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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
26/336

第十九話「最嘉とキャッチボール」 後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十九話「最嘉(さいか)とキャッチボール」 後編


 「……」


 屋上の出入り口付近のドア前に仁王立ちし、俺と雪白(ゆきしろ)を睨む黒髪のショートカット少女。


 校則のお手本通りといった、きっちりとただした制服姿。

 それは、その小柄な少女の性格を表しているようだ。


 「最嘉(さいか)さま、お待たせ致しまして申し訳ありません」


 間を置いて、俺にペコリと行儀正しくお辞儀する少女だが、彼女の大きめの瞳は、終始厳しい眼差しで俺と雪白(ゆきしろ)の繋がれた手を見ていた。


 「いや、これは……キャッチボールが……あれで、カーブがだな……っていうか、おお、そうだ……雪白(ゆきしろ)!こいつが鈴原 真琴(まこと)。前に話しただろ?俺の従妹(いとこ)で……」


 ――で、なに焦っているんだ俺?


 別にやましいことなど何も無いんだから、そのまま話せばよいだろうに。


 「……鈴原?……従妹(いとこ)……」


 雪白(ゆきしろ)()(けん)に微妙な影を刻んで真琴(まこと)を見ていた。


 ――カツ!カツ!カツ!


 挨拶も早々に、真琴(まこと)は俺の方へと早足に近寄って来る。


 ――いいや、視線は俺の隣……(むし)雪白(ゆきしろ)へ向かって来ている?


 「待てって!真琴(まこと)……これは俺の方からで雪白(ゆきしろ)は……」


 なんだかその視線に嫌な予感を感じた俺は、気がついたら咄嗟に雪白(ゆきしろ)(かば)っていた。


 ――カッ!カッ……


 やがて俺達の正面……雪白の正面に立った真琴(まこと)は……


 「あなた……”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”ですね……南阿(なんあ)の……」


 初対面の相手にロクに挨拶もせず、厳しい口調で話しかける真琴(まこと)

 きっちりとした性格の真琴(まこと)にしては珍しい。


 「……それが?」


 そして、それに対して”素っ気無く”返す、久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)


 雪白(こっち)はいつも通りだ。


 「そうですか……貴女(あなた)が身の程知らずにも最嘉(さいか)さまに色目を使っているという……」


 「……」


 「(だんま)りですか?とにかく、その不敬な手を我が(あるじ)から手を離しなさい!」


 「……」


 至近で睨み合う二人の乙女……


 ――というか……なんなんだ?この張り詰めた空気は……


 「真琴(まこと)、だからこれは……」


 事を荒立てないように、俺は状況説明を試みながら先ずは手を離そうと……おぉっ!?


 「あなたに言われる筋合いは無いと思うけど」


 「……」


 ピクリッ!と……ショートカット少女の眉間が引きつったのを俺は見逃さなかった。


 ――なんで喧嘩腰なんだよ、雪白(ゆきしろ)っ!?


 「……くっ」


 それに……なんというか、手を離せない……


 事の始まりはともかく……現在(いま)は何故か雪白(ゆきしろ)が俺の手を握っている。


 「それに、これは……さいかの方からわたしの手を握ってきた……」


 「そ、そうだ、真琴(まこと)、それはな……」


 俺はコクコクと頷いて、今度こそ妙な誤解を解くため……


 「雪白(ゆきしろ)ぉっ!お前の事が俺はっ!俺はぁっ!!……って鼻息荒く」


 「そうそう、俺から”ギュッ”と……って、しれっとウソ()くなっ!!」


 「……」


 「……」


 思わず変なノリツッコミをしてしまった俺だが……なに?この嫌な沈黙。


 「はぁ……とにかく今すぐ離しなさい」


 頭を横に振って、要求する真琴(まこと)


 「言われる筋合いはないわ」


 何故か即座に拒否する雪白(ゆきしろ)


 駄目だ。お互い意地になっている。


 ここは当事者の一人であり、真琴(まこと)の上司である俺から穏便に……


 「……雪白(ゆきしろ)、取りあえず離せ」


 「だから筋合い無いっ!」


 「……」


 「……」


 ――えぇぇぇぇー!?


 「いやっあるだろ俺にはっ!当事者だろ?俺の手だぞ、ありすぎるだろっ!?」


 「……」


 売り言葉に買い言葉で、つい咄嗟に口から出てしまったのだろうか?

 気まずそうに俺から目を()らす雪白(ゆきしろ)


 「………………す、鈴原にいわれる筋合いは……ないわ」


 ――おいおい……


 「雪白(ゆきしろ)、お前、それは無理矢理すぎだ。間違いを認めたくないから無理繰りだろ!?」


 更に、瞳を思いっきり、可能な限り()らせる純白(しろ)い美少女。


 「……」


 ――くっ、往生際の悪いお嬢さんだ!


