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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
122/329

第四十一話「武運対武運(パラドックス)」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第四十一話「武運対武運(パラドックス)」後編


 「お?素直だにゃー、包帯おば……」


 ザシュゥゥーー!!


 「けぇぇーーっ!?」


 ガシャンッ!!


 歩み出たドレスの貴婦人が突然放った蹴りに、ツインテール娘は仰け反ってその場に尻餅を着いた。


 「ちっ……しっぱい」


 蹴りを放った貴婦人……


 いや、三白眼少女の口元は嫌そうに歪み、直ぐに太ももまで露出した蹴り足を下げること無く、もう一度天高く振り上げるっ!


 ブワァッ!!


 陽子(はるこ)を装った貴婦人改め、三白眼少女、四栞(ししお) 四織(しおり)は、黒いストッキングも露わに……


 その先に伸びる黒ヒールがつま先にギラつく仕込み刃を煌めかせ、弧を描いて足を――


 「ぎっ!ひゃぁぁーー!!」


 それを確認した基子(もとこ)が転がったままの姿勢で頭を抱えて丸まり悲鳴を上げた!


 「だ、大丈夫ですかっ!基子(もとこ)ちゃんっ!!」


 菊河(きくかわ) 基子(もとこ)の傍近くを守護していた四人の屈強な兵士の中の一人が彼女に覆い被さり、咄嗟に死の斬撃から守っていた。


 ガキィィィーーン!


 ――カラカラン……


 振り下ろされた”死神の鎌”は、兵士の分厚い鎧の背中に弾かれ火花を散らし、切っ先が折れて彼方へ飛んで行く!


 「ちっ!……ちっちっちっ!」


 蹴りを放った一見大人しそうな少女の口元は露骨に不機嫌に歪んで、間髪入れずにその足を――


 シャキン!


 「なっ!?う、うわわっ!!」


 ヒュオン!


 今度は(かかと)から飛びだした刃を水平に薙ぎ払い、基子(もとこ)に覆い被さったままの兵士が顔面を襲う!


 「させるかぁっ!!」


 だがその一撃にも、別の護衛兵士が咄嗟に対応する!


 ドンッ!!


 「っ!?」


 ドレス姿の四栞(ししお) 四織(しおり)へと体当たりを喰らわせて、それを防ぐ。


 ズザザザァァーー!!


 大柄で屈強な戦士と年端もいかない小柄な少女……


 衝突の結果は火を見るより明らかで、四栞(ししお) 四織(しおり)身体(からだ)は大きく後方へ飛ばされたのだった。


 「この!何処(どこ)にそんな凶器をっ!!」


 「この期に及んで無駄な抵抗をするかっ!」


 未だ床に転がったままの菊河(きくかわ) 基子(もとこ)の周りを現在(いま)は完全にガードした四人の屈強な兵士の壁が囲い、銘々が槍や剣を()(ちら)に向けて怒鳴る。


 「まぁ……そう上手くはいかないよなぁ」


 俺は目前で威嚇してくる四人の屈強な護衛兵達だけでは無い、その後ろにもわんさかと詰め寄せる敵兵士達に視線を向けながら頭をかいていた。


 「き、きさみゃーー!!その娘っ、京極(きょうごく) 陽子(はるこ)じゃないなぁっ!!っていうか、なんなのだ、その娘はぁっ!!年端もいかぬ容姿でその殺気……どうなっとんのじゃぁいぃぃ!」


 安全地帯ですっかり息を吹き返したツインテール娘は、ガチャガチャと自らが着込んだ鎧を持て余しながらも立ち上がり、両手をバタバタさせて独特の抗議をしてくる。


 「年端もいかないって……お前に言われてもなぁ」


 面白ツインテール娘に呆れた顔でそう反論しながらも……

 俺は密かに、そっと後ろの”黒頭巾侍女”の前に重なるように移動する。


 「ぬ、ぬぅ?にゃにを言っているのだ”包帯お化け”!私は十八歳の淑女(レディ)であるぞ!」


 「…………は?」


 相手に悟られぬように、正面の敵兵達から庇うように、

 ”黒頭巾侍女”の前に移動していた俺は、そのツインテール娘の信じ難い台詞に思考が一瞬停止した。


 「は?ではないぞ!長州門(ながすど)基子(もとこ)は、ペリカお姉様達に次ぐレディなのだっ!」


 菊河(きくかわ) 基子(もとこ)はもう一度、ハッキリと言い直して、エッヘン!と鎧に埋もれた小さな胸を張った。


 「う、うそだろぉぉっ!?……てか、年上!?いやいや……ありえない、こんな幼女が……」


 俺にしてみれば青天の霹靂!

