第51話エニウェトク環礁沖海戦 インディアナポリス奮戦
久しぶりです
これからも不定期になると思いますがお願いします
ジークが一直線に、「インディアナポリス」に突っ込んでくる。
「インディアナポリス」も対空砲火を浴びせるが、なかなか命中しない。
「早く落とせ!」
誰かがそう叫ぶが、それで落とせるなら苦労はしない。
その時、火球が生まれた。
いま「インディアナポリス」が狙っているのではないが、ジークに対空砲火が直撃し爆発を起こしたのだ。
恐らく主翼が断ち切られ燃料が爆発したのだろう。
だが、喜んでは居られない。
ジークに機銃掃射許せば、沈没には至らないが、確実に対空火器を潰され、防空網に穴が空くだろう。
そうなれば、後続してるであろう、ケイトがより容易に空母に接近できる。
最後の盾として、「レキシントン」が左舷側に見えているが、単艦ではいくら対空火器を増強しているといっても、多数のケイトを食い止められるとは、思えない。
そうこうしている合間に、ジークの両翼に発射煙がたなびいた。
それと同時に、曳光弾が曳痕を引きずりながら迫ってくるのが、艦橋からも見えた。
マライア艦長は、もし艦橋に当たったらと不吉なことを頭に浮かべていた。
だが、幸いにもそのジークが放った機銃弾は艦橋には、命中していなかった。
だが、艦首甲板の主砲塔があるあたりに増設された、単装機銃群に被害が出たみたいだ。
主砲塔にも、機銃弾は命中していたが、同じ203ミリ砲の直撃にもある程度の抵抗力を持つ、装甲板を射抜くには至らず、傷がついただけで内部に被害はなかった。
だが、露天繋止されていた機銃群は、そうはならなかった。
「インディアナポリス」は20基を艦首尾甲板に5基づつ左右両舷、4群に分けて設置されていた。
また、4基の40ミリ4連装機銃は艦中央部に置かれていたため、今のジークの機銃掃射では被害がなかった。
被害集計に時間がかかったが、3基の機銃の射手がやられ一時的に射撃不能になり、1基が根元から吹き飛ばされ使用不能になっていた。
すぐ使えるのは1基だけだが、完全に不能になったのは1基だけである。
とりあえずは、最小の被害に止められたと、マライア艦長は思った。
だが、ジークはさらに4機ほどが飛来してきた。
奴らは、20機ほどのジークを3群に分けて3隻の重巡に機銃掃射をかけてきたようだ。
20機ほどは見張り員の報告のため、誤差があるだろうが、3群に分かれては、間違っていないだろう。
反対側でも同じことがされているとすれば、機銃掃射の目標から外されているのは、3隻だけということになる。
今回は幸運にも被害は最小で終わったが、次はどうなるかわからない 。
「機銃射撃再開しました!」
見張り員がマライア艦長の思索を、遮るように報告してきた。
艦橋から見ると、その通り4基の機銃が砲口に発射炎を出しながら、射撃を行っていた。
この当時、射撃指揮所という概念はあったが、まだ実用化されていなかった。
それは、砲戦において艦長が直接見たほうがいいという意見が強かったことと、レーダーがそれほど発達していなかったからだ。
だがその結果、彼はまじかに損害を把握することが出来た。
少なくとも重巡が航空戦の指揮を取ることは、無いだろうから問題は無かった。
次のジークは、艦中央部に向かって、突っ込んできた。
そのため、前回は十分な働きを見せることのできなかった、2基の40ミリ機銃が猛然と吠えた。
先ほどは、打ってはいたが、斜め方向だったこともあり、いまいち、正確な射撃が出来ていなかったのだ。
だが今は、ほぼ真正面だから、高さや向きを調整すればよかった。
前回もそれだけで良いのだが、難易度が違った。
また未来位置を予測する手間も、ある程度は省けた。
それが一番大きいだろう。
また、やや間延びしつつも、4基の5インチ両用砲も戦果をえんと、猛然と砲弾を放っていた。
この角度なら、正面から直撃、という事も期待できるだろう。確率はとてつもなく、低いのだが。
3種類の銃砲弾が、ジークを撃墜戦と立て続けに発砲する。
また外郭を守る、駆逐艦も左舷側の機銃を撃ってくる。
だが、増強が中途半端だったのか弾幕に引っかかる敵機がなかなか出ない。
