第8話トラック沖海戦 艨艟達の咆哮
盛大な艦砲戦まだまだ続きます
その瞬間、「サウスダコタ」を衝撃が2回続けて襲いかかる。
「やられた・・」
ギャッチ艦長がそう呟いた。
「サウスダコタ」は艦の前部と後部に連続して、「大和」の46センチ砲弾を喰らったのだ。
「大和」からは先ほどの被弾による煙で見えなかったが、後部にも被弾したのだ。
この被弾でも、「サウスダコタ」あ奇跡的に機関や主砲などの重要区画を破られることは無かった。
「被害僅少!」
その報告がダメコン長から入る。
「まだやれるな」
「はい、やれます!」
ハルゼー長官が言うと、ギャッチ艦長任せてください。そう言いたげに言った。
そして30秒たったのか、今度は主砲射撃の衝撃で艦が震える。
その咆哮は「サウスダコタ」が、まだ戦闘力を失っていないことの証明であるかのようだ。
それに遅れて、敵戦艦も射弾を放ってくる。
「また遅れたか!」
松田艦長はそう悔しそうに言った。
「大和」は先に斉射に移行したが、回数で敵艦が猛追してきたのだ。
「大和」が負けるという事は無いだろうが、下手をすれば相当な損害を被ってしまうだろう。
「次どこまで、被害を与えられるか・・・」
松田艦長は、ぽつりと呟いた。
「本艦は負けはしない。そうだろ?」
高須長官が、突然そう言った。
「そうです。本艦に負けはありません!」
それで気合を入れ直したかのように、松田艦長が咆哮した。
そして先に、敵の砲弾が9発「大和」の周りに落下してくる。
今度はさすがに、全弾回避という訳には行かなかった。
松田艦長たちの目の前に、強烈な閃光が煌めく。
敵弾は、「大和」の前部甲板に命中したのだ。
それによって、「大和」は錨を吹き飛ばされ、大きなシアーを持った艦首は、敵戦艦に向いていた右舷側のそれが衝撃で、大きくめくれ上がっていた。
しかし、水面下は無傷であり浸水も発生していない。
「大和」にとっては、かすり傷でしか無かった。
その衝撃から「大和」が立ち直った頃、敵艦の周囲に水柱が立ち上る。
先程放った第六斉射が、着弾したのだ。
そこまでくれば、一斉射につき1発の命中弾を期待できる。
そして今度も期待に違わず、敵艦に火柱が立ち上る。
「敵艦中央に命中弾1!」
見張り員から、報告が飛び込む。
うまく行けば、機関を破壊できる。
皆そう思ったが、敵艦の動きに変化は無かった。
当たりどころが、よく無かったのか?
そう艦橋要員が思っている間に、敵艦は第六斉射を早くも放つ。
それに数十秒遅れて「大和」も第七斉射を、放つ。
発射の瞬間「大和」を直撃弾命中のそれに劣らぬ、衝撃が襲う。
そして先に、敵艦の射弾が落下する。
今度は、後部に被弾した。
敵弾は、飛行甲板の鋼材を引き剥がし、射出機を弾き飛ばす。
被害はこれだけだが、少しずつ「大和」にも被害が蓄積していく。
そして「大和」の放った第七斉射も、敵艦を包み込むように落下する。
その瞬間「サウスダコタ」は激しく揺さぶられた。
敵の1クラス上の砲弾を2発まともに喰らったのだ。
1発は上手く弦側装甲が持ってくれたが、後部に命中した1発が「サウスダコタ」の破局《カタストロフィ》の序曲だった。
「3番砲塔被弾射撃不能!」
その報告が、砲術から入ったのだ。
簡単に言ってはいるが、「サウスダコタ」の3番砲塔は真上から、46センチ砲を喰らっており、押しつぶされたスクラップとかしていたのだ。
「遂にやられたか!」
ハルゼー長官が、叫び声を上げる。
「まだ2基の砲塔が残っています。幸いにも被害は主砲弾庫に届いてません。これなら、沈没はしません」
「そうだな、ギャッチ艦長。だが追い込まれたことには変わりないだろう」
そうハルゼーが言った瞬間、「サウスダコタ」は残された6門の主砲で砲撃を行った。
まだ致命傷は受けてない。そう思える咆哮だった。
「敵の主砲塔を破壊した模様!」
その瞬間は、艦橋にいたものは皆見ていた。
閃光が上がった、そうおもうと同時に細長い物体が3本吹き飛ばされるのが、見えたのである。
「敵の砲塔を1基破壊した!本艦は戦闘を優勢に進めているぞ!」
そう松田艦長は、艦内放送で全乗員に伝えた。
その瞬間、艦内を歓喜の叫びが覆い包む。
就役したばかりの「大和」が、敵戦艦を圧倒しているのである。
嬉しくないはずが無い。
その証拠に敵艦の砲撃時の閃光が、前部からしか見えない。
