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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
下天の幻器編
181/329

第五話「坂居湊攻略戦」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第五話「坂居湊(さかいみなと)攻略戦」後編


 ――坂居湊(さかいみなと)攻略に最嘉(さいか)さまの用いられた策は覿面(てきめん)だった


 商業組合を密かに味方に引き入れた事により、坂居湊(さかいみなと)駐留軍が展開する哨戒網の盲点を(あらかじ)め入手でき、更には出入りする商戦を利用した索敵船団に対し逆に潜り込む形で何事も無く坂居湊(さかいみなと)港に侵入を成功させた。


 「くっ!何故に気づかなかった!!くそっ!何処(どこ)所属の軍船だっ!」


 「落ち着いて下さい、敵船団はそう多く有りません!斯くなる上は港内に誘い込みいつも通り順次撃破を行いましょう」


 ――


 ――しかし


 ()れも最嘉(さいか)さまには手の内だった。



 ガガァァン!


 ドドォォン!


 坂居湊(さかいみなと)駐留軍艦隊の船同士が彼方此方(あちこち)で道を塞ぎ合い、衝突する!


 「うっ!な、何をしておる!下がらせよ、船間をもっと開けて陣形を維持せぬか!」


 まんまと坂居湊(さかいみなと)港内に侵入した臨海(りんかい)軍艦隊を、広い湾内を幾重にも分断した港内迷路に誘い込もうとする坂居湊(さかいみなと)駐留軍だが……


 今回ばかりは勝手が違う!!


 何時(いつ)もなら速やかな誘導で商船を湾内奥の船場(ドック)に寄港させる手筈が、その商戦が積み荷の荷崩れや操船ミス、果ては伝達ミスなどによるトラブル続出で遅々として進まず……


 逆に至る所に停泊、逆走した商船が邪魔で、駐留軍の軍船同士が進路を潰し合ったり接触したりで(ろく)に動くことすらままならない!


 「ぐぬぅぅっ!何故に今日に限って……」


 ドゴォォ!


 「わっ!何をしている!!」


 「ぬぬ……敵艦隊はどうしてああも匠に操船できるのだっ!?」


 ――これらは勿論、最嘉(さいか)さまの策だ


 湾内の商船にパニックを装わせる事により、一見して出鱈目(でたらめ)な動きを見せる商船達。


 しかしてその実は、坂居湊(さかいみなと)駐留軍艦隊のみの進路を潰すように指示し動かされている。


 ――その最たるものが……


 「なっ!なんだと!?どこの商人の船だ!!我が軍港を塞ぐのはっ!!」


 ――普段は使用されることのない軍専用口の強制閉鎖!


 湾外周をグルッと囲んで伸びた左右の細い軍専用出入口を左右とも、これらの商船にて塞ぐという暴挙だ。


 準備万端出撃した主力艦隊にて入り組む湾内に敵を囲い込み、侵入者を袋の鼠にするという坂居湊(さかいみなと)駐留軍司令官、小谷(おだに) 善継(よしつぐ)が得意の迎撃策を未然に台無しにする最嘉(さいか)さまの策。