さすがに速いといっても、これほど弾丸が四方から氾濫するように飛び交っているとなれば、簡単に当たりそうだが、なかなか当たらない。
これは、もっと機銃を増設するよう意見具申したほうがいいな、とマライア艦長は思った。
彼は、恐らく駆逐艦サイドの増強が艦数が多すぎたために、妥協を強いられたのでは無いか、と思った。
また機銃、特に20ミリ単装機銃なら「インディアナポリス」にもまだ増設できる場所は有った。
恐らくその辺の穴を、うまくつくかそこを補おうとするため、厚みが薄いのかも知れなかった。
機銃の数が増えれば、その分1基の機銃が担当する範囲が狭まるため集中して、厚みのある弾幕を張れるというわけだ。
そう考えてる間にも、艦中央部付近の空域に40ミリ機銃弾が同時に8発放たれ続けている。
実際には、装填の問題があるため、少ないかもしれないが、それでも、2門は射撃を続けているはずだ。
大量の40ミリ弾がばらまかれている。
40ミリといえば、対戦車砲としても、軽戦車相手なら通用するサイズである。
戦車ほど装甲が充実していない航空機なら、ほぼ一撃で粉砕されるはずだ。
グラマン鉄工所の渾名をとる、ワイルドキャットでもそれはあくまで航空機の20ミリ、12、ミリの機銃に対してである。
恐らく、40ミリを食らえば簡単に落ちてしまうだろう。
40ミリもの機銃弾なら、当てることができれば、初速などが劣っていても重量が、破壊力を持つ。
そう考えれば、眼前のジークも簡単に撃墜できそうなのだが、そうは行かない。
高速で飛来するため、真正面という格好の場所からの射撃でも、なかなか送り込めていない。
恐らく射撃の反動などの問題もあるのだろう。
だが、数打ちゃ当たるという言葉もある。
確率は、数千分の一だったとしても、それに準ずるほどの数を打ちまくれば、当たるだろう。
それに射点は、理想的と言っていい。
そのため、遂に命中弾が出た。
その大きな曳光弾が、ジークに吸い込まれた、そう見えた瞬間ジークのキャノピーが砕け散ったように見えた。
距離は恐らく500メートルを切っているだろうから、双眼鏡でなくとも飛び散る破片の反射で分かった。
1発だけ当たったわけでない。
裁断なく放っているため、さらに数発は命中しただろう。
その結果、ジークは機体が木っ端微塵粉砕されていた。
恐らく炸裂弾が、機体中央部で炸裂したのだろう。
だが、向かってくるジークはそれだけで無い。
まだ最低でも2〜3機のジークが、「インディアナポリス」に向かって来ていた。
そのため、対空砲火は休むことなく放たれ続ける。
弾丸で、飽和するのではないかと、思うほどの密度だが、ジークはそれをかいくぐって「インディアナポリス」に接近する。
他の艦も、必死に砲弾を放ち続けるがそれはなかなか身を結ばない。
甲板では、弾薬係がせわしなく、弾薬を運搬していた。
すでに彼らにも犠牲者は出ていた。
生身の人間であるため、少しの破片でも、やられてしまうのだ。
「インディアナポリス」は全速で航行しているが、乗員はそれを頼もしく思えなかった。
なんせ、ジークを撃退できたとしても、本命のケイトがまだ残っている。
それも落とさねばならない。
確かに、ジークほど手強いということは無さそうだが、それも対空砲が十分に残っていたら、の話である。
少しずつ被害を重ねている現状があるため、楽観視できなかった。
再び、落とすことが叶わなかったジークが、機銃掃射をかけてくる。
今度も中央部に向けての吶喊だったが、前回のような幸運には、出会えなかったのだ。
いや、確率として考えたなら、妥当なのかもしれない。
そうこうしている合間に、ジークが機首と両翼から曳光弾を吐き出す。
それが見えたと思った次の瞬間には、ジークは「インディアナポリス」のほぼ真上を飛び越え、「レキシントン」に向かっていった。
それを撃墜すべく、射撃の機会に見舞われなかった、左舷側対空砲が火焔を吐き出す。
今度の掃射による損害は、40ミリ4連装機銃1基の完全破壊だった。
完全に銃弾を放つのに必要な基部を、破壊されていた。
また、陸上では対戦車砲としても使えるだろう砲弾が、誘爆を起こした。
それによって、多くの兵士が吹き飛ばされた。
また機銃掃射によって、頭吹き飛ばされたものなどが、周囲に転がっていた。
