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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
40/336

第二十九話「最嘉と十戒指輪と骸の道」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十九話「最嘉(さいか)十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)と骸の道」


 すこし昔の話だ。

 彼女と出会って一年ほどたった頃……


 「”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”……それって、もしかして?」


 「ええ、(あかつき)の古代史文献に登場する”戒めの指輪”よ」


 「え、ああ……と、()っていることは()っているけど、それは昔話の……」


 当然のように話す黒髪の美少女に俺は質問を続けていた。


 「存在するのよ」


 「……」


 「信じていないのね……」


 「いや、そういうわけじゃ……というかあまりにも突然というか、突拍子もないと言うか、心の準備が……」


 ――信じるわけが無い


 そもそもお伽噺だ。


 ”戒めの指輪”?”災厄の魔獣”?


 「……いいわ、だったらこの話は無かったことで……」


 「いや、そうは言ってないだろ!手に入れる!手に入れてみせるって!」


 俺の心を見透かしたのか……

 突拍子の無い話を始めた美少女は、実に未練無くそれを仕舞おうとする。


 「……そう、ならお願いするわ」


 「……」


 この、”要!説明”という状況の発端は、俺が彼女に勝負で負けたことからだった。


 ――ロイ・デ・シュヴァリエ


 それは、二つの陣営に別れた白と黒の多様な駒を駆使して優劣を競う盤面遊戯(ゲーム)だ。


 縦十六マス、横十六マスの戦場で、(ロワ)騎士(シュヴァリエ)槍兵(ランス)弓兵(アルク)斥候(エスピオン)歩兵(ファンタサン)市民(ナシオン) という七種類の駒を操り、基本的には(ロワ)を討ち取るのが最終目的である。


 簡単に言うと、白陣営(ブラン)黒陣営(ノワル)に別れたチェスのような駒取りゲームだが、色々なルールが加味されてより複雑且つ実戦重視で戦略的に仕上がっているせいか、この世界では一般市民から指揮官、将軍、王侯貴族まで広く普及していた。


 で、それで目の前の彼女……


 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)に勝負を挑み、見事玉砕したというのがこのやり取りの発端。


 「……」


 陽子(はるこ)は涼しい顔で紅茶を嗜んでいる。


 ――しかし、焦って手に入れるとは言ってみたものの……


 「確かに、俺が負けたら(はる)の頼み事をなんでも聞くって言ったけど……そんな荒唐無稽な代物はちょっとなぁ……」


 「最嘉(あなた)が私の言うことを聞くのはいつものことで、当然在るべき姿なのだから、賭け事の代価はいつもの通りじゃ面白く無いでしょう?」


 いやいや、在るべき姿って……”陽子(おまえ)”にとってどんな存在なんだ俺?下僕?


 「……」


 彼女は相変わらず涼しい顔で紅茶を……


 くっ、確かに出会って今まで、なんだかんだやっかいごとを押しつけられ、戦手柄もほとんど陽子(はるこ)に献上してきた……けど……


 っていうか、危ない戦場(しごと)ばかり押しつけやがって……この陽子(おんな)っ!


 「で、どうするの?」


 「…………やるよ……けど」


 ――ぶっちゃけ、俺には選択肢は無い。


 勝負に負けた訳だし、惚れた弱みも……ある。


 ――くそ、|ロイ・デ・シュヴァリエ《これ》には俺も自信があったのに……


 なにしろ今の今まで俺は負け知らずだったのだ……ついさっきまでは。


 「クスッ」


 腰まで届く降ろされた緑の黒髪はゆるやかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った肌と対照的な(あで)やかな紅い唇が、不満でむくれ顔の俺を見て綻んだ。


 「勝負してくれ(はる)!それで!それで……お、おでが勝ったら俺と結婚してくりゃれっ!」


 彼女の輝く漆黒の宝石が悪戯っぽく揺れ、俺に好奇な視線を投げかけてくる。


 「俺は自分の事を”おで”なんて間の抜けた呼び方はしないっ!」


 陽子(かのじょ)は、急に俺がこの勝負を持ちかけたときの再現を楽しそうに……

 そう、ものすごぉぉく楽しそうに、俺の物まね?を交えながら再現する。


 ――理不尽だ……理不尽だが……お茶目で可愛い……


 そして、その陽子(はるこ)の眼差しや仕草に内心ドキドキと鼓動を高鳴らせながらも抗議する俺。


 「後半部分で噛んだのは否定しないのね」


 「うっ……」


 ――いや……それは事実だし……くそ、なんだその、更に嬉しげな顔は……


 「と、兎に角、やるけど……」


 恥ずかしくなって顔を逸らしながら話題を強引に戻す俺。


 「心配しなくても、”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”は存在するわ、それもそんなに遠くでも無いし、最嘉(あなた)なら難易度が高くも無い案件よ」


 「……物はどこに?」


 確認する俺の顔は、きっと不服そうに歪んでいただろう。


 陽子(はるこ)の言う”最嘉(あなた)なら”が、くせものだ。

 そう言われて簡単であった(ため)しがない。


 「”紫廉宮(ここ)”よ」


 「……」


 ――紫廉宮(ここ)


 天都原(あまつはら)の王宮。この”紫廉宮(しれんきゅう)”にあるというのか?”十戒指輪(でんせつのゆびわ)”が?


