第43話エニウェトク環礁沖海戦 発艦
エニウェトク環礁沖海戦第2回
どこまで行くか、誰にも分かりません
合同機動部隊は、敵との距離を詰めるため25ノットだった速力を28ノットに上げ太平洋を驀進していた。
彼らの兵力は、「レキシントン」「サラトガ」の巡洋戦艦、「コンスティレーション」「コンスティチューション」の空母「ニューオーリンズ」「アストリア」「ミネアポリス」「サンフランシスコ」「ポーランド」「インディアナポリス」「ペンサコラ」「ソルクレイクシティ」の8隻の重巡、第二、第四駆逐戦隊の合わせて2隻の軽巡、32隻の駆逐艦がいた。
概ね補助艦艇の数では、敵艦隊と互角だが、主力艦の数では、半分だ。
だが、空母の1隻あたりの搭載量はこちらの方が大きい。
その点を考えるとそこまでは、劣勢にはならないはずだ。
また後方には、残りの、4隻の重巡、1隻の軽巡、16隻の駆逐艦が30隻からなる上陸船団を守っていた。
機動部隊からの距離は、50浬あまり離れているためさすがに、現状では手出しされないだろう。
また、船団を構成する輸送船は、軍用高速船で構成されてるが、それでも20ノットしかでない。
本気を出した敵艦隊から逃げ切れるとは思えない。
また敵の艦隊も、ちょうど今相対しているもの以外は、すでに損害を被っており合同機動部隊を塞き止めることは、出来ないだろう。
つまり、目の前の敵さえ退けることが出来ればまだ、トラック上陸作戦に成功の可能性はある。
つまりまだ作戦は失敗していない。
たしかに今までの、海空2戦では敗北を喫していたが、まだ挽回できる。
また敵にも相応の損害を与えたからこそ、今こうし引かずにいるのだ。
もしも完全なる一方的な敗北だったならとっくに撤退の指示が来ているだろう。
そうなっていないということは、つまりそういう事なのだ。
そういう意味で、この戦いに勝てば戦略的に大勝利を飾ることができるのだ。
「だが、この戦い楽ではない」
フレッチャー中将は、そうどこまでも続く水平線を見つつ言った。
「たしかに、楽ではないでしょうが、勝ち目が無いわけではないです」
参謀長が言った。
「それは十分わかってる。
だがさっきの索敵機によって、敵にも存在がばれた。
これでは、先手を取ることは出来ない」
「しかし、奴らの航空機がそこまでの航続距離を持っているでしょうか?
「エンタープライズ」からの報告で敵機が、侮れない戦闘力を持っていることは分かりました。
なので性能が悪いとは言いません。
ですが航続距離がそこまで、極端に違うとは思えません。
今頃は敵も距離を詰めに来ているはずです」
「たしかにそうだ。
互角ならあとは、損害をより与えた方が勝つ。
また、日が暮れれば戦闘艦艇殴り込みもかけられる。
敵を潰すのは、空母だけで無いからな」
「その通りです。
しかも敵はここで負けるわけには行きません。
我々の攻撃から逃げるわけにも行きません」
「敵は、トラックを護らなければならない。
そこに我々が漬け込む隙があるな。
だが忘れてはいけないのは、こちらの損害を少なくしなけれなならないだ」
「当然です。
だからと言って臆病になってはいけません。
いち早く攻撃隊の航続距離内に入り、攻撃隊を放つのです」
結論は出た。
敵艦隊まで150浬になり次第、攻撃隊を出す。
だがドーントレス、航続力に不安が残るためその後も全身を続ける。
それで行動方針は固まった。
「高雄」の飛行甲板を42基の、栄発動機の爆音が包む。
24機の零戦二一型と18機の九七式三号艦攻である。
他の3隻の空母「高雄」の同型艦の「愛宕」新鋭空母「翔鶴」「瑞鶴」も同じである。
すでに、出撃準備は完了している。
あとは、出撃の令が入ればこれらの猛禽は即座に空へ飛び立つ。
だがまだその命令は届いていない。
出撃準備が下っていたが、準備にもうしばし時間がかかる。
すでに敵艦隊との距離は、浬を切っているはずだ。
距離が詰まるほど、燃料に余裕が出てくる。
またその分搭乗員の負担が減る。
だがそれに反比例して、敵の攻撃を受けやすくなる。
なかなか難儀である。
「まだか?」
南雲は、イラつきながらそう言った。
原因は、1機の零戦の燃料補給が遅れていたからだ。そうやら、フルに入って居なかったらしい。
その機の給油が終わり次第、出撃となる。
「もうすぐ終わりますから」
長谷川艦長が、たしなめるように言う。
「分かってる。だができるだけ早くだ」
「大丈夫です」
どこか神妙な言い回しで、長谷川が言った。
そして、間も無く給油が終了した。
当然と言えば、当然だろう。
南雲は、飛行甲板に降り立ち激励を贈る。
「大日本帝国はアメリカから、戦争を挑まれた。
これに負けるわけにはいかない。
相手は、強力であり苦戦するだろうが、諸君らなら完遂できると信じている。
この戦いが今日の一連の海戦の、勝敗を決めると言っても過言では無いだろう。
