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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
64/336

第四話「二対二」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第四話「二対二」


 赤目(あかめ)領土内最西部に位置する要衝……枝瀬(えだせ)城。


 枝瀬(えだせ)山の山頂に(そび)え立つ城は、瀬田(せた)丘陵、そしてその下に広がる平野と枝瀬(えだせ)川を眼下に見下ろす中々の堅城であった。


 城主は赤目(あかめ)四十八家の一氏である荷内(にだい) 志朗(しろう)


 赤目(あかめ)領に隣接する臨海(りんかい)領内から侵攻するにはこの城の攻略は避けられない。


 そしてこの先……


 戸羽(とば)城、鍬音(くわね)城とういう他の主城を攻略し、更に先に構える領都”小津(おづ)”を手中に収めるその日まで、”赤目(あかめ)”との戦いは続くだろうことを考えると……


 「この枝瀬(えだせ)城は出来れば無傷で手に入れたいと思ったんだが……」


 俺は少し困った顔で、一段上がった壇上から今の状況を眺めていた。


 ――目前には……


 二十人ほどの赤目(あかめ)兵達が、枝瀬(えだせ)城主である荷内(にだい) 志朗(しろう)を中心にして、主座のある壇上にいる俺と俺の左右でそれを警戒する(むね)(みつ) (いち)と鈴原 真琴(まこと)(まと)めて包囲していた。


 因みに引き連れてきた百程の臨海(りんかい)兵は事情があって此所(ここ)にはいない。


 「それは都合が良すぎる……臨海(りんかい)王よ、我らとて指をくわえて貴殿ら、侵略者の横暴を見逃す腑抜けではない」


 完全に俺を追い詰めたというのに、どこか浮かぬ顔で白髪の男は居並ぶ兵士達に号令の準備をする。


 「着くなり主座へと促され、登ってみればこれだ……たく……」


 俺はその荷内(にだい) 志朗(しろう)の号令に備えつつ、愚痴を漏らす。


 「クククッ!馬鹿と何とかは高いところに登りたがると言うことだ……貴様にはお似合いでは無いかよ?噂倒れの無能の策士、鈴原 最嘉(さいか)よ!」


 今俺をこき下ろした声の主は……


 枝瀬(えだせ)城主である荷内(にだい) 志朗(しろう)の後ろから表れた二人の人影のうち一人だ。


 小柄で筋肉質な男と雨でもないのに三角の黒い雨笠をかぶった黒マントの男。


 「見た顔だな……」


 男達を見た俺の感想に、小柄で筋肉質な男が続けた。


 「はっ!先の戦で我らが多少の後れを取ったからと、思い上がってここまでノコノコその間抜け面を晒しに来たのが運の尽きだな!」


 ――ああ、思いだした、たしか不動丸(ふどうまる)……なんちゃらの不動丸(ふどうまる)()(こと)が捉えた敵だ


 俺がそんな感じで筋肉達磨を観察している横で、鈴原 真琴(まこと)が腰の短剣に両手を添えて前に出ようとする。


 「……真琴(まこと)


 だが俺はそれを静かに制した。


 「最嘉(さいか)さま……」


 ()(こと)は少しだけ不満そうな顔で動作を止める。


 ――俺に対する侮蔑……()(こと)は相変わらず俺に対しては執着しすぎる


 「荷内(にだい) 志朗(しろう)よ、本当にこれで良いのか?これはお前の判断なのか?」


 俺は二人の男を無視し、そしてこの枝瀬(えだせ)代表である白髪の男にそう問いかけた。


 「…………是非もない」


 事情のある顔……

 しかし、それでも初老の男は俺から眼だけは()らさない。


 ――不本意な選択でも……自分が決した判断には向き合う性格か……


 「…………そうか、残念だな」


 その時俺は、その初見である男……荷内(にだい) 志朗(しろう)の眼を見て、心底そう思っていた。


 「荷内(にだい)殿、いつまで無駄話をしていても仕方がない、この”奇策を用いる稀代の策士”という噂倒れの男の始末を!」


 会話に割り込み、せっかちに行動を促したのは筋肉達磨とはまた別の一人、黒笠男。


 「奇策?まだ解ってないのか黒笠男。赤目(あかめ)が誇るらしいお前等両名、”雨の千手(せんじゅ)”と”鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)”が敗北した理由が?」


