第54話エニウェトク環礁沖海戦
遅くなりました
コミケの行列の時に書いて投稿できたらなと思います
「来るぞ!」
甲板にいた誰かが、そう恐怖におののき切った声音で叫んだ。
これまで、対空火器の最も充実した艦として数多の敵機を葬ってきた「レキシントン」であるがその武運が、最後まで続く事はほぼ無さそうだった。
今までは、「コンシティレーション」へ攻撃をかけるためか、高い高度をとって攻撃行動を取ってきた、ケイトだったが最後の5機は完全に、「レキシントン」へと目標を変えてきた。
そのため徹底した低空飛行によって「レキシントン」へ殺到してきた敵機を投雷以前に、撃墜する事は叶わなかった。
僅かに2機の敵機を、反転のためやや浮かび上がった主翼に命中弾を与え撃墜できただけだった。
敵の放った魚雷が殺到してくる以前に、面舵が効き始め右舷側ヘ、回頭し始められたのは良かった。
それによって、ある程度の魚雷は避けられそうだったからだ。
一見、敵の放った魚雷に突き進むように見えるが、それが一番魚雷に対し艦が向ける面積が小さくなる為、被雷する確率が低下するのだ。
だが、舵が効き始めたのがやや遅かった事、敵機の狙いが良かったことによって、完全なる回避は無理と思えた。
「総員左舷側へ退避!」
先ほど対衝撃体勢取れと、発令したマライア艦長であったが、ここでさらなる命令を下した。
被雷が確実になった為、乗員への被害を減らそうという事である。
もっともそれは、あまりに遅すぎまた、大規模に発令しすぎていた。
「来るぞ!」
マライア艦長の視線から、1本の白い航跡が消失した。
甲板の陰に隠れて見えなくなったのだ。
それは投雷が一番「レキシントン」に近い機が放った、ものだった。
その瞬間、艦の時間が途轍もなく、鈍行としたものとなった。
極度の緊張が、時間の流れを怠慢なものへと変えたのである。
マライア艦長から見える範囲にいる、艦橋要員の表情には、二つの種類があった。
まずは、もはやここまでと顔面を蒼白にしているもの。
そしてもう一つが、マライア艦長もそうだが、1本程度の被雷ではそこまで大きな被害にはならないと、達観し覚悟を決めたものである。
その差は、おそらく危機的状況に陥った場数だろう。
もっとも、実際の戦場というのはそうじゃないから、訓練の過酷さ、経験だろう。
もしくは、頭で考え理解しているのだろう。
そして、その長く感じる時間にも終わりの時がやってくる。
その魚雷は、「レキシントン」の艦首に命中していた。
その瞬間、大いなる衝撃が「レキシントン」の艦隊を揺さぶった。
流石に艦橋要員がなぎ倒されるほどではなかったのは、3万トンに及ぶ巨艦だからだろう。
だが当然被雷箇所付近は、とてつもない衝撃が襲っていた。
「機関停止!」
マライア艦長は、素早くその衝撃から立ち直ると、そう機関長に命令を下した。
ほぼ同時に反射的に、テレグラフが操作されタービン方らの回転がスクリューへと届かなくなる。
いや、タービン自体が回転力を落としていく。
だが発電に必要な分がある為、完全停止はさせない。
その一連の作業が行われているころ艦首では、白く太い水柱が艦橋を超える高さまで、立ち上っていた。
それが、魚雷の威力の高さを物語っていた。
そして既に艦内へと、浸水が始まっていた。
だがそれは、しっかりと閉じられていた防水隔壁によって、致命的な範囲へは広がらなかった。
艦首への直撃だった為に、増設されたバルジは、衝撃吸収という面では、全く役に立たなかった。
だが浮力保持という面では、プラスに働いた。
即座にダメージコントロール班が出動し被害を、食い止めにかかる。
即座に推進力を切った事もあって、破られた隔壁はそう多く無さそうだった。
また艦首が、分断されるという事もなかった。
だが、やはり、当然の如く傾斜は起こっていた。
それは3度ほどでありかなり小さかったが、違和感を感じるには十分なものだった。
また艦首に大穴が開いてしまった為に、高速航行は不可能になってしまった。
その為これ以上進撃するのは、ただの足手まといにしかならなそうだった。
「この艦はこれ以上の戦闘は可能か?」
フレッチャー司令官が、そう艦長に聞いた。
「不可能かと言われれば、いいえです。
ですが、この艦を失いたくないのであれば、無理でしょう。
