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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
137/329

第五十話「実力と証」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第五十話「実力と証」前編


 戦国世界最終日の深夜、日付が変わる寸前を狙って――


 俺達が尾宇美(おうみ)城を無事抜け出し目指したのは旺帝(おうてい)領土内にある”香賀美(かがみ)領”だった。



 ()()旺帝(おうてい)全土の中でも最西端に位置する領土の一つで、天都原(あまつはら)領”尾宇美(おうみ)”にも隣接している。


 北に”(あかつき)(かい)”を臨み、海路を通じて西の大国”長州門(ながすど)”、その更に西南にある南の島”日向(ひゆうが)”を統一した”句拿(くな)国”……果ては北の島”北来(ほらい)”を統べる”可夢偉(かむい)連合部族国”にまで交易を行う一大商業都市だ。


 ”(あかつき)”にある都市中でも五本の指に入る、肥沃な大地と発達した商業施設を有する領地であり、現旺帝(おうてい)の王、燐堂(りんどう) 天成(あまなり)の嫡子にして次期王たる燐堂(りんどう) 天房(あまふさ)が治める土地でもある。


 ――”(あかつき)”屈指の良物件……”香賀美(かがみ)領”



 「香賀美(かがみ)の守備軍は中々の精鋭揃いと聞きます、如何(いか)に領主の燐堂(りんどう) 天房(あまふさ)が今回の尾宇美(おうみ)城大包囲網戦、旺帝(おうてい)軍側の総大将として出兵して不在だと言っても、攻め取るには我が軍の現状の戦力では……」


 眼下に見渡せる香賀美(かがみ)領都の堅城、香賀(かが)城を指しながら心配そうに聞いてくる少女。


 俺の右隣に(くつわ)を並べた、くせっ毛でショートカット、瞳に澄んだ叡智を秘めた少女、八十神(やそがみ) 八月(はづき)だ。


 「そうか?旺帝軍(てき)はまさか逆に”京極 陽子の軍(おれたち)”が侵攻してくるとは思っても無いだろうし、尾宇美(おうみ)城戦に国境周辺の各領土からは”それなり”の兵が出兵しているはずだ、案外たいしたこと無いかもしれないぞ?」


 「それは……どうでしょうか?香賀美(かがみ)領は旺帝(おうてい)でも屈指の重要都市ですし、守備兵はそれでも一万は下らないでしょう。何かあれば直ぐに近隣の領土から援軍が駆けつける事を考えると……」


 今度は左隣で、細い銀縁フレームの眼鏡をかけたお堅い秘書といった趣のある中々の美人、十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)が冷静にそう注意喚起する。


 「まぁなぁ……とりあえず考えはある」


 「まぁ」


 「また、そんな風に簡単に……」


 眼下の都市を見下ろしたままの俺の横顔を見ていた左の女は”ふふっ”と微笑み、右の少女は不満そうな顔で俺を睨む。


 ――


 俺と王族特別親衛隊(プリンセス・ガード)の八枚目と十三枚目の三人は、香賀美(かがみ)領都を見渡せる丘の上に(くつわ)を並べて立ち、すぐ後方の森には引き連れて来た兵を二千ほど隠していた。


 あの”尾宇美(おうみ)城大包囲網戦”から逃れた後、先行して旺帝(おうてい)領土に踏み込んだ先遣部隊、謂わば露払いの隊だ。


 「鈴木……鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)様がいつも”独り”でなにか企んでいるのは嫌と言うほど思い知ってます、ですから今回は事前に具体的な説明を要求しま……」


 ――サッ!


