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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
章間 激戦前夜 新作戦準備
63/66

第62話 日米通商破壊戦 伊64の戦果

お久しぶりです

今回は潜水艦のお話です

 1942年10月中旬

太平洋は、日米海軍が不気味な沈黙を保っていた。

 だがそれは、主力艦隊が、おもなる艦艇がという意味であった。

 常に日陰者と呼ばれる、潜水艦は敵の通商を破壊すべく、輸送船を付け狙い攻撃を幾度となく行っていた。

 それは日本ならば、フィリピンに対する、援軍の輸送を強行する米軍の高速輸送船団や、ウェークなどの、前線基地への鈍重な船団をターゲットとした。

 それに対し、米軍はイギリス領から、日本本国へと、資源を輸送する輸送船であり、台湾やトラックに、物資を運ぶ輸送船団だった。

 どちらも、被害が出るに従い輸送船団の護衛を強化することに躍起になり、いつしか、獲物を駆らんとする潜水艦と、護衛する対象を守り抜かんとする護衛艦艇の泥沼の争いになっていた。

 それは互いに主力艦を温存するためであり、修理のため作戦行動に投入することができないからであった。

 日米両国は、大規模な激突がないうちにといわんばかりに、戦力の増強に走っていた。

 日本海軍は、新戦艦及び、新型機の戦力化に奔走し、米海軍は、新戦艦をはじめとする多数の新造艦の建造に奔走していた。

  米海軍は、艦載機なら艦上戦闘といわんばかりに、ワイルドキャットを生産していた。 

 それは、航空機では戦艦を撃沈することができないということが先のトラック沖海戦ではっきりしたためであり、敵の航空兵力に対し数で劣勢を強いられたため、攻撃隊の被害が多かったためである。米海軍は、艦載機の利用として、敵空母の無力化及び、制空権の

奪取を基本とすることに戦訓から決定していた。

 それは、もうすぐ戦力化なる高速戦艦アイオワ級2隻及び建造中であるモンタナ級戦艦に対する自信の表れであった。

 しかし、その蓄えられた力をどこで開放するのか、それを先に決めていたのは日本海軍であった。 

 それはすなわち、米海軍が受け身に回らざるを得ないということであった。

 敵の攻略目標は、大方予測がついており、さらに無線の傍受によって革新変えていた。

 現在、海軍の輸送部隊は、敵軍の攻略目標とみられマッカーサー将軍が、フィリピン全土の陥落を防ぐため、航空戦力以外の戦力を結集したバターン半島の防御を強化する至上命題のため高速輸送船を惜しげもなく投入し、多量の資材を運び込んでいた。

 フィリピン周辺の制空権はあったが、それまでの道のりは敵軍が握っている。

 そのため陣中突破を強いられることになっていたのだ。

 少しでも、到達の可能性を増させるための高速輸送船の投入であった。

 その首尾はそこそこ上場であった。

 「やっぱ追いつけないか」

 内南洋にて敵輸送船団の攻撃の任に当たってる伊号潜水艦の艦長はそう漏らした。

 彼が艦長を務めるのは、海大Ⅵ型の1隻伊64だった。

 この艦は魚雷発射管6門を搭載する攻撃型潜水艦だった。

 会場では23ノットの健脚を誇る艦も、一同水面下に潜ってしまえば、8ノットしか出せない鈍重な鉄のカメと化してしまう。

 すでに2隻の敵輸送船を沈める戦果を、この艦は持っているが、3隻目の武運はまだ先のようだった。

 首尾よく敵艦を発見したのはよかったが、距離が離れており、敵艦も高速だったため、追撃をあきらめたのだ。

 初めのころは、単独で行動する艦が多かったため、水上航行にて急接近し、砲撃で沈めるという猛者もいたが、最近では護衛船団方式がとられ始め、おいそれと浮上するのは、完全なる自殺行為と化してしまう。