 「王族以外に知らされていない地下の隠し部屋に、更に隠し扉があるのよ……で、そこから広大な地下迷宮が……」


 「成る程成る程……」


 俺は適当な返事と共に彼女の白い額に手の平を添えていた。


 「ちょっと……なにをしているのかしら?」


 「陽子(おまえ)と違って常識的な行動をしている」


 真顔で応える俺に彼女はそのままの状態でため息を()いた。


 「事実よ、ある文献からも裏付けは取ってあるし、”紫廉宮(ここ)”にそれが存在するのにも、ちょっと込み入った事情があるのよ」


 「……」


 「……」


 漆黒の瞳……

 魂まで魅入られる無限の闇……


 俺は暫し彼女と視線を絡め合った後、添えていた手の平をそっと離した。


 「……ぁ」


 俺と陽子(はるこ)の接点が遠ざかった瞬間、彼女は小さく声を漏らす。


 そしてほんの一瞬だけ、不満顔になった後で改めて俺に問いかける。


 「行くの?」


 「行く……冗談じゃなさそうだしな」


 今度は即答した俺に、陽子(はるこ)は艶やかな紅い唇にうっすらと笑みを浮かべた。


 「少しだけ困難かもしれないけど、それを”婚約指輪”として受け取っても良いわよ」


 そうして黒髪の小悪魔は悪戯っぽく微笑(わら)う。


 「……そういう物はついでに贈る物じゃないだろ」


 俺は呆れながらも彼女にその部屋の場所と、地下迷宮とやらの入り口に至る道を聞き出したのだった。


 ――

 ―


 結果から言えば……


 引き受けて大失敗!

 何度も生命の危機に陥った!

 もの凄ぉぉく!後悔している……などなど。


 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)からの依頼はいつも通り、変わりなく、当たり前のように死の匂いに彩られていたのだった。


 「め、滅茶苦茶苦労した……死ぬところだった」


 肩で息をしながら、埃と泥だらけになり、所々すり切れた服装で少女の前に立つ俺。


 十数時間後にボロボロになった俺は、そう愚痴を垂れながら目的の物を彼女に手渡したのだ。


 「そう?存命でなによりだわ」


 そして、暗黒のお姫様は実にアッサリとした態度でそれを受け取る。


 「……(はる)


 「なに?疲れた顔して、ほんの半日ほどで済んだでしょう?」


 「いや、所要時間はそうだが、内容が……」


 「内容?別に敵兵や怪物が出たわけでもないでしょうに」


 「……」


 確かに敵は出現していない……

 ただのちょっとした地下迷宮、遺跡探索だ。


 ――だが、しかしっ!!


 「命の危険がある様なトラップが満載だったぞ……てか普通は死んでるって!」


 俺は自身の汚れきった体と、ボロボロの衣服をこれ見よがしに見せつけ、苦労をアピールしながら目前の美少女の顔を覗き込む。


 「そうね、だから最嘉(さいか)に頼んだのよ、貴方のご自慢の頭脳なら問題なかったでしょう?」


 しかし返ってきたのは、にべもない言葉だった。


 「……」


 確かに脳味噌を酷使するような、パズル的罠が多いに多かったが……


 俺は普段から頭脳自慢なんかしたことは無い!

 いや、(むし)ろ隠蔽して陽子(おまえ)の影に徹しているんだけどな……


 ――カパッ


 俺の訴えるような視線を全く意に介すること無く、陽子(はるこ)は戦利品である手の平サイズの箱を遠慮無しに開けていた。


 「……」


 そして、中身を確認して頷く美少女。


 「!?……お、おい!これってもしかして本物か?」


 それを後ろから覗き込んでいた俺は、箱の中の只ならぬ雰囲気の代物にたじろいでいた。


 ――箱の中に並ぶのは十個の指輪……


 宝石の類いが装飾されていないシンプルなデザインの指輪だが、その佇まいがどう見ても普通では無い。


 「最初からそう言ったでしょう?信じていなかったのかしら」


 俺に視線を向け、呆れた様な声で答える少女。


 ――聞いていた、聞いてはいたが……


 「”(あかつき)”の古代史文献に登場する”戒めの指輪”といえば、神とか悪魔とか、そういった類いの輩が多数登場する様なお伽噺の世界の産物だろうが?」


 そんな物が実在するとは……


 ――あり得るのか?


