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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
144/329

第五十四話「撃破」 前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第五十四話「撃破」 前編


 シュバッ!

 シュバッ!

 シュバッ!


 十字傷の武人、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)から連続して繰り出される槍の速射突き!


 「くっ!」

 「っ!」

 「はっ!」


 俺は馬上でそれを右に左に体をズラして(かわ)す。


 ――尋常で無い速度だ……


 穂先の銀色が”十文字”の原型で捉えることが出来ずに、銀の尾を引いて襲い来るっ!


 だが、それでも俺は忙しく体を動かしながらも考えていた。


 ――避けきれない程の速度じゃ無い!


 「よしっ!」


 ダッ!


 何段もの突きを(かわ)しきった俺は馬の腹を蹴り、一気に間合いをつめて刀の距離に……


 ドォンッ!


 ――っ!?


 間合いを詰めた瞬間、十字傷の男は(あぶみ)だけで自馬を自在に操り、近づいた俺の馬にぶつけてきた。


 ヒッヒィィーーンッ!!


 「う、くそっ!」


 (たちま)ち俺の乗る馬は前足を振り上げて(いなな)き、垂直になった馬の背に俺はしがみつく。


 「甘いわ小僧っ!」


 シュバッ!


 「くっ!」


 ギィィーーン!


 馬首ごと俺を串刺そうと伸びた槍先を、小烏丸(こがらすまる)の背で叩き落とした俺は――


 ダダッ!


 一旦、距離を取る!


 「ほぅ、あの体勢で凌ぐか?鈴木 燦太郎(りんたろう)


 「……」


 俺は応えずに剣を前面に備えた。


 「良き面構えだ、鬼子よ」


 「……」


 一対一での闘いの本質は間合いの奪い合いだ。


 敵の不得手とする間合いにて凌ぎ、己の得手とする間合いで決する!


 ”(オレ)”と”(ヤツ)”でいうなら、俺の間合いは奴の懐近く……


 長い槍が取り回しに苦労する近距離にて刃の交換を持続させる。


 ――それが俺の勝利に一番近いんだが……


 ズチャッ!


 俺の目前には顔面に十字傷の武人。


 「さぁ!さぁ!更に参ろうぞ!天都原(あまつはら)鬼子(おにご)よっ!」


 その百戦錬磨の面構えには微塵の油断も無く、握る得物には一切の躊躇も無い。


 ――流石は旺帝(おうてい)八竜の”魔人”……けどな!


 実際、剣を交えて感じた。


 ――武術の腕は俺の方が上だっ!


 ――”才能(センス)”も”速さ(スピード)”も負ける気がしない。


 「…………」


 だが、


 厳然たる事実は……


 ”痺れた”指にしっかりと力を入れ直し、眼前に構えた小烏丸(こがらすまる)の柄を握り直す俺の姿。


 痺れた指先……想像以上に重い刺突、斬撃の数々。


 伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)が打突一つに秘められた代物……それは圧倒的な修羅場の数だ!


 この男に(よわい)で劣る俺には現時点で決して越えることの出来ない、”死に接した数”とでも言い換えれば良いだろうか。


 「鈴木 燦太郎(りんたろう)よ、貴様の武才は瞠目に値する。(しか)れどもっ!」


 ドシュッ!


 再び旺帝(おうてい)の魔人、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)の槍が突き抜けた!


 「くっ!」


 ――駄目だ……


 シュバッ!

 シュバッ!

 シュバッ!


 「戦場で思考するとは何たる忽略(こつりゃく)かっ!!」


 十字傷の武人、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)から再び連続して繰り出される槍の速射突きの波状攻撃!


 「くっ!」

 「っ!」

 「はっ!」


 ――駄目だ!”これ”では駄目だっ!!


 「(しか)と覚えよ!戦場で思考に値するは、”殺すか殺されるか”の確認のみっ!」


 「ちぃっ!」


 如何(いか)にも”武侠一路(ぶきょういちろ)


 ――全く参考にならないご意見、しっかりと”ご教授(レクチャー)”頂き痛み入るが……


 「くはっ!」


 勿論、俺にはそんな余裕は無い。


 シュバッ!

 シュバッ!

 シュバッ!


 ――避けきれない速度じゃ無い、だが……


 ――大きく(かわ)していたんじゃ反撃できない!


 中途半端な反撃では百戦錬磨のこの魔人は対処出来てしまう。


 数多の戦場、幾多の死地にて生き残ってきただろう歴戦の武人には、あらゆる状況下での対応が身に染みこんでいるのだ!


 シュバッ!

 シュバッ!

 シュバッ!


 「くっ!」

 「はっ」

 「ふっ!」


 ――もっと小さく……コンパクトに……


 シュバッ!

 シュバッ!

 シュバッ!


 ――紙一重で(かわ)……


 「ちっ!」


 「っ!」


 ズバァァッーー


 顔面を撫でた穂先が?の辺りの布を引き裂いただけでは飽き足らず、

 包帯下から露出した自前の肌をもザックリと切り開いた後に、血飛沫を道連れにして後方へと抜けた!


 ――(いな)、薄紙一枚でも駄目だ!


 ズシャァァ!


 再び俺の胸元に向けて伸びる十文字槍の穂先!


 ――そう、無事に(えぐ)られる距離にて迎え撃つ!


