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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
169/329

第六十九話「動乱の幕開け」―南阿の落日―(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第六十九話「動乱の幕開け」―南阿(なんあ)の落日―


 「海練処(かいれんどころ)を押えられ、長谷部(はせべ)も敵の手に落ちた……じゃと?」


 南阿(なんあ)の海を見渡せる居城の前に張られた陣。


 その奥で布を敷いただけの地ベタにドッカリと立て膝で腰を降ろした行儀の悪い女……いや、小柄ではあるが、よくよく見ると――


 その”女の如き容姿の男”の出で立ちは、かなり風変わりしていた。


 男にしては少し小柄な身体(からだ)の足下には(すね)当てを着けただけの雑な戦支度で、更に上着の左半分から肩をもろ出しにしている様はどこかの名奉行の様でもある。


 そしてその露出した肌は、男としては白く繊細に過ぎて、まるで年頃の女性だが、華奢ながらしなやかな体つきは決して貧弱には映らず、(むし)ろ獰猛な野生の山猫を彷彿させる。


 そんな風変わりな風体の男の後ろで、はためく長物は”一領具足(いちりょうぐそく)”の軍旗。


 支篤(しとく)の”(ゆう)”、南阿(なんあ)国の御印(みしるし)であった。


 「……」


 そういう特異な男の前で、風格のある綺麗に整えられた髭を生やした武将が膝を屈して頭を下げていた。


 「げに早いのぉ……如何(いか)に大軍とて、あの長谷部(はせべ)が撤退する間も与えられんち……中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)?どがい男ぜよ?」


 長めの髪を後ろでくくって無造作に垂らし、細く上がった眉とスッと通った鼻筋、赤みの強い薄い唇の、まるで女性のような容姿で、目前に(かしづ)く無言の家臣相手に会話を続けるこの男は……


 ――南阿(なんあ)の国主、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)


 支篤(しとく)の小国であった南阿(なんあ)支篤(しとく)全土を統一するまでの大国にまで築き上げた男だ。


 君主になって三年で支篤(しとく)の西半分を押さえ、天南(てな)海峡を挟んだ本州の大国天都原(あまつはら)への侵攻を開始し、以降、強固な要塞”蟹甲楼(かいこうろう)”を要して十一年間、大国天都原(あまつはら)と互角に渡り合いつつ、同時に支篤(しとく)東部を次々と押さえて支篤(しとく)統一を成した南阿(なんあ)の風雲児だ。


 女性的な容姿から、若い頃から姫武者と揶揄されてきた春親(はるちか)だが、その本質は生まれついての王。


 慎重にして大胆、狡猾にして愚直。


 王の王たる資質を備えた伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の真骨頂は、(まさ)に異なる才能が混在し共存する不敵さであった。


 「天都原(あまつはら)中冨(なかとみ) 星志朗(せいしろう)とは、眉目秀麗、知勇兼備の神童として幼少時から天都原(あまつはら)国内では知らぬ者無く、軍略においてはあの”紫梗宮(しきょうのみや)”に伍すると……そして剣を取っても天都原(あまつはら)最高の剣士である”十剣”の称号を持つ一人だと聞き及んでおります」


 先程の主君の問いかけに、頭を下げた家臣が応える。


 「今まで戦場で相見(あいまみ)えた事は無いき……噂通りの天才ち言うわけかよ」


 部下の説明にニヤリと上げた伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の皮肉な口元は、石榴のように赤みがかった薄い唇だった。


 「何にしろこれで我が無敵艦隊の拠点は奪われました、長谷部(はせべ) 利一(りいち)も敵の手に落ちた以上、今後は天都原(あまつはら)の海軍力の増大は確実かと……」


 「なら”仲野練兵処(なかのれんぺいどころ)”は……あの場所の人形(ガキ)共は逃せ、最優先じゃ」


 主である南阿(なんあ)の英雄の言葉に風格のある髭の家臣は顔を上げる。


 「承知しました、では直ぐに我が手の者を使い……」


 「貴様(きさん)が手ずからやれ、有馬(ありま) 道己(どうこ)!」


 ――っ!


 怒鳴られ、整った髭の風格ある男……有馬(ありま) 道己(どうこ)は目を見開く。


 「し、しかし、迎え撃った織浦(おりうら)が戦場で行方知れず、天都原(あまつはら)軍がこの尾甲(おごう)城に押し寄せるのも時間の問題なれば、春親(はるちか)様には脱出を……」


 主君の身を案じ、反論する有馬(ありま)だが……


 「最優先と言うたじゃろうがっ!あの人形共を、”剣の工房(こうぼう)”の兵器共を、光友(みつとも)のガキの手に渡すわけにはいかんのじゃっ!」


 だがそれを押さえ込む迫力を見せる女顔の主君。


 「……春親(はるちか)様」


 この時、”南阿(なんあ)三傑”の筆頭たる有馬(ありま) 道己(どうこ)は悟った。


 我が主は……南阿(なんあ)の英雄、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)は既に覚悟を決めているのだと……