 俺は不満タラタラで棘のある言い方をする八月(はづき)の言葉を右手で遮り、そのままその手を動かして、前方から丘を駆け上がってくる単騎の騎馬に向け指していた。


 「……あ、あれは?」


 「……」


 彼女たちが懸念するように、攻め込むには香賀美(かがみ)領は頑強に過ぎる。


 残った一万近くの常備兵に強固な城壁と豊富な物資、周辺領土からの援軍。


 ――それに、それを率いるだろうはずの……


 俺達はなんとか不意を突いてこの地まで逃れ来る事には成功していたが、兵力は仮に分散した分を全部合わせたとしても精々五千に満たない。(そもそ)も連戦に次ぐ連戦のうえ、()()に至る脱出作戦の疲労で(まと)()な作戦能力は期待できないだろう。


 「あの……鈴原(すずはら)様?」


 「あれはな……」


 駆け寄ってくる所属不明の騎馬が一騎。


 俺の右隣から聞いてくる、くせっ毛でショートカットの少女、八十神(やそがみ) 八月(はづき)に俺は答えた。


 「あれは、旺帝(おうてい)穂邑(ほむら) (はがね)だよ、ほら、(かつ)ては”独眼竜”って呼ばれてたっけ?」


 「えっ?えぇぇぇっ!!」


 初耳の八十神(やそがみ) 八月(はづき)は丸く瞳を開き、実は(あらかじ)め打ち合わせ済みの十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)は微笑んだまま近寄ってくる騎影を笑顔で迎えていた。



 ――思い返せば、この状況になる少し前……


 俺は事前にある人物と交渉していた。


 陽子(はるこ)から尾宇美(おうみ)の指揮を任されて、俺が最初に取り掛かった仕事がそれだった。


 ――今後、鍵を握るのは”アレ”との交渉だと、それなくしてはこの戦いは……と、


 今回の戦の要だと、そう考えた俺は、”いの一番”にそれを進めたのだ。


 ――

 ―


 「(はる)に援軍の話を断られたんだってなぁ?」


 尾宇美(おうみ)城で京極(きょうごく) 陽子(はるこ)の寝室に忍び込み、少しばかり強引に指揮権を引き継いだ俺は、七山(ななやま) 七子(ななこ)の説得もあり無事に一原(いちはら) 一枝(かずえ)を協力者に引き入れる事に成功した。


 その後、直ぐに司令室には向かわなかった俺は、”ある場所”に足を運んだのだ。


 「(はる)?……お前は一体?」


 俺の前には、疑り深い視線を向けてくる若い男が独り。


 ――其所(そこ)尾宇美(おうみ)城のある一室だった


 尾宇美(ここ)に到着して直ぐに、七山(ななやま) 七子(ななこ)経由で”その情報”を得た俺は、”その男”を暫し(とど)めるように、これも七子(ななこ)に頼んで手配していた。


 「あぁ、そうか……京極(きょうごく) 陽子(はるこ)のことだよ、陽子(はるこ)姫、理解出来るよな?」


 男が俺を怪しんだのも無理は無い。


 会って直ぐに俺が発した”(はる)”という呼び方。

 それは家臣が主君を呼ぶには余りにも無礼……親密(フレンドリー)過ぎる。


 「……」


 男の、俺を値踏みするような視線の右側は微妙に不自然な光りを放っていた。


 ――義眼……か


 良く出来てはいるが、その男の右目は造り物だろう。


 そして間近で観察すると、義眼であろう右目の目尻には小さい傷もある。


 「……断られるも何も、会見さえ適わず門前払いだったな」


 義眼の男は取りあえず俺を会話する程度の価値はあると判断したのか、そう答えて”ヤレヤレ”と首を横に振る。


 この義眼の男は……穂邑(ほむら) (はがね)


 東の大国”旺帝(おうてい)”の人間ではあるが、現王である燐堂(りんどう) 天成(あまなり)にではなく、前女王になる燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)に仕えているという男だ。


 「まぁな、陽子(はるこ)と”黄金竜姫(おうごんりゅうき)”……お前の主君である燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)の間柄を考えたら、それも仕方が無いだろう?もうちょっと”交渉の手順(アプローチ)”を考えなかったのか?」


 ひとつ付け加えておくが、”援軍の話”といっても、この男が陽子(はるこ)に援軍を頼んだのでは無い。


 というかその逆、恐らくは旺帝(おうてい)黄金竜姫(おうごんりゅうき)こと燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)が窮地に陥った京極(きょうごく) 陽子(はるこ)に助力を申し出たという様な話であろう。


