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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 エニウェトク環礁沖海戦
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第45話エニウェトク環礁沖海戦 出撃

飛ばし気味です

「出撃だ!」

「レキシントン」艦橋で、フレッチャー中将が吠える。

ついに敵艦隊を、照準に捉えた。

時刻は、2時20分。

敵との距離は、約150浬。

航続距離の長くない、デヴァステーターであっても、十分に届く距離である。

ついに必中の砲弾たる、艦載機を空母から放てる。

ワイルドキャット、デヴァステーター、ドーントレス各20機が2隻の計120機の大編隊が、これから出撃する。

また、彼らが出撃しきると同時に、16機づつ32機のワイルドキャットが、飛行甲板で待機に入る。

レーダーが敵機を捉え次第、出撃し敵機を迎撃艦隊を護るのだ。

彼らは、さながら馬車に群がる野盗の群れを追散らす、騎士のようでもある。

彼等がどこまで、敵機を食い止められるかは、分からない。

だが、もし突破されたとしても、多数の駆逐艦や巡洋艦、そして長大な艦体を持った旗艦である、巡洋戦艦「レキシントン」、その姉妹艦である「サラトガ」が熾烈なる対空砲火を喰らわせる。

艦隊の陣形は当然、輪形陣である。

2隻の空母を護るようにして、巡洋戦艦の2隻を始めとする数多の艦艇が、高密度で陣形を組んでいる。

惜しむらくは、1隻あたりの対空火力が、十分でないことだが、十分だろう。

まだ、航空機の威力は十全に知られていないため、不十分なまま挑まねばならないのだ。

「出撃!」

各機の機上電話に、命令が入る。

すでに発艦士官はフラッグを、おろしいつでもいけると示している。

当然各機のエンジン音は、高ぶっている。

ついに反撃の狼煙を上げられるのだ。

気分が高ぶらないはずがない。

艦隊は、28ノットのまま風上に航行している。

合成風力を稼ぎ、発艦するを容易にするためだ。

そのため、強風が飛行甲板を吹き抜ける。

下手に立とうものなら、吹き飛ばされるのではないかと、思わせるほどだ。

だが、今飛行甲板に立っているのは、屈強なる海の戦士である。

そんな事は微塵も感じさせず、粛々と作業を進める。

時折飛ばされる帽子や、風に揺れる軍装、艦橋にかけられた旗が、強風が吹き荒れていることを示している。

だが、彼らは軽く手を目元にあてるだけだ。

「いけるか?」

パイロットが、整備員に大声で聞く。

別に怒っているわけでなく、エンジンの奏でる轟音によって、大声で無いと聞こえないだけだ。

「待ってください!」

整備員が、彼に劣らぬ大音声で言い返す。

彼は今、オイル漏れと格闘している。

どういう訳か、主脚の油圧部の漏れが止まらないのだ。

「早くしてくれよ!もう出撃だ」

パイロットは、急かすように言う。

「これを直さないと脚が、引っ込まないかでなくなる恐れがあります!

もし引っ込まないならまだしも、引っ込んだはいいけど、出なくなったらどうするんですか?」


彼も負けじと言い返す。

これを怠れば、無事に戻ってきても、機体を廃棄せざる得ない状況になてしまうだろう。

そう考えると、手抜きは出来なかった。

それに手抜きは、彼の矜持が許さなかった。

整備員が不十分な整備しかしないのは、整備員失格だと、彼の師は言ったものだ。

なんにせよ、簡単に死んでほしくなかったのもある。

彼とはなんだかんだで、1年くらいコンビを組んでいる。

これまでは数ヶ月で交代だったのを思い返せば、続いている方だ。

その関係を壊したくなかったのかもしれない。

すでに他のエンジンやプロペラ、フラップやエルロン等の整備は完璧である。

あとは、このオイル漏れを直すだけだ。

簡単な仕事のはずなのだが、なかなかうまくいかない。何が原因なのだろうか?