 「有馬(ありま)よ、”仲野練兵処(なかのれんぺいどころ)”の……”剣の工房(こうぼう)”の人形共は現在(いま)どれほどの数が()るがじゃ?」


 「…………」


 「有馬(ありま)っ!」


 未だ心の整理がつかない部下を一喝する春親(はるちか)


 「は……はっ……現在の在籍数は二十八人……上は十四、下は九つだったかと」


 ”仲野練兵処(なかのれんぺいどころ)”の……”剣の工房(こうぼう)”の人形達。


 それは、才能を秘めた身寄りの無い子供達を集めて徹底的に戦闘に特化した特殊技能をたたき込む養成所だ。


 「残らず逃がせ」


 「……はっ」


 支篤(しとく)の覇者、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)が創設した南阿(なんあ)の秘密兵器製造所とでも言うべき施設。

 むざむざと他国に渡す愚は有馬(ありま) 道己(どうこ)も承知している。


 「そうじゃな……白閃(びゃくせん)隊の奴等のうち、使えそうなのを二、三百ほど見繕って護衛につけ、貴様(きさん)が自ら指揮を執ってこの南阿(なんあ)から無事逃がすんじゃ」


 「……」


 だが、その指示には押し黙る有馬(ありま) 道己(どうこ)


 ”剣の工房(こうぼう)”の最高傑作たる久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)が、南阿(なんあ)の”純白の連なる刃(ホーリーブレイド)”があの戦いで臨海(りんかい)に寝返ってから、()の者が率いていた白閃(びゃくせん)隊も空中分解状態であった。


 その人材を護衛に当てるのは良しとして、何故(なにゆえ)に自分が……


 この窮地にこそ……


 主君の最後にこそ……


 ――”南阿(なんあ)三傑”筆頭であるこの有馬(ありま) 道己(どうこ)がっ!


 ――南阿(なんあ)の英雄、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の懐刀であるこの有馬(ありま) 道己(どうこ)が、死出に共するのが本道では無いかっ!!


 「…………春親(はるちか)様」


 決意した眼で主を見返した有馬(ありま) 道己(どうこ)が心中の想いを口にしようとした時だった。


 「父上、お呼びと聞きましたが……」


 「っ!?」


 そこに現れたのは一人の少年。


 色白で赤い唇で線の細い……少女と見紛う容姿の、年端もいかぬ少年であった。


 「おうっ!来たか弥三郎(やさぶろう)貴様(きさん)に任務じゃ」


 春親(はるちか)は少年を手招きし、少年は(かしづ)いた有馬(ありま)の隣で、同様に片膝を着く。


 少年の名は伊馬狩(いまそかり) 弥三郎(やさぶろう)


 かつて姫武者と呼ばれし、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の女性的な容姿を後継した南阿(なんあ)の嫡子だ。


 「任務……ですか?」


 弥三郎(やさぶろう)は顔を上げ、少しだけ不服そうに父の言葉を繰り返す。


 「そうじゃ、弥三郎(きさん)は”剣の工房(こうぼう)”の人形達を引き連れ早々にこの南阿(なんあ)を逃れよ」


 春親(はるちか)の口から出た命令に、少年は到底承服できないという表情を露わに、(ちち)を恨めしそうに見ていた。


 「父上はお国の大事に、この弥三郎(やさぶろう)のみが逃げよと仰せられるのですか!?」


 そして、口を尖らせて抗議するが……


 「作戦遂行にはこの有馬(ありま) 道己(どうこ)を頼れ、あとは……」


 完全に無視されて話を進められる。


 「父上っ!」


 シュォォーーン!


 突如、無言で投げ釣りのようなサイドスローで、傍らに置いていた刀を振り回す春親(はるちか)


 ――まんま、釣り竿のように長くて(しな)る刃は……


 ビシュッ!!


 「っ!?」


 伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)が操る長剣は風を切って唸り、そしてそれは少年の首元で制止し鈍い光りを放っていた。


 ――ガチャリ……


 少し遅れて弥三郎(やさぶろう)の立ち上がりかけていた膝が地面に落ちる。


 「ちち……うえ……」


 「……」


 為す術無く呆然とする少年と、傍らで目を見開く忠臣……


 「こん程度で正体を無くすガキが、(いっ)(ぱし)の口を利くなやっ!ふんっ!主命じゃ!弥三郎(きさん)の初陣じゃ!心して励めっ!」


 シュオーーン…………チャキ!


 伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)は長い刀を抜いたときと逆の動きで振り回して再び鞘に戻すと、無力な少年を笑う。


 「……」


 そしてその光景を目の当たりにした有馬(ありま) 道己(どうこ)はまたしても悟っていた。


 主君の嫡男である弥三郎(やさぶろう)様を落ち延びさせる使命が自分に……


 ――これで自分は断れないと


 ――主君の傍にて”在るべき死”を全うすることは適わないのだと


 有馬(ありま) 道己(どうこ)は自らが主と定め、長年仕えた”伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)”と共には逝けぬのだと……


 そう悟ったのだ。


 「丁度ええが、弥三郎(やさぶろう)よ、貴様(きさん)に名をやろう、この場で”元服”じゃ」


 「ちっ父上っ!」


 そして、弥三郎(やさぶろう)の中で、ついさっきのざわめきが収まりきらないウチに、とんでもない発言を重ねて浴びせかける。


 「そうじゃなぁ……弥三郎(きさん)のその羽織……むぅ…良し!”猪親(いのちか)”じゃ!うむ、ええ名じゃっ!!」


 ――なっ!?


 突然の刃に怖じ気づき、膝立ちになったままの弥三郎(やさぶろう)は間抜けな顔で固まっていた。


 武人にとっての名は重要だ。


 まして一軍を束ねる将になる人物なら、一国一城を目指す武士(もののふ)ならば、元服に親から貰う”名前(それ)”は命とも言える。


 ――それを……


 「ち、父上……それは私が今……(しし)の皮で出来た羽織を……纏っているから……で、でしょうか?」


 震える声でなんとかそう確認する弥三郎(やさぶろう)


 「(おう)っ、そうじゃ、突進しか知らぬ愚かな獣に因んででもあるがじゃ!どうじゃ?」


 ――どうじゃ?じゃないっ!!


 息子の名を、跡継ぎの名をそんな安易に……


 ――だから嫌だったんだよ……急に攻めてきた敵に戦支度が間に合わなくて……


 心中で叫ぶ伊馬狩(いまそかり) 弥三郎(やさぶろう)は当年とって十三歳。


 未だ戦に出たことは無く、これが初陣になる。


 とは言ってもこの戦は天都原(あまつはら)藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)が不可侵条約を反故にしていきなり仕掛けてきた戦。


 それゆえに鎧兜、戦衣装の用意が間に合わず、在り合わせの品で補ったわけだが……


 見た目が良くないから要らないと散々抵抗したにも拘わらず、供回りの兵士が海上に出ることがあればこの季節でも冷えるからと、この獣の皮でできた羽織を……


 「うぅ……」


 「クッ、クク……」


 春親(ちち)の意地の悪く上がる口元、弥三郎(むすこ)の顔は見る間に涙目になり……


 傍に控えたままの有馬(かしん)は、密かに含み笑いを漏らす。


 よりによって……


 こんなシリアスな場面で、こんな巫山戯た名を息子に送る父親……


 弥三郎(やさぶろう)は本当に言葉にならない。


 「嫌じゃと?」


 「い、猪武者などと暗喩され、何処(どこ)の誰が喜びましょうかっ!」


 猛抗議する息子に父は更に愉しそうに笑って言い放ったのだった。


 「なら(いず)れ出世して名を変えればええがじゃ、弥三郎(おのれ)の名は弥三郎(おのれ)が掴み取れ!!名とはそういうもんじゃ、くははは」


 「くっ……ち、父上……ならばその名はありが……有り難く頂きましょう……しかし今はそう言う事を言っているのではありません!私も共に……共にこの尾甲(おごう)城に残り、支篤(しとく)の覇者、南阿(なんあ)の嫡男に恥じぬ……っ!?」


 取りあえず、不承不承にも名は諦めたが、少年にも譲れないモノはある。


 成ればこそ、新たにそこまで言いかけた所で……


 弥三郎(やさぶろう)……いや”伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)”は、目前に座る春親(ちち)との間に割り込む影に気を取られた。


 「ご免!」


 ドスゥ!


 「う……は……あり……ま……?」


 ドサリッ


 弥三郎(やさぶろう)改め、”伊馬狩(いまそかり) 猪親(いのちか)”は倒れた。


 有馬(ありま) 道己(どうこ)の放った拳を鳩尾(みぞおち)に受けてアッサリと意識を無くす。


 「……」


 そして、さも平然とそれを見届ける春親(はるちか)有馬(ありま)は向き直り、(ひざまず)いて(こうべ)を垂れた。


 「親子の今生の別れを台無しにして申し訳ありません」


 心底申し訳なさそうにそう言う家臣に春親(はるちか)はニヤリと笑う。


 「有馬(きさん)春親(おれ)を見捨てる覚悟を決めた様じゃな……流石じゃ」


 「……」


 「そうじゃな、時間が余り無いき、逃亡先は……」


 「弥三郎(やさぶろう)様のあの名は(わざ)とでしょう……貴方らしい親の情のかけ方です」


 有馬(ありま) 道己(どうこ)は真っ直ぐに伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)を見る。


 「……」


 そして家臣の言葉に伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)のどこか不真面目を演出していた顔はピリリと締まった。


