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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
39/336

第二十八話「最嘉と食客の義務」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十八話「最嘉(さいか)と食客の義務」


 ――引っかかっていることがある……


 この天都原対南阿戦(たたかい)が始まってからずっと……いや、正確にはそれより少し前から。


 ひとつ、日乃(ひの)領での白閃隊(びゃくせんたい)による覧津(みつ)城攻めで、数でそれほど圧倒しているわけでも無い覧津(みつ)守備軍が籠城戦の利を捨て打って出て来た不可解さ。


 ふたつ、臨海(おれたち)九郎江(くろうえ)城が攻められた時、保険として俺の仕込んだ北の宗教国家”七峰(しちほう)”への策は明らかに準備不足だった。それを補った謎の第三勢力の存在……


 みっつ、臨海(りんかい)軍による臨海(りんかい)領と護芳(ごほう)領境界線での天都原(あまつはら)軍輸送部隊奇襲作戦のあまりにもアッサリとした勝利……


 そして最後に……要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”での天都原(あまつはら)軍の戦い方だ。


 天都原(あまつはら)軍は南阿(なんあ)軍を上回る兵力で迎え撃っているらしいが、それにしては少し守勢に過ぎる気がする。


 海戦を得意とする南阿(なんあ)を警戒し、守備に有利な難攻不落の要塞を擁しているとはいえ、これは少しばかり不可解だ。


 ――ギィコ、ギィコ


 「結局、さいかはどうするつもり?」


 ――ギィコ、ギィコ……


 波に大きく煽られながらも必死に(かい)でそれをかき分け前進する小舟。


 そこに搭乗した俺と数人の臨海(りんかい)兵士達と、海上の強い太陽に(とろ)けるような輝く白金(プラチナ)の髪を潮風に踊らせながら立つ白い美少女。


 「雪白(ゆきしろ)……本当のところ、お前はついてこない方が良かったろうに……」


 天南(てな)海峡の海上で、宗三(むねみつ) (いち)から戦果の報告を受けていた俺を追って単身到着した久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)


 俺を追いかけて来た美少女といえば、可愛らしくもいじらしい限りだが、実際は俺の監視が目的だろう。


 雪白(かのじょ)は今までと同様、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)からの命令を従順に遂行しているのに過ぎない。


 「結局、さいかは……どうするつもり?」


 俺の呆れた顔にも、少女は白く整った顔を少しも崩さずに、時間が巻き戻ったかのように繰り返す。


 「……臨海(りんかい)としては、南阿(なんあ)に負けて貰っては困るな」


 「……」


 「だからといって、天都原(あまつはら)の敗北は問題外だ」


 「……さいかの言葉は意味がわからない、そういう言い方は……」


 「はぐらかされているみたいで嫌か?」


 「……」


 俺の直接的(ストレート)な言い方には応えず、端正な顔で光る”白い銀河”を僅かに()らす美少女。


 ――気に……食わないな……


 雪白(ゆきしろ)の態度に若干の苛立ちを感じながら……


 「俺が”引っかかっている事柄”から推測すれば、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)には多分、考えがあるはずだ……しかし、それは伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)という男を侮っているともいえる……」


 「……」


 主君である春親(はるちか)の名前が出た途端に明らかに表情が硬くなる雪白(ゆきしろ)


 一見、表面上は全くの鉄面皮だが……

 なんとなく俺には”表情(それ)”が理解(わか)る様になってきていた。


 「で、結論だ!この勝負がどうなるにしても、今はまだどちらにも滅んで貰っては困るから、俺がちょうど良い加減に調整する!」


 「……」


 ――ほら、解る……今は驚いて呆気にとられた顔だ


 「……さいかは……自分勝手だね」


 そして純白(しろ)い美少女は、暫し後にボソリと呟いた。


 「今頃気づいたのか、お嬢さん?」


 「ううん、もっと前からそう思ってた……自由な”さいか”……でも私は……」


 冗談めいて応える俺に、少女は戸惑いがちにして……またも視線を……


 ――ちっ!今日何度目だよ、(ゆき)ちゃん……


 相変わらずの受け身体質、感情の忘れた人形を装い……


 そうする事で何から逃れようとしているんだ?


 俺はまた……苛立っていた。


 「雪白(ゆきしろ)、ちょっとその剣を見せて見ろよ」


 「……なぜ?」


 ガラリと変わる話の内容に、白金(プラチナ)の美少女はキョトンとした顔を返す。


 「現在(いま)、お前は臨海(りんかい)の食客だからだ。故に俺の命令にはある程度従う義務があるし、俺についてくる限りは俺を護ってもらう。なら、俺を護る為の剣を俺が確認したいと思うのも無理は無いだろう?」


 「……」


 ――いや、無理がある


 ――てか、どんな理屈だ!