 「神とか悪魔の存在は知らないけど”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”は存在するわ」


 それを凝視する俺の怪訝な顔を眺め、彼女は俺に説明する。


 「……」


 「ふふ、おかしな顔ね……実際、目の前に存在しているのだから認めざるを得ないでしょう?」


 「……”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”を……か?」


 「そうね、それもあるけど……もっと身近な存在もあるでしょうし」


 俺は無遠慮に今度は陽子(はるこ)の顔を見る。


 「……」


 真に希なる美貌の少女の代名詞ともいえる漆黒の双瞳(ひとみ)


 対峙する物を尽く虜にするのでは無いかと思わせる美しい眼差しでありながら、それは一言で言うなら”純粋なる闇”


 恐ろしいまでに他人(ひと)を惹きつける……”奈落”の双瞳(ひとみ)だ。


 「(はる)の”魔眼”か」


 俺の解答に彼女は満足そうに口元を綻ばせた。


 「この”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)”の伝承は()っているでしょう?」


 「ああ……なんでも気の遠くなるような大昔に、世界を破滅へと導く”十二の邪眼を持った魔獣”を封じた”戒めの指輪”だったっけ?」


 「そうよ、災厄の魔獣”バシルガウ”を封印……いえ、従えることの出来る支配の指輪……と言い伝えられているわ」


 ――魔獣を……支配ね……


 英雄譚とかに出て来そうないかにもなストーリーだ。


 「そして、それは私と無関係というわけでは無いの」


 「なんだ?その”バシル”さんなんていう厄介者と親戚か何かなのか?」


 俺の冗談半分に返事するが、彼女は何時(いつ)になく真面目な顔で俺を見ていた。


 「……(はる)?」


 「そうね、ある意味、”私達”はそういった存在かもしれないわ……」


 ――ある意味?伝説上の魔獣と親戚?……”私達”……たち?


 キョトンとする俺に彼女は、”ふふっ”と微笑みかける。


 「どちらにしても……ありがとう最嘉(さいか)。貴方のおかげでひとつ、強力な手札が増えたのよ」


 「ああ、それは何よりだな」


 俺は正直、”魔獣”や”なんたらの指輪”なんて空想の産物には全く興味が無かった。


 話半分以下だったともいう。


 陽子(はるこ)の魔眼の事は以前に彼女から教えられていたし、実際にその能力も確認した事がある。


 いや、魔眼といってもそんなに大したものじゃない。

 少し特異な能力があるだけ、たいして役に立たない能力だった。


 それよりは(むし)ろ、その見た目の美しさこそが魔眼の特徴と言えるかも知れない。


 「とにかくこれで、罰則(ペナルティ)は果たしたわけだな」


 「そうね……」


 素っ気無い彼女、俺はまたもや”骨折り損の草臥れ儲け”だったって訳だ。


 そうしてあからさまに肩を落とした背を向けて、俺は退室を……


 「最嘉(さいか)、求婚の方は次回に期待しているわ」


 ――っ!


 俺はドアの前でピタリと静止する。


 「だれがするかっ!二度とするかっ!」


 こう見えて俺は結構真剣だったんだ!

 何日も悩んだ……

 それをこの女は……


 普段の遊び(ゲーム)と同様に扱いやがって……


 ――バタンッ!


 勢いよくドアを閉めて、俺は今度こそ彼女の部屋から退室したのだった。


 ――

 ―



 嫌な思い出だ……

 ってか、恥ずかしい。


 「……」


 まさか今回の戦で、(はる)に”切り札”ってのがあるとしても……


 それが”魔獣”なんてとんでも兵器って事は流石に無いだろうが……な


 俺は考えながら周囲を確認する。


 天都原(あまつはら)軍中の艦艇が一隻……


 俺は、(はる)ならこの(ふね)で指揮を執るはずと、目星を付けた軍艦に乗り込んでいた。


 「……」


 周りには切り倒された天都原(あまつはら)兵士の骸が多数。


 累々と続く死体の道は、艦の奥、司令室の方へと向かっている……


 ――(はる)……無事か……


 俺の鼓動は高まり、明らかに平常心を保つのが難しくなっていた。


 「さいか……」


 「……」


 「さいか!ここにはもう……どっちの兵士もいないみたい……」


 「……あ、あぁ、そうだな急ごう」


 きっと焦る心の内が顔にまで出てしまっていたのだろう。


 心配そうに俺を見る白金の髪(プラチナブロンド)の少女に頷いてみせた俺は、彼女と数人の臨海(りんかい)兵を引き連れて骸の道を進んでいった。


 第二十九話「最嘉(さいか)十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)と骸の道」END

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