 「そうか?関係性って二人は従姉妹(いとこ)同士だろ?……(みや)……雅彌(みやび)は別に気にしてないし、だからこそ援軍を……」


 ――”(みや)”……ねぇ……


 他人の事はあまり言えないが、この穂邑(ほむら) (はがね)とやらも燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)との関係は只の主従関係という訳じゃ無いって事か。


 「なら、陽子(はるこ)が気にするんだろう?……大体、旺帝(おうてい)天都原(あまつはら)は敵国同士、その敵国の王位継承候補を助けたいっていうのは、血の繋がりって綺麗事だけじゃ無くてお前達にも他に意図があるんじゃないのか?」


 俺は答えつつ、最早建前は不要だと踏み込んでみる。


 「そう……だな……解った……だがその前にひとつ……」


 それを受けた義眼の男、穂邑(ほむら) (はがね)の生きた左目には、先ほどまでとは違う真剣さが増していた。


 「……」


 「……」


 無言による駆け引き……否、見極め合いだ。


 「俺は鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)臨海(りんかい)の王で、現在(いま)京極(きょうごく) 陽子(はるこ)を助ける者だ」


 ならば、ここは小細工は無用。


 得るためには与える事を厭わず、胸襟を開いてこそ得られるものも在る。


 俺は包み隠さずに答えた。


 「鈴原(すずはら)?お前が……なるほど」


 穂邑(ほむら) (はがね)は小さく頷いた後、サッと右手を伸ばす。


 「噂に聞く”賢人”なら迂遠な説明は不要だろうな……旺帝(おうてい)はもう何年も燐堂(りんどう) 天成(あまなり)の悪政に苦しめられている。そして俺の支える燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)こそが本来の王、女王であり、汚い(さん)(だつ)の犠牲者だ。俺はその正当性を示すため、雅彌(みやび)の為に……”尾宇美(ここ)”に来た!」


 俺の意図を完全に理解した男は、自らも清々しいほどに胸の内を明かしてきた。


 ――旺帝(おうてい)の独眼竜……


 確か俺より二つほど年長で、初陣は十二歳……


 ある特殊な戦法で目を見張る程の功績を重ね、僅か二年で最強国”旺帝(おうてい)”の中枢である”二十四将”にまで名を連ねたという男。


 そして……


 先々代王であり祖父である燐堂(りんどう) 真龍(さねたつ)から王位を継いだ、幼なじみの燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)に仕えるが、五年前に彼女の叔父(おじ)である燐堂(りんどう) 天成(あまなり)による強引な王位移譲によって王権を失い、実質的には僻地の小領、”恵千(えち)”に流された彼女と共に歴史の表舞台から消えた男。


 「……」


 子女でありながら、聡明さと高潔な人柄、そして”(あかつき)”でも”至高の宝石”と噂されるほどの美貌から、臣民から圧倒的支持と期待をされし”黄金竜姫(おうごんりゅうき)”。


 その燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)旺帝(おうてい)を治めた期間は、実質的には僅か一年に満たないという。


 幽閉同然に追いやられた現在も彼女は十九歳……

 歴史の表舞台から消えるには若すぎるうえに、何よりも……勿体なさ過ぎる。


 相手の言葉から俺は頭の中の情報を整理していたが、その間の空白にもこの男は一切差し出した手を引くことは無かった。


 ――穂邑(ほむら) (はがね)……なるほど、面白い男だ


 俺の心は、実際は決して一筋縄では行かない男だろうに、妙に実直な一面も見せる、この旺帝(おうてい)の独眼竜に妙な興味を引いていた。


 「つまり、利害は一致しているってか?」


 そして、差し出された相手の右手をガシリと掴んで俺は笑う。


 「ああそうだ、鈴原(すずはら)燐堂(りんどう) 天成(あまなり)は共通の敵って事で、俺達二人はお互い支えるべき大事な女の為に協力できるってことだ」


 俺の言葉を受け、対面の男もまた親しげに、それでいて何処(どこ)か不敵に笑ったのだった。


 第五十話「実力と証」前編 END

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