表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
52/336

第三十六話「最嘉と魔眼の姫」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十六話「最嘉(さいか)と魔眼の姫」後編


 「……」


 確かに陽子(はるこ)の言う通り……

 宝石の類いが装飾されていないシンプルなデザインの指輪だが、それらは色とりどり。


 そして、何よりその佇まいが普通では無いのは確かだ。


 「それで、指輪には序列があって……」



 ――京極(きょうごく) 陽子(はるこ)の説明はこうだった


 五対、十個の指輪には序列がある。


 序列一位……黄金(ゴールド)

 序列二位……黒真珠(ブラックパール)

 序列三位……紅玉(ルビー)

 序列四位……白金(プラチナ)

 序列五位……瑠璃(ラピスラズリ)


 そして指輪自体は存在しないが、序列外に”虚無(アナザー・ワン)”が有るとか無いとか……そういう言い伝えもあるらしい。


 「序列二位”黒真珠(ブラックパール)”……四位”白金(プラチナ)”……誰かさん達みたいだな」


 黄金(ゴールド)は黄昏、黒真珠(ブラックパール)は深淵、紅玉(ルビー)は深紅、白金(プラチナ)は純白、瑠璃(ラピスラズリ)は青藍……

 指輪は一対ずつ、つまり二個でワンセット。


 二位の”黒真珠(ブラックパール)”と四位の”白金(プラチナ)”……黒と白……深淵と純白……それは正に現在(いま)目の前に存在する少女達だ。


 「さすが最嘉(さいか)ね、察しが良いわ」


 暫し思考し、思い至った俺の顔にめざとく気づいた黒髪の美少女が微笑む。


 「なら”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”とはつまり”魔眼の姫”達の……魔眼だとでも?」


 陽子(はるこ)はコクリと頷く。


 「私の()る事を説明しても良いけど……その前に最嘉(さいか)の考えを聞きたいわ」


 「……」


 ――陽子(はるこ)はいつもそうだ

 ――こうやって俺を愉しむ


 俺は陽子(はるこ)に当てつけるように”はぁ”と大袈裟にため息を()く。

 ちょっとした抵抗だ。


 「指輪がそれぞれ”魔眼の姫”の瞳を指すのなら、黄金(ゴールド)黒真珠(ブラックパール)紅玉(ルビー)白金(プラチナ)瑠璃(ラピスラズリ)、計五人の姫が存在するということになる」


 「……」


 静かに俺の説明を聞く陽子(はるこ)


 「……?」


 そして意味は解っていないだろうが、とりあえずおとなしく聞いている雪白(ゆきしろ)


 「そして五人で五対の指輪……数で十の瞳プラス序列外の、指輪は存在しないという”虚無(アナザー・ワン)”とやらを合わせて合計十二の魔眼……これはつまり」


 ここまでの情報で、俺にはある程度の結論が出ていた。


 「正解よ!素敵!その通り”魔獣バシルガウの十二の邪眼”の事よ、多分ね」


 そして俺の答えを最後まで聞くこと無く、暗黒の美姫は心底嬉しそうに微笑むと、パチンと両手の平を胸の前で軽く打った。


 「……多分……ね」


 自信を持って正解と言う割には”多分”……


 彼女自身がそう言うところを見ると、陽子(はるこ)が文献や調査で得た情報から導き出した結論であり、明確な答えが記されていたという事では無いのだろう。


 ――まぁな、実際は(いにしえ)伝説(おとぎばなし)だ。”英雄(とうじしゃ)”か”魔獣(げんきょう)”にでも直接会って聞き出さない限りそれは確認の仕様が無い


 「……と言うことは、気の遠くなるような大昔に世界を破滅へと導く”十二の邪眼を持つ魔獣”を封じた”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”……つまり英雄様は魔獣から十二のうち、奪った十の邪眼を指輪に封印したと?」


 「そうよ、災厄の魔獣”バシルガウ”を封印……そしてその指輪を扱える能力を持った人間が”魔眼の姫”という事かしら」


 ――それが陽子(はるこ)の探し求めている切り札か?


 確かにここまでくるとまるっきり作り話と笑う事も……


 「……」


 ――いや、だがそれでも……京極(きょうごく) 陽子(はるこ)ほどの人物が”過去の遺物(そんなもの)”に頼らないとならないものなのか?


