サラバマムシ
第1章サラバマムシ2
「どういう事だっ、マムシ殿が義龍に謀叛を?」
信長の声は辺りに響いた。
先程入った報、信長の舅道三が息子の義龍に謀叛を起こされたという事について軍議のまっ最中だった。
「はいっ、義龍殿の軍勢はおよそ1万7500、それに対して道三殿は…」
報告にきていた兵は口を閉ざした。
「どうした?早く言えっ!」
信長は声を荒げた。
「道三殿は約2700程っ」
「2700っ!」
辺りはざわついた。
その声には勝てるわけないという諦めの感情が詰まってた。
「両軍は長良川にて衝突。現在こそ道三軍の優勢ですがそれもいつまでもつか」
長良川?そうかこの戦は長良川の戦いかじゃあこの戦は…
長良川の戦い、信長の舅斎藤道三と息子義龍の間でおきた親子対決。この戦では道三の重臣達まで義龍に付いたため道三は兵が集まらなかった。そしてこの戦で道三は命を落とすのであった。
「道三殿から援軍の要請は?」
利家は信長に聞いた。
「来ていない」
「ならば道三殿はここで…」
辺りは静寂に包まれた。
ガタッ
戸が開いた。
「お濃…」
それは濃姫だった。
「父は死ぬつもりなのですね」
誰もその問に答えられなかった。
「父の兵がこれしかいないということは家臣のほとんどか兄義龍に付いたのですね」
濃姫の目には涙が見えた。
「せめて、せめて最後だけでも私を頼って頂いても宜しいではないですか。父上…」
辺りは静まりかえった。
ザッ
信長はその静寂を破るように立ち上がった。
「殿?」
濃姫は信長を見つめる。
「皆出陣の支度をせよ」
信長は小声で答えた。
だがその声には確かな決意が詰まっていた。
「ですが殿もう道三殿に勝ち目は」
「無いっ、確かに絶望的だ。だがまだ死んでもらう訳には行かないんだ。まだ、俺はマムシ殿に頼られた事がない」
その場の全員の目が変わった。
次の瞬間皆は口々に叫び始めた。
「全員具足をもてっ!」
「出陣じゃあ出陣っ!」
なんだこの光景勝ち目何て無いのに皆本気で戦うつもりなのか?あの男の言葉ひとつで。
俺は信長を見た。
「俺が頼りにならない小大名だと思うなよ」
信長は呟いたそして濃姫に
「お濃、お主の父絶対に死なせはしない」
濃姫は泣きながら微笑んだ。
長良川 道三軍本陣
しばらく前に全軍突撃を命じたが、優勢だったのは初めだけで徐々に戦況は義龍軍に傾きつつあった。
道三は一人陣のなかで頭を埋めた。
「わしは生きすぎたのか、油売りから美濃の国主まで長い道のりだった。今思えば後悔しかないあのときこうしていればあのときはこうしていればと、今思っても無駄か。すまなかったなぁ義龍」
道三の目には涙が溢れていた。
「道三様っ本陣を突破されました」
道三のもとにその知らせが届いた。
「ついにきたか義龍」
道三は立ち上がった。
「皆最後の戦いだ最後までわしに手をかしてくれっ」
道三は叫んだ。
「道三様大変にございます」
一人の兵士が道三のいる陣に飛び込んだ。
「どうした?」
「織田軍が総勢500の援軍をこちらに差し向けました。総大将は織田信長様っ!」
道三は驚いた。
「馬鹿かやつは頼まれてもいない戦の援軍に来るなど誠のうつけじゃ。誠に最後まで頼りになるやつじゃのう」
道三は涙をこぼした。
だがその涙をすぐさま拭き。
「信長に伝えよ援軍は無用急ぎ那古野へひかえせと」
伝言を頼まれた武将は
「いやでございます。それがしは最後まで道三様と共におります」
「えーい、うるさいこれは頼みではない命だ最後のな」
道三はそう言い残すと陣を出た。
長良川 義龍軍本陣
「何?信長がこちらに」
義龍にもその知らせは入った。
「ふっ、うつけという噂はほんとのようだな。よし信長も共にほうむってやろう」
義龍はそう言って笑うと
「直ちに信長の首を取ってまいれ」
そう叫んだ。
長良川への道中 織田軍
織田軍は長良川に向け突き進む。
先程兵士をかき集め城を飛び出した。
それでも500騎程だこれだけで何ができるそもそも間に合うのか。いやこの戦で道三は死ぬ歴史が変わらない限りそれは変わらない、じゃあやっぱり間に合わないのか?
その時隣の山から一騎がかけ降りてきた。その騎馬武者は俺達の目の前で馬から飛び降りた。
「信長様とお見受けいたす」
侍は言った。
信長はその侍を見つめた。
「どうした?何があった?」
侍は答えた。
「道三様は先程討ち死になされました。信長様は直ちに那古野城にひきかえされよとのことです。」
死んだ、やはり間に合わなかった。
だがそんな俺達に悲しみにくれる暇はなかった。
ズドッ
その侍はやに打たれた。
逃げようとする信長にその侍は
「信長様これを」
そう言って信長に二つの手紙を渡して息絶えた。
信長はしばらく立ち尽くしていたが
「殿っ!」
そう常興に怒鳴られ我に帰った。
くっやはり義龍軍がきたかでもどうにかなりそうだ。
織田軍は命からがら那古野へ帰還した。
第2章帰蝶
「殿…」
城に戻ると濃姫が悲しそうな顔で待っていた。
信長はそんな濃姫にちかより
「すまなかったな、そなたの父に近付くことすら出来なかった」
そう言って濃姫を抱いた。
濃姫は信長の懐で泣いた。
あの侍が死に際に渡した手紙は道三が濃姫へあてたものと信長にあてたものだった。
信長は自分宛の手紙を眺めていた。
手紙には自分がいなくなったあとのこととか義龍を許せとかしか書かれていなかった。
「最後の最後まで頼りないままだったなぁ」
信長はため息をついた。
だが道三は最後までそんな事は思っていなかっただろう、なぜなら信長はずっと自分の代わりに濃姫を帰蝶を守ってくれていたから、そしてこれからも。
信長はその手紙を燃やした。