 ”食客である以上、俺を護る義務がある”まではなんとか理屈が通っていても……


 ”その剣を見せろ”は、自分で言っていて意味不明だ。


 ――しかし


 「春親(はるちか)と俺が交わした約定は履行された、つまり俺は約束を守った訳だろ?」


 俺は雪白(ゆきしろ)に深く考える間を与えずに駄目を押す。


 「う……うん?うん……」


 雪白(かのじょ)は戸惑いながらもコクリと頷いていた。


 南阿(なんあ)天都原(あまつはら)の戦闘が始まれば、天都原(あまつはら)軍の補給線を断つ事……俺が”伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)”から受けた依頼だ。


 だが、その直後に今度は手のひらを返したように、俺は天都原(あまつはら)との約定のため、天南(てな)海峡上に展開する南阿(なんあ)の予備兵力を叩いた訳だが……


 「?」


 雪白(かのじょ)にとって、命令されたのは先の約定が守られるかどうかの監視とそれが成されなかったときの俺への断罪。


 先の南阿(なんあ)との約定が成立した以上、後から遂行された天都原(あまつはら)との約定の件は、雪白(かのじょ)の判断では断罪(それ)に値しなかったという訳らしかった。


 「…………」


 どうも久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)という人物は、命令された事のみが全てでそういった意味では責任感というか融通の効かなさとかは天下一品だが、逆に愛国心とか臨機応変さとは無縁の人物ようだ。


 故に……命令を確実に(こな)すだけの”心の無い”人形……


 非常に面白くないが、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の言葉を借りればそう言うことだろう。


 「…………」


 「無論、春親(はるちか)から新たな命令が下されればそれに従うのも雪白(ゆきしろ)の自由だが、それまでは現状のまま、臨海(りんかい)の食客だろ?」


 「…………わかった、現在(いま)は”さいか”の身を護る……わ」


 そう答えながら雪白(ゆきしろ)は、腰に装備した細身の白い片手剣を俺の前に差し出した。


 「ああ、頼もしいよ」


 受け取って、暫く繊細な細工の施されたエナメル調の白い剣をあちこちチェックする俺。


 「…………」


 その光景を(ほう)けたような瞳で眺めている少女。


 「?」


 俺と目が合った瞬間、彼女の白い銀河が不自然に()らされた気がした。


 「………………現在(いま)は…………じゃあ……その……未来(さき)……は……」


 「……」


 聞き取れないほどのか細い声。

 俺がそれを”聞き取れないであろう”と感じる位の声で……


 「……」


 しかし確かに俺が、それを”ギリギリ聞き取れるくらい”の声で……


 雪白(ゆきしろ)は途切れ途切れに呟いて……目を()らす。


 「…………兎に角、行くぞ!時間が無い」


 雪白(かのじょ)の不器用な小細工を無いモノとして、俺は預かった剣を素っ気なく返すと話を進めた。


 「…………う、うん」


 短く返事した彼女の瞳が一瞬だけ落胆した色をみせ、そして同時に安堵に染まるのが解る。


 「……」


 ――現状(いま)はまだ何も出来ない


 ――現在(いま)はまだ……俺には雪白(かのじょ)に対して何もしてやる事が出来ない……現在(いま)は……だ


 その時俺が察した、恐らく雪白(かのじょ)自身も受け入れきれていない心の声を、無下に受け流す俺の拳には自然と力が込められていたのだった。


 ――

 ―



 「南阿(なんあ)の田舎者が……よくも此所(ここ)まで辿り着いたものだなぁ、ほんと、使えねぇ奴らだぜ、雑兵共は……」


 肩に片手で刀を担いだ、一人の軽率そうなニヤけ(づら)を浮かべた男が立ちふさがる。


 「……」


 ニヤけ男の足下には、乗り込んできた南阿(なんあ)の手練れの兵士達数人が赤く染まって横たわっていた。


 「……うむ」


 スキンヘッドの無骨な男が”ずいっ”と主君である伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の前に出ると、自身の刀を両手で正中線に沿って構えた。


 「姓名を所望する」


 そしてニヤけ男に短くそれだけ要求する。


 「今から死んじまう輩に俺の名前が必要とも思えんがね……」


 ――ザッ


 そう受け答え、刀を片手で担いだまま無造作に前に出るニヤけ男。


 「……」


 それを刀身越しに正面から見据えるスキンヘッドの男。


 ――途端に周囲は張り詰めた緊張感に満たされ……


 「……」


 「フッ」


 それが頂点に達しようとした瞬間、ニヤけ男は肩の上の刀をダラリと降ろして笑った。


 「?」


 「そうだなぁ、名乗りは必要だな……武人のエチケットだ」


 「……」


 ニヤけ男は緊張した空気を壊すように緩みきった口調で自身の主張をなんとも安易に一転させた。


 「俺は祇園(ぎおん)……天都原(あまつはら)十剣の一振り、祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)だ」


 「……十剣」


 その名を聞いて、スキンヘッドの男の眼が少しだけ見開かれる。


 「そうだ、で、貴公は?」


 対して何とも緊張感の無い声のまま、聞き返す祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)なるニヤけ男。


 「我は織浦(おりうら) 一刀(いっとう)……」


 ――ビュォン!


