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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
155/329

第六十話「二人の美姫」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第六十話「二人の美姫」前編


 「京極(きょうごく) 陽子(はるこ)です、本日は遠路遙々”我が居城”までお運び頂き感謝致しております、方々の来訪を歓迎します」


 俺の前で優雅に微笑む、一分(いちぶ)の隙も無い佇まいの美姫。


 ――天都原(あまつはら)王位継承権第六位、紫梗宮(しきょうのみや) 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)


 腰まで届く緑の黒髪はゆるやかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った肌と対照的な(あで)やかな(あか)い唇に終始余裕のある笑みを浮かべている。


 ――さすが(はる)……大物っぷりが半端じゃない!


 彼女以外全てを無価値に貶めるほどの美貌を所持する暗黒の美姫は、何時如何(いついか)なる時も堂々としていた。


 「燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)です、お気遣い感謝致します。こちらこそ”従妹(いとこ)”である陽子(はるこ)殿とはこうしてお目にかかれる機会を(かね)てより願っておりました、それが叶って嬉しく思っております」


 ――対して”旺帝(おうてい)”前女王、燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)


 艶のある長く素直な黒髪がなんとも美しく、軽く会釈した時に眉にかかった前髪がサラサラと流れ輝いて優雅にゆれる。


 透き通った透明感のある肌と整った輪郭、可憐で気品のある桜色の唇。

 高貴さと清楚さを兼ね備えた比類ない容姿の美少女だ。


 「……」


 その旺帝(おうてい)が美姫の返事を聞き、ピクリと美しい眉を動かす我が暗黒姫。


 ――あっ


 その時俺は一瞬で察した。


 燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)の発した”従妹(いとこ)”という言葉が、京極 陽子(かのじょ)の神経に(さわ)ったのだと!



 ――”従妹(いとこ)”……ねぇ


 きっと陽子(はるこ)には”いとこ”という言葉の響きのままで無く、それは”従妹(じゅうまい)”という文字列で聞き取ったのだろう。


 実際、旺帝(おうてい)燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)陽子(はるこ)より二歳年上でそれは紛れもない事実だが……


 従妹(じゅうまい)……妹、つまり”目下(めした)”であると聞こえたワケだ。


 俺はチラリと、目前の陽子(はるこ)を通り越して正面の美しき竜姫に視線をやった。


 「……」


 ――なるほど……


 どうやら俺の見る限り、”燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)”はそういう意図を微塵も抱いていないだろう。


 言葉の通り、運命により敵国同士となった離れ離れの血を分けた身内……

 その陽子(はるこ)にこうして平和裏に会えたのが素直に嬉しいのだ。


 ――たく……(はる)の勝ち気な性格にも困ったものだ


 ――自分だって最初の挨拶の時に”我が居城”とか”かました”クセになぁ……


 つい数時間前まで旺帝(おうてい)領土だった香賀美(かがみ)領、その旺帝(おうてい)の前女王を前にしてだ!


 新たに”新制天都原(あまつはら)国”を名乗る京極(きょうごく) 陽子(はるこ)の新たなる居城、香賀(かが)城の一室にて、その歴史に残る会合は行われていた。


 出席者は……


 新制天都原(あまつはら)国方、三名。


 (あるじ)たる京極(きょうごく) 陽子(はるこ)と臣下の一原(いちはら) 一枝(かずえ)十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)


 正統旺帝(おうてい)方、三名。


 (あるじ)たる燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)と臣下の穂邑(ほむら) (はがね)とあと一人、目つきの(すこぶ)る悪い少女……


 ――そして……そのどちらの勢力でも無い俺だ。



 「……では、条約の手続きを」


 ごく簡単な挨拶が済んだところで、俺同様に陽子(はるこ)の後ろに控えていた”王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)一原(いちはら) 一枝(かずえ)が促し、二人の美姫が(あつら)えられた席に着く。


 「……」


 ――まぁそれはともかく、これほどの美姫達が……ねぇ


 間違い無く”(あかつき)”を代表するであろう東西の美姫がこの香賀美(かがみ)領都の堅城、香賀(かが)城に会する奇蹟。


 俺はその眼福といえる光景に、自らが画策した結果とはいえ心中で小さくガッツポーズをしていたのだ。


 ――ナイス俺!グッジョブ!


