ)


 地べたに自らの身体(からだ)を使って偃月橋(えんげつきょう)を形作った男……

 雨の千手(せんじゅ)こと、千賀(せんが) 千手(せんじゅ)は、四肢を小刻みに痙攣させて白目を剥いていた。


 「……」


 真琴(まこと)は敵の顔を両足で踏んだままの状態で相手の意識の有無を確認するように少しだけ見下ろした後、此方(こちら)に向けて振り向く。


 ――相変わらず敵には容赦が無いな……()(こと)は……


 そんな感想を浮かべ、自身の顔面も少々ムズムズとしていた俺に黒髪ショートカットの少女はいつものように微笑(わら)いかけるのだ。


 「最嘉さま、処理が終わりました!」


 そして、遅ればせながらも……


 「そ、そうだな、ご苦労だった」


 俺は少しだけ引き攣った笑顔で頷いていた。


 「…………」


 因みに彼女の足下には、未だ台座の様に”雨の千手(せんじゅ)”こと千賀(せんが) 千手(せんじゅ)の顔面がある。


 「は……はは」


 敵ながら……中々に同情に値する状態だ。


 俺はもう一度苦笑いをした後、視線を別の戦場に移した。



 「何故だぁぁーー!何故、俺の鉄岩(てつがん)がぁぁっ!」


 ――一方、此方(こちら)では……


 全身に斬り傷を受けた小柄な筋肉質の男が不満を叫びながら、床をのたうち回っている。


 「……」


 ――こっちも……勝負あったな


 俺は、刀を構えたまま油断無く、鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)を追い詰める男……


 こちらも俺の腹心である、宗三(むねみつ) (いち)の顔を見ながらそう確信していた。


 チャキ!


 愛刀の”鵜丸(うまる)”を構えて(にじ)り寄る(いち)


 「く……ぐぅぅ」


 (いち)が寄った分だけ後ずさる筋肉達磨……鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)


 「な……何故だ……」


 ――ふぅ……


 俺はその様子を主座前から眺めながら、内心ため息を一つ……


 そして、無口な部下に代わって、納得いかないままの相手に答えてやる事にする。


 「どんな鍛錬でそんな異常な身体(からだ)を作り上げたか知らんが……”鉄岩(てつがん)”といっても物質構造的に金属や岩石になったわけじゃないだろう?」


 「……っ!」


 不動丸(ふどうまる)は全身を斬り傷と冷や汗まみれで……突如、会話に割り込んだ俺を睨む。


 ――たく、なんだその目は……知らぬまま終わるのは不憫だと、教えてやっているのに態度悪いな……


 そんな感想を抱きながらも、俺は一度口にした以上は途中で止めるのは俺的に気持ちが悪いので説明(それ)を続けることにする。


 「……つまりな、どんなに堅かろうと、鍛え抜こうと、物質的に人の肉や骨である以上は断つことができるんだよっ!解るだろ?」


 そう、筋肉は筋……

 筋組織の向きや、躍動する瞬間の弛緩によって斬れる瞬間は必ず存在するのだ。


 「……そ……そんな……それを見極めて……刃を振るうというのか……この(おとこ)は……」


 眼球を見開いて、対峙する(いち)を直視する不動丸(ふどうまる)


 「なにも特殊な技能ではあるまい……剣を極めんとする者ならば基本の範疇だ」


 「……うっ」


 平然とした(いち)の言葉に、不動丸(ふどうまる)と壇下の赤目(あかめ)兵達が息をのむ音が聞こえた。


 ――まぁ、その通りなんだが……


 それは少なくとも実戦では達人レベルで無いと無理だろう。


 俺や(いち)……無論、真琴(まこと)もそれは習得している。


 つまり、相手が”そういう手合い”なら、こういう対応も出来るって事だ。


 「くっ……入れ替えたのは、俺の相手に小娘では分が悪いと踏んで……」


 「えーと、一応言っておくけどなぁ、不動丸(ふどうまる)とやら……別にそのままでも勝敗には問題無かったんだよ、効率の問題でそうしただけだ」


 不動丸(ふどうまる)の言葉を即座に訂正する俺。


 「ぬっ……ぬぅぅ……」


 俺の言葉を受けて、不動丸(ふどうまる)は再び絶句する。


 そう、効率を重視した。


 最初は問答をして水攻めへの時間稼ぎをしたが……もう必要ないからな。


 そしてこういう事を細やかに教えるのは、最初に不動丸(ふどうまる)と闘っていた真琴(まこと)のプライドのためというのでは勿論無くて……


 ――単純に”(あいて)”の心を折るためだ!


 (はな)から勝負は見えていたと……

 集団戦闘でも、策の上でも、個人戦闘でも……


 そう再認識させて、このまま降伏に持ち込めれば……なにかと楽だ。


 そしてそれが功を奏したのだろう。


 「…………鈴原殿……この戦はもう……終いだ……赤目(われわれ)は……」


 壇下で白髪を束ねた男……

 (えだ)()城主の荷内(にだい) 志朗(しろう)が、遂に降伏を口にしようと……


  第八話「(つい)の天使」前編 END

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