 今日一番の驚きだ。


 「だっ誰が幼女かぁぁーー!!」


 「基子(もとこ)様!落ち着いて!!」


 「菊河(きくかわ)隊長!どーどうどう……」


 ”がるがる”と唾を飛ばして今にも飛びかかって来そうな娘を、味方の護衛兵士達が必死に抑えていた。


 「その……す、鈴木殿と言ったか?どうやら貴殿には天都原(あまつはら)国、紫梗宮(しきょうのみや)を引き渡すつもりは無いと言う事だろうか?」


 そして、滅茶苦茶に暴れるちびっ子上官を四人の屈強な部下達は悪戦苦闘でなだめながらも、そのうちの一人が俺に改めて問い直してくる。


 ――子守も大変だな……


 俺はそんな感想を抱きながらも、相手の問いかけに包帯から露出した口元を歪ませて笑った。


 「差し出す訳がないだろう。お前等はまんまと”偽司令部(ここ)”に誘き寄せられたんだよ」


 「……そうか」


 ジャキ!


 「仕方在るまい」


 ジャキ!


 「なら……やるかぁ」


 ジャキ!


 「お仕事、お仕事……」


 ジャキ!


 俺の()()()()しい態度にも菊河(きくかわ) 基子(もとこ)麾下の兵士達は全く戸惑うこと無く、次々と武器を手に、こちらに備えていった。


 「はは、解りやすいな、後は(ちから)()くってか?」


 俺は口元の笑みを継続させながら、”黒頭巾侍女”を背に庇いつつ、目視で相手との距離を測る。


 「鈴木殿、流石にこの状況で誘き出したもないものだろう?」


 「その物騒な娘が紫梗宮(しきょうのみや)で無い事は露見した、なら本物は貴殿の後ろの……」


 そう言って兵士達が視線を向けるのは……


 「……」


 俺の後ろに重なって立つ黒頭巾の侍女。


 「なんでそう思う?まんまと偽の餌に誘き出されたとは考えないのか?」


 構わず挑発を続ける俺に、兵士は左右に首を振って俺達を見据えたままこう言った。


 「貴殿は我が隊長の強運を()らなさすぎるのだ。基子(もとこ)ちゃ……菊河(きくかわ)隊長は決して偽の情報に惑わされない。隊長が()()だと辿り着いたのなら、捕縛対象は必ず()()にいるのだ」


 「…………」


 ――なるほど……やはり”菊河 基子の強運(そこ)”には絶対の信頼があるって……な


 ――(つく)(づく)に規格外だよ、菊河(きくかわ) 基子(もとこ)


 「そうなのだぁーー!!はっはぁーーっ!?がっ!がはっ!ごほっ……はっ……うぇっ」


 「ちょっ、基子(もとこ)ちゃん、だから調子にのるから……」


 「だ、誰が……がはっごほっ……も、もとこ……げはっ!ぐふぁっ……基子(もとこ)ちゃんかぁー!」


 部下の言葉にツインテール娘が仰け反って高笑いし、またもや咳き込んで部下に介抱される。


 「…………」


 命を賭した戦場での馬鹿らしくなる光景に……


 ほんと、馬鹿らしくなる程の強運娘に……


 俺はスッと(まぶた)を閉じる。


 ――そうだ……驚くべき強運、いや天運だ……確かに本物の陽子(はるこ)は俺の後ろに居る


 どう足掻いても、反則級の異能者、菊河(きくかわ) 基子(もとこ)が強運を欺けないと判断した俺は、戦場に京極(きょうごく) 陽子(はるこ)を帯同する選択をした。


 危険すぎる対処法だ。


 一原(いちはら) 一枝(かずえ)なんかがこれを知れば、俺は串刺しにされただろう。


 ――だが、そこまでのリスクを負わなければならないほどの相手……


 自らの隊を窮地に陥れるような罠を回避する”異質”すぎる”武運”


 自らの隊が狙いを定めた獲物へと確実に辿り着く”神がかり的”な”武運”


