第59話次期作戦会議
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第59話次期作戦会議(1942年9月1日)
世紀の大艦隊戦であったトラック沖海戦が終結し、月が替わったこの日、海軍軍令部、通称赤レンガの作戦会議は、参謀たちの意見のぶつかり合いにより熱気が今までにないくらい上昇していた。
前述のとおり、詳細な戦争計画を持たない陸海軍は、次の目標を何にするのか早急に決める必要に駆られていた。
ことの発端は、海戦後に行われた、近衛文麿首相、永野修身陸軍大臣、東条英機陸軍大臣、の3名による、御前会議の席上での海軍大臣、永野修身の発した一言に始まる。
「海軍としましては、早急に次期作戦を選定する必要があると考えます。
幸いにも、敵艦隊の襲撃は跳ね返しましたが、決して大勝とは言えません。
それに、生産力ではあちらさんのほうが上です。
こちらが抜かれる前に、押し切る必要があると考えます」
「そんなに、急ぐ必要はないと考えるが…」
近衛は、そう弱弱しく言った。
強気すぎる海相に、危機感を持ったのだろうか。
だが彼に対しては、山本五十六海軍航空本部長から、「半年ならば行けるでしょう。しかしその先は何とも言えません」と言われていた。
そのことが脳裏によぎったのかもしれない。
「海相、性急に物事を進めすぎてはできることもできなくなるぞ」
東条陸相が、そうとらえようによっては、焦っているようにも見える永野の発言に対し、くぎを刺すように言った。
永野は天皇のほうをちらりと見やるが、まだ静観の構えをとるようだった。
「しかし、イギリス軍の協力も取り付けてあります。
合同作戦ならば十分敵を圧倒できます」
かれは、今しかチャンスはないぞと、脅かすように言った。
それも仕方ないことかもしれない。
現在イギリス領からの原油の輸入は、ストップしているといってもいい状況だったのだ。
なぜか、ちょうど日本本土と南方地帯の真ん中あたりに諮ったかのように米領フィリピンの島々が横たわっているからだった。
また潜水艦による通商破壊も脅威だった。
すでに輸送船数隻が犠牲になっているという。
またフィリピンに軽巡や駆逐艦を主体とした艦隊が停泊しているため、潜水艦が通商破壊を行っていなかったとしても状況は変わらない。
足の遅い輸送船にとって、最短経路をとる必要があるからだ。また、迂回航路をとるにしても潜水艦の脅威があるため、うかつな行動はとてもではないがとれなかった。
また、日英海軍とも、護衛用の艦艇を揃えられなかったという理由もあった。
確かに、日英海軍は第一次世界大戦の戦訓から護衛駆逐艦の必要を認めてはいたが、まだ十分な数がそろっていなかったのだ。
また決戦戦力の建造に力を注ぎすぎた日本海軍では、すでに松型駆逐艦8隻を英国に発注し、すべてが日米開戦直前に舞鶴工廠に回航されていたが、いかんせんまだ訓練不足であった。
また、日本国内でも8隻の松型が建造中であり、来年5月ごろには初期ロット16隻の松型が完成することになっていた。
また英国でも建造は推し進められていたがまだ十分な数に達してはおらず、日本への派遣は不可能だった。
「ようは、フィリピンを落とすということか?」
東条陸相はそう言った。
「そう考えておりますがどうなるかはまだ分かりません」
かれは、海軍の都合で変わることは考えられると、言外に含んだ形で言った。
それは、ソロモン方面を制圧し、そこで合流してはという意見もあったからだ。
なぜか、フィリピンは広大であり、制圧できないのではないかというのが理由である。
確かにソロモン方面となると、補給路は伸びるが、イギリスの属国であるオーストラリアに近いという利点があった。
要は、高いリスクで安全をとるか、低いリスクで、今よりましにするかの問題であった。
「フィリピンは、我々の勢力圏の中で、孤立した存在であるといえますから」
そうなのである、フィリピンを落としてしまえば、アメリカの脅威度の高い基地は真珠湾まで一気に後退するのだ。
