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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
56/336

第三十九話「雪白と新しい名前」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十九話「雪白(ゆきしろ)と新しい名前」前編


 「雪白(ゆきしろ)様のご実家、久鷹(くたか)家の属する所領は支篤(しとく)北東部”羽山浦(わさうら)領……直近の主従関係は、羽山浦(わさうら)領主、山名内(やまなうち) 数砥(かずと)殿でがすが……山名内(やまなうち)南阿(なんあ)の古参にして大領主、それが今回あっさりと天都原(あまつはら)に寝返ったことに久鷹(くたか)家当主の久鷹(くたか) 是清(これきよ)殿は大変プンプンご立腹らしいとかー」


 包帯男はそう言いながらも、チラリチラリとあからさまに俺と雪白(ゆきしろ)の反応を(うかが)ってくる。


 「それで?」


 俺はそんな奇人の態度を受け流して先を問うた。


 「ですからぁ、どうやらぁ、そもそもこの寝返りを仕掛けた天都原(あまつはら)に対する復讐としてですにゃ、天都原(あまつはら)と敵対する宗教国家”七峰(しちほう)”に内通の動きが在るとか、無いとか?」


 ――”七峰(しちほう)”とだと?……

 ――しかし、南阿(なんあ)七峰(しちほう)も長らくの敵対関係だ、それを今更……


 「……ですにゃ、だから、久鷹(くたか)家が山名内(やまなうち)を見限って元の南阿(なんあ)では無く七峰(しちほう)に取り入るお土産として、特別格別のご馳走をプレゼントフォーユー!」


 俺の表情から考えを読んだ包帯男は説明を更に進める。


 「……つまり、近隣に名を轟かす烈将、”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”を差し出すと密約を……か」


 そして負けじと言う訳では無いが、献上されるその”ご馳走”とやらを言い当ててみる。


 「ピンポーンピンポーン!!大正解!ボーナスポイント五百万点で臨海(りんかい)王様が一気にトップに躍り出ましたにゃー!!」


 出鱈目な台詞とウンウンとオーバーリアクションで頷きながら、はしゃぐ包帯男……幾万(いくま) 目貫(めぬき)


 「確かな情報か?」


 しかし俺は無視をして情報のみを問い糾す。


 「ウホッ?」


 「……」


 終始巫山戯た幾万(いくま) 目貫(めぬき)に対し、俺の顔は真剣だ。


 この情報の真偽如何によっては、この包帯男の生死を判断するくらいに。


 「本当で……がすよ、鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)様。貴方が”大切な者”のためならどんな非情にもなれる御方だと重々承知しての情報提供ですよ」


 「……」


 ――急に真面目な口調になりやがって……


 とはいえ、俺の冷ややかな視線にビビった訳ではないだろう。


 ――此奴(こいつ)はそんなタマじゃない


 俺は何故か初対面のはずの奇妙な包帯男に対し、感じたことの無いくらいの圧力(プレッシャー)と、得も言われぬ違和感をヒシヒシと感じていた。


 ――妙だ、前にどこかで?……いや違うな……この”既視感(デジャヴ)”さえ成立しない違和感……


 目前の人物が俺の中で、頭の片隅で……

 情報と記憶が繋がりそうで繋がらない、この感覚……


 「情報は保証しますでがすよ、ええ、この?……この?……おお!この首をかけてぇぇ?」


 包帯男はペタペタと首や頭を触っては、布の間から露出した両の眼をクリクリと光らせていた。


 何の意味があるのか、トコトン趣味の悪い自己主張(パフォーマンス)だ。


 「……」


 ――とはいえ、

 ――本州中央北部の宗教国家”七峰(しちほう)”と……か


 「久鷹(くたか) 是清(これきよ)七峰(しちほう)の代表である”神代(じんだい)”に通じたのか?」


 俺は理解出来ない自身の中の違和感は取りあえず捨て置き、話を進める。


 「いえいえいーえ!そんな傀儡(かいらい)ではなくって、七峰(しちほう)中央を牛耳る壬橋(みはし) 尚明(しょうめい)……俗に言う、ゾクゾクにゅうにゅう?壬橋(みはし)三人衆の長兄に取り入ったようでがすよほぉ」