打撃を受けたのに関わらず敵は、残った砲を使い「大和」に砲撃をしてきたのだ。
敵の第七斉射が着弾する寸前、「大和」は第八斉射を放つ。
「着弾今!」
「伊勢」の計測員が、そういうのと同時に敵艦の艦上に1つの閃光が上がる。
「行けるぞ!」
そう武田艦長は言った。
「伊勢」が得た命中弾は、「伊勢」からは見えなかったが、炸裂時の衝撃によってコロラドの第4砲塔の砲身を、あらぬ方向に押し曲げ射撃不能に陥らせていたのだ。
「敵戦艦の主砲塔1基破壊した模様!」
敵の射撃時の閃光を見ていた、見張り員が言った。
全部に比べ後部の閃光が少なかったのだ。
そしてその直後「伊勢」は第五斉射を、敵艦めがけて放つ。
射撃速度は、あまり変わらないようだ。
先に敵弾が「伊勢」の周囲に落下するが、立ち上る水柱は3本だけである。
見張り員が言った通り、敵主砲塔を射撃不能に陥らせたのだ。
伊勢は、敵が斉射に移っていないこともあり、4倍もの砲弾を放ったのだ。
敵の射撃精度、は門数を減らされたこともあり先ほどよりも悪かった。
そして「伊勢」の放った12発の、巨弾が着弾する。
今度は艦上から3つの閃光が、起こった。
「伊勢」は3発の命中弾を得たのだ。
1発はそびえ立つ煙突を吹き飛ばし、もう1発は射撃不能に陥っていた第4砲塔を、粉砕する。
そしてもう1発が艦橋上部に命中した。
そしてこれが、「コロラド」に取っての致命傷になった。
その1弾は、「コロラド」の測距儀を吹き飛ばしていたのだ。
これでは、正確な射撃を求めることなどできない。
だが、「コロラド」は引かない。
自身が戦線を離脱すれば、保たれている均衡が破られることがわかっていたのだ。
それに艦の主要区画は主砲塔1基を除いて、全て健在なのである。
だから、まだ戦えるとも艦長は考えたのだろう。
事実「伊勢」は目標を変更することなく、射撃をつづけている。
それは全主砲が沈黙したならともかく、3/4はまだ残っているのだから、命中弾を喰らわないとも限らないからだ。
ここは確実に沈黙させる。
そう武田艦長は、考えたのだ。
「少しでも早く、敵を落伍させろ! 早く「日向」の援護に向かうんだ!」
現在「伊勢」の同型艦である「日向」は、同時期に竣工し同程度の戦闘力を持つテネシー級戦艦と対峙していた。
どちらも36センチ砲12門装備であり、一斉射あたりの発射数は変わらなかった。
だがどちらかが、先に斉射に移れば受けた方が叩きのめされる。それが彼女らの攻防性能だった。
12発の36センチ砲弾を立て続けに浴びては、まともに照準を合わせられなくなる。
それに先に、被弾した方が不利になるのは仕方のないことだった。
現に「伊勢」は格上のコロラド級戦艦を、その手数で圧倒したのだ。
それを喰らえば、どっちにしてもタダでは済まないことはよくわかるだろう。
そして「日向」はテネシー級戦艦に先に斉射には入られたのだ。
技量は上かもしれないが、武運が足りなかったのか。
結果「日向」は自身が斉射に移るまでに、5発の36センチ砲弾を浴びた。
それが致命傷になる事は無かったが、「日向」は艦後部に集中的に敵弾を喰らったのだろう。
「日向」の艦後部は業火に包まれていた。
そして「日向」は残った1番〜4番砲塔を用いて射撃を敢行していたが、業火に隣接している第4砲塔の射撃ペースは、かなり落ちていた。
そもそも砲撃をしている事が奇跡なのかもしれない。
そんな妹を窮地から救うためにも、「伊勢」はいち早くコロラド級を、完全沈黙させる必要があったのだ。
そしてその「コロラド」は各砲塔照準によって、射撃を続けていた。
精度は良くないが、たまにひやりとする場面はある。
すでに何発もの36センチ砲弾を浴びせかけているものの、上手く当たってないようだ。
そして「伊勢」第十斉射を放つ。
再び12門の36センチ砲斉射による衝撃が、「伊勢」を襲う。
だが直撃弾命中の衝撃が来ることはない。
もう敵はまともな照準が出来てないらしく、全て明後日の方向に飛んでいた。
しかし「伊勢」の砲弾は確実に敵を捉えていた。
そして第十斉射が着弾した。
その瞬間、敵艦の前部と後部に、直撃弾炸裂の閃光が煌めいた。
それと同時に、細長い筒状の物体が吹き飛ぶのが見えた。
敵艦はなお射撃を敢行したが、着弾時に上がった水柱は1本だけだった。
おそらく被弾と同時に放ったのだろう。
