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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
34/336

第二十五話「最嘉と唯一の感覚」 前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十五話「最嘉(さいか)と唯一の感覚」 前編


 「先ず第一に、この度の日乃(ひの)領で起こった一連の戦……臨海(りんかい)はどういった理由で行い、今後どう対処するつもりなのか?それを、天都原(あまつはら)、総参謀長閣下で在らせられる、紫梗宮(しきょうのみや) 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)姫殿下から臨海(りんかい)王、鈴原 最嘉(さいか)へ問わせて頂く」


 宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)は謁見の間に入るや否や、姿勢を正して彼女のキャラに無い厳粛な使者となった。


 「それは、もし天都原(あまつはら)に対して謀反の兆し在れば、俺を断罪するのも辞さないということか?」


 俺は謁見の間の一段高い玉座にて、その使者に対峙する。


 「貴殿を粛清するか否かは私の知るところでは無い、それも全て紫梗宮(しきょうのみや) 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)姫殿下のお心の中の事ひとつ……さあ、事の如何(いかん)をお聞かせ願いたい!」


 「勝手なことをっ!我が主を卑怯にも暗殺せしめようと企んでおいてその言いぐさ!紫梗宮(しきょうのみや)とはどれほど傲慢で無知蒙昧な人物なのかっ!」


 俺の横に控えていた真琴(まこと)が会話に割り込んだ。


 こういう場では比較的理性的に振る舞える彼女には珍しい態度だが、つい先ほどの事を踏まえればそれも納得できる。


 「誅せるのならそうしろと命をうけた……わ、でも、死なない様なら申し開きを聞くだけの価値はあるでしょう、とも」


 「このっ!」


 「真琴(まこと)っ!」


 ――!


 思わず腰の短剣に手をやる真琴(まこと)を制する俺。


 だが、真琴(まこと)が激昂するのも無理は無いだろう……相手はそういう言い方だ。


 「……」


 納得いかないままでも、主たる俺の一言で渋々と引き下がる真琴(まこと)


 「……ふっ」


 対して俺は……”陽子(はるこ)らしい”と笑いが漏れ、何故だか心は懐かしい匂いを感じていた。


 「冗談で無くて本気で殺せと命令を受けた……それでもサイカくんは?」


 おかしな事だが、暗殺の張本人たる弥代(やしろ)がそれを聞いてくる。


 「そういう女だったからなぁ、陽子(あれ)は」


 「……」


 俺の応えに呆れたのだろうか?

 弥代(やしろ)は妖艶な(あか)い口元を少し緩めてから、腰に吊した深紅の弓に手を掛ける。


 ――っ!


 今度は真琴(まこと)だけでは無い、弥代(やしろ)の後ろで警戒していた雪白(ゆきしろ)も腰の剣に手を添える。


 「大丈夫だ……この期に及んでそれは無い」


 だが俺はそう確信していた。


 そして俺の言葉に、真琴(まこと)雪白(ゆきしろ)の二人は警戒しつつも動作を一旦止め、弥代(やしろ)はそのままゆっくりと今し方の行為を続ける。


 「……」


 深紅の弓を左手で握って、自身の前面に水平に掲げ……


 チャッ!


 右手で抜いた短剣をその弦に当てる。


 俺を含めた三人分の視線に注目された”気怠(けだる)げ女”の所作は意外なほど淀みない。


 ――プッ!


 目一杯まで張り詰められた糸……


 そこに切り目をつけられ、ヴァン!ヴァン!と、空気を振動させて各々の方向に弾け飛び、そのままダラリと力なく垂れ下がる紅弓(こうきゅう)の弦。


 「これで信用して貰えるかしら……現在(いま)はその気は無いわ」


 もう暗殺の意志は無いと、敵中で唯一とも言える武器を捨ててそれを証明する女戦士。


 「……」


 俺は黙ってその女……見知った偉丈夫(いじょうふ)……偉丈婦(いじょうふ)?を見ていた。


 「どうかしら……それとも全部脱ぎましょうか?」


 応えない俺に、彼女は気怠(けだる)げな垂れ目を悪戯っぽく細め、妖艶な(あか)い口端を上げる。


 「……」


 「……そう?」


 それでも変わらず沈黙する俺に、女は呟くと、ゆっくりと黒マントの前をはだけて上着の胸に手を添える……


 「……」


 俺は黙ったまま不貞不貞(ふてぶて)しい女を……


 「って、そこは否定して下さい、最嘉(さいか)さまっ!」


 結果的に、慌てて真琴(まこと)が割って入っていた。


 「いや……そうだな…………なんとなく?」


 「……」


 「……」


 若干残念そうにそう返事してしまった俺を、しらけた視線で見るショートカットと白金(プラチナ)の少女二人。


 ――うっ……不味(まず)った……つい欲望……いや好奇心がな……はは……は


 「と、とにかくだ!……臨海(りんかい)天都原(あまつはら)と敵対する意図は無い!」


 俺はその場の空気を誤魔化すように、不貞不貞(ふてぶて)しくも妖艶な使者にそう宣言する。


 「では、日乃(ひの)を返還すると?」


 俺の答えを聞いて弥代(やしろ)も使者モードに戻ったようだ。


 「いや、そのつもりは無い」


 「……日乃(ひの)を奪い取っておきながら、敵対する意思はないと?」


 「俺が奪い取ったのは南阿(なんあ)からだ」


 「?」


 俺の言い分を理解出来ない使者に続ける。


 「俺は南阿(なんあ)白閃隊(びゃくせんたい)により奪い取られた日乃(ひの)を再び奪い取ったにすぎない、俺が正当に手に入れた以上、日乃(ひの)は俺の所領だ」


 一度敵国に奪われ、敵領土になったからには、そこから改めて奪ったのだから正統に臨海(おれたち)領地(もの)


