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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
下天の幻器編
184/329

第七話「奥泉行路 壱」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第七話「奥泉行路(おうせんこうろ) 壱」


 旧赤目(あかめ)領土内の最東端”那原(なばる)”を出発した鈴原 最嘉(オレ)とその一行。


 護衛も含めた総勢十五人は隣接する独立小国家”見能(みのう)領”を通り、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)の治める新政・天都原(あまつはら)領土内”尾宇美(おうみ)領”、”香賀美(かがみ)領”と北上し(あかつき)海へと抜けた。


 ――その後、そのまま海岸線を東進……旺帝(おうてい)領土内に入った


 細心の注意を払いつつ旺帝(おうてい)領土”越籠(こしご)”経由にて、目的地である同じく旺帝(おうてい)領土”特別行政区、奥泉(おくいずみ)領土”へと至った。


 総行程日数は五日ほど……


 それは神反(かんぞり) 陽之亮(ようのすけ)が率いる”闇刀(やみかたな)”が部隊、”花園警護隊(ガーデンズ)”の緋沙樹(ひさき) 牡丹(ぼたん)とペオニア=カートライトが進言した内容の大凡(おおよそ)中間案であった。


 ――つまり


 結果的に俺は当初の予定よりも少々急いだのだ。


 その理由は……


 那古葉(なごは)を守る旺帝(おうてい)の猛将”甘城(あまぎ) 寅保(ともやす)”が、志那野(しなの)の武将”木場(きば) 武春(たけはる)”に援軍要請の使者を送ったという情報を入手したからだ。


 甘城(あまぎ) 寅保(ともやす)が守護する那古葉(なごは)城は旺帝(おうてい)でも最強の防御を誇る大要塞である。


 (かつ)ての南阿(なんあ)が誇った”黒き鋼鉄の大蟹(だいかい)”、浮沈要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”と並び称されるほどの城、”黄金の(さかまた)那古葉(なごは)城……


 難攻不落の巨城攻略だけでさえ困難だというのに、その那古葉(なごは)城が在る”境会(さかえ)”という地は、旺帝(おうてい)八竜の甘城(あまぎ) 寅保(ともやす)が守護をする地なのだ。


 其所(そこ)に更に最強無敗の”咲き誇る武神”と称えられし木場(きば) 武春(たけはる)が参戦する……


 予測済みであったとは言え、この展開の早さは俺の予測の更に上を行っていた。


 「ちっ、紗句遮允(シャクシャイン)の奴……サボりやがって」


 俺は独りごちた。


 ”(あかつき)”最北の海に浮かぶ島、北来(ほらい)――


 その地を制覇した”可夢偉(かむい)”連合部族王、紗句遮允(シャクシャイン)は、(あかつき)最大の勢力を誇る旺帝(おうてい)軍の侵攻に対し北の地を一歩も踏ませぬ戦術と統率力を備える群を抜いた傑物だ。


 ()の辺境部族王の将才は有能なる人材を多数抱える強大国”旺帝(おうてい)”にして”王狼(おうろう)”と呼ばしめる程である。


 それ故に北の備えを一瞬たりとも怠れない旺帝(おうてい)としては、可夢偉(かむい)連合部族国の備えとして軍部の要で在り、北方の最前線を支える後方支援地である志那野(しなの)領領主の木場(きば) 武春(たけはる)を軽々に動かせないだろうと……


 そう俺は踏んでいたのだ。


 ――百戦錬磨の”魔人”伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)が亡き後、最強無敗”咲き誇る武神”と称えられし木場(きば) 武春(たけはる)をこんなにも易々(やすやす)と動かすとは……


 「あと数週間は猶予があると思ってたんだけどなぁ……」


 それは”鈴原 最嘉(オレ)”にとって結構な誤算であった。


 ――


 「御館(おやかた)様。ただいま磐猪川(いわいかわ)から使者が戻り、藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)は会談に応じるとの事でございます」