確かにウェーク島名など、小規模基地は、あるが、トラックを攻め落とすほどの艦隊の収容能力を持つのは真珠湾だけである。
また通商破壊を行う潜水艦基地も、真珠湾まで後退することになる。
要は、フィリピンは日英双方の勢力圏内に打ち込まれた杭のようなものなのだ。
その杭さえ取り除くことができれば、ない南洋の安全度は飛躍的に上昇することになる。
「だが、兵力は足りるか?」
東条陸相としては、広大なフィリピン全域を占領するのは難しいのではないか、そう考えていたのだ。確かに兵力はあるが、 準備が整っているとは言えない。
「今の段階において、兵力を消耗する愚策をとるのは危険だ」
東条は、そう強く言った。
「それがそうでもなさそうなのです」
永野は、そう確信をもって言った。
その態度は、東条にとっては、気に食わないことだった。
陸軍のことが海軍にわかるのか、そういうことだった。
だが、永野は東条にねめつけられても余裕の態度を崩さない。
「どうやら敵は、補給路が貧弱なことからルソンの完全死守をあきらめたようです」
「そんなことがあるはずないだろう!」
東条は、陛下の手前であることを忘れたかのように激高し、筒江をたたきつけながらそう叫んだ。
「敵はあの権利欲の強い、マッカーサーだぞ!それが仮にも海軍が負けたからって、自分の土地を手放すはずがないだろう」
「まあ、落ち着いてください東条さん、今は陛下の手前ですぞ醜態は慎んだほうがよろしいかと」
そう、東条の態度に対して、激高させた張本人である、永野が宥めるように言った。
「申し訳ありませんでした陛下、とんでもない醜態をさらしまして…」
尊王主義である東条は、永野を少しにらんだ後、そう天皇に対し恭しく言った。
永野にとってみれば、東条の態度の豹変は予想の範囲内だったが、それでも苦々しい思いは隠せない。
「どうゆうことなんだ、永野君?」
そう、陸海相同士の言い合いに腰が引けたのか、近衛総理がたどたどしく聞いた。
「はい、どうやら敵は、コレヒドール半島死守を方針にしたようです。
いまでは、ルソン島の広範囲に広げられていた資材が全てコレヒドールに集められているようです」
この一言に、東条はなんでそんなことを知っているのだ?という顔になった。
「この情報はどこから入手したのだ?陸軍ではまだ入手してないぞ」
東条は少しわめきながら言った。
陸軍には明野学校という間諜いわばスパイを育てる機関があり、情報収集には自信を持っていたのだ。
だが次の一言が、東条の陸軍諜報部隊に持っていた自信を打ち砕く。
「イギリス海軍から入手した情報です。最初は我々も信じることはできなかったのですが、実際に潜入員が調べたところ、どうやら事実だということが判明した」
永野は、最後に強気に出たようだった。
それからしばらく、席上を沈黙が支配した。
「そちらに聞きたいが、それならば陥落せしめることはできるのか?安全が確保できるのならば十分やる価値は思うが?」
そこで天皇が、二人に対し効いた。
「陛下、今この場でできると即答はできませんができないことはないと考えられます」
「そうか…」
「海軍としましても、意思の共通化を図りたいと考えます」
その永野の一言で、御前会議は、お開きとなることになった。そもそもの目的が戦果の説明であり、それはもうすでに終わっていたからだ。
ルソンかソロモンか、その二つで会議は割れていた。
「ルソンのほうが事後の安全度も高いではないか」
「いや今戦力をつぶす危険を冒すのはやめたほうがいい、それよりも英連邦との距離の近いソロモンのほうが、距離も近いし有利だと考える」
「だが、」その分補給路は伸びるぞ?陸海と戦場の違いはあるが、ドイツ軍の過ちを繰り返す気か?」
「そんなつもりはない、補給計画を念入りに立てればいいだけの話だ」
「ちがうな、それだと米軍にルソン経由でやられる可能性が出てくる」
「しかし、参謀の話も信じがたい、ルソンの米軍にそれほどの力が残っているのか信じがたいですな」
「補給参謀としましては、ルソン攻略を押します。そのほうが事後の補給に関する懸念を軽減できますので」
「補給参謀はだまっとれ!