 この二つはどんな戦国武将でも喉から手が出るほど欲する天賦だろう。


 そんな”最強の天賦”を二つとも……

 有り得ない水準(レベル)で併せ持つ反則娘、菊河(きくかわ) 基子(もとこ)


 生まれ持った才能だけで言うなら他を圧倒する破格の天賦を所持する菊河(きくかわ) 基子(もとこ)


 ――とはいえ……


 「…………武運ね」


 俺はそっと(まぶた)を開く。


 開いた視界には、多くの兵が狭い部屋で俺たちを包囲する状況……

 そして、いつの間にか……


 石造りの床、壁、その合わせ目の幾つもの隙間から少しずつ……


 漏れ出る煙。


 ――とはいえ、結構上手くいくものだなぁ……


 俺は視覚と嗅覚で”それ”を確認してほくそ笑む。


 「なら、一つ聞くが……”身を滅ぼす罠”と”討つべき獲物(ターゲット)”が同じ場所に在る時はどっちの”武運”が優先されるんだ?」


 「……え?」


 「はぁ……?」


 俺の問いかけにその場の者達は間抜けに顔を見合わせる。


 「えっと……それは……」


 「み、身の安全だろ?普通……」


 「そ、そうか……けど、敵を倒すのが一番の目的で……」


 「いやいや……そもそもそんな矛盾した状況が有り得るのか?」


 そうして、俺のややこしい問いかけにザワザワと混乱する兵士達の足下からは、先ほどよりも濃い白煙が……


 「おっ!?」


 「お、おい?……なんか眼がしみるっていうか……」


 「おお?……なんかこの部屋煙たくない?」


 「…………」


 そろそろ、”敵兵達(まぬけども)”も気づくくらいの濃度になりつつある室内の煙。


 「馬鹿者共!そんなこと有るわけ無いのだっ!正しいことは一つしかないから正しいのだっ!」


 別の意味で騒がしくなる室内で、ひとり欠片も違和感を感じていないだろうツインテール娘が、先程の俺の質問に対する答えを仁王立ちしたまま勝ち誇って返す。


 「……ふっ」


 俺は待ってましたとばかりに、その解答にニヤリと笑った。


 「そうとも言えんぞ、”最高の回避運”対”最強の的中運”!そういうのを世間では”矛盾の証明(パラドックス)”っていうんだよっ!」


 そしてそのまま、隣に戻っていた精神病質(サイコパシー)少女の肩をポンと叩く。


 「し、死ね!死ね!死ね!死ね!シネ!シネ!シネ!シネ!しねっ!しねぇぇっ!」


 ”精神病質少女(こちらのむすめ)”も待ってましたとばかりに”にへらぁ”と口元を歪めたうえで呪詛の様に不気味な台詞を繰り返し叫んだ!


 そして、ブワァッと四栞(ししお) 四織(しおり)のドレスのスカートが一気に捲れ上がり、その下から無数の刃が飛びだして、目前のツインテール娘を襲った!


 ウズウズと我慢の限界まで達していた三白眼娘の狂気が牙を剥いたのだ!


 ――てか、恥じらいというモノはないのか……四栞(ししお) 四織(しおり)


 「うっうわぁぁーー!!なのだっ!!」


 「も、基子(もとこ)ちゃんっ!」


 「菊河(きくかわ)隊長っ!!」


 無論、周りを囲む護衛兵士達は、頭を抱えるツインテール少女をすかさず一斉に庇う!


 ――その隙に……


 「ちょっとだけ怖い思いをさせるぞ、陽子(はるこ)っ!」


 ガシッ!!


 俺は背後の”黒頭巾侍女”を抱きかかえて後方の窓から一気に外へ飛び出していた。


 「しょっ、正気か!この高さで……」


 「ぬっ!た、隊長!煙が!これはっ!!」


 時既に遅し……

 その頃には部屋中に存分に黒煙が充満していた!


 ゴォォォーーーー!!


 「ひっ!ひぃぃーー!!」


 塔の下から猛烈な勢いの炎が巻き上がっていた!


 「うそっ!うそっ!うそだぁぁーー!!ペリカ姉さまぁぁーー!!」


 ゴォォォーー!!


 そして瞬く間に火の回った尾宇美(おうみ)城第三塔は巨大な火柱と見紛う姿となって……


 ズドドォォォォーーーーン!!


 やがて倒壊して瓦礫と化したのであった。


 第四十一話「運対運(パラドックス)」後編 END

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