 「くっ!この大型商船団は……木国屋(きぐにや) 文伍(ぶんご)!商業組合筆頭の木国屋(きぐにや) 文伍(ぶんご)の船です!」


 その時には既に重量商船が数隻、両脇の軍艦専用出撃口を見事に塞いでいたのだ。


 ――これでもう……


 坂居湊(さかいみなと)駐留艦隊は有名無実となった。


 港内の軍艦は思うように操船出来ず、我が臨海(りんかい)艦隊に各個撃破されゆく。


 援軍の主力艦隊は出口を塞がれ、細い軍艦用通路から渋滞してどうにも動けない。


 「先に泥の詰まった銃は鉄棒にも劣るってな……おっと、この”戦国世界”には重火器は無かったよな」


 最嘉(さいか)さまは旗艦の司令室にてそう言われると、地上各所で煙の上がる市街地を眺められた。


 「真琴(まこと)、敵の駐留軍艦隊は殺した。後は港および市街地にある幾つかの重要拠点の占拠だが……潜入済みの長州門(ながすど)軍先遣部隊も上手く呼応したようだな」


 「はい、最嘉(さいか)さま!お見事です」


 私も同じ方向を見て答える。


 「しかし、策を仕込み済みとはいえあの軍の動きが周到さ、流石だ。地上の長州門(ながすど)軍先遣部隊を率いているのは確か……」


 「はい、確か覇王姫の懐刀と言われる、アルトォーヌ・サレン=ロアノフだったかと」


 私の答えに最嘉(さいか)さまは深く頷かれた。


 「成る程なぁ。”白き砦”……白い肌、白い髪、色白と言うよりは色素を全て忘れて生まれてきたような不自然な希薄さの、あの華奢で存在感の希薄な美女、長州門(ながすど)の”知の砦”は噂に違わない人物だな」


 最嘉(さいか)さまは数ヶ月前に”近代国家世界”で、九郎江(くろうえ)にある鈴原(すずはら)本邸にて行われた|アルトォーヌ・サレン=ロアノフ《かのじょ》との作戦会議を思い出されてだろう……


 満足そうに頷かれ、改めてその傑物を賛辞される。


 「良し、此方(こちら)もある程度片が着いた事だし、そろそろ我らも市街戦に参戦する!地上部隊の総指揮は真琴(まこと)、お前が執れ!」


 我が君の命に私はビシッと背筋を伸ばし敬礼をした。


 「はい!後事は全てこの鈴原(すずはら) 真琴(まこと)にお任せ下さい!!」


 ――


 ――こうして坂居湊(さかいみなと)攻略作戦は速やかに、完璧に終了したのだけれど……



 「私は……」


 「なるほどねぇ。長州門(ながすど)との連携も不十分で、拠点制圧も殆どその”白き砦”とやらに美味しいところを持って行かれてぇ、精彩を欠いたってこと?でも作戦自体は問題無く(こな)したのでしょう?」


 長く艶やかな黒髪を後ろで束ねたポニーテールとやや垂れ気味の瞳、


 それに(あか)く薄い唇を所持する終始気怠(けだる)そうな雰囲気を(まと)った美女……


 宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)に洗いざらい経緯を話した私は、彼女の言葉を受けて無言で首を横に振った。


 「指示を(こな)しただけ……最嘉(さいか)さまの期待以上にはなれなかった。私は……焦っていた」


 「……」


 宮郷(みやごう)の弓姫は悔しさを口にする鈴原 真琴(わたし)をジッと見ていた。


 ――


 ――この時、私はどうかしていたのだ


 この女に……


 さして親しくも無く、それどころか最嘉(さいか)さま絡みでは苛立ちさえ向けているこの女相手に、こんな事を話すなんて……


 「そうねぇ、焦燥の理由(ワケ)を聞いても?」


 「……」


 宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)の問いかけに無言を返す私。


 ――言いたくない、口が裂けても嫌!


 「そう……まぁいいわ。それよりもぉ、そう言う事なら難しくは無いわねぇ」


 ――?


 宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)は意外にもそれ以上は全く追求をせずにそう言うと、(うつむ)く私に(あか)く薄い唇を弛めて微笑んだ。


 「…………」


 女の私でも一瞬ドキリとする妖艶さ。


 私から見て完成された大人の女性である宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)は本当に……憎らしい。


 「良い?真琴(まこと)ちゃん。話を聞く限り貴女は別にミスを犯したワケじゃ無いしぃ、サイカくんもそう思っていない。唯単に休暇を言い渡されただけ……違う?」


 ――そうだ、最嘉(さいか)さまに気持ちのまま堂々と言い寄れる……この女が恨めしい


 「真琴(まこと)ちゃん?」


 ――!?


 「は、はいっ!?」


 私は自身がジッと睨んでいた女の呼びかけで我に返る。


 「ふふ……”謹慎処分”ってワケじゃないならぁ、強引について行っちゃえば良いでしょう?」


 「え?は?……あの?」


 ちょっと考え事をしている間にどうなったらこう言う結論に?