戦略のイロハはこちらのほうがわかっとるわい!」
「ですが、補給がなければどんな兵器も動かせなくなるのも真理、そうではありませんか?」
「補給参謀のいうとおりだ、私としては戦略の観点からも、ルソン攻略を押したいと考える」
双いったのは宇垣連合艦隊参謀長である。
島田連合艦隊司令長官の変わりとしてこの日、会議に参加していた。
「連合艦隊としましても、英軍との合同が容易になるルソン攻略が一番と考えている」
「しかし、バターンに籠城の構えをとっている米軍は十分強大ですぞ、どうやって打ち砕くのですか?」
ソロモン派の声が心なしか小さくなったように思えたのは、連合艦隊の意志が、ルソン攻略にあるとわかり、大勢が決せようとしているのが分かったからだろう。
「別に陸さんだけにやらせるわけじゃない。
空母艦載機による爆撃や、台湾の第十一航艦の陸攻部隊もある。
さらいにえばどんなに堅固な陣地だろうと、戦艦の手法には耐えられんだろう」
「ちょっと待ってください、連合艦隊は、戦艦を艦隊決戦に使わないで雑用のようなことをさせるのですか」
「そうではない、必要があればの話だ。それに艦隊戦の後でも十分可能だろう」
「しかし、そんな余力があるとは思えませんがその問題はどうするのですか?
まさかア米軍なんぞ外注一色と考えておられるわけではないでしょう」
「一応素案はある」
「なんですか」
そのころにはほとんどのものが、ルソン攻略に対し反対を唱えなくなってきていた。
それというのも、作戦を実施する連合艦隊の意志は大分固そうだということが分かってきたからである。
無理強いして、連合艦隊の独走を許すほうが問題だと、考えたのだろう。
宇垣に対し、軍令部のエリートたちの視線が突き刺さる。
みな、海軍の象徴たる戦艦を、対地攻撃に使うとは、何を考えているのだと、思案顔のものや、何を言ってるのだと、けんか腰のものなど、ほとんど理解を示してるものはいないようだった。
ルソン攻略事態に対する反論も、このとき能書きの返答次第では、再燃しそうだった。
「イギリス海軍にやってもう。一応それが連合艦隊の考えだ。同盟国なんだから、協力してもらって問題はなかろう?それに、東洋艦隊の艦艇で米軍の新型艦ともともにやりあえるのは、フッドは装甲が薄いし、ネルソンも、速度が遅く難しいだろう。ならば、東洋艦隊には、艦隊決戦の重荷を負わせられないのではないか?」
「確かに、ネルソン級は鈍足ですが、フッド級は十分やりあえるのではないですか?」
「確かに、新造時問題だった防御装甲を強化しているとは言うが、果たして天城型に匹敵するものか、同課はわからないだろう?」
「確かにそうかもしれませんが、巡戦ですから、速度で圧倒すればいいのでは?」
「だが、フッドの速力は、天城型よりも遅い。さらに言えば、知ってのとおり米軍の新型艦は軒なみ27ノットは出せる。数ノットの差では、防御の厚い米艦にやられるだけではないのかね?」
もはや話は、ソロモンかレイテの戦略会議から、個艦の性能の話に変容していた。
「しかし主砲はわが軍の長門型と同等です。そこまで無残にしてやられるとは思いません」
「イギリスの巡洋戦艦の弱点は、ユトランド沖合戦で明らかになっただろう?それを忘れたか?」
「しかし、彼らがその欠陥をそのままにしているとは考えづらいですが」
「確かに、垂直装甲は熱くしたようだが、水平装甲はどうだかわからんぞ。
忠衛さえ全長が長いんだ、軽量化のために増厚も、どこまでされてるか分かったものじゃない。
だが、対地攻撃となれば、16インチ砲は相当な戦力になる。
敵艦はすべて連合艦隊が蹴散らし、東洋艦隊には、残敵掃討と、対地射撃に当たってもらえばいい」
「ですが、それで相手が納得するでしょうか?」
「するかどうかではない、させるんだ。それに彼らも無用な損害は避けたいだろうからな」
ある程度までは飲んでくれるだろう」
「ある程度とは?」