 「……」


 「……」


 そして対面で……


 ”黄金竜姫”と呼ばれし旺帝(おうてい)前女王の後ろに控え、俺同様に締まりの無い顔の穂邑 鋼(バカ)と視線を合わせてお互いに頷き合っていた。


 ――”さっきの勝負、今回は引き分けだ”……と


 甲乙つけがたい美貌の二人。


 陽子(はるこ)と張り合える美女がこの世にいるとは……


 俺はそんな感想を抱きつつ、条約文書に目を通す”黄金竜姫”をここぞとばかりにマジマジと見ていた。


 「……」


 ――澄んだ濡れ羽色の双瞳(ひとみ)


 その宝石の中で波間に時折揺れるように顕現する黄金鏡の煌めき……

 神々しいまでに神秘的で印象的な双瞳(ひとみ)の美少女だ。


 ――間違い無い


 大方の予想通り、旺帝(おうてい)の黄金竜姫、燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)は……


 ――”十戒指輪(クロウグ・ラバウグ)(ゆかり)の姫。序列一位、”黄金”の双瞳(ひとみ)を所持する魔眼の姫だ!


 「……条約内容は理解しました」


 燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)は文書に落としていた美しい濡れ羽色の視線を上げ、正面の陽子(はるこ)に告げる。


 「京極陽子(わたし)が治める”新制天都原(あまつはら)”と燐堂 雅彌(あなた)が治める正統なる”旺帝(おうてい)”……この二国の同盟を(もっ)てお互いの敵に対峙する。これを了承して頂けたと思っても良いのかしら?」


 陽子(はるこ)は表情を変えずに正面の”黄金竜姫”を見据えていた。


 「……」


 「……」


 一瞬、絡み合う”黄金”と”暗黒”の双瞳(ひとみ)……



 漆黒のそれは、一言で言うなら”純粋なる闇”

 恐ろしいまでに他人(ひと)を惹きつける”奈落”に沈む暗黒の双瞳(ひとみ)



 黄金のそれは、澄んだ濡れ羽色の波間に時折揺れるように顕現する黄金鏡の煌めき。

 神々しいまでに神秘的で印象的な”黄昏”に染まる黄金の双瞳(ひとみ)


 不世出の美姫二人による至宝の双瞳(ひとみ)の共演。


 その一瞬、場は静かなる緊張感でまるで時が止まったかのようであった。


 「ええ、異存はありません」


 「そう……」


 唯々向き合って座っているだけなのに……なんて美しい空間なんだ。


 俺も、その他の者達も多分同様にその場に憧憬の視線を……


 ――ガッ!


 「うぉっ!」


 ”(あかつき)”屈指の美姫二人の共演に水を差すかの如き無粋な悲鳴が響く!


 ――っ!


 ――!?


 そして、俺の上げた無様な悲鳴は悪い意味で場の人々の注目の的だった。


 「うっ……いや、あの……」


 皆の視線が痛い……

 いや、何故このような事態になった?


 それは……


 ”黄金竜姫”の美しく整った桜色の唇がそっと動いて肯定を示し、その仕草に思わず見蕩(みと)れていた俺は……(すね)辺りを何者かに蹴り飛ばされたのだ!


 ――そう、何者か……


 「……」


 大仰な椅子に腰掛けたまま、何食わぬ顔で背後に立つ俺の(すね)を器用に襲った暗黒の美姫。


 ――()ぅっ……


 この場の状況と空気では、俺は真犯人の名を上げることも出来ず、痛みに(すね)を押さえることも出来ない。


 「……あの?」


 「後はこの”鈴原 最嘉(バカ)”が説明を行います」


 整然とした姿勢で座ったままの恐ろしい美少女は、不思議そうな顔をする黄金竜姫と旺帝(おうてい)の面々にニッコリと微笑んでそう言ったのだった。


 ――あ、悪魔め……


 「鈴原……様?方々に早く説明を」


 恥ずかしさと痛みと……


 俺は憎々しい視線を目前に鎮座した暗黒姫の後頭部に向けていたが、同じく陽子(はるこ)の後ろに控えていた一原(いちはら) 一枝(かずえ)がお構いなしで早くしろとせっついてくる。


 ――ちっ……誰にもバレずにこんな器用な事が出来るなんて陽子(おまえ)は白鳥かよ!?