 ――何を言っているの?この女は……


 私は意表を突かれたのと、強引すぎる話の流れに戸惑っていた。


 「今回はねぇ、奥泉(おくいずみ)の”藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)”に会いに行くみたいよ。それも相手の趣向に合わせてサイカくん本人も美女を(はべ)らせて……そこまで知ってた?」


 「……」


 ――そこまでは知らない


 奥泉(おくいずみ)の”藤堂(ふじどう) 日出衡(ひでひら)”に交渉を持ちかけるとだけしか……


 「臨海(りんかい)王としてサイカくんが(はべ)らす女。()(くに)に公然と公表するのだからぁ、これはある意味、公式行事?だからしっかりと内外にアピールする必要があるわぁ」


 「や、弥代(やしろ)さん!?なにを……」


 ――アピール?


 ――それはつまり……最嘉(さいか)さまの”お手付き”であるとっ!?


 「作戦の本質から連れて行くのは特に見栄えのする女だけらしいからぁ、真琴(まこと)ちゃんなら問題無いでしょう?超可愛いものねぇ」


 「だ、だから!何を……」


 「何をってぇ……だからサイカくんの愛人役の一人として……」


 「っ!?」


 ――鈴原 真琴(わたし)最嘉(さいか)さまの!?


 そ、そんな恐れ多い!!


 ――いえ!そもそもそういう話じゃ……


 「弥代(やしろ)さん、これは極秘行動です。他国に……特に旺帝(おうてい)には気取られないように密かに”奥泉(おくいずみ)”となんらかの協力関係を築くという。ですから公式に公表はされないし、他国にもアピールには……」


 必死に反論する私を楽しそうに眺めるやや垂れ気味の瞳がキラリと光る。


 「関係無いわ、これは女としての自己顕示欲なのよ。じゃあ、鈴原(すずはら) 真琴(まこと)は不戦敗で良いのね?」


 「…………」


 ――この……女……


 普段から気怠げでやる気が無いとか、飄々としているとか……


 散々男を欺いているけど本質は多分コレだ!!


 ”融通が利かない”とはつまり”一途で”


 ”根底では頑な”とはつまり”芯が通っていて”


 ”挑戦的な”とはつまり”正々堂々とした”


 ――つまり最嘉(さいか)さまも認める”()い女”……


 ――


 「な、内外にアピールと言ったり、関係無いって言ったり……無茶苦茶ですよ、弥代(やしろ)さん!?」


 私はなんだか解らない敗北感を前に、そう細やかな抵抗を返すのがやっとだ。


 「ねぇ、真琴(まこと)ちゃん。言ったでしょう?変わらないとねぇ……一生後悔することが人生にはあるのよ」


 「…………」



 ――鈴原(すずはら) 真琴(まこと)鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)さまに一番近い女


 ずっとそう思って生きてきた。


 ――けれどそれはもう無理で……


 今まで通りあの方のお側に居たいなら、


 今まで通りのやり方じゃ”それさえ”維持できない。


 ――だって……


 「……」


 私はここに来て初めて、無意識だったけれど”しっかり”と瞳を上げていた。


 ――誰にも取られたくないっ!!


 だって……


 鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)というお方は、世界一素敵な男性(ひと)だからっ!!


 ――


 「ふふ、真琴(まこと)ちゃん、良い顔になった」


 ――利いた風な事を……


 「…………らないの?」


 「?」


 そうして私は目前の”ぽっと出女”に言ってやるのだ。


 「だから解らないのですか?最嘉(さいか)さまの御傍(おそば)には”鈴原 真琴(わたし)”以外有り得ないって事を!!」


 初めて外に向けた女としての私の本心……


 その宣戦布告を受けて――


 長く艶やかな黒髪を後ろで束ねたポニーテールの美女は、やや垂れ気味の瞳を細めながら(あか)く薄い唇の端をゆっくり上げる。


 「…………ふふ」


 そんな不敵な笑みを常備した女は本当に……


 憎らしいほど愉しそうだった。


 第五話「坂居湊(さかいみなと)攻略戦」後編 END

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