 俺は一筋肉達磨よりは話が通じそうだと、応そう問いかけてみるが……


 「ふん、この期に及んで問答頼みか……小者め、あんなものは愚にも付かぬ正面衝突、策も何もない(ただ)の力任せの……」


 ――やっぱ駄目だな……不動丸(ふどうまる)よりマシなだけだ


 ――なら、面倒だが説いてやるか、俺は意外と面倒見が良いんだ


 なんて感じで、少し時間稼ぎに転じてみる。


 「そうだ、正面決戦、正攻法……愚直な正道の戦い方だ、だからこそそれに破れたお前達は思い知る」


 「?」


 で、俺の物言いに顔を見合わせる両者。


 「百戦錬磨、”鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)”よ!鈴原 真琴(まこと)を小娘と侮ったろう?……しかし真琴(まこと)はあの天都原(あまつはら)十剣……天下に名を轟かす鬼阿薙(あなぎ)から我が九郎江(くろうえ)を守り切った俺の自慢の懐刀!」


 「ぬっ!」


 望月(もちづき) 不動丸(ふどうまる)なる筋肉達磨の雑な表情筋が強張る。


 「歴戦の強者、”雨の千手(せんじゅ)”よ!宗三(むねみつ) (いち)を俺の腰巾着と軽んじたろう?……だが、(いち)の軍への采配は無駄なく要所を見逃さない。指揮官なら誰もが()る基本にして最重要の兵法を当たり前に(こな)せる事がどれだけ恐ろしいか……正面切っての戦闘で(いち)臨海(りんかい)王虎(おうこ)比堅(ひかた) 廉高(やすたか)に匹敵する将で、俺なんかよりもずっと手強いぞ!」


 「ぐぅぅ!」


 三角の黒笠の下で奥歯を噛みしめて唸る、千賀(せんが) 千手(せんじゅ)


 共々、直前に敗北を喫しているだけに、ぐうの音も出ない。


 「正道あっての邪道なんだよ!精強な軍と優秀な指揮官あってのこそ奇策も適う……それに考えが至らないお前達は負けるべくして負けたんだ!」


 黒笠の男はひとしきり奥歯をギリリと鳴らせていたが……


 「た、たとえそうでも……それが……それがこの状況にどう影響するのだっ!謁見の間(ここ)に居るお前達は三人孤立し、此方(こちら)は二十人以上……袋の鼠とはこのことだろうっ!」


 それでも我慢の限界が、壇上で啖呵を切る俺に反論する。


 「そ、そうだっ!!御託を並べたところで状況は変わらるかっ!貴様が我が赤目(あかめ)の頭脳、鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)様の策にまんまと乗せられた事には変わりないだろうがっ!!」


 筋肉達磨、望月(もちづき) 不動丸(ふどうまる)もそれに続く。


 「…………」


 ――なるほど……まぁ、そりゃそうだ


 現在の状況は、俺達三人が圧倒的多数に囲まれている事に変わりない。


 謁見の間(ここ)に入ってすぐ……

 繋がる渡り廊下に火の手があがり落とされた。


 ここが枝瀬(えだせ)城の本来の謁見の間かどうかは知らないが……


 案内された場所が城の最上階で別塔。

 橋状の渡り廊下で繋がれた場所であった時点で警戒はしていたが……


 城主の荷内(にだい) 志朗(しろう)、諸共に孤立して決戦を挑むとは……な。


 意表は突かれた……それは認めざるを得ない。


 「……まぁ待て、二人とも」


 いきり立つ二人の男を制しながら荷内(にだい) 志朗(しろう)は一歩前に出る。


 「鈴原 最嘉(さいか)殿、降伏を受け入れておいてこの所業……卑怯と罵りたくば罵れば良い、甘んじてそれは受け入れよう……しかし」


 そして俺と二人の忍頭の会話に割り込んだ初老の男は、重苦しい雰囲気で口を開く。


 「荷内(にだい) 志朗(しろう)……」


 そう、俺がある程度、意表を突かれたのは……


 俺は真剣な眼差しで段下から見上げる白髪を後ろで束ねた男を見た。


 「……鈴原 最嘉(さいか)殿……その首もらい受ける!」


 この城主(おとこ)の意外な覚悟だ。


 ――ザザッ!!


 荷内(にだい) 志朗(しろう)の合図で、俺達が居る壇上に一斉に襲いかかる赤目(あかめ)兵士達!


 あの生臭……根来寺(ねごでら) 数酒坊(かずさのぼう)の甘言に乗って自軍を裏切り、そしてそれをまた旗色が悪いからという理由で裏切って恥じない唯の節操の無し男という訳では……どうやら無いらしい。


 ザシュッ!


 ズバァァ!