 ニヤニヤと細めた二つの眼で俺の質問に巫山戯た口調で正確に答える幾万(いくま) 目貫(めぬき)は妙に愉しげだった。


 「ちっ……」


 調子が一々狂う相手に、俺はペースを握られがちで面白くない。


 「壬橋(みはし) 尚明(しょうめい)……か」


 ”(あかつき)”にある大国の一つである”七峰(しちほう)”は宗教国家だ。


 その名の通り七体の神を主神に崇める宗教だが、中心的な役割は”神代(じんだい)”と呼ばれる巫女が代々行うことになっているらしい。


 宗教国家ではあるが、元々は他信仰に口出しすることも無く自国防衛以外に武力行使することも無かったが、近年は隣接国に対し積極的に侵略行為を繰り返している。


 そして、その元凶とも言われるのが”壬橋(みはし)三人衆”と呼ばれる一族だった。


 ――現在の”神代(じんだい)”である……確か”六花(むつのはな) (てる)”といったか?

 ――その少女を傀儡(かいらい)にして国政を欲しいままにする俗な連中だと聞いているが……


 壬橋(みはし) 尚明(しょうめい)は三人衆の長兄で、最も七峰(しちほう)で影響力を持ち、他の二人の弟達より一歩抜きん出た存在だという。


 ――成る程、我が臨海(りんかい)の”七峰(しちほう)”方面責任者、神反(かんぞり) 陽之亮(ようのすけ)からの情報とも合致するな


 「確認はすみましたでがしょうか?最嘉(さいか)様」


 ――!?


 なんてタイミングだ。

 まるで俺の頭の中での整理がつくのを待っていたかのような計ったようなタイミング。


 「どうですかにゃぁ?」


 「……」


 俺を眺めながら恐らくは包帯の下でニヤけ面を見せる奇人。


 「…………なら、尚更、今日話し合おうと思っていた案件を進めるべきだな」


 俺はそんな包帯男を無視して雪白(ゆきしろ)を見た。


 「雪白(ゆきしろ)、お前にも思うところはあるだろうが、お前には実家を捨てて貰う」


 突然こんな事を言われても戸惑うばかりだろうが、どうも猶予は無さそうだ。

 悪いが雪白(ゆきしろ)には無理矢理にでも従って貰うしか無い!


 「うん、わかった」


 「いや、感情的な事もあるだろう……が!」


 ――そうだ!これ以上雪白(ゆきしろ)が下らない陰謀に利用されない為にも、俺の手元に居る内に臨海(りんかい)国の家臣筋と養子縁組を施して、今後の彼女の安全を確保する……


 「いや、口で言うほど簡単なことではないだろう……ほんと!猫の子を受け渡すようなやり方で悪いが今は時間が無い、だが、ここは了承してくれ!」


 「うん、いいよ」


 「…………」


 「…………」


 ――あれ?


 ――なんか……噛み合ってない!?


 「だから、いいよ、さいかの好きにして」


 白金(プラチナ)のお嬢様はそう言って事も無げに頷いていた。


 「えっ!い、良いのか?そんなあっさり!?」


 「?」


 驚く俺の顔を眺め、ぱちくりと美しい白金(プラチナ)の瞳を瞬かせる少女。


 「うん、だって久鷹(くたか)の家って一度しか行ったことないし……”これこれ”?とか年寄りの顔も憶えてないから」


 ――”これきよ”だっ!是清(これきよ)っ!!

 ――顔どころか養父の名前も憶えてないぞ!おまえ……


 「そ、そうか……」


 南阿(なんあ)が誇る”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”こと閃光将軍、久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)の移籍は猫の子を貰うよりずっと簡単(イージー)だった。


 ――だが……春親(はるちか)め、雪白(ゆきしろ)をかなりぞんざいな扱いにしていたという証拠だ!


