第61話 新たなる三羽鳥
お久しぶりです
今回は飛行機の解説中心です
「長官、漸く新型機の量産部隊配置のめどが立ちました」
「これで嶋田の奴にも、後ろめたさを感じなくて済むな」
そう言ったのは、適任者不在(ほかにつけさせられる部署がないともいえるが)として再び海軍航空本部長の座に就いた山本五十六中将だった。
川西航空機 艦上戦闘機紫風
中島航空機 艦上攻撃機天山
愛知航空機 艦上爆撃機彗星
これらが3機種の機体がこれからの海軍航空戦力の、中核をなすことになるのだ。
この中でも、彗星については九六式以降制式化された機体がなく艦上爆撃機乗り事態の数が少なかったため、生産開始は前年から開始されていたものの乗員育成や部隊作成などほとんど一からの状況であったため、時間がかかってしまったのだ。
また発動機は、英国のマーリンエンジンでありアツタ発動機と呼ばれているものを予定していたが、水冷エンジンの経験が少なかったため、整備員が対応できないのではないかという、懸念があった。
そのため、整備員のこなれている空冷エンジンに開発途中で換装された。
結局踏査押されたのは三菱14気筒発動機金星六二型だった。だが性能はほとんど変わらなかったため、この判断はよかったと搭乗員、整備員双方から言われることになる。
また三菱は、ちょうど零式艦上攻撃機の設計試作を行っている時期に、十四試艦上戦闘機計画要求書が出されたため不参加になった。
これは、十二試の時点で過酷な要求を提出していたため、三菱の手には余ると考えられたためだった。
これは結果として、よかった。
この計画に参加したのは、はじめ中島航空機であったが、のちに水上機メーカーとして名をはせていた、川西航空機も参加することになった。
これがいい結果をもたらしたのだ。
なぜか、中島航空機が性能要求通りには作れないとさじを投げたからであった。
その要求とは、20ミリ機銃4門 最高速度最低でも560キロ以上できれば600キロ程度 運動性能零戦程度 航続距離正規2000キロ以上 という過酷なものだったのだ。
特に難易度の高い点は、零戦を超える重武装、高速度を達成しつつ運動性能は零戦並みという所だった。
運動性能を上げるには、翼にかかる重量を減らす必要があり、基本は翼面積の増大という手段がとられるが、それは同時に空気抵抗の増大を招き速度低下につながってしまうのだ。
中島の場合、その部分に苦しんだ末の破棄だった。
だが川西航空機は初の戦闘機受注を目指し、中島に圧倒的に勝る熱意でこの作業に当たった。
だがそんな彼らにしても、運動性能については、頭を悩ました。
だが、ある時そんな状況を打破する装置が考案された。
彼らは、離着陸の時に使うフラップに目を付けた。
これまでもフラップを空戦の時に使う党考え自体はあったが、細かい操作はできなかったのだ。
だがそれでは、運動性を上げるという目的は常に達成されるわけではないし、フラップの出し入れという作業を空戦中に行うということ自体が現実的ではなかった。
また下手に操作すればそれがもとで墜落する危険もあったため、好き好んで使う猛者はほとんどいなかった。
川西航空機の技師たちは、フラップの出し入れ、その時の最適角の算出、その作業を自動でおこなえればいいと考えた。
その結果、自動空戦フラップが生まれた。
これは、日本戦闘機史の中でも大発明の部類に入るものだった。
川西の技術陣は、さらに零戦で不足していた十分な防弾装甲を紫風に与えたのだ。
それは翼面荷重の値が多少悪くなったところで、自動空戦フラップを使用すれば十分賄えると判断したからだった。
そして今まで防弾という概念が希薄だった中、紫風には防弾ガラスや蓋板に1ミリほどの厚板及び要所に装甲版を設置し、燃料タンクには自動防漏装置が取り付けられ、零戦に比べ堅牢性が十全に確保されていた。
確かにその分重量は増してしまうが、乗員を護るという点では、必要なものだった。
また厚板構造を採用したことにより、空気抵抗を減少させることができ、その分速度が上昇していた。
また、595キロという最高速度を出すため紫風には、三菱木星(ハ42-11)発動機が搭載された。
この発動機は日本初の18気筒エンジンである。