 待つこと暫し――


 少し離れた場所で、眼だけを出した白装束の臨海(りんかい)兵士と話していた”花園警護隊(ガーデンズ)”の筆頭、緋沙樹(ひさき) 牡丹(ぼたん)が思案中の俺の元に駆け寄り、その場に(かしづ)いてそう伝えてくる。


 「そうか、大義だった」


 彼女の報告に短く答えた俺の視線は離れた位置で(かしづ)いた状態の白装束に、


 そしてその白装束は深く頭を下げ直ぐにその場から消えた。


 白装束の臨海(りんかい)兵士、


 この案件にあたって先に奥泉(おくいずみ)に潜入し、下準備に尽力した臨海(りんかい)軍特務諜報部隊……


 通称“蜻蛉(かげろう)”の手の者である。


 ――さすが花房(はなふさ) 清奈(せな)の直属だ、蜻蛉(かげろう)闇刀(やみかたな)にも引けを取らない部隊だな


 俺は熟々(つくづく)花房(はなふさ) 清奈(せな)神反(かんぞり) 陽之亮(ようのすけ)の存在価値に頷かされる。


 「御館(おやかた)様……」


 「ああ、そうだな、一時でも時は惜しい。直ぐに藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)の居城に向かうか」


 俺は緋沙樹(ひさき) 牡丹(ぼたん)にそう言うと、磐猪川(いわいかわ)に在る奥泉(おくいずみ)の領都、そして藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)の居城に向けて進発を促した。


 「はい!此所(ここ)から磐猪川(いわいかわ)の”金色(こんじき)御殿”は大凡(おおよそ)半日の距離です。その間に奥様方にも準備をして頂きますか?」


 「…………」


 ”金色(こんじき)御殿”とは奥泉(おくいずみ)の領都、磐猪川(いわいかわ)に在る藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)の居城を指し示す俗称で、建造物の全てに黄金を使用していると(うた)われるほどの豪勢な城らしい。


 そして問題の”奥様方”の準備とは――


 「御館(おやかた)様?」


 「あ、ああ……そうだな」


 俺は歯切れ悪く頷く。


 「宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)と……鈴原(すずはら) 真琴(まこと)に準備をさせておけ」


 ――そうだ……


 この奥泉(おくいずみ)への極秘訪問に……


 俺の腹心であるところの鈴原(すずはら) 真琴(まこと)が参加することになったのだ。


 直前に、強引に……


 しかも俺の側女(そばめ)役として。


 「……」


 それを俺が断れなかった理由は……


 ――まぁ……色々とだけ言っておこう


 「と、()(かく)!この先は正念場だ。表向きは表敬訪問としているが、その実は戦だ!相手は”奥泉(おくいずみ)十七万騎”の(あるじ)にして悪評高い比類無い好色漢の奸雄(かんゆう)、一瞬たりとも油断は禁物だ!」


 俺は気持ちを引き締め直し、全体にそう告げて馬を出したのだった。


 ――

 ―


 ――北の果ての王国に”黄金郷”在りなん


 ――文化の都、権威の都、(あかつき)に都は多々在れど、


 ――花と黄金に浸りし都は他に(あら)


 ――”極楽浄土”は天上に在らず


 ――()旭光(きょっこう)


 ――或いは黄昏(たそがれ)


 ――繁栄と快楽に(まみ)れし始まりと終わりの都成り


 ――と、


 「(うた)われる通りの悪趣味だなぁ……」


 最初に度肝を抜かれたのは、やはりこの黄金を塗りたくった大層な御殿だろう。


 俺たちが見上げるのは、藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)が治める奥泉(おくいずみ)領の居城、泉尊夷(せんそんい)大寺院だ。