 しかも投入してくる輸送船自体が、高速船主体のため、簡単に細くできなくなってきていたのだ。

 「敵も学習してますな」 

 そう横柄に言ったのは先任士官だった。

 「それでも待ち伏せに成功すれば、いくらでも戦果を挙げるチャンスはある」

 「それに、敵はしょせん抗堪性の低い輸送船だ。ですね?」

 「その通りだが、護衛がついてるのが厄介だ。

 いくらなんでも、護衛を無視することはできないからな」

 「艦長、」

 「どうした?」

 「獲物が罠にはまったようですぞ」

 そう聴音手は、ヘッドフォンに耳を付けたまま、言った

 艦長は、声を潜めながら、口元をゆがめた。

 その輸送船は、伊64に真正面から突っ込んでくるようと報告が入った。。

 「面舵」

 艦長は、敵艦を右方から回り込む気だった。

 「微速そのまま」

 伊64は、数ノットという動いているか判別できないほどの鈍足で、回頭を始める。舵の効きは、じれったいほどのんびりだ。

 敵艦との距離は、2万ほどらしい。

 だがその程度数時間もあれば詰められる。

 問題は、魚雷の射点にたどり着けるかだった。

 そんなに時間はたっていないはずだが、舵が聞き始めるまでに要した時間は、何時間もかかったように感じられた。

 舵が効き始めれば、回頭自体はそんなに時間をかけるものではない。

 今度は逆に、拍子抜けするほどっけなく、回頭が終わった。

 「舵戻せ」

 小さな声で囁くように言ったその一言が、司令塔に響く。皆が獲物を前にして、物音を立てず、じっとしているせいだった。

 艦内には、モーターの回転する音と、スクリューが水をかき分ける音だけが、静けさを打ち消そうとささやかな抵抗をするように響いていた。

 だがそれが、艦内を轟音に包むほどの音源ではない。

 そんな中、聴音手の報告だけが、艦内に響く。

 聴音手は、僅かな音から、敵艦の位置、速力、進路を割り出し、報告してくる。

 ヘッドフォンを付けていない他の乗員には、かすかにも聞こえてこないが、聴音手はそのわずかな音源も、判別している。

 まさに選ばれしものといった趣があった。 

 その静寂は、しばらくの間継続していたが艦長の「取り舵」の命令とともに断ち切られる。

 再び鈍重な回頭が行われる。

 「舵戻せ」

 艦長の最小限の命令だけが、司令塔の空気を震わせる。

 最小限の命令といえども今はこれで十分なものだった。

 むしろ多くを語りすぎるほうが、危険である。

 「輸送船進路速力変わらず」

 そこに、聴音手の機械的な報告が時たま入ってくる程度だ。

 そこは喧騒とは無縁のように思える。

 だが、浮上時や、敵の気配のない場合は違う。

 あくまで敵の勢力圏に入るときや、敵の存在を察知した時ぐらいである。

 だが体内時間は、今のほうが長いように感じる。

 人間沈黙の時間は流れるのを遅く感じるものだからだ。

 もはや人間の息遣いが、克明に聞こえてくるようになる。

 「取り舵」

 再び、その命令が下される。

 この機動によって、敵艦の、艦腹に艦首を向けることができるのだ。

 すなわち、最も魚雷の命中率の高い理想的な射点である。

 そのころには、敵速15ノットなどの要塞な情報が入り始めていた。

 「距離1万!」

 その報告が届くとともに、艦長は潜望鏡上げを下令する。

 「下げろ」

 「いた」

 艦長はそれだけ言うと素早く潜望鏡を、格納した。

 相手が輸送船だとしても発見される可能性を減らしておくに越したことはないからだ。

 「距離7000」

 聴音手からの報告が入ってくる。

 「距離4000で雷撃する。

 準備いいか?」

 すでに雷撃戦用意の命令は下していた。

 「準備完了してます」

 そう発射管室から即座に返答が、帰ってくる。

 発射管への注水もすでに、終わっている。あとは艦長の号令のもと、発射レバーを押し込むだけである。

 すでに、2度の撃沈経験を持つ、水雷課員の腕は、十分なものがある。

 このくらいは、すぐさま終わらせる。

 「気づかれてないようだな」

 艦長はそうつぶやいた。

 これは、奇襲を成立させる絶好のチャンスであった。

 それは、軍艦の護衛なき輸送船のさだめなのかもしれない。

 「距離5500本艦の、右側から向かってきてます」

 「潜望鏡上げ」

 瞬間艦長は、敵艦との距離、位置関係を測り即座に潜望鏡をひっこめる。

 「進路そのまま」

 このころには、敵艦のスクリュー音が直接聞こえるようになっている。

だが依然として、軍艦らしき音はとらえられていない。

 いまは、伊64の一人舞台である。

 「しかし、今どき護衛を引き連れていないとは、珍しい。わざわざ撃沈してくれといっているようだ」

 艦長はそうこぼした。

 今まではただ単に、発見できていないだけという可能性もあったが、潜望鏡を通してもほかの敵艦の存在を確認することはできなかった。