 大体だ、確かに”鈴原(それ)”だと辻褄は合ってくるけど、滅茶苦茶理不尽だ。


 なにか?おまえ……”鈴原”って姓になんか恨みでもあるのか?


 「……」


 ――いや、今はそんな事より……


 「……と、()(かく)……誤解だよ、真琴(まこと)これはな……」


 「解りました、最嘉(さいか)さま。事情があるのは……ですから」


 真琴(まこと)の方もいい加減そう考えたのか、事態を前進させようと協力的になっていた。


 「という事だから……えっと、雪白(ゆきしろ)さん?」


 真琴(まこと)に頷いてみせた俺は、俺の手を握る雪白(ゆきしろ)に目配せを……


 「……」


 だが、頑なにその手を離さない雪白(ゆきしろ)


 「…………どういう……つもりですか”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”」


 独り事の打開に応じない少女に、真琴(まこと)の瞳に再び敵意の炎が灯っていた。


 「……」


 俺の手を握ったまま、真琴(まこと)の問いには答えない雪白(ゆきしろ)


 「そう……ですか……」


 ――お、おい……真琴(まこと)?なんで殺気を込めて雪白(ゆきしろ)に歩み寄る!?


 「……」


 真琴(まこと)が一歩、雪白(ゆきしろ)を捉えられる射程圏内に踏み出し――


 「……」


 雪白(ゆきしろ)があっさりと俺の手を離して迎え撃つ態勢をとった。


 「お、おい!離したぞ!真琴(まこと)!おーーい!」


 「……」


 「……」


 二人の間にピリピリと急速に高まる緊張感!


 ――駄目だ……最早、争いは避けられないのか?


 だが、いくらなんでも……真琴(まこと)の相手はあの純白の連なる刃(ホーリーブレイド)だ。


 素手とは言え、雪白(こいつ)、手加減とか出来そうに無いし!


 「いい加減ちょっと落ち着けよ、お前ら……」


 ――俺が止めようとした瞬間だった!


 ――っ!


 動き出す真琴(まこと)


 「……」


 対して、帯剣してもいないのに腰の辺りの剣を掴むような、剣術の構えを見せる雪白(ゆきしろ)


 ――そうか!剣術の達人は無刀であっても武術にそれが応用出来るという!


 興味に駆られた俺は、思わずゴクリと生唾を飲み込んでいた。


 ――

 ―


 そして……

 そして、その闘いは意外にも、一瞬で勝負が決したのだった。


 ポカッ!


 「あうっ!」


 ――きゅ~~パタリッ!


 「……」


 「……」


 軽い拳の一撃をモロに頭へと受けて、その場にへなへなと尻餅をつく…………


 …………白金(プラチナ)の髪と瞳の少女。


 「って?え?え?えぇぇぇー!」


 俺は叫ぶ!


 「うわぁ……よわっ!」


 そして、傍らで軽いジャブを出しただけの真琴(まこと)が呆れ顔で(こぼ)していた。


 「う、うぅ……」


 純白(しろ)いお嬢様はと言うと、冷たいコンクリートの上に尻餅を着いて、ぶたれた頭を抱えている。


 「……」


 ――いやいや……無いだろ?これ、どういうことだ?雪白(こいつ)がこんなに弱いって……


 (にわか)に信じがたい光景を目の当たりにした俺は、暫し彼女をマジマジと凝視していたが、そこで彼女の投げ出された白い足に視線がいく。


 「うぅ……いたい……」


 尻餅を着いた状態で、前に折り曲げて放り出してある比較的無防備な双脚。


 俺はその右側の膝小僧から血が滲んでいることに気づいたのだ。


 「お、おいっ大丈夫か!」


 ババッとそこに片膝をついて、迷うこと無く彼女の(ふく)(はぎ)を手に取った。


 「ひゃっ!?」


 「っ!」


 途端に変な声を上げる雪白(ゆきしろ)と、サッと顔色が変わる真琴(まこと)