これでは、浸水が広がらないようにする為、20ノット出せれば良い方でしょう。
それに、この程度なら2週間もあれば真珠湾で修理できると思われます」
「そうか、だがここで引くのはまた難しいだろう。
作戦の為とはいえ、合衆国は戦艦を失い過ぎた」
そう一番最初に開始された、大規模砲戦にとって11隻のうち6隻が撃沈されてしまったのだ。
また生き残った5隻にしても、中破以上という燦々たる結末であり、修理には半年はかかりそうだった。
だが朗報はあった。モンタナ級戦艦の建造に伴い一時は建造中止も視野に入れられていた、BB61〜の艦すなわちアイオワ級戦艦が、当初の予定の3分の1の2隻ではあるが建造が進められていた。
隻数が減ったために同型艦の資材を流用する事が出来たために、竣工時期は今年の末ごろ、となっていた。
なぜ建造中止にならなかったのかといえば、モンタナ級戦艦は最大速力が28ノットであるために、33ノットを出そうとすれば出せるアイオワ級に比べ空母部隊へ随伴した時、足手まといになるのでは、と考えられたからだった。
それでも2隻にとどまったのは、モンタナ級戦艦の竣工時期を遅くしないためであった。
だがその2隻が、今合同機動部隊に存在している、「レキシントン」「サラトガ」と並んで来年3月ほどまで3ヶ月ほど唯一の有効戦力となりそうだった。
だが、その竣工も未だ先だ。
それまでは、今の状況ではすぐに実戦復帰できる「レキシントン」と無傷の「サラトガ」の2隻が有効戦力だった。
「ですが奴らの方が、戦力復帰は早いでしょう。
それに、レキシントン級でまともに敵艦とやり合うのは、隻数から見ても無理かと思います。
このままいってもむざむざ沈められるだけに、なりかねません」
「ここは引いた方が、良いのか・・」
フレッチャーはそう呟いた。
彼としては、このまま帰るわけにも行かなかった。
これでトラック島を占領できれば、戦略目標は達成できるからだ。
だが、敵艦隊にも戦艦はいる。
最小限楽観的に見積もって、その4隻の戦艦がコンゴウクラスだったとしても、レキシントン級のペラペラの装甲ではやられてしまうかもしれない。
さらに、アマギクラスがいたら最悪だ。
速力がやや優速なこと以外、全てで劣っているのだ。
下手すると、稼働戦艦が旧式艦ばかりになりかねなかった。
敵の空襲は、一段落付いていたため、そのことに付いて考える時間はあった。
この空襲で被った被害は、大破、重巡「ニューオーリンズ」「インディアナポリス」、中破、駆逐艦「マドックス」戦艦「レキシントン」であり、沈没艦はなかった。
だが、その分輪形陣も密度は落ちており、次の空襲があった場合、どうなるかはわからなかった。
だが、今即座に引くということも出来ない。
すでにジャップの艦隊へ向けて攻撃隊を、放っていたからだ。
「敵機発見!」
その報告が、第一機動部隊旗艦「高雄」には入ったのは、時計の針が4時を回った頃だった。
「来たか」
南雲長官はそう、来るべきものが来たかとつぶやいた。
すでに36機の零戦は空にあった。
敵機を防ぎきれるかは分からなかったが、虎の子の空母だけは、やらせるわけには行かなかった。
「敵機前方50浬!」
レーダー室よりの報告が入る。
少なくとも、30分後には敵機が来襲する距離だ。
「零戦隊でます!」
見張り員がそう叫ぶと同時に、上空を乱舞していた36機の零戦が敵機を迎撃戦と敵機の迫り来る方角へ翼を翻し、飛翔していく。
意地でも艦隊には手出しをさせない、の強い意志が感じられた。
すでに司令部には、第一次攻撃隊の戦果は入電していた。
それは「戦艦一に魚雷命中、重巡ニ大破確実」と言うもので、決して華々しいものではなかった。
また、敵の空母に手を出せなかったのも、大きかった。
攻撃隊からは、敵の対空射撃が凄まじくとてもでは無いが、敵空母に手出しできる状況になかった旨報告が届いていた。
特に、レキシントン級と思われる敵艦の対空砲火は激しいものが、あったという。
いまはとにかく、艦隊を守りきることが重要だった。
第一機動部隊には、虎の子の空母4隻が存在する。
それらを守りきらなければ、今後の戦いに影響が出るのは明らかだった。
主力は戦艦とはいえ、上空援護や敵空母を撃滅するといった面では空母が主役になる。
全く無為な存在というわけでは無いのだ。
その為の艦は、十分にあると言って良いだろう。