「 敵砲塔は残り1基と認む!」
との報告が射撃指揮所から、飛び込む。
「あと一歩だ。気を抜くな!全力で叩き潰すんだ!」
その艦長の咆哮に合わせたかのように、「伊勢」は第十一斉射を放った。
「くう」
その衝撃に艦長も、苦悶の表情を浮かべる。
「やってくれ」
艦長はたった今放たれた12発の砲弾に向けて、言った。
「伊勢」の妹である「日向」の損害が、そうしている間にも、増加しているのだ。
更に後部に命中弾を喰らった「日向」は遂に、艦首部に装備されている、第1、第2砲塔しか射弾を放っていなかった。
そう先ほどまで射撃を続けていた、第3、第4砲塔が射撃不能に陥ったのだ。
これによって「日向」は主砲火力の3分の2を失ったのだ。
残るは僅かに4門。
敵との門数差は、3分の1である。
これでは、煙路に砲弾が飛び込むなどの僥倖が、起こらない限り逆転は不可能だろう。
そして、いち早く妹を救おうと奮闘している、姉の「伊勢」の放った第十一斉射が、敵艦を覆い包むように着弾する。
そして前部に2つの命中弾炸裂の閃光が、巻き起こる。
そして再び細長い筒状の物体が、吹き飛んだ。
「伊勢」は遂に格上である「コロラド」を沈黙に追い込んだのである。
全砲塔を失った事により、敵艦は艦列から離脱するだろう。
だが致命傷を与え今後帝国海軍に、今対峙している艦が歯向かうことを無くす。
そう武田艦長は考え、「次の斉射まで実行する。あとは敵艦が致命傷を負ったかで判断する」 という命令を下した。
確かにいち早く「日向」の救援に赴きたいが今は、戦略的に考えて帝国海軍に有利になる方を、選択したのだ。
そして「伊勢」は第十二斉射を、これでとどめを刺すとでも言いたげに放った。
そして着弾を迎えた。
今度も水柱が立ち上るが、命中弾炸裂の閃光は見えなかった。
「砲術早く蹴りをつけろ!」
そう武田艦長は、砲術長を怒鳴ったが後部見張り員から入った報告は、それとは正反対のものであった。
「敵艦行き足止まります!傾斜増大中!」
「本当か?」
武田艦長は疑念を込めて聞く。
直撃弾は得られなかった筈だが?そう言いたげだった。
しかし改めて見ると敵艦が、急速に速度を落としているのが見えた。
「おそらく九三式徹甲弾が、水中弾効果を発揮したのでしょう」
「伊勢」の副長が言った。
「そうか。水中弾効果を発揮するところを初めて見たが、外れ弾の立てる水柱と見分けが付かんのは、問題だな」
「ですが、敵艦が速度を落としていれば、それでわかります」
今度は、砲術長が割り込むように言った。
「それはそうだ。目標変更敵七番艦!」
艦長が遂に「日向」を救援すべく命令した。
「伊勢」は妹の「日向」を叩きのめした怨敵を、叩きのめすべく砲塔を旋回させる。
ゆっくりとした動作に、「日向」の仇は絶対に取る。
その意思が感じられる。
「ここまでなのか?」
ここでやられてしまうのか?「日向」の艦橋で艦長石崎昇大佐は、呟いた。
砲戦開始時は互角かと思われたが、敵に先制を許したところから、一気に奈落の底へと叩き落された。
「日向」乗員の技量に絶大の信頼を置いていた、艦長はそれがショックだったのだろう。
「それにしても、まるで落城の様だな」
彼は自嘲するように言った。
「日向」の後部はすでに、業火に覆われており消火も追いつかない。
艦橋にも、その熱が伝わってくる。
艦首部に置かれている2基の、主砲塔は射撃を続けているが、それがいつまで持つか、それも分からない。
このまま「日向」は、業火に包まれて沈む。そう思った時だった。
敵艦の周囲に6本の水柱が立ち上った。
「「伊勢」より無線です!」
艦橋に、無電用紙を持った受信室の報告員が、飛び込んできた。
「読め!」
艦長はすかさず言った。
「我敵六番艦を撃破せり。これより敵七番艦を砲撃す」
興奮気味に報告員が読み終わるのと同時に、艦橋を歓喜の声が包むこむ。
「やった!「伊勢」が来てくれたぞ!」
艦長は、乗員に聞こえるように艦内放送で、言った。
その瞬間、絶望に包まれていた艦内に、希望の光が生まれた。
「日向」は姉の助太刀によって、一応は窮地を脱したのだ。
第8話完
かなりの展開です
さてさて、どうなるのでしょう
トラック沖海戦まだまだ終わりませんぜ
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