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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 エニウェトク環礁沖海戦
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第55話エニウェトク環礁沖海戦

また半月ほど時間が開いてしまいました。

すいません

「喰らえ!」

そう叫ぶと同時に零戦から20ミリ弾が発射されデバステーターに突き刺さる。

直掩のワイルドキャットも、攻撃隊を守り抜かんと零戦に突撃をかけて来る。

そのため、半数近くの零戦は、ワイルドキャットとの空中戦に忙殺される事になる。

だがそれでも10機を超える零戦が40機のデバステーターを少しずつ削り取っていく。

元が低速なのに足して、魚雷を搭載しているためその動きはひどく、緩慢なものとなっていた。

確かに後方旋回機銃は、零戦に取っても脅威だったが、零戦は軽やかな機動を持って、それを回避する。


「ジャップめ!」

攻撃隊隊長出会ったために、まだ攻撃を受けていない、ベルン中佐が、怨嗟の表情を浮かべながら、そう叫んだ。

彼に率いてきた40機のデバステーターはすでに半数近くまでうち減らされていた。

それが彼にとって、信じられなかった。

まさか、極東の島国が作った戦闘機にここまで簡単に撃墜されるとは、考えていなかった。

確かに弱敵と侮っていないわけでは無いが、油断できない敵だとは思っていた。

だが、ワイルドキャットがすべてを防いでくれると思っていた。

しかしその考えは一瞬で崩れ去っていた。

敵機の攻撃のよって簡単に落とされていくデバステーター、敵機と互角の勝負しか演じられないワイルドキャット。

その両方が彼の期待を裏切っていた。

「まだ全滅したわけでは無い。

なめるなよジャップ。

貴様らの艦隊をすべて沈めてやる」

彼がそこまで考えた時だった。

「敵艦隊発見!」

の報告が無線を通じて入ってきた。

ジャップのジークの攻撃は続いていたが、攻撃態勢に入るのを躊躇する理由はなかった。

「攻撃開始!」

彼は、憎むべき日本艦隊を殲滅すべく命令を発した。

その瞬間残存するデバステーター22機は、彼の機体に追随するように降下を始めた。

その練度は決して低くは無いことが、その動きから見て取れた。

だが機体の性能が、低すぎた。


「敵機が攻撃態勢に入った」

その報告が無線電話によって入った。

「奴らも諦めないか!」

木斗はそう、つぶやきつつ、降下姿勢に入った敵機に機首を向ける。

当然ドーントレスも攻撃態勢に入っているため、少しも気を抜くことは出来ない。

だが全般てきに、直掩機は重い魚雷を抱いたデバステーターへ攻撃を集中した。

すでに残っている零戦は30機を切っていた。

それに対し敵編隊は数を打ち減らされたとはいえ、まだ90機は残っていた。

それは、零戦とワイルドキャットの空戦性能が方向性が違うだけで、実質拮抗していたこと、ワイルドキャットとの空戦に忙殺される零戦が多く、本来の目的である攻撃機に手を出せたのが、少なかったからであった。