天城型2隻をはじめとする巡洋戦艦4隻に重巡9隻また対空戦闘に主眼を置かれた秋月型も、4隻が各々1隻の空母を守るように航行していた。
外郭を守るのは、32隻の艦隊型駆逐艦と、「神通」「那珂」2隻の軽巡であった。
だが彼らに、有効な対空砲火は期待できなかった。
重巡以上の艦や、秋月型に比べ高角砲を持っていなかったのだ。
特に、32隻の駆逐艦に高角砲が載せられていればと思わないでも無いが、彼らの本業はあくまで対艦戦闘にあって、対空戦闘には無いのだ。
それでも、25ミリ3連装機銃を3基、単走機銃を14基積んでいた。
それは彼らに取っても、対空戦闘においては唯一の武器として重宝がられていた。
まずはそんな彼らが、敵機との戦闘を開始するのだ。
「敵機発見!」
その報告が隊内電話より、響いてきた。
木斗一等飛行兵曹は、その声の指す方向を見やった。
すると確かに敵機はいた。
明らかに100機は超えていそうな大編隊だった。
だが全部が全部戦闘機というわけでは無いだろう。
36機と見方は劣勢にあるが、攻撃機に攻撃を集中すればなんとかなるのでは無いか。
ここでは敵戦闘機をいくら落としても、艦隊を蹂躙されては意味が無いのだ。
「突撃開始!」
指揮官から、命令が下る。
それと同時に、やや下方に占位している敵編隊に向けて、突撃を開始する。
それと同時に木斗一等飛行兵曹も、スロットルをフルに押し込み、栄発動機の最大馬力を持って機体を加速させ始めている。
36機の零戦は、乱れなく突撃に移った。
それはある種の芸術作品のようにも見えた。
敵機は気づいていないのか、気づいているが無視しているのか分からないが、動きを見せない。
敵機との距離が、一気に詰まっていく。
するとさすがに敵機も気づいたようで、ワイルドキャットが上昇し零戦を食い止めようとする。
降下する零戦と、上昇するワイルドキャット。
双方500キロを超える猛速で、接近する。
相対速度は1000キロを超えているはずだ。
両者のすれ違いは一瞬だった。
木斗一等飛行兵曹もその渦中にいた。
敵機の砲弾のような、機体がこちらに向けて突っ込んでくる。
彼は、十分ひきつけてから、7.7みりを叩き込むつもりだった。
550キロを超える降下速度によって、零戦の機体が揺さぶられるが、まだ空中分解を起こすほどでは無い。
だがそれによって、照準がつけ辛くなっているのも、事実だった。
照準環が揺さぶられて、しまうためだった。
だが、それでも全く無理というほどでもなかったし、上方から射てるという気楽さもあった。
だが先に機銃弾を放ったのはワイルドキャットだった。
彼はワイルドキャットの両翼に、火花が散ったのを見るや、敵機の撃墜を諦めクイックロールをかけ回避に移った。
彼の機体がロールには入ったと同時に風防の上方を、曳光弾が過ぎ去っていった。
さらに敵機もその曳光弾を追うように、とに去っていった。
まさに危機一髪だった。
だが彼の目の前には、爆弾や魚雷を抱えたカモが、たくさん飛んでいた。
そう彼はそのとき名前を知らなかったが、ドーントレス、デバステーター各40機であった。
それに先ほどの正面戦を生き残った零戦34機が突入した。
20機のワイルドキャットは直掩として付かず離れずの位置にいたが、零戦はそんな彼らを巧みにかわし、防御の薄いところから突っ込んでいった。
そこから先は、乱戦だった。
真っ先にやられたのは、編隊後方を飛行していたデバステーターだった。
彼らは、航空魚雷を積んでおりただでさえ遅い機動がさらに怠慢なものになっていた。
木斗一等飛行兵曹が、一瞬でデバステーターの後方に着く。
デバステーターはなんとか逃げようと、後方機銃を放ったり、旋回をかけたりした。
だが旋回機銃は元々命中率の低いものだったし、旋回したとしても運動性は、最悪だった。
零戦は全く苦もなく後方を取り続ける。
「今だ!」
そう木斗が叫ぶと同時に、発射把柄が押し込まれた。
それと同時に両翼をねじれるような衝撃が襲う。
両翼の20ミリ機銃を放ったのだ。
彼の放ったそれは、曳光弾で見て明らかに敵機の主翼に吸い込まれた。
次の瞬間、炸裂弾が命中したためか、右翼が吹き飛んだ。
その瞬間、そのデバステーターの命は潰えた。
あとは、蒼海に落下していくだけである。
第54話完
すいません、サイト自体あんまみてなかったです




