第四十話「最嘉と本懐」後編(改訂版)
第四十話「最嘉と本懐」後編
「で、若、本日もう一つの議題、我が国の今後の方針とは……」
部下達の歓声の中、少し考え事をしてしまっていた俺に……
臨海国最古参の重鎮、比堅 廉高が諸将を代表して問いかける。
「っと……そうだったな」
俺は思考していた意識を戻し、眼前に居並ぶ諸将達、俺が最も信頼し、最も頼りにする者たちをゆっくりと見ていく。
「……」
「……」
――皆……良い面構えだ
満足した俺は、そうして小さく息を吸い込んでから言い放つ。
「我が臨海は今回の天都原からの独立を以て、この”暁”の統一に乗り出すっ!!」
――ザワッ!!
俄にざわめく室内。
「統一……我が臨海が……この“暁”を?」
「いや、しかし……」
驚きに目を丸くする者、事態を理解しようとブツブツ独り言を言う者、中には言葉を失って立ち尽くす者さえ居る……
――無理も無いだろうな……
現時点ではある意味途方も無い夢物語。
地方の”いち小国”である臨海では分不相応の目標と評されても仕方が無い。
――だがっ!!
「面白いですねぇ、さすが我が主……面白い事をお考えになる」
神反 陽之亮が如何にも愉しそうに笑って言う。
「び、微力ながら……わ、わたしも……王様のお力になれるよう、が、頑張りますっ!」
花房 清奈が両の手で握りこぶしを作って、フルフルと小さい体を震わせている。
「ふむ……なるほど、最嘉様なら出来ぬ……とは言い切れますまい」
草加 勘重郎が顎髭をさすりながら頷いて……
「応っ!さすが若!戦乱に生を受けし男子ならそう来なくてはなりませんなっ!良いか貴様らぁっ!!粉骨砕身、その身を捧げて若をお助けするのだぁっ!!」
臨海軍将軍統括、宿将、比堅 廉高がその巨躯に相応しい豪快な号令を放って、それらを締めくくっていた。
「…………ふっ」
――やはり……さすが臨海の中心を担う者たちだ
俺は期待通りの反応に、満足感に心を満たしながら最前列に控える二人を見る。
「はっ!」
「はい、我が君のお心のままに」
――宗三 壱
――鈴原 真琴
この二人には聞くまでも無い事だった。
そしてこの二人には、これよりまだ先を話している。
そう、今よりも、もっと以前に……
俺の本当の目的……本願……”暁”統一はただの手段……通過点だ。
――俺の本願は……この世界を……
――俺の本懐は……
「しかし、最嘉様……」
――!
俺はその家臣の声で想いから帰参する。
「これは中々困難な道ですな……歴史上どの偉人も英雄も未だ成し遂げた事の無い至高の頂に立つというのは……」
「……」
「た、確かに……」
「そんな偉業は天都原や旺帝でさえも……」
草加 勘重郎の言葉は一時の熱気に侵された皆の身を改めて引き締めた。
「……」
無理も無いだろう、それだけ困難な道だ。
それだけに、成せれば歴史上比肩しうるものの無い偉業ともいえるのだ。
「勘重郎……」
「はい、我が主君よ」
俺の言葉に顎髭男は恭しく頭を下げてニヤリと笑う。
――場の空気を台無しにして申し訳ない……って顔じゃ無いなぁ
それもそのはず……草加 勘重郎はそれを察した上でより上の状況への下地造りをして手助けをしたつもりであろう。
――まぁな、同時に俺が部下達をどう率いる器か……試しているともいえる……が
相も変わらず”計算高い”顎髭だと俺は呆れながらも、その期待以上を見せてやるつもりだ。
「忘れたのか?草加 勘重郎、我が誇れる臨海の諸将よ……俺の名は、この臨海領主、鈴原 最嘉の名は”最も優れているという意味”で”最嘉”だっ!!」
俺はそれほどの目標を掲げても何食わぬ顔、余裕の表情を維持していた。
それは他でもない、俺以外の存在に対しての演出の一部。
バサッ!
態と大仰に腕を振るって彼方を指し、そして大言壮語を解き放つ!
「本州を四片に分断する大国、旺帝、七峰、天都原、長州門……さらには北の島、北来の可夢偉、西の島、支篤の南阿、南の島、日向の句拿……相手が如何な大国であろうと問題ない、全ては俺の策の上だっ!!鈴原 最嘉、この名に付き従え!そうすれば、未だ刻まれたことの無い歴史を目にする事ができるだろうっ!!」
「……」
「……ぉ……ぉ」
「……おぉぉっーー!!」
「おおおおぉぉぉぉっーーーー!!」
水面に波紋が広がるように、それは即座に伝染し、濁流となった歓声が九郎江の大広間を城を揺らす!