だが、デバステーターの損害は集中砲火を食らっただけあって、少なくなかった。

すでに半数近くに上るデバステーターが、零戦の攻撃によって撃墜されていた。

そんな乱戦の中、ドーントレス隊はそう大きい損害を受けてなかった。

空戦によって落とされたのは、たった1機でしかなく、今は迎撃の戦闘機も張り付いていなかった。

それは、零戦パイロット達が艦にとって脅威の大きい雷撃機を集中的に叩いたからであった。

ドーントレス隊が進撃を続ける中でも、零戦隊は、デバステーターへの攻撃の手を緩めることはなかった。

「手を緩めるな、いいな!」

隊長の叫びが隊内電話を通して、残存する零戦各機に届けられる。

それに呼応するかのように、零戦隊の攻撃は激しくなって行く。

ワイルドキャットの後ろについた零戦は、散々追いかけ回した挙句に、機首と両翼から大小4条の火線を敵機へと送り込む。

7.7ミリ機銃と20ミリ機銃の一斉射撃である。

それを食らったワイルドキャットは、さしもの重装甲でも防ぎきれずに、胴体中央から寸断される。

20ミリ炸裂弾が直撃したのだろう。

さらに、鈍重なデバステーターの背後についた零戦は、狙いを定めてから、キャノピーに向けて2条の細い火線を打ち放つ。

それは緩やかな放物線を描いた後に、見事にキャノピーに命中した。

キラキラとキャノピーだった破片が、空に舞ったかと、見えた瞬間敵機は機首を海面へ向け落下して行く。

7.7ミリという、人体にとってはオーバーキルな威力を持った銃弾によって、射殺された操縦員の体が前傾し操縦桿を押した結果だった。

だが、偵察員や電信員は生き残っていた様で、南溟の蒼空に2つの白き花が咲いた。

木斗もその渦中にいる。

彼の零戦はすでに、3機のデバステーターを撃墜していた。

だがその際に、銃弾を放ちすぎたために、次の1連射で20ミリ機銃弾は尽きそうだった。

弾数がもともと多い、7.7ミリはまだ十分残っているが威力不足は、否定できなかった。

そして今、彼は再びデバステーターをただの鉄塊に変えようとしていた。

いや正確にはアルミニウム片だろうか。

そのデバステーターは、巧みに転舵を繰り返すことで木斗機から逃げ切ろうとした。

だが攻撃機に随伴する必要から、低速だったとしても不調にならない発動機を持ち、低速ほど運動性の向上する零戦の前にはほとんど意味のない努力であった。

確かにそこで、ワイルドキャットが乱入してきていれば、木斗もそちらに集中せざるを得なかっただろうが、あいにく零戦との戦闘に巻き込まれていないワイルドキャットはその時存在しなかった。