火星エンジンをもとに18気筒化したものであり、離床出力1900馬力という大馬力であった。
確かに現在開発中の栄を18気筒化した誉にはすべての面で劣っているが、逆に返せば設計に余裕があり整備がしやすいということでもあった。
また、稼働率も木星のほうが優秀であったし、まだ誉は試験が終わってもいなかった。
そのため多少の不利は承知で、木星が採用されたのだ。
確かに、直径が大きいために空気抵抗が増大したためにあと少しで目標の600キロに届かなかったのは痛かったが、総合的に要求性能を満たしていたため、採用が決定されたのだ。だが最高速度に関しては発動機馬力の上昇や、寄り空気抵抗を減らすことで600キロは確実に超えられると考えられていた。
艦上攻撃機天山は、九七式艦攻の後継機に当たり、発動機は紫風と同じ、木星発動機を搭載している。
当初は、火星二五型の搭載が予定されていたが、安定性と出力で勝る木星が最少されたために、紫風との発動機の互換性の上からも、変わって木星が採用された。
確かに、直径が大きく重量も重かったが、より高度性能が勝っており最高速度もややアップしたため木星になった。
そのため最高速度は、500キロジャストという九七式艦攻に比べて倍近い値になった。
これから太平洋の大海原でこれら高性能機が、これから活躍することとなる。
「それに、零戦が苦戦を言居られたワイルドキャットも圧倒できます」
「問題は、転換訓練いつまでに、完了できるかと、全航空隊にいきわたるかだな」
現在3機種とも、最優先生産機に海軍は指定しており、紫風は月産200機天山彗星は、月産150機づつが要求されていた。
これはほかに一式陸攻や二式大艇、各種水上機の生産も行う必要があったからである。
しかし、生産が追いついたとしても、全機が前線部隊に配備されるわけではない。そこを気を付けなければならない。まずは搭乗員の訓練又は配置転換訓練を行わなければならない。
其れには実機を用いるほかない。また十分な練度を持った乗員の数に比例してしまう。
ようは、1940年代に入るまで少数精鋭主義をとっていた付けが回ってきたのである。
教官の練度はすさまじいの一言に尽きたが、ここ最近になるまでは、十分な数の乗員育成を行うことが制度上できなかった。
だがいまは、基準を緩和したため練習隊に入隊する隊員数が激増し、現場ではうれしい悲鳴が起こっていた。
「問題は、教官や熟練搭乗員たちが新戦術を受け入れるかどうかだが」
「長官、その点は、訓練自体は行っているのですが、時間が足りない、なじめない、そもそも新型機になれておらずそれが優先だ、などの理由から今年中の制度変更は、無理そうだということです。
しかし、無線機についての講習は行っていますし、新型機には英国製の高性能機上電話が標準装備されています。これまでのように聞こえないから意味がないという事態は、避けられる見込みです」
「そこは何とか前進したか…中には電話の設備を外して軽量化を図るものもいたというからな」
そう山本は、苦々しく言った。
母艦航空隊では、いなかったようだが陸上航空隊では特に熟練者に目立ったという。
それは無線機の性能が低くないほうがましだという状況があったためである
これまでは一対一の空戦が多かったからいいが、これからは編隊空戦が主になってくる。その場合無線を使った連携が必要不可欠なものになってくる。
また索敵などの報告もより、分かりやすくなる。
それが戦場での生存率を上げることにつながるのだ。
又新戦術は4機1個小隊が前提であり、その中で二機ずつが長機と列機に分かれて、列機が長機の後ろについて援護するというものであり、一般にはロッテ戦術と
呼ばれるものである。
ゆくゆくは、航空隊の編成も現行の3機1小隊から、4機1個小隊に改変される。だが今度のルソン攻略作戦には間に合わないと判断され、改変は行われていない。
それが吉と出るか凶と出るかは、フィリピンに配備されている敵機の質量戦術すべてにかかってくる。
敵の航空戦力については、偵察及び無線傍受等の手段をもって全容をつかもうとしているが、つかみきれていないのが実情だった。