 その十文字刃が縦になって迫るのを俺の動体視力は確実に捉えていたのだ。


 「……」


 ハッキリと十の文字を象る穂先。


 突き刺す尖端とは別に左右に伸びる水平の刃が地面に対し平行では無く、垂直に立った状態で迫り来る!


 ズシュゥゥッーー!


 ――垂直に立つ十文字槍なら横幅が無い……


 唸り来る穂先が胸に触れ、その力の奔流(ベクトル)を察知した俺は体軸(たいじく)に沿って自然に身を(よじ)る。


 ――


 「ぬっ!?」


 鋭い眼を見開く魔人。


 奴には槍先が俺の体中をすり抜けたように見えただろう。


 「面妖なっ!」


 ――だが実際は……掠っただけ!


 軸によって回転する”滑車”を相手にするなら、

 寸分違わぬ精度で中心を射貫かねば攻撃は空しく受け流されるだけ。


 鋭い十字槍の穂先を胸に突き刺された瞬間に軸で受け流した俺は、そのまま敵の槍を後方へと送り、距離を詰めて――


 ダダダッ!!


 まんまと相手の眼前に、”(オレ)の距離”に侵入する事に成功していた!


 「ぬうぅぅっ!!」


 唸る伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)


 俺はここぞとばかりに小烏丸(こがらすまる)を突き刺す!


 ガシィィ!


 「なっ……んだと!?」


 しかし伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)は俺の渾身の一撃を、更に自ら体を捻込んで回避していた!


 「くっ……はぁ!神威(じんい)(すべ)よ!……矢張りやりおるわ、鬼子(おにご)


 ギリリ……


 「くっ!この……魔人」


 ”(ヤツ)”から”(オレ)”の距離へ……それを更に無手の距離へと、

 俺の苦労を一瞬で台無しにする魔人、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)


 ヤツは組み打ちの距離まで踏み込む事により、俺がヤツの槍をそうしたように、突き出した刀をやり過ごしたばかりか、そのまま剣を握った俺の右腕を自らの左の脇で挟んで()めたのだ。


 ギリリッ……


 「くっ……は……このっ……」


 ――なんて戦馴れした男だ……ど……んな状況でも……対処してくる


 ギリリリ……


 「…………」


 そして俺は見た。


 お互いが馬をぶつけ合う距離の馬上で、刀を握った肘部分を魔人の左脇に挟まれ締め上げられたまま、至近距離から見上げた十字傷男の顔面は……


 「終わりだ、鈴木 燦太郎(りんたろう)


 不敵にも笑っていたのだ。


 「……」


 刀を持った俺の右腕は動かせない。


 ――なら、左は……


 「(ふん)っ!!」


 ビシッ!


 「なっ!?」


 ギユルルルゥゥーー!!


 伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)が槍の握り部分をまるで指を鳴らすかの動作で弾き、(てのひら)の中で回転させる!


 俺の左脇に在る敵の槍の柄……それがドリルの様に激しく回転して暴れる。


 ――奴は何をした?


 手中の槍の柄を指で弾いて回転させた?


 ――何のために?


 ギユルルルゥゥーー!!


 伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)が握る槍の柄は(かわ)した俺の左脇の下を通って……その先には……


 そう、一度はやり過ごす事に成功し、今は俺の後方にある”十文字槍の穂先”


 ギラギラと、切り刻む道具特有の鈍い輝きを(まと)ってそれは俺の背後で暴れる!


 ――ゾクリッ!


 背後から感じる冷たい刃の感覚に俺の背は震えた。


 「ぬうぅぅぅっ!!」


 器用にも、暴れる槍をそのままに後方へ動く男の右肘!


 それは掘削機のドリルのように回転する槍先を一気に引き戻す為だ!


 「くそっ!」


 ――冗談じゃ無いっ!


 背後から舞い戻ってくるのは回転した十文字槍の横刃……


 ギユルルルゥゥーー!!


 それはプロペラ機の羽音に酷似する不快音を引き連れて背後から迫る!


 「くっ!ぐっ……」


 しかし俺はどうすることも出来ない。


 お互いが胸を合わせて抱き合う様な格好のまま、刀を握った俺の右手は奴の左脇でガッシリと()められ空しく男の背で泳ぐだけ。


 ギユルルルゥゥーー!!


 回転して戻ってくる旋風翼は骨肉砕く十文字槍。


 十の文字を形取った刃は、先程(かわ)した時と違い、激しく暴れて背後から死を告げる!


 ――ちっ……行きは良い良い帰りは怖い……ってかよっ!


 最初からこれが目的か!?


 それとも、この”旋風斬”さえも、この男の臨機応変さなのか!?


 ――


 どちらにしても四の五の考えている暇は無いっ!!


 「っ!」


 ギユルルルゥゥーー!!


 ガキッ!


 ギ……ギギッ……ギギィィーー!


 ――()うっ!


 俺は自身の左脇下を通って戻ってくる槍の柄を、なんとか自由の利く左腕で挟み込み、(とど)め置こうとと試みるが……


 ギユルルルゥゥーー!!


 その勢いは凄まじく、また右腕を封じられ体勢的に不十分な俺では……


 ズシュゥゥッ!


 「ぐはぁっ!」


 それも空しく、俺の背には回転する十文字の横刃が深々と肉を(えぐ)り、視界を歪めるほどの衝撃と共にめり込んでいたのだった。


 第五十四話「撃破」 前編 END

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