 俺にはやはり少しだけ不満があった。


 あったが……しかし……


 「疑問がある」


 「なにかしら?」


 陽子(はるこ)がここまで入れ込む事だ。

 なら俺ももう少しぐらい付き合っても良いだろう。


 「なんで”姫”……女なんだ、男じゃ駄目なのか?」


 「……」


 「十ってことは残りの一対、”虚無(アナザー・ワン)”とやらは魔獣が持ったままなんだろう?なんでだ?」


 「……」


 「その話の流れだと多分、魔力の根源たる邪眼を全て奪えば魔獣は存在できなくなったはずだ。それを態々残して魔獣を生きたまま放置したってのは、英雄様はどういう了見だったんだ?」


 「……」


 俺の立て続けの質問に陽子(はるこ)は黙ったままだった。


 無理も無い……意地の悪い質問だ。


 神話やお伽話に難癖をつけるって、どこの好奇心旺盛な子供(ガキ)だっての……


 「最嘉(さいか)……貴方は英雄の名前()ってる?」


 そして陽子(はるこ)は、何故か見当違いの質問を返してくる。


 「いや聞いたことが無いな、俺の()る限りでは名前は記述されていなかったと思う、ただ……」


 ――そうだ……俺の知る限りはどの文献にも不思議と主人公たる者の名が無い……


 「ただ?」


 ――だが……その名無しの主人公の……


 「英雄(そいつ)の持つ剣は……」


 「ええ、英雄の所持した剣は……」


 その時、俺と陽子(はるこ)の視線はごく自然に絡み合っていた。


「聖剣グリュヒサイト!」

「聖剣グリュヒサイト!」


 ――そう、その物語の主人公の名前は恐らくどの文献にも記されていない


 ここまで有名な伝説であるにも拘わらずだ。


 しかし……


 彼?彼女?の所持した愛剣はあまりにも有名だ。


 ――銀の(ほのお)()べし聖剣”グリュヒサイト”


 この名称を知らぬ者は”(あかつき)”にはいないだろう。


 「(はる)、つまりあの伝説(おとぎばなし)は事実の部分もあって”魔眼の姫(おまえたち)”は……」


 コンコン!


 話が核心に迫ろうとしたその時、無粋にもノック音が響いた。


 ――ちっタイミング悪いな……


 元々興味が無いと言っても、ここまで前振りされてお預けは俺だって良い気はしない。


 「宮、天都原(わが)軍への報告は周知させました、撤収に移行してもよろしいでしょうか?」


 ドアの外から聞こえたのは陽子(はるこ)の側近、岩倉(いわくら) 遠海(とうみ)だ。


 「……ええ、今いくわ」


 陽子(はるこ)はそう応えると、ふわりとゴシック調スカートの裾を(ひるがえ)して、実に未練無くドアへと向かう。


 「おい、まだ肝心の話が!」


 それを俺は未練がましく引き留めた。


 「……」


 立ち止まる暗黒の美姫。


 だが、俺の言う”話”とは魔獣なんて伝説(おとぎばなし)じゃない。


 もっと重要で現実的な”話”だ。

 つまり、この戦争での事後処理、天都原(あまつはら)臨海(りんかい)間の今後の話し合いだ。


 「…………いいわ、最嘉(さいか)の好きなように」


 「おい!」


 微妙な顔で呼び止める俺を優雅な微笑みで受け流すドア前の美少女。


 実にアッサリと主導権を俺に譲って美少女はクスリと微笑(わら)う。


 「臨海(りんかい)の独立を許すわ、今後は格下の属領扱いでは無くて対等の同盟国よ……文句は?」


 「………………ない」


 そして俺はその白くしなやかな(てのひら)の上で見事に踊る事になる。


 ――お見通しかよ……確かにお互いの状況を考えればそれが理想的だが


 陽子(はるこ)となら話が早くて良いが……

 良いんだけど……


 なんか釈然としない。


 現状では、お互いの間に南阿(なんあ)との不可侵条約が結ばれたとは言え、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)は国内に王位継承権争いの競争相手、藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)が立ちはだかり、国外では北部に国境を接する宗教国家”七峰(しちほう)”を当面の敵に抱える。


 対して俺たち臨海(りんかい)は……まぁ、いろいろだ。

 色々ありすぎて……なぁ?


 ――と、とにかく、お互い今は周辺国に敵を増やすのは得策では無い!


 だからこれは互いの利害が一致する対応とえいるが、現実にはそんなに単純な問題でも無い。


 特に陽子(はるこ)の方はどうやって国内を説得するのか?