「てっ!」

木斗が短くそう叫び、発射把柄を押し込む。

その瞬間デバステーターの命脈は尽きたも同然だった。

その瞬間、その零戦の両翼から2条の曳光弾による弾痕が吹き伸びた。

7.7ミリは節約のためか放たれなかった。

だが、100メートルも切った至近距離からの射撃では、その2条の20ミリ弾だけで十分だった。

それは、まずデバステーターの垂直尾翼に命中し、それを吹き飛ばした。

さらに、数発が、右翼と胴体との接合部に命中しそこから右翼をもぎ取った。

それによって、デバステーターは揚力を一気に失った。さらに右翼を失ったことにより安定性を一瞬にして喪失し、重力に負け落下していった。


「敵機発見!」

肉眼で最初に敵編隊を発見したのは、艦隊の外郭を護っていた、陽炎型駆逐艦の中の一隻「雪風」の見張り員だった。

その報告は直ちに、第二艦隊旗艦「天城」、第一航空艦隊旗艦「高雄」2隻の異型姉妹の元に即座に届けられた。

「対空戦闘用意、空母を守りきるぞ!」

そう、重おもしく命令を下したのは、「天城」に坐乗する、近藤信竹第二艦隊司令官であった。

と同時に、彼らの守護すべき対象である、空母たちの旗艦「高雄」を見やった。

その母艦の周りには、一回り以上小さな秋月型駆逐艦が1隻ずつ母艦を守護すべく布陣していた。

彼らが、4隻の母艦を護る最後の砦であった。

彼らは小兵ながらも、重巡と同等かそれ以上の対空火力を保持していた。

彼らの主砲は新型の65口径10センチ高角砲といい、既存の12.7センチ高角砲を凌駕する性能を持ったものだからだ。

なぜ駆逐艦に高角砲か、それは彼らが対空戦闘を主眼に設計された艦だからだ。

第二航空戦隊を守護した8隻の姉妹はその性能を発揮する機会を与えられなかったが、第一航空艦隊に属する4隻にはその機会がまじかに迫っていた。

当然彼女らの前にも、1万トンを超える重巡9隻や、巡洋戦艦4隻が、輪形陣の中郭内郭を構成しており容易には、敵機を通さない体制は取れていた。

だが彼らが、十分な対空火力を持っているかといえば、否と答えるしかなかった。

確かに金剛型、天城型の巡洋戦艦は全艦が空母随伴のため、対空火力が強化されていた。

金剛型は、12.7センチ高角砲6基12門、25ミリ3連装機銃16基48門、25ミリ単走機銃12基12門が搭載されていた。

また天城型には、12.7センチ高角砲8基16門、25ミリ3連装機銃20基60門、25ミリ単走機銃20基20門が搭載されていた。

なぜ天城型の方が、充実しているかといえば、艦隊が長く搭載場所が多かったからである。

だが、他の戦艦にはそれほどの対空火力は備わっておらず、基本が12.7センチ高角砲4基8門、25ミリ連装機銃10基20門であった。

それは重巡も変わらない。

なぜか、増強の計画はあったが開戦によって先延ばしにされたことが大きかった。

なぜか、秋月型駆逐艦など新造艦が多くそちらに25ミリ機銃を取られた結果、製造が間に合わなくなったのだ。

また予算上の都合があった。

開戦してしまえば、軍に予算が優遇されるが、それまでは、配分された中でやりくりしなければならないのだ。

そのため、優先度の高い艦順に、工事が実施された。

そのため、高速で航行でき機動部隊に随伴できる6隻の増強工事を、終えるので精一杯だったのだ。

だがその判断は、間違っていなかった。

現にこうして機動部隊が空襲を受けようと、していたのだから。

その点、海軍の判断は間違っていなかった。

その4隻の存在が敵機の打擲を、最低限に抑えたのだから。

「頼んだぞ」

そう南雲中将は、彼に率いる4隻の航空母艦を護るべく布陣した、多数の艨艟に対し呼びかけた。

これほどの護衛艦艇に護られることは、そうはない事は、彼が一番分かっていた。

元々の編成では、護衛は2隻の戦艦、2隻の重巡、12隻の駆逐艦しかなかった。

確かにそれだけでも、相当な戦力である。

海軍大国でなければ簡単には揃えられないだろう。

だが、現状護るべき母艦は4隻に減った反面護衛艦艇は倍以上に増加していた。いや実質3倍近くは居るだろう。

それも敵によるトラック占領阻止のためだった。

そのためこれほどの戦力が1つの艦隊として行動しているのだ。

まともな海軍を持たない国ならばこれだけで、敵国を制圧することもあながち不可能ではないだろう。

だが彼らと相対するは、本気を出せば彼らをはるかに上回る艦艇を用意できるアメリカ合衆国であった。

確かに敵艦は半分であるが、国力は相手の方がはるかに上だ。

こちらの被害を抑えなければいくら損害を与えた所で、数に押し切られるのは目に見えている相手だった。

幸い戦艦部隊は、ほとんど沈没艦を出さずその役目を全うしていた。

確かに損傷艦は多かったが、沈没に至らなければ再戦力化はそこまでかからない。

次に損害を特に、艦艇の損害を抑えて勝つべきは彼ら機動部隊だった。

それからしばらくしてから、空襲は始まった。

対空砲火の射程内に敵機が入ったと同時に、零戦が退避する。

同士討ちを開始するためである。高角砲や機銃から放たれる砲弾、銃弾は敵味方の区別なく航空機を撃墜する。

それに巻き込まれるのは流石に、命知らずの彼らでも避けたい所だろう。

最初に輪形陣に侵入したのは、急降下爆撃機であるドーントレス隊であった。

彼らは、日本海軍が時代遅れの艦爆しか持たない中新時代に適応した艦爆を、送り込んできたのだ。

だがその反面艦攻の性能は一歩劣っていた。

その艦爆が殆ど数を減らさずに艦隊上空3500メートルで侵入してきた。

その高度では、艦隊型駆逐艦唯一の対空兵装である25ミリ機銃は役に立たない。

役に立つのは、重巡、巡洋戦艦、航空母艦の装備する12.7センチ高角砲、秋月型駆逐艦の装備する長10センチ高角砲である。

まずは、中郭に位置する重巡の装備する9隻合計36基72門の12.7センチ高角砲が仰角を上げ射撃を開始した。

敵機が艦隊を挟み込むように飛来したのが、艦隊に若干有利に働いた。

それと言うのも、遊兵とかした高角砲が無かったからである。

各艦から放たれる高角砲弾は1門あたり14発に及び、南溟の蒼空を黒く染めていく。

南溟の海には、炸裂した断片や不発弾が、着弾を始めていた。

相当な密度で高角砲弾が炸裂するが、それに絡めとられる敵機はまだ無い。

時限信管の調整がまだ、微妙にずれているのだろう。

だが、敵機が急降下に移る前には、照準、調定が会い始めた。

最初の犠牲となったのは、右側から侵入した編隊の中部に位置した機体だった。

炸裂の砲弾が直撃したのか、その機は木っ端微塵となって、砕け散った。

その命中弾を出したのは、右中央に位置していた「利根」のそれだと言われているが、それが本当かどうかは分からない。

それほど、乱射状態だったのだ。

なんせ敵機ははるか上空の高みにいたのだ。

弾幕射撃に頼るほか無かったのだ。

だが敵編隊はその程度では、戦意を失わずに突撃を続行する。

標的はもちろん4隻の空母だろう。

そして、内郭に差し掛かった敵艦爆に4隻の巡洋戦艦による猛射が始まった。

4隻だけで、28基56門の12.7センチ高角砲である。

1隻あたりの密度は、重巡が比べ物にならないほどだった。

特に天城型は、重巡1隻の倍の高角砲を装備しており、その火力を持って敵機を阻止せんと、射撃を開始した。

第55話完

ストックをためておくという作者の考えから、こんなに間が空いてしまいましたが、第58話にてようやく第1章トラック沖海戦執筆終わりました。

しばらく、2日間隔で、第1章最終話まで投稿させていただきます。

しかし、作者も、第1章トラック沖海戦だけで本保1年を費やすことになるとは思っていませんでした。長々、読んでくださった皆さんありがとうございます

第2章、しばらく、お休みしてから投稿します。

 というのも、第1章を書いていてしっかりプロットを書いてからにしないと頭が混乱すると、勉強したからです。

 そのため、投稿に間が空きますが、書くのをやめたわけではないので、気長にお待ちください。

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