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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
143/329

第五十三話「十字傷の魔人」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第五十三話「十字傷の魔人」後編


 ワァァァァッーー!!

 ワァァァァッーー!!


 「…………」


 ――大局は決した……だが、


 俺は戦場只中にて――


 削られ、既に三分の二以上を失った敵軍を眺めながらも、相手の士気が殆ど下がらず、また攻勢も弛めない戦いぶりにある決断を迫られていた。


 「旺帝(おうてい)八竜……なるほど、その肩書きは伊達じゃないってか?」


 ――シャラン!


 腰の”小烏丸(かたな)”を抜き放ち、ダラリと下げたままで混戦の正面を見据える俺。


 「()しくも目的は同じ……小細工無しの正面決戦での圧倒的勝利。野戦での正面決戦には力くらべ以外の何物も必要ない、ならば数と士気がモノを言う」


 カッ、カッ……と、馬を悠然と前に進め、独りの十文字槍を掲げた騎馬武者が呟きながら姿を現した。


 「……」


 馬上よりギラリと陽光を反射して高々と掲げられた十字型刃の穂先。


 槍先に十の文字を形取った左右対称の禍々しい刃が、滴る血をそのままに尋常で無い剣気を(まと)う。


 「で在れば、この為体(ていたらく)は……この”冥府魔道”の陣形を、密集度の低さと見て取った”伊武 兵衛(わし)”の未熟に尽きるかよ、この情け容赦の無い戦い(ざま)をこのような若造がとは……(まさ)しく”鬼子(おにご)”か?」


 ザシッ!


 そして俺の直ぐ目前に……


 三メートルほどの鼻先に停止し、馬上にて堂々と仁王立つ。


 「”冥府魔道”とか”鬼子(おにご)”とか色々嬉しくない評価痛み入るが……そうでもないさ、この期に及んで兵を退かず、死地に(とど)まり続けるのは正解だ」


 俺は下げた刀をそのままに、目前の男……


 顔面に斜め傷、更に逆から斜め傷……

 所持する槍と同様の十字傷を(おもて)に刻んだ堂々たる男に視線を向けて応えていた。


 わぁぁぁぁっーー!!


 ギャリィィーーン!

 ガキィィィーーン!


 わぁぁぁぁっーー!!

 わぁぁぁぁっーー!!


 勝敗は決しつつあるといっても未だ混戦の戦場只中にて――


 「……」


 「……」


 俺とその十字傷の男を囲む一帯は嘘のように静寂が支配する。


 「……」


 ――いや……俺がそう感じるほど、この男の存在感は……


 「ふん、抜かせ小僧が……だが」


 十字傷の男は不敵に笑いながらも俺を見る眼光は只管(ひたすら)に只者で無い。


 「見事だ!!この”旺帝(おうてい)八竜”が一竜、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)にして未知の戦場!神如き(いくさ)振りよ!(まこと)称揚(しょうよう)の極みっ!」


 そうして男は掲げた十文字槍の穂先をグイと俺の方へと向けた。


 「……」


 ――やっぱ”旺帝(おうてい)八竜”……ね、だと思った……ははっ、だろうなぁ


 スチャ!


 俺は無言のままで、下げていた刀を引き上げて刃を水平に、前面に突き出して構える。


 「俺は、鈴木 燦太郎(りんたろう)天都原(あまつはら)国が誇る麗しの美姫、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)様に仕える幸運(ラッキー)で少しばかり”やり手”を自称する一介の軍人だ」


 そして俺の巫山戯(ふざけ)た名乗りに、目前の十字傷……

 ”伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)”の厚い口元は愉しげに(ねじ)()がる。


 「人を喰った童子(わっぱ)よ……だが、これほどの才が未だ天都原(あまつはら)に埋もれていようとは」


 「それはどうも、けどな……俺の戦術を”冥府魔道”とご大層に比喩して頂いて光栄の至りだが、キッカリ返上させて貰う。大体、俺には”伊武 兵衛(アンタ)”の方がよっぽど”それ”に相応しく見えるがな?」


 ――”神如き(いくさ)振り”は素直に受け取るとしても、”冥府魔道”や”鬼子(おにご)”はどう解釈しても褒め言葉とは程遠い


 俺はそう軽口を返しながらもこの相手を理解していた。


 ――大局は決した!


 それ自体は間違いの無い事実。


 しかし我が”迷宮封殺陣”にこれほど根深く取り込まれて尚も抗うこの戦法……


 侵入した自軍が尽く内部で絡め取られ、殲滅され行く状況で尚、離脱せずに持ち堪え続けさせるこの敵総大将……


 ――それは指揮官の選択として正解だ


 この状況を恐れ、下手に退くよりはこのまま継続する方が戦える。


 この状況で攻勢を止めるとなると主力の殆どを壊滅させられた旺帝(おうてい)軍は散り散りに秩序無く霧散し、我が軍の追撃にてアッサリと全滅するからだ。


 ――しかし……


 ()りとて、継続させたとて……

 圧倒的不利、いや敗北は変わらないだろう。


 壊滅までの時間が僅かに延びるだけ。


 だが……この男、この剣気……


 「(ぬし)にはそう見えるか?儂が……」


 「ああ……冥府魔……いや、”屍山血河(しざんけつが)”に只独り立つ魔人のような物騒なオッサンだよ、アンタは」


 「……」


 「……」


 一転、言葉を封印し、睨み合う俺と敵将、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)


 戦国最強と名高い”旺帝(おうてい)”に置いて(かつ)て存在した最高峰の二十四将の一人……


 其の流れを汲む”旺帝(おうてい)八竜”の一竜にして、最強の二武将が片割れ。


 旺帝(おうてい)軍が最強無敗、”咲き誇る武神”、木場(きば) 武春(たけはる)と、この百戦錬磨の”魔人”、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)は、戦国世界に於いて一つの銘柄(ブランド)と云えるほどの将帥だ。


 「……」


 ――未だ旺帝軍(てき)の士気は衰えない……


 それもこれも、この伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)なる男の存在……それが旺帝軍(ヤツら)の士気の源。


 「この戦の趨勢(すうせい)は儂も貴様も(はな)から同じ……」


 十字傷の烈将、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)の眼光が光る。


 「……」


 ――ああそうだ……正面から徹底的に圧倒的に打ち破る!


 ある意味、日和見を決め込む香賀美(かがみ)領将兵共に、誰がこの地を治めるに相応しいかを刻み込む……


 それがお互いの共通の帰結!


 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)が率いる天都原(あまつはら)軍の強さを見せつけ、香賀美(かがみ)将兵に”実力”を刻みつけるには必要不可欠な道だ。


 ――だからこそ……完全に旺帝(おうてい)軍を屈服させてこそ……完膚なきまでに服従させるには……


 「既に言葉は必要あるまい、”神如き鬼子”よ……参るぞっ!」


 十字傷の男が吠え、十文字槍の穂先を突き出した!


 ――故に”一騎打ち”!!


 「旺帝軍(きさまら)を蹴散らし、殲滅し、そして”伊武 兵衛(おまえ)”を討って完全に意志をへし折るっ!」


 俺は敵将、伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)に応えて馬を駆るっ!


 「おおっ!!()れをこそが武人の本願!稀代の将たるであろう鈴木 燦太郎(りんたろう)よ、貴様等が”魔人”と称するこの伊武(いぶ) 兵衛(ひょうえ)が見聞致そうぞっ!」


 ガキィィィーーン!!


 その瞬間(とき)、収束に向かいつつある戦場で――


 新たな火花が猛々しくも輝いたのだった。


 第五十三話「十字傷の魔人」後編 END

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