 子飼いの小国群が一つに独立され、日乃(ひの)領土まで奪われたのだから、大国として面目を保つのは難しい。


 「……」


 「その顔は私の心配をしてくれているのね、ふふ、相変わらず変な所で優し……いえ、甘いのね」


 「……」


 想い人のあまりにも素直な微笑みに、俺の頬は緩み心は(とろ)けそうになる。


 「さいかっ!」


 「あ、ああ……」


 雪白(ゆきしろ)に一喝されるまでもない、俺はちゃんと正気だ。


 国を背負った大事な話をしているのだからな。


 「ふふ、心配しなくても大丈夫よ、日乃(ひの)領土全てを持って行かれたのは少し計算外、私としたことが最嘉(さいか)を甘く見積もっていたようだけど、此方(こちら)は虎の子の”蟹甲楼(かいこうろう)南阿(なんあ)の半分を手に入れたのだから補って余りある。お釣りがくるくらいだわ」


 そう言って彼女はいつもの余裕の笑みを見せた後、再び背を向けドアノブに手をかける。


 なるほど、その成果で他の王族や重鎮を黙らせる訳か……

 陽子(はるこ)らしい、最初から計算された策だ。


 「……」


 ――けど……な……

 ――ふぅ……言わなくちゃ駄目だよなぁ


 俺は内心ため息を()く。


 どうせすぐバレるんだ、ここで黙っていたらそれこそ後が怖い。


 「(はる)、あのな……」


 去りゆく美姫の背に恐る恐る声をかける俺だ……


 「だから大丈夫よ、計算内だか……」


 「天都原(あまつはら)南阿(なんあ)戦に顔出す前に、ちょっと護芳(ごほう)領も貰っちゃったんだけど……」


 「……」


 ――あ、珍しい表情


 振り向いた暗黒の美姫(クールビューティー)の表情は中々に希少価値のあるものだった。


 「えっと、問題ないよな?(はる)なら計算内だって……」


 「……」


 恐る恐るも続けて了承を得る俺に美少女は……


 「ふ、ふふ……」


 固い微笑と共に、緩やかにウェーブのかかった美しい黒髪をふわりと舞わせて背を向ける少女。


 「……」


 ――なんか心なしか……陽子(はるこ)の華奢な背が小刻みに震えているような……


 「い、いや、ちょっとな、南阿(なんあ)からの依頼のついでにだな……」


 俺は慌てて弁解を付け足すが……


 「そう……護芳(ごほう)領も……貰っちゃったて……へぇ?……あは」


 ブツブツと何やら呟く少女はそんなモノは聞いていないようだった。


 「計算……けい……さん」


 俺からは背中越しでその表情は窺えない。


 ――なんか不味くない?……いや、しかし……えっと


 「あ、あれだよ!……つまりな、"これって獲れそうだなぁ"って思ってな、そしたら”あ、やっぱ獲れんじゃん!”ってな感じでなっ!……はははっ」


 取りあえず笑って誤魔化す俺。


 「ふふふ…ふふ……」


 「ははははっ…………」


 「ふふふ……」


 「はははは…………計算内……だろ?」


 途端に少女の華奢な肩がビクリと反応した。


 「計算……外よっ!……この……このっ」


 「え……と……(はる)?」


 どうやら俺は……


 「く、くわせものっ!!」


 ――バタンッ!


 震える声でそれだけ言い残すと、暗黒の美姫は行儀悪くドアを閉めて去って行ったのだった。


 どうやら俺は……少しばかり欲張ってしまったみたいだった。


 「……」


 俺はそのまま、苦笑いで固まった表情のまま……去った少女を見送る。


 「……ちょっとやり過ぎた……のか?」


 「さいか」


 気まずい空気の中で立ち尽くす俺に、もう一人の美少女、久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)の声がかかる。


 「……ん?」


 「ざんねん……さいかは空気読めない系の”食わせ物”だね」


 ――うっ!


 何故だか嬉しそうに、グサリとくる一言を言ってのける純白(しろ)い美少女。


 「……」


 天然ボケ美少女、久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)にまでツッコまれる俺って……


 「な、涙声だったよな?」


 俺は一応確認する。


 「うん、なみだ声だったわ」


 雪白(ゆきしろ)は楽しげに笑う。


 「………」


 「………」


 ――うう……今更……か、考えても仕方が無い……か


 「…………帰るか………臨海(りんかい)に」


 そして、項垂れながらも、ようやくそんな言葉を口にした俺に……

 ”臨海(りんかい)”という言葉に……


「うん!」


 白金(プラチナ)姫の白い銀河がパッと輝いたのだった。


 第三十六話「最嘉(さいか)と魔眼の姫」後編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