 ”白鳥”……優雅に泳ぐ美しき鳥の代表たる白鳥も、水面下ではバタバタとヒレの足を忙しなく動かしているという……


 「鈴原様!方々がお待ちです、お早く!」


 「……っ!」


 更に俺を急かす、顔面の右半分をほぼ全て隠した巨大眼帯女。


 女は一応これが正式な場所だと言う事で、他国の王たる俺に様付けで言葉の上では丁寧に対応してはいるが……


 「……」


 しかし俺はしっかり聞いていた。


 ――”貴様、早くしろっ!首から上が無くなるぞ!”


 と……


 その女が物騒な脅し文句を小声で囁いたのを。


 「す・ず・は・ら・さ・まっ!!」


 「うっ!解ったって……はぁ……」


 俺はなんだか色々と諦めて項垂れ、そのまま陽子(はるこ)の後ろからズイッと前に出た。


 「……」


 二人の美姫が挟むテーブルの横に、これ見よがしにケンケンで進み出るが……


 「ふっ……」


 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)はそんな俺を美しく整った(あか)い唇で嘲笑っていた。


 ――この……意地悪い笑みさえこんなに可愛く無ければ!……くそ……


 「ま、先ずは自己紹介だが、俺は鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)臨海(りんかい)の王で今回のこの同盟の発案者だ」


 心中複雑ながら、確かに話を進めないといけないと、若干左右のバランス悪く立って自己紹介した俺に、二人の美姫だけでなく場の全員が注目する。


 「取りあえず現状、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)殿は事実上、天都原(あまつはら)の中枢を握った藤桐(ふじきり) 光友(みつとも)という敵を抱え、燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)殿には旺帝(おうてい)を乗っとった燐堂(りんどう) 天成(あまなり)という討つべき敵が在る」


 ――


 場の面々は沈黙で肯定を返していた。


 「そして”(あかつき)”でも一番と二番の大国を向こうに回して戦うという選択肢を両人が選んだ時点で、この同盟は成るべくして成ったものだといえる……つまり」


 俺はテーブル上に”(あかつき)”全土の地図を置き、そしてその中央辺りを指差した。


 「“(あかつき)”本州、西に主な版図を持つ”天都原(あまつはら)”と、東に絶対的な拠点を構える“旺帝(おうてい)”。この二国を分断する中央の位置……その北部に京極(きょうごく) 陽子(はるこ)殿が治めるこの香賀美(かがみ)領が在り、南部の半島には燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)殿が治める恵千(えち)領が在る。そして……」


 俺は”(あかつき)”本州の中央部、東西の大国が睨み合う境界線の南北に存在している二人の美姫が治めし領土の間を指し示すっ!


 「我が臨海(りんかい)はその間を縫って目下(もっか)旺帝(おうてい)”領土内に進行中だ!」


 ――


 俺の言葉を受けて難しい顔で地図を睨む面々だが、やがて黄金竜姫の後ろから一人の男が半歩ほど前に進み出る。


 「つまり……紫梗宮(しきょうのみや)殿と我が旺帝(おうてい)、更には貴公の臨海(りんかい)軍との三国同盟という形で先ずは旺帝(おうてい)に相対すというわけか」


 言葉の主は旺帝(おうてい)の独眼竜、穂邑(ほむら) (はがね)だ。


 「しかし……それはつまり大国二国の挟撃に晒されるという事でもあるのでは無いだろうか?東西から押し寄せられたら如何(いか)に三国同盟とて戦力的にひとたまりも……」


 更に、一原(いちはら) 一枝(かずえ)が地図をジッと見詰めたまま、思案顔で異議を挟んだ。


 「……なるほど、尤もな見解だ」


 俺はそんな二人の意見を受け、地図上の指をそのまま西の天都原(あまつはら)へと動かした。


 「だが、俺の予測では天都原(あまつはら)は当面動かないだろう、何故ならその”利”が無いからな」


 「……」


 「むぅ……」


 俺の言葉に二人は微妙な表情を見せながらも反論はしなかった。


 「なら、話を続けるが、天都原(あまつはら)と……」


 「まてぇぇーーいっ!」


 ――っ!?


 そのまま説明を継続しようとした時だった、穂邑(ほむら)の隣にいる小柄で目つきの悪い少女が小さい身体(からだ)を仰け反らし、俺を睨み上げながら前に出て来たのだ。


 第六十話「二人の美姫」前編 END

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