表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
下天の幻器編
199/329

第十八話「子供(ガキ)」中編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十八話「子供(ガキ)」中編


 第十八話「子供(ガキ)」中編


 「独眼竜!?ま、まさか……まさか!旺帝(おうてい)二十四将に最年少でなったという……」


 ――んん?


 伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)は、どうやら俺の口走った”独眼竜”という単語……


 いや、その人物に目を奪われているようだった。


 「穂邑(ほむら) (はがね)……現在(いま)の僕と一歳しか変わらない十四歳で最強国旺帝(おうてい)の二十四将に選ばれた名将……貴方が」


 先ほどまでの怒りをすっかり置いてきぼりに、座した俺の隣に立った(にせ)眼鏡男を羨望の眼差しにて見入る伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)


 「……」


 俺を見る目とはエライ違いだ。


 それだけ十二歳で軍籍に身を置いてから僅か二年足らずで”旺帝(おうてい)二十四将”に選ばれし偉才、(かつ)て”独眼竜”の異名で知られた隻眼の穂邑(ほむら) (はがね)はこの少年の憧れなのだろうが……


 ――ちっ!俺の軍歴も似たようなもんだぞ……


 どうでも良いが、それでもなんだか納得がいかない。


 「まぁいい、それよりも俺が手を貸す道理が無いのは変わらないぞ!」


 俺は目前の子供(ガキ)はもう無視して、その後ろに控える髭の将を見ながら言う。


 「無論”手ぶら”ではありませぬ。聞けば現在(いま)臨海(りんかい)は窮地であるとか?ならば我が主君が引き連れて来た精鋭が役立つかと」


 「お、おい!?道己(どうこ)!どういう……」


 ――成る程、そうきたか


 臨海(りんかい)の庇護を求めて俺を頼って来たというが、その割に臨海(りんかい)本拠地である九郎江(くろうえ)で待つことなく、わざわざ戦場(ここ)にまで出張って来たのはそういう魂胆が……


 ――やはり古狸、いや流石、”南阿(なんあ)三傑”筆頭の肩書きは伊達じゃないということだ


 あの”南阿(なんあ)の英雄”伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)が重宝がったわけだと、俺は感心する。


 「道己(どうこ)っ!!そんな話は聞いてない!なぜ僕がこのペテン師のために戦わないと……」


 しかし――


 当のこの猪親(ガキ)は、南阿(なんあ)の知恵袋が(はかりごと)を察してもいない。


 「なんだ?南阿(なんあ)のお坊ちゃんは戦が怖いのか?」


 「な、なにっ!?また侮辱するかっ!」


 ――おお、レスポンス良いなぁ!


 部下に怒っていても、俺の茶々には即座に反応する伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)


 「ええ、ゴホン」


 多感な子供(ガキ)で遊ぶという、俺のあまり褒められたものではない行動と、そこからまたも下らぬ争いが再燃しかねない怪しい雰囲気を懸念して、整った髭の男は咳払いでそれを未然に食い止め、そしてこれ以上脱線しないうちにと言うように口を開いた。


 「我らが引き連れてきたのは若輩で新兵ばかりなれど、”剣の工房(こうぼう)”の猛者達二十八人、そして白閃(びゃくせん)隊の生き残り総勢二百五十九人。(いず)れもそこいらの雑兵とは比べものにならぬと自負しますが?」


 「…………ほぅ」


 ――”白閃(びゃくせん)隊”


 ――”剣の工房(こうぼう)


 その単語を聞いた俺は興味と同時に心がチクリと痛む。


 白閃(びゃくせん)隊は、(かつ)て”彼女”が南阿(なんあ)で指揮していた隊、


 剣の工房(こうぼう)は、その”彼女”が育った極秘の訓練機関。


 ――”彼女”……


 ――そう、久井瀬(くいぜ) 雪白(ゆきしろ)の……


 「道己(どうこ)っ!僕の許可無く勝手に話を進めるな!だいたい敵はあの旺帝(おうてい)軍だぞ?それを……僕は初陣もあんなで、戦場なんてまだっ!」


 一旦抑えたはずの感傷に再びドップリと浸るつもりはないが……


 少しばかり心を波打たせたのは確かな俺の鼓膜を子供(ガキ)の雑音が無神経に叩く!


 「……」


 どうやらこの反応を見る限り、伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)初陣(デビュー)は散々だったようだ。


 「確か猪親(いのちか)殿は十三歳と聞いたが……俺も、この鈴原も、その歳には一軍の将として幾多の戦場を経験していたよ、習うより慣れろ、世の中そんなもんだ」


 尻込みする猪親(いのちか)に、穂邑(ほむら)は諭すようにそう言うと俺に視線を投げた。


 「……」


 だが――


 先に耳に入った二つの単語が少なからず心を乱していた俺は、こんな子供をフォローする気も起こらず、”穂邑の気遣い(それ)”を無視する。


 「くっ!」


 無言の俺の態度が自身を見下したと取ったのか、猪親(いのちか)穂邑(ほむら)と俺を交互に見て悔しそうに俯いていた。


 ――戦は怖い、怖いが……


 憧れる旺帝(おうてい)の”独眼竜”に諭され、嫌っている臨海(りんかい)の”ペテン師”に馬鹿にされてはと、


 多分、猪親(ガキ)子供(ガキ)なりに葛藤しているのだろう。


 「…………その軍だが、有馬(ありま)、お前が率いるなら考えてやっても良い」


 だが俺は、そんな甘ちゃんの思考が結論に至るのを気長に待ってやるほど暇ではない。


 「な、南阿(なんあ)の代表は僕だっ!!大英雄!伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の血を引くこの猪親(いのちか)だ!」