だが敵の主力機についいては、分かっていた。陸軍航空軍の、カーチスP40ウォーホーク戦闘機、重爆撃機B17フライングフォートレスそして太平洋艦隊の母艦航空隊のF4Fワイルドキャット戦闘機、SBDドーントレス急降下爆撃機、TBFアヴェンジャー艦上攻撃機である。
問題はそれらの機体が何機来襲するかであった。
特に、日本側にとっては、陸軍航空隊が洋上航法を満足に習得していないため、投入できないという問題がった。
それに対し、米軍はフィリピン各地に設置された飛行場から航空機を出撃させることができる。
そのアドバンテージは大きいとみられていた。
特に台湾の第十一航艦は、はるばる大洋を840キロ(450浬)横断しての参戦になるため、疲労というすでに戦う前からの不利があった。
だがそこは訓練で何とかするのが帝国海軍である。
航続距離は、最も短い紫風でも正規で2300キロ、増槽ありならば3400キロに及ぶそれを持っていた。
「問題は、敵がどこまで迎撃態勢を整えてくるかだな」
「その通りです長官…いくら高性能機でそろえたといいましても数の差には勝てませんから油断はできません」
「そういえば新型艦戦の情報は入ってきてるか?」
「そのことなんですけど、少なくともルソン攻略を今年中に行うとすれば、新型機が迎撃に赴くことはなさそうです」
「ならば敵は、ワイルドキャットということになるな。
あの零戦でも互角に戦えた機体だ。紫風ならば十分勝ちを拾えるな」
「はい、陸軍飛行場に配備されてる機体も、P40ウォーホークのようですから、最高速度の面で紫風が後れを取ることはないかと」
「だが、どちらも防弾装備が厚い機体だ…相当接近しないと20ミリでも一撃とはいかないというが」
「しかし20ミリも、紫風は4挺装備してます。すくなくとも、7.7ミリのように当たっているのに効かないという事態は避けられるでしょう。
其れよりも問題は、B17フライングフォートレスです。
英国筋からの報告では、20ミリクラスでも、何機かで当たらないと落とせないということです」
「やはり、そいつが最大の敵か。紫風といえども苦戦は避けられないか。
奴を屠るには、30ミリクラスはほしいが、さすがに艦戦に乗せるわけにもいかないからな」
そうもっか、海軍戦闘機体の中で最も落としづらい難敵と思われて言うのは意外にも戦闘機ではなく、濃厚な防御を張り巡らせ簡単な被弾では落ちない重爆撃機であった。
動きはそこまですばしっこくなくとも、いくら機銃弾を当てても落ちないというのは、気の滅入る話であった。
今回の作戦でも、台湾への攻勢防御としての爆撃、上陸した部隊への爆撃など、出撃機会はいくらでもあるように思われた。
そのため、上層部では、何とか奇襲を行い、滑走路上にいるうちに撃破したいと考えていた。
だが、それも簡単にはいかない話である。
もちろんその因子が戦況の逆転を許すほどのものではないと考えられているが、それでも威圧にはなるし、損害が増すという点では看過できる存在ではなかった。
「そいつに対しては、艦砲射撃で飛行場事態を破壊してしまおうという案もあるようだな」
それは、バターン半島の敵陣地に対する艦砲射撃の延長線上に出てきた考えだった。
すなわち、敵航空兵力が脅威なのならば、艦艇でたたける範囲にある航空基地を、艦砲射撃でたたいてしまえということである。
もちろん敵がそんないかにも売ってくださいというような場所に基地を構えるとも思えないが、考えておいて損はないだろうというのが、この案だった。
おおよそ、やらないだろうという奇策いや愚策とも断言するようなものもいたが、考えないで必要な状況になったらどうするのか、というもっともな発言から、残されることになったのだ。
「それでも主役は、艦隊戦ということになるのかな?」
そう山本は自嘲とも言えなくもない笑みを浮かべながら言った。
それは、海軍の主役に航空戦力が上り詰めれないことに対するものかもしれなかった。
第61話完
さて紫風デス
大体紫電改の要素(自動空戦フラップと20ミリ4門)に信頼性の高いエンジンを乗せたようなものです
速度は火星が大きくて、雷電の火星発動機みたく延長軸を採用してないのでその分空気抵抗が増えた結果です




