表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
王覇の道編
112/329

第三十六話「武者斬姫 壱」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十六話「武者斬姫(むしゃきりひめ) 壱」前編


 ”(あかつき)”本州から海を挟んで西南にある大島”日向(ひゆうが)

 その”日向(ひゆうが)”は数十もの乱立する国家同士の争いの末に三国の有力国家に分割された。


 日向(ひゆうが)南方を拠点とした柘縞(つしま) 斉旭良(なりあきら)が率いる”句拿(くな)

 中部を拠点とした大道寺(だいどうじ) 重守(しげもり)が率いる”比嘉(ひが)


 そして……北部の大登(おおと) 為末(ためすえ)が治める”咲母里(さきもり)”の三国である。



 「…………」


 ――”暫し待たれよ”


 そう言われてから既に一時間は経っただろうか。


 座敷の下座に背筋を伸ばしてキッチリ正座した女性は、微動だにせずにそこに居た。


 「…………」


 長い髪を腰の辺りで結わえた若い女性。


 質素ではあるが整った顔立ちと、並の女性ではとても醸し出す事の出来ない緊張感と引き締まった表情。


 ()()に凜として正座する女性は、その辺の名のある武将よりも遙かに存在感があった。


 ――ガラ


 待つことさらに数十分、接見の間を仕切る引き戸が開く音が響き、ひとりの中年が供を二人ほど従えて入って来た。


 「壬橋(みはし) 久嗣(ひさつぐ)だ、で貴公は……」


 散々待たせておいて、微塵の謝罪も無く男は上座に移動するとドッカリ胡座(あぐら)をかく。


 ――スッ


 しかし女性はそれを意に介すること無く、そっと両手の指先を畳に添えて頭を深く下げた。


 「”咲母里(さきもり)”を治める大登(おおと) 為末(ためすえ)様の家臣、次花(つぐはな) 秋連(あきつら)が娘、次花(つぐはな) 千代理(ちより)にございます」


 「……」


 供を両脇に(はべ)らせた男は、深く頭を下げた女の襟元から覗き見える(うなじ)部分……乳白色の艶っぽい肌に向け不躾な視線を這わせていた。


 「()(たび)は急な接見を御了承頂き感謝の……」


 「おぉ!軍神、次花(つぐはな) 秋連(あきつら)殿の噂はこの”七峰(しちほう)”でも有名だ、その父君にも劣らぬ武名を誇るというかの姫武者、千代理(ちより)殿がこの”七峰(しちほう)”が重鎮、壬橋(みはし) 久嗣(ひさつぐ)に何用であろうか?うむ、大いに興味があるな」


 「…………」


 頭を下げたままの女性、次花(つぐはな) 千代理(ちより)は密かに畳に向けた顔の眉を(ひそ)める。


 客人の言葉を途中で遮ったばかりか、自身の欲求のみ満たそうとした性急な問いかけ。


 他者に向かって自らを”重鎮”と恥ずかしげも無く言い放つ無神経。


 「……」


 それでも千代理(ちより)はそっと深呼吸をひとつ、感情を整えて続ける。


 「はい、()(たび)は是非に大国”七峰(しちほう)”の実力者たる壬橋(みはし) 久嗣(ひさつぐ)様にお願いの儀があ……」


 「おおっ!そういえば、千代理(ちより)殿の夫である次花(つぐはな) 臆彪(むねとら)殿も義父、秋連(あきつら)殿に劣らぬ武勇を誇ると聞くが……夫婦仲は良いのか?」


 「…………」


 またもや言葉を遮られた千代理(ちより)


 いや、それよりも初対面の他国の使者に対してこの無作法……


 流石に気持ちがざわめく千代理(ちより)であったが、彼女は自身の使命の重さを胸に、これにもぐっと感情を抑えた。


 「夫、臆彪(むねとら)とは……」


 「むふふ、聞くまでも無いか?千代理(ちより)殿は武勇もさることながらその容姿も大変に美しいと聞く、臆彪(むねとら)殿もそれは果報者だろうて、はははっ!」


 「…………」


 畳に着いたままの彼女の白い指先が小刻みに震える。


 ――これは……流石に無い


 人はここまで無神経になれるのだろうか?


 いや、この傍若無人さ……


 本州の一角を占める大国にして七神(しちがみ)信仰の総本山、宗教国家”七峰(しちほう)”の実力者たる壬橋(みはし)にとっては、はるか西南にある”日向(ひゆうが)”という島の一国主如きの家臣など取るに足らぬと言うことなのか……


 耐えかねて言葉の出ない次花(つぐはな) 千代理(ちより)の下げたままの頭を眺めていた男は、彼女のそんな心情を全く察していない顔でそっと手に持った扇を千代理(ちより)の方へ指し示した。


 「解らぬか?……ふぅ」


 そして(わざ)とらしい溜息を()いてみせる。


 「?」


 怒りもそのままに、未だ頭を深く下げたままの千代理(ちより)には何のことだか見当もつかない。


 「これだから離島の田舎娘は……その噂高き美女とやらの顔を見せよと言うておる!!”咲母里(さきもり)”の大登(おおと) 為末(ためすえ)が麾下にこの人在りと云われる猛将、次花(つぐはな) 臆彪(むねとら)を骨抜きにする魔性の女性(にょしょう)が顔を見たいと言うておるのだ!」


 「っ……」


 あまりにも……

 あまりにもではあるが……


 ――スッ


 次花(つぐはな) 千代理(ちより)は横暴な男の要望に添って、そっと(おもて)を上げた。


 「おっ!?おぉぉっ!!」


 細く涼しい瞳にキリリとした口元、如何(いか)にも勝ち気な美人という風貌であるが、しっとりとした乳白色の肌にたっぷりと艶のある黒髪、薄い唇に紅を引いた彼女の様は、年若い娘とは思えぬほどの得も言われぬ色気もあった。


 「ご無礼を……改めて、次花(つぐはな) 秋連(あきつら)が娘、千代理(ちより)にございます」


 丁寧な言葉とは裏腹に、無表情で冷たい視線を向ける千代理(ちより)の顔を見ても……


 「む、むふふ……」


 矢張り自らの無礼を察しない壬橋(みはし) 久嗣(ひさつぐ)は、だらしなく口を開けて(とろ)けるばかりだった。


 ――この時、次花(つぐはな) 千代理(ちより)は二十歳


 彼女がこれほどの屈辱に耐えながらもこの”七峰(しちほう)”の地に訪れた理由は……


 第三十六話「武者斬姫(むしゃきりひめ) 壱」前編 END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