 「なっ!?」


 城主、荷内(にだい) 志朗(しろう)と二人の忍頭は後方で、目を見開いてその光景を見ていた。


 「ぐわっ!」


 「ぎゃっ」


 主座前に立つ俺に襲いかかる兵士達を次々斬り捨てる二人の戦士。


 少女は両手に持ち手に輪の着いた二本の特殊な形状の短剣……


 ”前鬼(ぜんき)”と”後鬼(ごき)”を逆手に持って――


 シュバッ!


 「がはぁ!」


 その見た目の可愛らしさとは真逆の容赦無さで斬り捨てる、黒髪ショートカット美少女、鈴原 真琴(まこと)


 ドスッ!


 「うわっ!」


 頭の後ろでチョンと縛った髪が揺れ、腰の刀……”鵜丸(うまる)”を抜いて綺麗な型で白刃を振るい主君を守る、見た目爽やかな好青年、宗三(むねみつ) (いち)


 二人の奮戦で瞬く間に赤目(あかめ)兵士達は床に折り重なっていった。


 「や、止めっ!引くのだ!一度引けっ!!」


 荷内(にだい) 志朗(しろう)の号令で、壇上に攻め寄せていた兵士達が波が引く様に下がる。


 「ぬぅ……これが貴殿の余裕の理由か!?」


 これは流石に想定外だったのか、苦虫を噛み潰したような顔で俺を見る荷内(にだい) 志朗(しろう)……


 俺は答えず、戦闘前と同じ様子で主座前に立ったまま骸の数を数える。


 「ひぃ、ふぅ……大体半分だな、で、どうする?赤目(あかめ)の兵士諸君」


 「……」


 「……」


 壇上、壇下で無言でにらみ合う俺達と枝瀬(えだせ)城軍の両陣営。


 「クッ……クククッ!なるほど……指揮だけで無く”個人戦闘(こっち)”も得手とは良い駒を持っているな、無策無能の臨海(りんかい)王」


 そう言って含み笑いを浮かべた黒笠男が一歩前に出た。


 「そうだろ、良いだろう?俺の自慢の部下だ」


 素直に答える俺。


 「ふん、部下に恵まれただけの無能王が……だがそれもこれまでだ」


 もうひとりの忍頭、筋肉質な小男が同じように前に出る。


 「個人戦闘技能は我ら赤目(あかめ)忍びの専売だ、運が無かったな」


 黒笠マントと筋肉達磨……二人の異形男は各々の構えを取る。


 「…………(いち)真琴(まこと)、任せるぞ」


 それだけ言って、俺はそのまま主座に腰掛ける。


 「はっ!最嘉(さいか)様!」


 「はい我が君、”愛する部下”とお言葉を頂いた限りはこの身を挺してっ!」


 二人は返事をすると、自らの”武器(えもの)”を手に異形の忍びに向けて構え直す。


 「えと……真琴(まこと)?”愛する””とは一言も……」


 そうだ、確か俺は……

 ”俺の自慢の懐刀”と言っただけ。


 「おぉい、()(こと)……」


 「東雲(しののめ)家臣団”随一の使い手”にして、我が通り名は”雨の千手(せんじゅ)”……いざ参るっ!」


 黒ずくめの鎧の上に鎖を編み込んだマントを羽織った、雨でも無いのに頭には同じ黒い三角の笠を被った男は名乗りを上げた。


 「同じく富士林(ふじばやし)家臣団”最強の戦士”、”鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)”……ゆくぞぉっ!!」


 成人男子としては身長は低い方……しかし大きくはだけた上着からのぞく大胸筋、上腕二頭筋の異常な発達、短く屈強そうな首は、筋肉達磨という表現がぴったりとはまる小男。


 ”鉄岩(てつがん)不動丸(ふどうまる)”は太い両腕を高々と頭上に振り上げた!


 「臨海(りんかい)軍……宗三(むねみつ) (いち)


 (いち)は静かに愛刀”鵜丸(うまる)”の抜き身を相手に向ける。


 「鈴原 最嘉(さいか)さまの側近にして忠実な下僕、鈴原 真琴(まこと)


 そして真琴(まこと)も両手に持った特殊短剣……

 ”前鬼(ぜんき)””後鬼(ごき)”を眼前に油断なく構えて戦闘態勢を取っていた。


 敵の名乗りに呼応した(いち)真琴(まこと)


 臨海(りんかい)赤目(あかめ)


 二国が誇る戦士同士の戦闘は始まった!


 「いやっ、だから”愛する”とは言って無いし……聞けよ!お前ら俺の話っ!!…………てか、”下僕”って言うなっ()(こと)!まことさぁーーんっ!!」


 ダッ!

 ダッ!


 ギャリィィーーン!

 ガキィィッ!


 ――戦闘は……始まったのだった


 第四話「二対二」END

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