表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
148/329

第五十六話「顎髭男の善悪」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第五十六話「顎髭男の善悪」後編


 ”香賀美(かがみ)領攻略”が一段落した俺は、穂邑(ほむら) (はがね)の言葉をきっかけに、もう一度状況の整理の意味も兼ねて置かれた状況を思い返してみる。


 ――赤目(あかめ)領土内の反乱……


 この本命中の本命ともいえる問題は、陽子(はるこ)の方が落ち着き次第に俺が直々に対応する予定だ。


 だから今回情報を整理してみるのはその他の二件である。


 先日、”近代国家世界”で花房(はなふさ) 清奈(せな)から報告のあった二件だ。


 臨海国内、日乃(ひの)領での反乱分子の一件と、宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)絡みの一件だったか?


 とはいえ、実はこれらの問題はこの時点で一応の解決をしてはいた。


 「……」


 ――そうだな、先ずは”日乃(ひの)での反乱分子の一件”からいうと……


 ――

 ―


 「その件は……あ、あの、今日にも担当者が直接、王様に……ご、ご説明したいと……」


 ”近代国家世界”で花房(はなふさ) 清奈(せな)は俺にそう言った。


 果たして同日、ほどなく那知(なち)城主、草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)九郎江(くろうえ)にある鈴原本邸へと、俺に謁見を求めて来訪したのだった。


 ――


 「只今説明させて頂いた通り、この反乱がこれ以上拡大するのを抑え、更に首謀者一味を一網打尽にする手立てが我が胸中にはあるのですが……どうでしょう?」


 会うなり、その顎髭(あごひげ)男は俺に献策をしてきた。


 この顎髭(あごひげ)男、草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)の言う秘策とは簡潔に(まと)めればこうだった。


 日乃(ひの)の反乱軍は、前回の日乃(ひの)攻防戦時に南阿(なんあ)白閃隊(びゃくせんたい)に破れ、最終的に臨海(りんかい)へと降った事に異論のある者達である。


 恐らくは赤目(あかめ)の妖怪、鵜貝(うがい) 孫六(まごろく)に焚きつけられ、踊らされた奴等だが……


 実際に強硬派なのはそのごく一部らしい。


 結果的に我ら臨海(りんかい)日乃(ひの)を手に入れたあの戦で、俺が裁いた(ぜん)日乃(ひの)領主、亀成(かめなり) 弾正(だんじょう)の娘と、久井瀬(くいぜ)……あの時は久鷹(くたか) 雪白(ゆきしろ)だったが、その彼女に散々に叩かれた覧津(みつ)城の元兵士の残党がそうだ。


 勘重郎(かんじゅうろう)の見積もりでは、数は……実質、百程も無いという。


 つまり、それ以外の数百在るという反乱軍は有象無象……


 草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)が言うには、この機により良い条件を得ようと画策する程度の輩であるから、少しばかり脅しをかければ黙らせる事は容易いと言うことだ。


 「で、人質を使って脅すのか?」


 俺は目の前で膝をついたこの顎髭(あごひげ)男の考えそうなことを察して確認する。


 「ほほぅ……ふむ、戦国の世で人質とは元来そういう使い道でありましょう?」


 顎髭(あごひげ)男は少しだけ驚いた顔をしたが、あくまでも俺の質問に一般論で返す。


 「まぁな、こんな状況で使える”カード”としては確かに重宝はするよなぁ」


 ならばと……俺も白々しくもそう答えた。


 ――この顎髭(あごひげ)男とのやり取りは何時(いつ)もこうだ


 お互いの腹を探り合って自らの考えと比較する。


 それは俺の器を(はか)っているのか、それとも……


 「ふむ……実はですな……今回、都合の良い事に日乃(ひの)領土内、各地の主要人物の奥方、子息の所在は周知しており、監視も……」


 ――都合の良い?よく言うな……


 実は俺は知っていた。


 日乃(ひの)領都にある堂上(どのうえ)城、及び那知(なち)城、覧津(みつ)城という前の戦で戦火に見舞われた城に対して、俺が指示した修復作業を一手に仕切った草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)はその一環として、主たる者達の親類縁者にまで相当数の使用人を貸し与え、色々と個人的にも援助したという。