「対地射撃だよ。残敵掃討のほうは、ほかの部隊があった場合、まかせてくれというだろうな」
「ですが、その場合、対地攻撃に必要な戦力が残るかわかりませんよ?」
「その時は巡洋艦を前面に出せばいいだけだ。威力としては、戦艦が一番だが」
ここまでくると大方、ルソン攻略に傾いていた。
いや、ここまでのプランを言われては反論できなかったというべきだろうか。
「決を採る」
議長が、そう言った。
ここまでくれば、すんなり決まるだろう。そう考えたのだ。
「ソロモン攻略に賛成の者」
議長刃先にそちらを聞いた。
だが、挙手をする者はいなかった。
「ということは、ルソン攻略に決まった、それでいいのですな」
宇垣がどこか勝ち誇ったように、しかし安堵したように言った。
今度は誰からも意義は出なかった。
海軍の方針は、ルソン及び、フィリピン全域の攻略とさだまったのだ。
次は、陸軍と英軍の約束を取り付けるのみである。
「長官、次期作戦は、ルソン攻略に決定しました」
宇垣は、横須賀鎮守府の一角に設けられた、連合艦隊司令部にて、嶋田司令官に報告を行っていた。
「そうか、それはよかった…」
彼は、報告を聞くなりそう安どに包まれたようだった。
「しかし、作戦開始はどうしますか?」
「それは、そっちでも考えているのではないか?
だが、なるく早いうち、遅くても、今年中にはやらないと、敵に時間を与えることになってしまう」
「しかし、それだとトラック沖海戦で傷ついた艦の修復はほとんど終わりませんよ?」
「分かっている、だが「武蔵」は無傷で戦力化はもうまじかだ。
それに天城型はどちらも、小修理で済むのだろう?ならばこの3艦で行えばいいだろう?」
「確かに…そうかもしれないですが、敵も新たに2隻の艦を竣工させたそうです。
それにトラックでも比較的損傷の浅かった艦を、集中して直してくると思われます。少なくとも、2隻多ければ、5隻かそれ以上の艦が出撃してくるとも考えられます」
「だがさらに時間をおけば、さらに新鋭艦は竣工するし、旧式艦の修理も終わってしまうだろう。それに、東洋艦隊の戦艦4隻もいるから数で負けるということはないだろう」
「しかし、これでその3艦がやられるようなことがあればそれこそ、挽回が難しくなります」
「だがその代わりに、ルソンを落とせれば、資源が入ってくるから、3号艦4号艦の建造スピードをあげられるだろう?
それに、敵の撃沈を第一せず、損害によっては、後退しろと言っておけばいいだろう」
「しかし、1発轟沈がないとは言えません。確かに「武蔵」は絶対に平気でしょうが、天城型は、そうとも言えないでしょう?」
「確かにそうだろうが、それを怖がって、戦力が充実するのを待っては、敵の思うつぼだぞ?
かえって戦力差を広げられる愚を、犯したくはない」
「参謀長、お言葉ですが少々戦力を失うのを恐れすぎていらっしゃるのではないですか?」
いったのは、同席していた変人参謀黒島亀人大佐だ。
「だが、戦争はまだ長い米艦隊を殲滅するチャンスが到来した時に全力でたたく、それがいいとは思わないのか?」
「そのチャンスが来る前に燃料が切れては、何もできない。違いますか?」
「参謀のいうとおりだ、参謀長確かに有力艦を失う恐れはあるかもしれないが、ここはあえてやる価値があると思う。
なんせ、天下の英軍と同盟を結んでるんだ、それを生かさないで何の意味がある?むざむざ、各個撃破のチャンスを与える必要もあるまい」
ここまででおおよそ、慎重派の参謀長も折れたといっていいだろう。
残る問題は、その作戦をいつ実施するかである。
できるだけ年内に実施したいと、永野や嶋田は考えているが果たしてそれが可能なのか。
また英軍はどこまで協力してくれるのか。
不安定要素は、まだまだあったが作戦に対する認識をおおむね、まとめられたのはよかったといえるだろう。
第59話完
てな感じ、どうですかね?
海戦のお話は、全会でいったん終了です
感想お願いします。




