表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
36/336

第二十六話「最嘉と二つの戦場」 前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十六話「最嘉(さいか)と二つの戦場」 前編


天都原(あまつはら)南阿(なんあ)……大国同士の大規模な戦に臨海軍(おれたち)は参戦した。


 天都原(あまつはら)南阿(なんあ)、本州と支篤(しとく)という別の島に本拠を構える二つの大国が正面切って戦うには、どうしても海を越える必要がある。


 そして軍艦が大手を振って戦えるような海路は、天都原(あまつはら)南阿(なんあ)の二国間を分断する天南(てな)海峡、そこに浮かぶ小幅轟(おのごう)という小島を間に挟んだ一本きりであった。


 以上の事柄から、満を持して本戦の主役とも言える最重要拠点、要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”が今回の大戦の中心に出張ってくるのだ。


 現在、天都原(あまつはら)側が支配する要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”。


 もともと小幅轟(おのごう)島に在るこの要塞は、グルリと三百六十度の絶壁に囲まれた天然の要害で、そそり立つ城は黒き鋼鉄の壁、堅き黒甲羅を纏う大蟹、難攻不落の”蟹甲楼(かいこうろう)”と称えられていた。


 そして、長らく南阿(なんあ)の守護神であったそれは、今は天都原(あまつはら)の鉄壁の壁として南阿(なんあ)軍を阻んでいる。



 「天都原(あまつはら)の補給線は日乃(ひの)北部と、護芳(ごほう)領との境を通過するだろう……護芳(ごほう)天都原(あまつはら)影響下の小国領だから特に大した護衛もついていない……と踏んだがどうだ?」


 俺は日乃(ひの)領北部にある護摩(ごま)山に陣を張り、足下に見える護芳(ごほう)領との境を見渡しながら、傍近くに控える黒髪ショートカットの少女に確認する。


 「はい、最嘉(さいか)さまの予測通りです。部隊の殆どが補給部隊、護衛の武装兵はごく僅かで、隊列もかなり伸びきっています」


 今回の敵は遙か海上、そしてその間には堅牢な要塞が存在する。


 自分たちの進路は自国領みたいな属領扱いの小国群のひとつ”護芳(ごほう)領”……


 ――これだけ油断する材料が揃えば無理も無い事か……


 「これより手筈通り天都原(あまつはら)の補給部隊を強襲いたしますが、宜しいでしょうか?」


 「……」


 「どうかされましたか?」


 真琴(まこと)の最終確認に即答しない俺に、彼女は怪訝そうに尋ねて来た。


 「果たしてそうなのか?」


 「は?」


 「だから、(はる)……紫梗宮(しきょうのみや)がこんな下策をうつのか?……」


 「それは……天都原(あまつはら)臨海(りんかい)を味方だと思い込んでいますし……」


 「……」


 「最嘉(さいか)さま、どちらにしても、このままでは天都原(あまつはら)の補給部隊が完全に護芳(ごほう)領内へ入ってしまいますが……」


 解せない……なんだか引っかかるモノがあるにはあるが……真琴(まこと)の言うことも尤もだ。

 兵は”拙速を(たっと)ぶ”……そもそもこういった奇襲は正にそれに尽きる……


 「……そうだな」


 暫しの思案の後、答えを出した俺に真琴(まこと)は傍らで頷いた。


 「これより、日乃(ひの)護芳(ごほう)国境を進軍する天都原(あまつはら)軍補給部隊を強襲する!」


 「はいっ!」


 「真琴(まこと)の本隊はこのまま正面から足止めを頼む、俺は雪白(ゆきしろ)白閃隊(びゃくせんたい)と供に、敵軍隊列中央付近に割って入り敵を分断する」


 「畏まりました!最嘉(さいか)さま、ご武運を」


 一礼した後、そう言い残し、真琴(まこと)は少し離れたところで待機してある本隊に馬を飛ばしていった。


 「……」


 ――分からない事をいつまでも考えていても仕方が無い、俺も行くか……


 そして俺も雪白(ゆきしろ)達の待機する場所へ向かう為、その場を離れるのだった。



 ――所変わって日乃(ひの)領、須佐(すさ)海岸沖数十キロの海上


 「流石は(あかつき)最強と名高い南阿(なんあ)の海軍……しかし、あの大敗の直後でまだこれ程の戦力を温存していたとは驚きですね」


 現在は天都原(あまつはら)側が支配する要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”のある小幅轟(おのごう)島へと向かう南阿(なんあ)の大軍団。


 それを付近に存在する小島の陰でやり過ごす最中の臨海(りんかい)軍兵士は感想を述べる。


 「必要以上には近づくなよ、我が臨海(りんかい)軍の目的は、あくまでも後方で待機する予備兵力の駆逐だ」


 「はい……しかし、敵本隊で無いにしろ海上で南阿(なんあ)軍に挑むというのは……」


 上官の言葉に兵士は返事をしつつも一抹の不安を覗かせている。


 「無論、真面(まとも)には当たらない。心配するな、我らが(あるじ)にして最高の智将、鈴原 最嘉(さいか)様の策を授かっているのだ、今まで通り決して後れを取ることなどは無い」