「インディアナポリス」は、艦中央部の弾幕を支える2基の4連装機銃のうち1基を喪失したのだ。
それによって、弾幕が薄くなったように見えた。
「インディアナポリス」に損害を与えてジークは、「レキシントン」にも機銃掃射を仕掛けようとしたが、「レキシントン」が一斉に放った恐るべき弾幕を目にし即座に反転していた。
もしくは、銃弾が空中戦に耐えられないほど消耗していただけなのかもしれない。
だがどちらにしろ、「レキシントン」が敵機の侵入を防いだ事実に変わりは無い。
今や、輪形陣を構成するほぼ全ての艦が、敵機に向け高角砲や機銃弾をひっきりなしに放っていた。
だがそれだけ放っても、敵機を殲滅するには至らない。
なんとも無駄遣いのようだが、それが確立で見た場合の現実だった。
人力で狙いをつけている限り、それが減ることはない。
まだレーダーを照準に使用できるほどの、精度は出せていないのだ。
確かに機銃座は電動であり、負担は少ないがそれでも、人の目で追っている以上、限界はあった。
おそらく、機銃手達はなかなか敵機を落とせない現実に切歯扼腕している事だろう。
「なんで当たらないんだ!」
そう、艦尾側機銃群のうちの1機の射手が、叫ぶ。
常に敵機に必中の弾丸を送り出しているはずなのに、当たらないのだ。
確かに振動をもろにくらい、完璧とは言えないが、そこまで当たらないとは、思っていなかった。
「まだ敵機はくる!
弾を早くもってこい!」
彼はモタモタしている装填員に、そういった。
すぐさま撃ち尽くした20ミリ弾が、補充される。
その直後、すぐさま彼は、射撃を再開する。
だが、ジークは、先ほどのジークが開けた穴へ飛び込みように中央部に突進してきた。
なかなか曳光弾の曳痕が、敵機の前に行かない。
全てが、敵機の後ろを通過していた。
機銃の旋回が、敵機の前進に追いついていないからだった。
彼は精度が甘くなるのも承知で、機銃をぶん回したが、それでも完全には追いつけなかった。
高角砲弾も炸裂しているが、ぎりぎりでその加害半径から脱出しているように見えた。
おそらく彼らは、艦攻とそう変わらない認識で、放っているのではないか?
彼にはそう思えてしまった。
実際には、敵機の高速に合わせ射弾を放っているのだが、それが追いついていないのだ。
真ん前とはいかず、横でも炸裂すれば致命傷を与えられるが、悲しいことにほとんどが、敵機の後方で炸裂していた。
敵機が無傷とは思えなかったが、それでも致命傷を負わせられていないのは、敵機の動きを見ればよくわかる。
また、機数を半分に減らされた4連装機銃も射弾を、ぶっ放すが密度が半分に低下したため、至近弾を得るので精一杯のようだ。
1基で担当する空域が倍になったのだから仕方ない、ことかもしれないが、かなり痛いことだった。
ジークは、「インディアナポリス」の抵抗をものともしないように、接近してくる。
また、機銃掃射が来る。
誰もがそう思い、身を硬くしたが、どういうわけか、そのジークは何もせずにそのまま「インディアナポリス」、上空を飛び去っていった。
「まさか!」
勘のいいものは、すぐに感づいた。
奴は、「レキシントン」を集中して狙う気なのだ。
先ほどのジークの様子を見て、あえて「インディアナポリス」を見逃す、という判断をしたとも思えた。
当然、「インディアナポリス」の無傷で残存している、左舷側高角砲、機銃が猛烈な射撃をそのジークに加える。
また、「レキシントン」も艦を真っ赤に染めると錯覚させるほどの、対空砲火をその気に向けて撃ち放つ。
だが、それでもジークは墜落しなかった。
命中弾が、出てないからだった。
「もう一機きます!」
艦長をはじめとする、皆が左舷側に視線を移していたが、見張り員の報告で我に帰り即座に右舷側へと視線を戻した。
「インディアナポリス」を通過したジークは、脅威にはならないのだ。
問題は、右舷側から、接近してくるジークだった。
再び高角砲や機銃が火を噴く。
それまでと変わらないルーチンが、再び始まった。
第51話完
総合ポイント380突破!
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