 「っ!?」


 名乗りを促されたスキンヘッドの男が応えきる前に……


 ニヤけ男のダラリと下がった剣が下段から斬り上げられていた!


 ギィィィン!


 激しい金属音と一瞬飛び散る火花!


 スキンヘッドの無骨な男……

 織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)はそれを辛うじて自身の剣で受けていた。


 「ほぉう、中々の反応じゃないか?え、ツルツル親父」


 「……」


 祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)の不意打ちを自身の首元で受けた織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)の刀が、ギリギリと内側へ押し込まれていく。


 「全く……”十剣”ち言うが、卑怯な手法を使ってくるもんぜ」


 鍔迫り合いで押し込まれていく自分の家臣を前にしながら、今の今まで二人のやり取りを後方から眺めていた伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)は平然と感想を述べる。


 「卑怯?戦場では意味の無い言葉だなぁ」


 そしてそれを全く意に介さないニヤけ面の祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)という男。


 「……なかなかのもんぜよ、この男」


 「支篤(しとく)の田舎君主に褒められても嬉しくとも何とも……」


 ――ギィィーーン!


 突如、大きく弾き返される刃!


 「っ!」


 押し込んでいたはずの祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)の刃が大きく弾かれ、それを握っていた当の本人は咄嗟に距離を取る。


 「なんち、言ったが?……なかなかの愚か者よ」


 春親(はるちか)の中性的な口元は歪に上がり、ニヤけ男の剣を弾いたスキンヘッドの剣士はそのまま刀を正面に構え直して一歩前に出る。


 「我は織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)、改めて参るっ!」


 仕切り直したスキンヘッドの無骨者は、名乗りと同時に大きく踏み込んで距離を詰めた。


 ギィィンッ!


 ガキィィィンッ!


 激しく打ち合わされる二振りの刀身。


 祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)の立ちまわりは一進一退、紙一重の闘いであった。


 ギィィンッ!


 ガキィィィンッ!


 ――が、


 次第にその優劣は明らかになっていく。


 「くっ!」


 ドンッ!


 織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)の強烈な一撃に祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)は堪らず後方に下がるが、彼の背中は通路の壁にぶつかり、それ以上後退することが出来なくなる。


 「ふんっ!」


 ザシュッ!


 「ちっ!」


 追い詰められたニヤけ面の男には既に笑みを浮かべる余裕は無い。


 ズズズッと壁に背中を削られながら身体(からだ)を沈めてなんとかそれを躱した男は、しゃがんだ状態から一気に跳ね上がる。


 「うぉぉぉぉぉーーーー!」


 「ぬっ!?」


 思い切り剣を振りつけて、難なくそれを躱す織浦(おりうら)の脇を前のめりに駆け抜けていた。


 「噂に高い”十剣”ともあろう者が玉砕か?」


 織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)は、不服そうに睨み付ける。


 しかし、(たい)を入れ替えて通路側に立った祇園(ぎおん) 藤治朗(とうじろう)は再びニヤリと笑う。


 「……」


 逆に壁を背負った一刀斎(いっとうさい)を不敵な笑みで見据えた藤治朗(とうじろう)は剣を……


 ……そっと鞘に戻した。


 「!?」


 「悪いなぁ……貴様みたいな命知らずの剣術バカに付き合ってやるほど俺の命は安くないんでな」


 そう言って軽薄そうに笑うと、天都原(あまつはら)十剣の肩書きを持つ男は背を向けて駈けだした。


 「しゅ、主君を捨てて逃げるのかっ!?」


 一刀斎(いっとうさい)は敵のあまりにもな暴挙に思わず叫んでいた。


 「ふん、主君など……いくらでも替わりはいるだろうがぁ禿げっ!俺様の命は一つだけなんだよ、ばぁーか!」


 臣下とは、武人とは到底思えぬ暴言を吐いて走り去る男は、呆気にとられた織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)を残して遙か通路の彼方、既に豆粒ほどに小さくなっていた。


 「信じられぬ……これが”十剣”……いや、武士(もののふ)たる者の姿か……」


 言葉にならずに立ち尽くす織浦(おりうら) 一刀斎(いっとうさい)の背後で、中性的な容姿の男がケラケラと腹を抱えて笑っていた。


 「まあ、なんぜ……色々と居るじゃろう……武士(もののふ)とやらも……俺の家臣には願い下げじゃが……」


 そう言いながら中性的な顔立ちの男は、既に守る者のいなくなった扉を見る。


 「なんち……これでようやっと”無垢なる深淵(ダークビューティー)”とやら呼ばれる”美女(えもの)”にご対面ぜよ」


 第二十八話「最嘉(さいか)と食客の義務」END

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