 部下の不安にそう答える上官、この作戦の指揮官である青年。


 スッキリとした顔立ちで、後ろ髪を尻尾のようにチョンと縛った見た目から爽やかな好青年の宗三(むねみつ) (いち)は、同時に各部隊に臨戦態勢の指示を出す。


 「本作戦は混戦になった後の敵の分断、各個撃破が要である!その為の第一石、工作部隊は只今より直ちに準備を整え、命令在れば即座に対応できうるよう待機しろ!」


 (いち)の号令で、島陰の臨海(りんかい)軍軍艦、三十六隻から数隻ずつの小舟が海面に降ろされていった。


 「報告!小幅轟(おのごう)海域に先行して潜伏しておりました、”零六(ゼロロク)”斥候船から伝達、先ほど”蟹甲楼(かいこうろう)”にて要塞の天都原(あまつはら)軍を包囲しておりました南阿(なんあ)軍、第八部隊による先制攻撃で戦端が開かれた模様!」


 旗艦の司令室で宗三(むねみつ) (いち)は報告に頷いた。


 「”零六(ゼロロク)”斥候部隊はそのまま待機、天都原(あまつはら)側に配置した”零五(ゼロゴ)”と”零二(ゼロニ)”斥候部隊を開戦場所付近に移動、三部隊は各々の指揮官の指示の元、逐次報告を入れよ!」


 そして指示を出し、そのまま報告のあった区域の海図を睨む。


 「南阿(なんあ)軍第八部隊による先制攻撃……予想通りか、最嘉(さいか)様の予測は相変わらず的確だ。戦場から離れた地からでも見事に先を見通される希有な慧眼をお持ちだ」


 心服する主君に心からの賛辞を述べながらも、要塞戦方面の指揮官は、戦の独特の張り詰めた緊張感から口元を引き締めていた。


 ――

 ―



 「だ、駄目だっ!も、持ちこたえられぬ……だめだぁぁっ!!」


 「先行する護衛部隊と完全に連絡が取れませんっ!我が隊は孤立!救援を!救援おぉぉ!」


 日乃(ひの)領北部、護芳(ごほう)領との国境付近で……天都原(あまつはら)軍の輸送部隊は大混乱であった。


 「……今更、どうともならないだろう?物資をしこたま積み込んだ輸送部隊の足ではこの混乱する状況から離脱することは不可能だ」


 俺は戦場只中、怒号と悲鳴が飛び交う中心で馬上から周りの状況を確認する。


 「最嘉(さいか)様!敵輸送部隊の分断が完全に完了しました、これより攻撃に移行致します!」


 「ああ、足の遅い敵輸送部隊を盾に、混乱した護衛部隊を包囲した後で各個撃破しろ!」


 「はっ!」


 伝令兵は馬上から敬礼をすると、直ぐさま駈けていく。


 ――軍の指示系統を統一したのが仇になったな……


 指揮系統を統一するなら、こんな伸びきった戦列になること自体が愚かだ。

 戦況を左右し、多くの兵士の命を預かる指揮官には油断は決して許されない。


 「どうやら、対天都原輸送部隊(ここ)はほぼ片付いたな……」


 多少あっけなさ過ぎて拍子抜けではあるが、戦場ではこういうことは多々ある。


 机上の空論、現実は小説より奇なり……

 実際の出来事はなかなか思い通りには行かないものだ。


 ――というか、今回は思い通りに行き過ぎたわけだが……


 「……」


 俺は馬上で軽く頭を左右に振る。


 ――問題ない、要はその後油断をしなければ良い


 上手く事が運んだんだ。


 なら、後はこれが京極(きょうごく) 陽子(はるこ)の策であっても無くても、油断せず、相手の動向に注意を怠らなければ、”勝ち一つ”という事実以外の何物でも無いのだから。


 おおぉぉぉぉっーー!!

 おおぉぉぉぉっーー!!


 そうこうしている間に(かちどき)が上がった。


 どうやら敵の全面降伏でこの戦いは幕を閉じたようだ。


 「最嘉(さいか)様!天都原(あまつはら)軍輸送部隊は、我が臨海(りんかい)に降りました!」


 駈けてくる伝令兵に頷いて見せた俺は、馬の手綱を握る手に力を込めた。


 「ではこれより、本軍は天都原輸送部隊(せんりひん)を手に護芳(ごほう)国境に陣を敷く!鈴原 真琴(まこと)にはその旨を伝え指揮に当たるよう伝達せよ!」


 俺の命を受けた伝令兵は敬礼し、きびすを返して臨海(りんかい)本隊の方へ走り去った。


 ――これでいい……これで、十中八九”おまけ”も手に入れられるだろう……


 実際に戦火を交えるだけが戦じゃ無いんだからな。


 日乃(ひの)領北部、護芳(ごほう)領との国境付近の”一戦場”にて――


 (ひと)(いくさ)終えたばかりの”鈴原 最嘉(おれ)”は、既に次なる”海戦場(せんじょう)”へと勝算を巡らせていた。


 第二十六話「最嘉(さいか)と二つの戦場」 前編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