 「……(いず)れ……(こう)を成した時にじゃ……あの名なら変えやすいじゃろう?」


 そしてその顔は一瞬で、男の女顔は、再びニヤリと赤い唇の端を上げた。


 「”亡き”父の与えてくれた名に感傷的になること無く新天地で励めると……春親(はるちか)様、貴方はどこまでも……」


 「あぁっ!もう止めじゃ止めっ!!貴様(きさん)とこんな話をしてもしょうが無いじゃろ、それより……」


 有馬(ありま)はその主君の反応に、無粋であったと頭を下げた。


 「して……何処(どこ)に逃れよと?」


 そして、主君の意志に沿う形で、再び本題に戻る。


 「なぁに、”アテ”はあるがじゃ……この顛末の責任、取らぬとは言う事が出来ぬ、とびきりの男の元じゃ……」


 「……」


 この時、有馬(ありま) 道己(どうこ)は不謹慎にも思った。


 この主はこの状況でも変わらぬと……


 ――慎重にして大胆、狡猾にして愚直


 王の王たる資質を備えた伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)の真骨頂は、正に異なる才能が混在し共存する不敵さであるのだ……と……


 感慨深く主君を見上げていた。


 「俺はなぁ、有馬(ありま)よ……”支篤(しとく)を平らげた南阿(なんあ)の英雄”、伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)は”支篤(しとく)(ふた)”と謳われし男じゃ」


 「……」


 「世間ではそう称えられし男と言うがじゃ……だがのぉ、実のところは……”支篤(しとく)(ふた)”とは、あの坊主が……あの馬鹿デカい酒壺を担いだクソ坊主が、(かつ)て俺の器を揶揄した表現じゃ……嘲笑じゃ」


 本人には面白く無いはずの過去話を如何(いか)にも愉快そうに話す伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)


 「支篤(しとく)統一が関の山……支篤(しとく)を塞ぐのが精一杯の(ふた)……暗にそう言われ、よくもあの時にあの坊主を斬らなかったものです」


 昔の春親(はるちか)現在(いま)よりも、ずっと気性が荒かった。


 それを良く知る有馬(ありま)だけに、その辺が未だに腑に落ちていなかった。


 「それはなぁ……有馬(ありま)よぉ、それが事実だからじゃ」


 「っ!?」


 その返答に有馬(ありま)は驚く。


 「俺自身、それには気づいておった……いいや、怖じ気づいていたともいえるがじゃ……じゃが、俺はその一言で覚悟を決めた」


 「……それは」


 この男が……


 この自信の塊のような主がそのような弱気な事を……と。


 「癪に障るち、じゃち俺では届かんなぁとは思うちょったが……それを見上げるよりもやはりのぉ……俺は”天下(そこ)”に手を伸ばしてみたいのじゃと……」


 「……」


 ”南阿(なんあ)の英雄”の顔に後悔は見られない。


 少なくとも彼と永年の歳月を共にした有馬(ありま) 道己(どうこ)はそう思った。


 「有馬(ありま)よぉ……井の中の(かわず)は井戸から出てこそ、その身の小ささを知る……知らぬが仏、じゃち、知るのは修羅道……例えそれが破滅への道じゃろうと無視するち、いう事は伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)には出来んのじゃ」


 「……」


 伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)が随一の家臣、有馬(ありま) 道己(どうこ)は押し黙る。


 主君の顔が、場の空気が……そうさせた。


 異論や、ましてや気遣いなど不要だと。


 「…………じゃち……”あれ”は違う」


 「?」


 そして暫し沈黙する家臣に主は言う。


 「あの”食わせ(もん)”は……最初に刃を突きつけち時から……”(モノ)”が違おうた」


 「……それは」


 問いながらも有馬(ありま)には心当たりがある。


 「あの目は限界を認めぬ目じゃ……終焉の地に至っても先を望む破格の……”化物(けもの)”やちう証じゃ……」


 「春親(はるちか)様……」


 伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)が認めざるを得ない才能。


 伊馬狩(いまそかり) 春親(はるちか)にして、恐れを抱かずにいられない才能。


 「くっくく……行けよ、有馬(ありま)!あの巫山戯た策士(ペテンし)……」


 それは……


 ”有馬 道己(かれ)”も良く知る男。


 一度(まみ)えただけの才能。


 だがそれで十分の偉才にして異才。


 「臨海(りんかい)のくそガキ、鈴原 最嘉(さいか)を頼れいっ!!」


 それは”王覇の才”を秘めし時代の寵児の名であった。


 第六十九話「動乱の幕開け」―南阿(なんあ)の落日― END 

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