 だが、(そもそ)もが”計算高い”と評判のこの顎髭(あごひげ)男が善意で身銭を切る訳がない。


 つまりコレは何かあったときの保険だ。


 もっと露骨に言うと……


 あからさまな懐柔工作と、それでも(なび)かぬ未来の反乱分子となる可能性への”諜報部員”兼”暗殺部隊”といったところだろう。


 「亀成(かめなり) 多絵(たえ)……(ぜん)日乃(ひの)領主、亀成(かめなり) 弾正(だんじょう)の娘の身辺にも子飼いを潜ませているのか?」


 「まさか、全ての未来を見通せる者は神のみでしょう?」


 俺の問いに男は顎髭(あごひげ)(さす)って笑う。


 ――なるほど、”運命神”とまではいかないものの”似非(えせ)占い師”程度には把握してあると……


 俺はそんな、何事にも用意周到な腹黒男とのやり取りに少し食傷気味ではあったが……


 「…………わかった」


 ――実際、それを知っていながら、ある意味”確信犯的”に放置していた俺が意見するのもなぁ……


 と、顎髭(あごひげ)男の策に頷いてみせるだけだった。


 「ふむ、よろしいので?反乱拡大は抑えられましょうが、場合によっては最嘉(さいか)様の御名(みな)に傷が付くかもしれませんぞ?」


 ――御名(みな)?……女子供を人質になど卑劣な……ってやつか?


 「別に、どうってことないな」


 俺は即答する。


 悪辣だとか、姑息だとか……戦場で”詐欺(ペテン)師”と揶揄される俺に何を今更と受け流す。


 「ほぅ……ふふふ」


 それを受けて……顎髭(あごひげ)男、草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)は何故か満足げに頷いていた。


 「ふむ……”善悪”などと言う価値観を多くの者が当然の如く振り(かざ)しますが、要は”利”を得る者の数の違いのみ。多ければ善で少なければ悪……行動に伴う本人の価値、真価を問われる”道理”や”矜恃”とはまるで別物の上辺だけの方便。それが最嘉(さいか)様は本質のところでよくお解りでありますな」


 ――身も蓋もないことを……


 俺は顎髭(あごひげ)男の言い様に呆れながらも、聞かなかったかのように続けた。


 「有象無象はそれで良しとして、本命の(ぜん)日乃(ひの)領主、亀成(かめなり) 弾正(だんじょう)の娘という亀成(かめなり) 多絵(たえ)とその周りの者達はどう対処する?」


 俺の問いに草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)は更に碌でもない悪巧みの顔で笑う。


 「()の者達の元には、御察しの通り”実行部隊”とまでは及びませなんだが、”目”や”耳”を仕込む事には抜かりはありませぬ、なれば”正々堂々”と相手の交渉に応じる振りをして”騙し討ち”にて捕らえましょう」


 ――”正々堂々”に”騙し討ち”ね……


 この男にこの手の話で、最早俺には今更言うことは無い。


 俺は草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)の策を採用したとばかりに頷くと、実行の許可を出す。


 「我が未熟なる策をお聞き入れ頂き恐悦至極!……では私は”戦国世界”に切り替わり次第、事に取りかかりますので、早速、那知(なち)に戻らせて頂く事とします」


 満足そうな表情(かお)で頭を下げ、部屋を去ろうとする顎髭(あごひげ)男の背中を眺めていた俺は、ふと思う。


 「そうだ、草加(くさか) 勘重郎(かんじゅうろう)


 「はっ!」


 そして退室寸前だった男は振り向いて俺を見た。


 ――最早、俺には今更言うことは無い……という訳でもなかったな


 俺はそう思い直し、こう言ってみた。


 「ミイラ取りがミイラになるなよ?」


 「っ!?」


 少しだけ呆気にとられた顔の顎髭(あごひげ)男は、僅かに時間を置いてから……


 「()もありなん、ですなぁ」


 (たの)しそうな笑みを浮かべて顎髭(あごひげ)(さす)ったのだった。


 第五十六話「顎髭(あごひげ)男の善悪」後編 END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