 養子縁組も適当、只の便宜上で、雪白(こいつ)を兵器としてしか見ていない。

 俺の心中は複雑だ!複雑だが……けど……今だけはそれは好都合でもある。


 「お、王様、久鷹(くたか)……いえ、雪白(ゆきしろ)さんの受け入れ先ですが、な、なにかと情報の固まった臨海(りんかい)の古参よりも、ひ、比較的新しく臣下に入った家の方が後々辻褄も合わせやすいかと……」


 花房(はなふさ) 清奈(せな)の適切な進言に俺は頷く。


 確かに、緊急避難的な処置だし、ドサクサに紛れさせた方が手っ取り早いか。


 「そうだな……じゃあ、名前の発音も似ているし日乃(ひの)領、那知(なち)の”草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)”とか良いか……もって、痛てっ!お、おい……痛たたっ!!」


 「お、王様?」


 俺の突然の悲鳴に花房(はなふさ) 清奈(せな)がおっとりした瞳を丸くする。


 「……」


 何食わぬ顔で坐したまま、テーブル下で俺の(すね)をゲシゲシと蹴ってくる雪白(ゆきしろ)


 「おっおい!」


 「……」


 指摘されても、純白(しろ)い少女の端正な顔は澄ましたままだ。


 ――ちっ……あの顎髭男は嫌だと……そう言う事か?


 「そ、そうだな……痛て!……なら……痛てて!……くそ、解ったって!ならいっそ作るか?」


 ――!?


 半分ヤケになった俺の言葉に、花房(はなふさ) 清奈(せな)が更に目を丸くする。


 「作る?お、王様?」


 「いや、家をだよ、新たに家臣を」


 俺が(すね)を撫でながら補足すると、清奈(せな)は”マジですか!?”という顔で俺の顔を凝視し、壁際に控えて立つ給仕(メイド)の女性達は、声こそ出さないもののお互い目を合わせて変な顔をしていた。


 「……」


 雪白(ゆきしろ)は……コクリコクリと無表情に頷く。


 「お、王様……それは、さ、流石に……」


 ――み、皆まで言うな清奈(せな)さん……


 色々面倒臭いから新参の家と養子縁組させようと考えたのにこれじゃ本末転倒、余計に仕事が増えたうえに中々に他の家臣達を納得し難いだろう。


 久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)の為だけに新たな知行を与え、家を興す……破格な待遇は依怙贔屓(えこひいき)と不満が出ることは想像に難くない。


 「王様……」


 ――だが!


 「まぁ、あれだ……俺は独裁者だから問題ない!」


 ――っ!!


 そして俺の言葉にその場の全員が目を皿のように丸くしていた。


 約二名を除いて……


 「ふひゃひゃひゃふひゃひゃっひっっひっひぃぃーー!」


 そして変な間の出来た空間に、なんとも奇妙な声が響き渡る。


 「……」


 ――こいつ……


 つまり例外の二名の内一人……包帯男、幾万(いくま) 目貫(めぬき)だった。


 因みに例外のもう一人は白金(プラチナ)のお嬢様である。


 「いえ、失礼、臨海(りんかい)王があまりにも愉快で痛快なのでつい、おおっと!誤解なさらずに、これは賛辞ですよ!褒め称えておるのですよ!」


 俺を笑うかのような不遜な態度に七山(ななやま) 奈々子(ななこ)が向けた鋭い視線、だが”ミイラ男”はしれっと言い訳する。


 「包帯男(おまえ)に褒められてもなぁ……」


 微妙な雰囲気をこんな珍妙な男に救われたとは思いたくないが……

 まぁ結果オーライだろう。


 「いやいや、そう言わず……私に良い案がありますですよ、雪白(ゆきしろ)様の家名候補、とびきりのお名前が……」


 そして、そう言って包帯男、幾万(いくま) 目貫(めぬき)は……


 (あらかじ)め周到に用意していたかのような”ある故事”を俺に提示したのだった。


 第三十九話「雪白(ゆきしろ)と新しい名前」前編 END

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