それを突き止めるのに時間がかかっていた。

ただでさえ忙しいものだから、彼も焦っていたのだろう。

ドライバーを握る手が、震えた。頭が真っ白になる。

彼は一瞬何をすればいいのか分からなくなった。

だが、すぐに正気に戻ると、さらに奥底えと捜査の手を広げた。

「あった・・」

彼は安堵したように言った。

それは一番の、オイルの分岐点で発生していた。

そりゃあ、直らないはずだ。

見ているところが、見当違いの場所だったのだから。

「はは」

彼は乾いた笑いを上げながら、一気に修理を行った。

雑念はとうに消えていた。

彼は一気に整備を進めた。

「終わりました!」

彼は、そう清々しく言った。

すでに戦闘の機から発艦が始まる頃だった。

そしてついに、「コンスティテーション」からワイルドキャットが、滑走を開始する。

脚の間隔の狭い、ワイルドキャットが不安定そうに飛行甲板をかけていく。

やはり見た目が砲弾のようにずんぐりしていても、戦闘機は戦闘機である。

加速は、かなり早い。

一気に飛行甲板を駆け抜けていき、蒼空へと駆け上がっていく。

それに続くように、1機また1機と発艦していく。

この時はまだ、敵襲もなく平穏な時間である。

飛行甲板に所狭しと並べられた、戦闘機がまず消えていく。

次は、ドーントレスの出番である。

腹に1200ポンド爆弾をだき、滑走に入る。

戦闘機に比べれば、どうしても遅く見えてしまうが、それでも艦船などは比べ物にならない速度に、加速していく。

甲板の凹凸によって多少機体が、揺さぶられるが、大時化の中に飛び込んだ時の揺れに比べれば、なんてことは無い。

むしろこの程度は、あって当然だ。

完璧なる整地は、難しいのだ。

艦爆隊が、真っ黒な爆弾をだきながら上昇していく。

攻撃するときは逆に、急降下で猛禽が襲いかかるように爆弾を投下する。

それが、急降下爆撃機の存在意義だ。

ドーントレスもまた、順調に発艦する。

それは並走する「コンスティチューション」も、同じはずだ。

そして、最後にデバステーターが発艦する。

最後列に並べられるだけあって、その動きは遅い。

徐々に加速していくと言うのがよく分かる。

だが、最終的には、艦船を大きく上回る速度に到達し発艦する。

デバステーターがそんん何も鈍臭いのは、腹に魚雷を抱いているからである。

それが最も、艦船を沈めるには役に立つ。

まるで重役出勤する幹部のようだった。

それに対しフレッチャーは、「レキシントン」艦橋から敬礼を送り続けていた。

「頼んだぞ」

彼は誰にも聞こえないような声で、そう呟いた。

その頃には、上空を数多の黒点が包んでいた。

彼らが、連合機動部隊の一番槍を担うのである。

編隊は、デヴァステーターの巡航速度である205キロで進撃する。


各艦隊から放たれた攻撃隊が、進撃していく。

第一航空艦隊から放たれた第一次攻撃隊は、あと1時間ほどで、敵艦隊を視界に入れる。

そして、第一航空艦隊では直掩機を燃料消費や搭乗員疲労と言うデメリットを、わかっていながら放った。

なぜか。

即座に第二次攻撃隊の、準備を開始するためである。

魚雷等兵装は、被弾誘爆の際の被害極限のため、飛行甲板で行われることになっているのだ。

それは、もし格納庫で誘爆を引き起こすと艦内深くまで被害がおよび沈没に至る危険があるのに対し、飛行甲板でするぶんには、飛行甲板が吹き飛ばされ発着艦が不能になるだけで済むと考えられたからだ。