 未だ旺帝(おうてい)燐堂(りんどう)家が天都原(あまつはら)家臣で在った頃に――


 (あかつき)本州の北方未開地に点在した夷狄(いてき)討伐の勅命を受けた燐堂(りんどう) 珠生(たまき)が異部族の尽くを平定し、帰順させたという。


 そしてその地を無事治めるため、大量の死者を出した戦いの遺恨を残さぬよう、異部族の屍を一箇所に集めて弔ったのが泉尊夷(せんそんい)大寺院建立のあらましだという。


 時は流れ――


 燐堂(りんどう)家が率いる旺帝(おうてい)は中央政府たる天都原(あまつはら)から独立し、(あかつき)東部に巨大な勢力圏を築いた。


 そして更に時は進み、”奥泉(おくいずみ)”は旺帝(おうてい)勢力内で独立した自治を認めさせた。


 その特別行政区の中心地に定められたのは東奥(とうおく)部族の鎮魂の象徴、泉尊夷(せんそんい)大寺院だ。


 それは奥泉(おくいずみ)領、現在の支配者たる藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)が居城を示す。


 金、銀の鉱山を擁する地の利と、何代にも及ぶ執拗な蓄財をつぎ込んで姿を変貌させた黄金郷(エルドラド)……


 殆どの民衆は()れを”泉尊夷大寺院(せいしきめいしょう)”で無く、俗称の”金色(こんじき)御殿”と呼ぶ。


 「……」


 柱、床、調度品に至るまで金箔、銀箔の大サービス……


 最奥の部屋まで案内された俺は、その桁違いな税金の無駄遣いぶりに辟易していた。


 「此方(こちら)でございます」


 案内役の女に先導されて長い廊下を歩く鈴原 最嘉(よそもの)


 到着時に供の者達は別室に控えるよう要請された。


 そして真琴(まこと)弥代(やしろ)は御殿の一部屋を借りて準備を整えたいという此方(こちら)の申し出が許可され、俺が向かう場所へは少し遅れてくる予定だった。


 だから現在(いま)は俺のみが、奥座敷に案内されていたのだ。


 ”金色(こんじき)御殿”の最奥の部屋が在るその場所は、奥泉(おくいずみ)でも主たる藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)以外の男は禁制の場所で尚且(なおか)つ武器の一切は持ち込み禁止だと、俺も刀類は全て取り上げられたのだった。


 ――敵地のど真ん中、”小烏丸(あいぼう)”が無いのは少々心許ない気がしないでもない


 「この先は地上にして地上に(あら)ず、現世の浄土なれば世情の(けが)れは無粋でございます」


 そう説明する女の言葉に一応は納得したのだが……。


 ――まぁ、言い方は回りくどいが何が言いたいかというと


 ”この先は男女が睦む”後宮(ハーレム)”だから無粋は止めてね”


 ”裸の付き合いをして、腹を割って話そうじゃ無いか!”


 という――


 ”藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)”流の申し出だろうから、会見を申し込んだ臨海(こちら)としては異を唱えるのはお門違いだろう。


 「では臨海(りんかい)王様、奥泉(おくいずみ)の夜をごゆるりとお愉しみ下さい」


 目的地に到着した後、案内役の女は頭を下げると――


 扉前を守護する二人の武装した女性兵士に開場を命じた。


 ガララ――


 豪奢な引き戸が左右から同時に引き開けられて……


 ――っ!


 一瞬、ムワッと思わず()せてしまうくらいの甘味的な香料と(さが)(くすぐ)るかの如き淫靡な薫りが廊下に流れ出て俺を圧倒する!


 「……」


 入口から縦長に広がる五十畳以上はある部屋。


 部屋の両端に正座にて頭を深く下げた女達がズラリと並ぶ光景は中々圧巻だ。


 「……!」


 その最奥部正面に鎮座する人物。


 ――ベベン!


 此所(ここ)から確認するに、年の割にわりと引き締まった肉体の男はどうやら上半身の着物を(はだ)けた半裸で……


 ――ベベベン!


 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……」


 年代物らしき琵琶(びわ)を爪弾いていた。


 「…………」


 男の両脇には左右に二人づつ、しどけない衣装の妖艶な美女達。


 「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす……おごれる人も久しからず」


 ギロリ!


 女達を(はべ)らせた剃髪の男は、ここに来てゆっくりと入口の俺を見た。


 第七話「奥泉行路(おうせんこうろ) 壱」END

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