 「…………」


 ――臆病な癖にそういうところは引かないのか……面倒臭いな


 自身を無視して頭越しに交渉を続けられる事に激しい反発を見せる子供(ガキ)


 「お前みたいな雑魚の子供(ガキ)に任せられるか」


 「なっ!この!誰が子供(ガキ)だ!」


 「この場に素人のお子様はお前一人きりしかいないだろ?」


 「ぐっぬぅぅう!なら僕……私が率いるっ!!」


 「無理だな」


 再び始まる低次元な言い合い。


 無論、相手が子供なのはもう承知なのだから、俺の方が随分と大人げないのだが……


 「私は南阿(なんあ)の大英雄、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の嫡子!伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)だっ!!戦なんて簡単だ!白閃(びゃくせん)隊なんてたかが女の”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”ごときでも率いられた小隊だと聞くぞっ!!」


 「!?」


 ――たかが?


 ――ごとき……だと?


 それでもその時、自分の大人げなさを十分承知でありながらも、俺は少々感情的になっていたのだろう。


 (かつ)雪白(ゆきしろ)を”ただの剣を振るう人形”と呼び捨て、


 何年も縛り付けて挙げ句使い捨てにしようとした南阿(なんあ)の支配者……


 その男の馬鹿息子によるこの台詞(せりふ)に……


 直前に雪白(ゆきしろ)を失ったことも合わさっていた俺は――


 「…………ほぅ……たかが……ね」


 タイミング最悪な一言は、(くすぶ)った俺の怒りに再点火するのに充分だった。


 「す、鈴原様っ!!」


 唯ならぬ異変を察知した有馬(ありま) 道己(どうこ)強張(こわば)った顔で咄嗟に主君の前に出て……


 「ひっ!!」


 その伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)は素人でもわかる殺気に青い顔で一歩下がる。


 「…………はぁ、”この場にお子様は一人きりしかいない”そう言ったのは鈴原(おまえ)だったよな?」


 ――っ!


 だが間一髪……


 俺の傍らに立った(にせ)眼鏡男が放った一言のおかげで、俺はギリギリ一線を越えずに済んでいた。


 「…………ちっ」


 ――感情を制御できぬ”お子様”


 ――そうだ、俺は……


 自身でも抑えきれぬ衝動に腰を数センチ浮かせ、愛刀”小烏(こがらす)丸”に手を添えていたのだ。


 「たく……鈴原(おまえ)は普段はヘラヘラしてるのに中身はホント恐ろしい男だよな?」


 場のなんともいえぬ緊張感を払拭するように、穂邑(ほむら) (はがね)はわざと場違いな軽い声と共に俺の肩をポンと叩いた。


 「だよな?」


 椅子から腰を浮かした凶相な俺の顔を、緊張感の無い笑みで見下ろす傍らに立った(にせ)眼鏡男。


 「……」


 ――ちっ、年上の経験談かよ


 それは確かに多少の役には立つみたいだ。


 俺はこの先達(せんだつ)に、一応は感謝していた。


 「…………表面(ガワ)と中身に(いつわ)り有りなのは穂邑(おまえ)の方だろうが」


 が、内心危ういところだったと安堵の息を吐きながらも、天邪鬼な俺は負けじと軽口を返しながら再び尻を椅子に据える。


 「はは、”包装紙(パッケージ)詐欺”なのはお互い様か?」


 それを受けた穂邑(ほむら)は軽く笑うと、眼鏡のブリッジ部分をクイと指で直した。


 ――ふん……(にせ)眼鏡


 目前の伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)は未だ青ざめた顔で立ち尽くしていたが、その前に庇うように出ていた有馬(ありま) 道己(どうこ)は一連のこの成り行きを見届け、安堵した表情で再び後ろに下がって控える。


 「そうだな……南阿(なんあ)軍の指揮官はまぁ良い、人選は”南阿の者達(おまえら)”に任せる」


 まぁ、()()く考えれば……


 取りあえず”誰が”指揮官だろうが、この有馬(ありま) 道己(どうこ)が補佐に付けば問題ないだろう。


 要は俺の指示を忠実に実行出来る能力があればそれで良い。


 「……」


 言葉に頷く整った髭の男を確認した後――


 俺は再び数秒で心を落ち着け、そして一度周りを再確認してから――


 「………………真琴(まこと)、居るな?」


 気配から――


 天幕外に控えているはずであろう、腹心の少女の名を呼んでいた。


 第十八話「子供(ガキ)」中編 END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