 「……」


 しかし、周りの事など気にも留めずに、俺はそこを凝視していた。


 ――転んだ時に()()いたただけか……ふぅ、これならかすり傷だ


 一通り確認して安心した俺は、地べたに膝を着いた為に、目線が同じ高さになった白い少女の顔を正面から見る。


 戦場で戦う俺や雪白(ゆきしろ)に対してこの程度のかすり傷で大げさだと思うかも知れないが、それはそれ、コレはコレだ。


 ここは平和な近代国家世界だし、なにより繊細で陶器のような柔肌から滲む血がなんとも痛ましい。


 「()()いただけだな、直ぐに消毒すれば化膿する心配もないだろうし……」


 「………」


 「後は、保健室だが……この時間は……ん?」


 そこで初めて気づいた……


 白金(プラチナ)の瞳の少女は真っ赤な顔で事の終始(うつむ)いていた。


 「雪白(ゆきしろ)?」


 「……っ!」


 陶器のように白い肌を(あか)く染め、恥ずかしそうに(うつむ)いた顔から僅かに覗き見える彼女の白い銀河は、少し潤んだ状態で情けなく揺れていた。


 「え……と?」


 体育座りのようにコンクリートにお尻を着いた彼女。


 正面からだと、ハの字に開いた足の、スカートの隙間部分を隠すためだろう、広がった前面を、彼女は先ほどから両手で必死に押さえていたのだ。


 「へ?……って、わ、わぁっ!」


 思わず俺は声を上げる。


 咄嗟の事とは言え、よりにもよって開脚した彼女のスカートの正面に……

 つまり……そこに顔を寄せて……覗き込むように……


 あまつさえ、彼女の白い足の(ふく)(はぎ)辺りをがっつり掴んでいたのだ。


 ――痴漢?


 ――痴漢だよな、これじゃ……


 「……」


 そして、視線を少し下げれば……


 はだけたスカートの合間からは……白いレース?っぽい……ナニカ……


 「っ……!」


 俺の視線の動きに気づいた少女は、更に力を込めてスカートを押さえる。


 ――い、いや違う違う!そんなつもりじゃ……つい……


 「あの……ゆき……しろ?」


 「………っっ」


 可哀想に、彼女はあられも無いポーズのまま必死でスカートを押さえながら、すっかり縮こまってしまっていた。


 「ぅぅ……」


 陶器の如き白い頬を真っ赤に染めて、(うつむ)いた涙目の雪白(かのじょ)は……

 決して俺に視線を合わさない。


 「…………」


 「最嘉(さいか)さま!」


 「…………」


 「最嘉(さいか)さまっ!いつまでそんな恰好でおられるのですか!」


 そこまでだ。


 そこまでで、やっと俺は真琴(まこと)の声で我に返った。


 「……ぅぅ」


 「最嘉(さいか)さま……はぁ……」


 「いや、これは……」


 ――ピリリリリッ!ピリリリリッ!


 見苦しくも、俺が咄嗟に言い訳を並べようとした瞬間に、突如、甲高い電子音が響き渡る。


 「……え、えっと」


 音の元は俺の……スマートフォンだ。


 ばつが悪いが、無視も出来ない。

 立ち上がった俺はおもむろにソレを懐から出す。


 「……ぅぅ」


 俺が離れても、いまだ同じ場所で俯いたままの白い少女。


 「……ふぅ」


 そして、微妙な顔で溜息交じりに俺を見る腹心のショートカット少女。


 「……」


 ――微妙な空気だ……

 

 いやホント……なかなかの異空間……


 ――ピリリリリッ!


 そんな空気にも構わず鳴り続けるスマートフォン。


 ――ピリリリリッ!ピリリリリッ!


 だが、なんていうか……ある意味、助かった。


 「……」


 俺は取りあえずディスプレイに表示された名前を確認する。


 ――宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)……?


 ――弥代(やしろ)から?


 たしか弥代(やしろ)は昨日までの戦国世界(あっち)側、臨海(りんかい)防衛戦で天都原(てき)側に与したはずだが……


 「……はい」


 俺は疑問を感じながらも、取りあえずは電話に出る。


 「お久しぶりね、最嘉(さいか)


 ――??……弥代(やしろ)じゃ無い……これは……


 「どうしたの最嘉(さいか)、愛しい(ひと)の声を忘れてしまったの?」


 ――愛しい……女……


 俺はスマートフォンを片手にそのまま立ち尽くしていた。


 「……最嘉(さいか)さま?」


 「……?」


 恐らく……傍目には変な表情で固まっていた俺を、二人が怪訝そうに見てくる。


 ――()ってる……


 ――あぁ、忘れるはずが無い……お前のことは、一時(いっとき)だって……


 「…………京極(きょうごく) 陽子(はるこ)か?」


 「っ!」


 「?」


 俺の口から零れた声で、真琴(まこと)の表情が一瞬で張り詰め、(うつむ)いていた雪白(ゆきしろ)が疑問の表情を伴って顔を上げる。


 「くすっ、お久しぶりね……”私の最嘉(さいか)”」


 「…………」


 その時電話を握る俺の手は、先ほどの一連の修羅場(ハプニング)の時よりも……


 ――明確に緊張が隠せない汗をかいていた。


 第十九話「最嘉(さいか)とキャッチボール」 後編 END

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