 「艦長、護衛艦なしですが、大丈夫ですかね」

 輸送船のブリッジで、航海士が言った。

 「仕方ないだろう、護衛艦の来るのが遅れているんだから。

 そう簡単に、やられるはずもないしな」

 そう先輩の航海士は、護衛艦のいない不安をごまかすように言った。

 「これまでだって、攻撃を受けたことはないんだ、今回に限って受けることもないだろう」

 さらいそれを聞きとがめた艦長が、そう自信ありげに言った。

 だがその自信は、慢心でしかなかった。

 そう、敵潜による通商破壊の被害は、独航船のほうが高いのだ。

 彼らの船は巡航15ノットと輸送船の中では早いほうであるが、武装は、20ミリ対空機銃ぐらいしかなく、焼け石に水の感は全くぬぐえてなかった。

 それは、この船自体ぎりぎりを追及して冗長性が少なかったためである。

 まあ、潜水艦相手に、ほかの武装があったとしてどれほど役に立ったかは、全くわからないが…

 そもそも海軍人ではなく、しっかりとした戦闘訓練を受けているわけではない彼らに、敵潜を撃退しろというほうが、無茶なのかもしれなかった。

 さらに、ソナーを付けていなかったことが、この船の運命を決定づけたのかもしれない。

 少なくともソナーがあれば、発射音ぐらいは探知できたかもしれないからだ

 

 「敵は、警戒心が薄いのか、罠なのか…」

 あまりに無警戒名敵艦に対し、艦長はいらぬ心配をしていた。

 これが、潜水艦をつり出すための罠ではないと、敵艦の内実を知らあいものが深くうがった、見方をしても仕方ないだろう。

潜水艦はそれこそ、追われる側に立つと弱いのだ。

 用心するに越したことはない。 

 「距離4000」

 より慎重に声量を抑えた、聴音手の報告が入ってくる。

 「再微速」

 艦長はそう命じた。

 それとともに、射線を合わせるため、細かな転針を下していく。

 今や、ターゲットを屠る瞬間は、刻一刻と近づいていた。

 艦内を、これまでとは違う、戦い前の緊張が包んでいく。

 より一層空気が張り詰め、ただでさえ息苦しい潜水艦の艦内がより息苦しく感じられた。

 「発射用意」

 艦長は、そうつぶやくように言った。

 そして三度目の、敵艦の運命を決める命令が下される。

 「1番~4番発射管、発射!」

 その瞬間、発射管に圧縮空気が送り込まれ、1本づつ、魚雷を解き放っていく。

 ぷしゅぷしゅ

 その音が都合4回、艦内に響いた。

 九三式53センチ酸素魚雷が、敵艦をうち沈めるべく水面下を疾走する。

 だがこの航跡が敵艦に、視認されることはない。

 純酸素を燃料とするこの魚雷は、航跡を全くといっていいほど残さないのだ。

 敵が気づくとすれば、魚雷自体を発見するか魚雷が、炸裂した時ぐらいだ。

 それはすなわち敵艦に、回避される可能性がほぼないということである。

 

 艦の終わりの瞬間は、唐突に訪れた。

 突如艦首、中央部で2本の水柱が、互いに高さを競い合うように立ち上ったのだ。

 その瞬間まで誰一人として攻撃されたと気づいたものはいなかった。

 「なにがあったんだ」

 そう誰かのつぶやきが漏れるころには、急速に艦内へ、浸水が始まっていた。

 軍艦ですら、数本で行動不能にできる魚雷である。

 防御などない輸送船が耐えられる道理がなかった。

 また水密区画の配置も、不十分であり浸水を防ぐ隔壁は、ないに等しく、魚雷によってあけられた大穴から一斉になだれ込む水が起こす、水圧によってほとんど一瞬で蹂躙されていった。

 この輸送船が水面下に姿を消すまで、5分もかからなかった。

 とうぜん、乗員全員が混乱に陥ってる中でまともな命令が下されることもなく、生存者は一人もいなかった。

 

 その瞬間を直接見ることは彼らにはできなかった。

 だが、自らの放った魚雷が命中した瞬間は、弾頭に詰められた炸薬が奏でた大音響によって知ることができた。

 その轟音が聞こえた直後、艦長は潜望鏡上げを気色を乗せた声音で命令した。

 「敵輸送船に魚雷2名中!」

 その炸裂音は二回まで聞こえたところで、終わりを迎えた。

 そう叫んだ艦長の視界には、すでに傾斜し、沈みかかっている敵艦の姿が、見て取れた。

 もう敵艦を撃沈したと確信した艦長は、艦内放送にて「敵輸送船1撃沈確実」

 その放送が終わると同時に、艦内は喜びの空気が包み込んだ。

 さすがに大声を出すものは、これまでの習慣からいなかったが、「やったぞ!」

 「3隻目だ!」

 と小声での言い合いは、各所で起こっていた。

 だがその戦果を挙げるのは、運頼みの面が大きく安定した戦果を挙げるのは難しかった。第62話完


どうもですもう少ししたら本格的な戦闘始まります

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