泣かせてはいけない
電話の向こうでおばちゃんが泣いていた
おばちゃんに贈った洋梨のお礼の電話だったのに
時間がたったら楽になるかと思ったのに
ちっとも変わらない
毎日寝る前になると
あなたのことを思い出して泣いてしまうって
おまえは
80歳を越したおばちゃんを毎日泣かせているんだよ
保育所が開く7時より前に仕事に出かけるお母さんが
働き続けるには
誰かにあなたたちの面倒を見て貰わなくてはいけなくて
近所の人が良いと評判のおばちゃんを頼った
優しいおばちゃん
縁もゆかりもないあなたたち兄妹を
暑い日も寒い日も
大切に大切に育ててくれたおばちゃん
あなたに箸の持ち方を教えてくれたよ
あなたに包丁の持ち方も教えてくれたよ
小学校から帰ってきたら
毎日音読も聞いてくれたよ
運動会には毎年早起きしていなり寿司を作ってくれたよ
やさしいやさしいおばちゃん
もう80歳になるのに
あなたに先に逝かれて
毎日泣いているって
あなたが逝ってからもう7ヶ月がたつのに
ああ
やっぱり
あなたは逝ってはいけなかったんだよ
あなたを預け始めた頃
人見知りをして
火のついたように泣いたあなたを
一日中あやして
それこそ倒れそうになるまで
だっこしてくれた優しいおばちゃん
その優しいおばちゃんを
毎日泣かせているなんて
それでも死を選ぶほど
あなたは苦しんでいたから
きっとおばちゃんが
年を取って頼りなくなったおばちゃんが
あんなに苦しむなんて気がつかなかったんだよね
もし
もし
これから苦しみを終わらせようとする人がいたら
考えて欲しい
あなたが苦しむのは
あなたが優しいからだよ
優しくなければそれほど苦しむことはないから
その優しいあなたが選ぶ道は
たぶん
あなたが傷つけたくない全ての人を傷つける道だよ
お願いだから
気がついて
分からないけど
きっときっと道はある
お願い
死なないで