 たとえそれが一日でも二日でも、一度、南阿(なんあ)の領土となり今は臨海(りんかい)の領土となった。

 俺の理屈はこうだった。


 「現在(いま)臨海(りんかい)軍には、その南阿(なんあ)の侵略者”白閃隊(びゃくせんたい)”も組み込まれているようだけど?」


 的確にツッコむ気怠(けだる)げ女。


 「説得して引き抜いたんだよ、な?な?」


 あくまでしらばっくれる俺。


 「…………」


 俺の目配せに、弥代(やしろ)の後ろにいる雪白(ゆきしろ)がコクリと頷いていた。


 「彼女は……南阿(なんあ)の?」


 俺から自身の後ろで警戒する白金(プラチナ)の姫騎士に視線を移して女は心当たりを確認する。


 「あぁ、白閃隊(びゃくせんたい)の”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”だ」


 「……」


 弥代(やしろ)は成る程と、雪白(ゆきしろ)を見ながら頷き、一応納得いったという(てい)を見せる。


 「あの剣技……確かに噂以上だわ」


 実際にあんな剣技(もの)を目の当たりにしては、雪白(かのじょ)が本物か疑う余地も無いだろう。


 「弥代(やしろ)、お前は日乃(ひの)を取り返してこいと言われたのか?ちがうだろ?……そろそろ本題に入ったらどうだ、紫梗宮(しきょうのみや)はお前に何をしてこいと言ったんだ?」


 紫梗宮(しきょうのみや)……京極(きょうごく) 陽子(はるこ)のことだ……俺の言い分など承知の上だろう。


 ――なら、この使者は……弥代(やしろ)の本命は……


 「……そうね、最嘉(あなた)の元カノ……えっと京極(きょうごく) 陽子(はるこ)姫殿下は、臨海(りんかい)との今後の連携について話したいと仰せだったわ」


 ――くっ、この弥代(おんな)(わざ)と言い間違いやがって……


 「元カノっ!……彼女……」


 「…………むぅぅ」


 ”元カノ”のところで、謁見の間の空気が明らかに嫌な意味で張り詰めるのが解った。


 しかし、真琴(まこと)はともかく、雪白(ゆきしろ)にこんなにプレッシャーをかけられるいわれは無いはずだが……


 もしかして”敵の大将となに仲良くしてるの!”みたいな感じだろうか?


 「わ、解った、で条件は?」


 そんなことを感じ、内心焦りながらも俺は交渉を続ける。


 「此度(こたび)の対南阿(なんあ)戦での支援かしら」


 「具体的には?」


 「南阿(なんあ)の部隊が”蟹甲楼(かいこうろう)”に総攻撃を仕掛けた際、臨海(りんかい)軍は日乃(ひの)から敵軍の後方攪乱、出来るのならいくつかの部隊の壊滅を……」


 「……」


 玉座に座ったままの俺は、少しだけ思案するように右手をそっと(あご)に沿わせる。


 ――ふ……む……

 ―


 「……」


 我が臨海(りんかい)で俺が最も信頼を寄せる一人、腹心たる鈴原 真琴(まこと)


 「……」


 実際は南阿(なんあ)白閃隊(びゃくせんたい)将軍であり、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)との先の約定が履行されるのかどうかを見極めるため、臨海(りんかい)に残り俺を監視している久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)


 全く違う立場の二人が緊張気味に見守る中、俺は決断を下す。


 「了承した!対価は期待して良いんだろうな」


 「……」


 「……」


 その言葉を沈黙で見守る二人。


 雪白(ゆきしろ)は瞬間、美しい”白い銀河”を僅かばかり見開いたが、その後直ぐに変わらぬ表情に戻り、何事も無かったかのように佇んでいる。


 臣下たる真琴(まこと)はともかく、実際は南阿(なんあ)軍の雪白(ゆきしろ)が自国を裏切るかの如き約束をする俺を静かに見送ったのは……意外と言えば意外だった。


 「……本当に、そう報告して良いのね?……サイカくん……」


 臨海(りんかい)陣営の鈴原 真琴(まこと)


 実際は南阿(なんあ)陣営の久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)


 そして天都原(あまつはら)陣営の宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)


 この面子の中で、話を持ってきた弥代(やしろ)が一番驚いている様子なのがある意味笑える。


 「無論……で、対価は?」


 俺はそういう感想を抱きつつも内に抑え、交渉の醍醐味……つまり報酬の話題に取りかかる。


 「日乃(ひの)の石高に匹敵する金子(きんす)もしくは物資……壊滅させた部隊数に応じて更にその兵数と同じだけの銀を……あとは結果如何(いかん)で特別報酬も……」


 ――弥代(やしろ)の回答は、(あらかじ)陽子(はるこ)から用意されていたものだろう


 「破格だな……よし、問題ない」


 俺は立ち上がって交渉成立と、握手のために右手を……


 「……」


 差し出そうとしたが、結局そのまま後ろに下げた。


 一瞬だけ視界に入った雪白(ゆきしろ)の姿がそうさせたのかもしれない。


 ――とはいっても雪白(かのじょ)はきっとそんなこと、特別意識なんてしていないだろうがなぁ


 俺は代わりにその手を上げて弥代(やしろ)にオーケーだと示していた。


 第二十五話「最嘉(さいか)と唯一の感覚」 前編 END

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