そのため、いつ敵襲が来るかも分からない時に飛行甲板が第二次攻撃隊の機で埋まっていてもしもの時に、発艦不能になるのを恐れたからだった。

そうなれば敵機は、12機の零戦による反撃以外受けずにやすやすと、艦隊を攻撃するだろう。

しかも敵には日本海軍が現在通用する機体を持たない急降下爆撃機もおり、一層被害を拡大するだろう。

そして現在2時を回ったころ、4隻の母艦では1隻あたり零戦12、九七式艦攻9計84機が出撃準備を行っていた。

だいたい、あと30分とかからず攻撃隊を出せる。


全ては順調に進んでいた。

「いいか、絶対に止めを刺してこい!」

乗員たちがそう言って、搭乗員を勇気付ける。

まだ第一次攻撃隊も接敵していないが、確実に戦果を上げるだろうと誰もが思っていた。

今飛行甲板は、兵装の積み込みが終わった機から、暖機運転を始めていた。

暖機運転は、入念に行わなければ飛行中に発動機が止まってしまうかもしれないのだ。

これには手を抜くことはできない。

「出撃!」

そして、その時が来た。

2時50分、南雲司令が命令を下す。

ついに第一航空艦隊から、第二の矢が放たれる。

「高雄」の飛行甲板に並べられた、21基の栄発動機は暖機運転を終え、調子良さげに爆音を鳴らす。

プロペラが、高速回転し残像しか見えなくなる。

「行ってこい!」

整備員が、搭乗員に言う。

「おう!任せとけ!」

搭乗員も自信一杯に言う。

彼の顔には、良い意味の緊張が浮かんでいた。

彼は、整備員の見送りが済むとキャノピーを閉じる。これであとは隊内電話でしか、やり取りはできない。

彼は軽く、頭を振り集中してから、スロットルを押し込む。

もう何回もやっている動作である。

スロットルの操作に反応して、栄発動機が徐々に回転を増していく。

それにつられて、シリンダーの中をピストンが激しく上下し、機体を猛然と揺さぶる。

「車輪止め外せ!」

彼が準備よしと、親指を突き上げると、整備員がそう言って、彼の部下が高速回転するプロペラに当たらねいよう、注意しながら車輪止めを外す。

「外し終わり!」

そう報告されると、彼は右手を艦首側に向けた。

それで良かった。

「車輪止めは外されたか」

零式艦上戦闘機二一型のコックピットで操縦員である、仲原一等飛行兵曹はそう言いながら、ブレーキを緩める。

そして完全に緩め終わると共に、機体が前進を始める。

加速は一瞬だ。

軽量な零戦を、栄発動機が一気に引っ張っていく。

そして気づいた時にはもう、飛行甲板の先端に達している。

飛行甲板から、脚が離れる感覚がくる。

それと同時に軽く、彼の零戦が沈み込む。

揚力が十分でない機体が、一時的に落下するのだ。

ここであえて機首をすぐにあげないことで、必要な速度を稼ぐ。

慌てて操縦桿を引いてしまうと、失速墜落してしまうだろう。

彼は、手慣れた様子で軽く操縦桿を引き寄せ、上昇に移る。

水平尾翼のエレベーターが、確実に風を捉えて上昇角を零戦に与える。

彼の零戦は、なめらかに上昇に移る。

その頃には、次の機体も発艦作業に、入っている。

それからは、流れ作業のように発艦が進んでいく。

第一次攻撃隊には劣るものの、十分大きな規模を持った攻撃隊が、艦隊上空を覆う。

零戦が終わると次は九七式艦攻である。

第一次攻撃隊の時と同様に、魚雷を抱いているために加速は遅い。

だが、発艦ミスをする者はいない。

確実に発艦してゆく。

「行きましたね」

空中集合を終えた攻撃隊を、見上げながら草鹿参謀長が言った。

「ああ、嶋崎ならやってくれる」

嶋崎とは、第二次攻撃隊隊長、嶋崎重和中佐のことだ。

「彼ならば、期待通りの活躍をしてくれるでしょうな」

草鹿参謀長も、続いて言う。

彼は、第一次攻撃隊の淵田中佐のように、信頼されていた。

だから、第二次攻撃隊の指揮をまぁされたのだ。

彼らならば、確実に敵艦隊を殲滅するだろう。

その確信が、司令部にはあった。

「敵機はいつ来ますかな」

源田が、緊張をにじませていった。

今送り出して攻撃隊を無事収容するためにも、母艦は無傷で居続けなければならないのだ。

「もし、敵も出ていたとしても、最悪でも50浬の距離で電探に引っかかる。

それを考えれば、問題は数と言うことになる」

南雲が皆が抱いているだろう、疑念を言った。

それが今は、一番不安だと言っても、良いのではないだろうか。

「はい、長官。敵空母は2隻。ですが搭載量の多いことを考慮すれば、おそらく100機程度の編隊になるのではないでしょうか?」

「だが、零戦は36機だ。

どこまで防げるか・・」

「しかし弱気になるのは、早いと思います。

なんせ敵は、すべて戦闘機というわけではありません。それに敵は攻撃機を守らなければいけないため、そこまで不利にはならないでしょう」

「問題は攻撃機をどこまで落とせるか、だ」

南雲が重々しく、言った。

「大丈夫です!零戦の迎撃で編隊が崩れた、敵機なぞ日頃鍛えてる操艦で、全て落としてやりますよ!」

そう力強く言ったのは、「高雄」艦長、長谷川喜一大佐である。

「それは頼もしい」

南雲はそう言いつつ、いざとなったら強引にでも、操艦を変わらねばならぬかもしれん、と思った。

彼は元は水雷屋である。

敵の攻撃を避けるのは、お手の物と言えた。

「それに、対空射撃でもない防げますよ」

長谷川は、ニヤリとしながらそう言った。

「そうだったな、我が艦隊には戦艦が、4隻もいる。

それに巡洋艦だって10隻以上いる。

それを簡単には乗り越えられまい」

「その通りです。特に我が艦の準姉妹艦である「天城」「赤城」はその長大な艦隊に、対空火器を載せてますから、そう簡単にはやらせませんよ」

「それに零戦が、防ぎきれないと決まったわけではない。皆の奮戦を祈るとしよう」

どこかしめるように、南雲が言った。

第45話完

ここは少々飛ばしてみました

島風プラモ作ろう

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