「ふふっ、正に……」
草加 勘重郎が満足そうに顎髭を摩る手は少し震えていた。
「王様……はぁぁ……やっぱりす、すごい方です」
花房 清奈は羨望の眼差しで俺を見る。
「おおおぅっ!立派に成られたっ!おおぅっ!!」
そして故老、比堅 廉高が鬱陶しく巨大な肩を揺らせてむせび泣いていた。
「……」
俺は十二分な成果に密かに頷く。
計算され、演出されたこの場の俺の支配者的魅力……
そして諸将の心を痺れさせるに足る言葉。
時に演出は大輪の華だ。
花びらをを大きく開かせて魅せ、印象的な香りで心の芯から酔わせる。
人中に咲かせる興とは、真にこういう風に利用するものだろう。
――おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
――おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
そして……
それが功を奏した証拠に、居並ぶ臨海の面々の瞳には少年の憧れにも似た煌めきが宿り、肌はほんのりと朱を帯びていた。
――俺が与えた期待と希望……
――それはある意味、不安と恐怖を克服した高揚感だったのかもしれない
「……」
「……」
ザザッ!
そして自然と俺に視線を合わせた宗三 壱と鈴原 真琴の二人が、絶妙のタイミングでその場に傅いた。
――っ!
――ザザザッ!!
それを皮切りに諸将が一斉に習う。
「……」
九郎江の城に集った臨海の名だたる面々が申し合わせたかのように自ら揃って頭を垂れる……
その光景は圧巻の一言であった。
「…………やっぱりすごいね、さいかは」
俺の隣の純白い少女が耳元でそう囁いて微笑んだ。
「……」
――これからだ……この乱世に生まれてきたからには、最大限の高みに登りたい!
――そしてこの世界をきっと……
俺は立身の想いを胸に、再び言葉を発する。
「北の宗教国家”七峰”は天都原との勢力争いに手一杯で当面は置いておいて問題ないだろう、なら我が軍の標的は……東の”旺帝”!!」
――っ!!
俺の発した”旺帝”という国名に、傅いたままの諸将の身体がビクリと震える。
――無理も無いか……確かに相手が相手だ
戦国最強と名高い”旺帝”。
龍神王の末裔と称する”燐堂家”が治める大帝国だ。
臨海の国家規模では勿論、天都原でさえ、真面にぶつかっては勝利はあり得ないだろう。
――だが
「先ずひとつは、その”旺帝”に至る道。他の小国群を平定し、そこまでの道を確保する事!」
宗三 壱が立ち上がり、諸将にそう告げる。
「おぉっ!それでは……」
俺が掲げた指針を宗三 壱の口経由で聞いた臨海軍将軍統括、比堅 廉高が、宗三 壱の顔を見て更なる確認をする。
コクリ……
そして俺は、壱に向かって頷いた。
「はっ!」
宗三 壱は頭を軽く下げた後、諸将に続きを披露する。
「我が軍の当面の目標は、天都原傘下ではない中立国八カ国を含む小国群二十カ国……うち我が国と東の大帝国”旺帝”へと繋ぐ要所に存在する六カ国の速やかな平定……中でも問題は……」
「”暁”随一の隠密暗殺の特殊部隊を擁する”赤目”……か」
壱の説明に横から言葉を挟んだのは神反 陽之亮だ。
軽薄そうな微笑みを絶えず常備した優男。
特務諜報部隊“かげろう”の花房 清奈と並ぶ臨海のもう一人の影の功労者、特殊工作部隊”闇刀”の筆頭、神反 陽之亮。
俺は陽之亮に無言で頷いて返し――
「あくまでも我が国の標的は東の最強国家”旺帝”だ!しかしそれを阻むものは尽く屈服させていく……平坦な道では無いが、俺は皆となら必ず成せると信じているっ!!」
そして今度は壱に代わって高らかに檄を飛ばし、この演目の締めくくりとした。
「おおぉぉっーー!!」
「おおぉぉっーー!!」
そしてそれに呼応して湧き上がる将兵の歓声が、またも広間を埋め尽くしていくのだった。
「…………」
――そうだ、これでいい……俺は……俺はもっと上にいく!!
俺の視界には、ここまで絶えず俺に付き添ってきてくれた側近、宗三 壱と鈴原 真琴、臨海の諸将達……
そして傍らには、目映い白金の髪と白い銀河を内包した双瞳を持つ白金の騎士姫、久井瀬 雪白が微笑む。
――そうだな……
俺は決意を新たに天を仰いだ。
――ここからが本当の正念場だ
――ここからが本当の戦い、俺が四年前に始めた俺の本当の戦いだっ!
第四十話「最嘉と本懐」後編 END