それも頭に入れてくれ」
南雲は、そう言って「凱歌を上げるのは諸君等だ!」と強く言って搭乗員を送り出した。
「了解しました!」
搭乗員はそう強く返すと、踵を返して自分の乗機に駆け足で向かっていく。
特にどの乗員は、この機を使えと言う指定はない。
その時の早いもの勝ちでもある。
だが母艦の場合は、小隊ごとに発艦の順が決められているため、争奪戦にはならない。
だが陸上基地では、そんなものは無く、できのいい機体目指して、時たま争奪戦が起こる。
と言うのも、やはり自分が慣れた機がいいわけで、だいたい愛機が決まっているからだ。
その様な者は、のんびりと自分の愛機へ向かうのだ。
空母の場合は、ほとんどきまているためそんなことは起こらない。
ただ駆け足で向かうだけだ。
「発艦開始!」
その命令とともに甲板士官が、旗を振り下ろす。
最初に発艦するのは、零戦だ。
それは軽量で、滑走距離が短いからだ。
その零戦が、飛行甲板上で徐々に加速していく。
先頭の機は、ギリギリまで甲板を使用する。
甲板が途切れた直後、海面に向け降下し姿が見えなくなる。
その瞬間は、どきりと緊張するが、少し経つとそのまま何事もなかったかのように、上昇していく。
一番早く、零戦を飛び立たせたのは、「翔鶴」だった。
それを皮切りに4隻の母艦から、続々と零戦が飛び立っていく。
その光景は、まさに見るものを圧倒するものだった。
徐々に艦隊上空の、空域を多数の零戦が、埋め尽くしていく。
艦隊は、風上に向け28ノットで航行している。
甲板では、手空き乗員が帽振れを行い、飛び立っていく零戦を、見送る。
「次は、俺か・・・」
野仲一等飛行兵曹が呟いた。
彼は、「高雄」第3小隊に所属する。
彼はスロットルを、フルにし栄発動機に離床出力を出させる。
そして車輪止めが払われ、ブレーキを解除する。
初めのうちは、変化がわかりずらいが、徐々に機体が加速していくにつれ大きくなる。
彼の視界に入る風景が、後ろに一気に流される。
そして気づくと、飛行甲板から飛び出している。
彼の機は、十分滑走距離があったため飛行甲板の終わりで、沈み込むことなく上昇に移る。
それはまるで、昇竜が天へ登るようだ。
グワーン
と、栄発動機がドップラー効果を出しながら、爆音を残していく。
プロペラは最早、高速回転によって影にしか見えない。
スピナーやプロペラ、主翼が風を切り、ひゅんひゅん、と音が響く。
コックピットは、星型発動機が生み出す振動に常に襲われる。
だが、本来採用予定だった2翅のプロペラよりは、ましらしい。
実際に官試乗にて、その効果が確かめられたという。
そして、彼が遥かなる高みに到達する頃には、すでに第二第三の機が、彼に続けとばかりに発艦を完了し上昇してくる。
「高雄」の甲板には、あと4機の零戦が残っている。
それの発艦が終われば、九七式艦攻18機が発艦を開始する。
航空魚雷という重量物を抱くため、長い滑走距離が用意される。
彼は、主翼を見、車輪の収納棒が引っ込んでいる事を確認する。
それは、無事に引っ込んでおり車輪が主翼に格納されたことを示している。
「艦攻は、大丈夫かな?」
南雲が、そう茶化すようにつぶやく。
「大丈夫ですよ、その為の発艦順です」
南雲に長谷川艦長が答える。
「言ってみただけだ。
いつも零戦に比べ、ヒヤヒヤさせると言うのもあるがな」
「慣れてくださいよ。
確かに時たま失敗する者もおりますが、基本大丈夫です。
しかも今日は、技量優良者ばかりですので、絶対に大丈夫です。
なんせ本艦よりも飛行甲板の短い、「飛龍」や「蒼龍」でも無事完遂してるんですから」
「さすが分かってるな・・
航空甲参謀、君はどう思う?」
今度は、源田に明確な意思を持って聞いた。
「何がですか?」
話を振られた源田は、何を聞かれたのか分からず、返し刀でそう聞いた。
「この戦、勝てるかだよ。
この中で一番、航空戦に精通してるのは、貴様だからな」
「負けは無いと言えます」
源田はそう、しっかりと言い切った。
「なぜだね?」
南雲は、生徒に聞くように問う。
「単純です。数で勝り先手も取れたんです。
これで負けるとは、よっぽど質で劣ってない限り、あり得ません」
「言いきれるか?」
「ええ、ただ質が劣って無いと言う条件でです。
さすがに敵の機体が我が方に比べ、遥かに高性能でしたら、先手や数の差はあまり意味がなくなりますから」
「では、今日は勝てる。
そういう事だ」
南雲は、源田の話を聞き終わるなり、そう強く言った。
「艦攻隊でます」
艦橋員が言った。
それを聞くなり、南雲がさらに窓に近ずく。
南雲が、発艦する機体を観察するのに絶好の位置についた時、ちょうど計ったかのように1番機が発艦する。
1番機は、第一次攻撃隊総司令官の、淵田美津雄中佐である。
彼は、別に操縦桿を握るわけではない。
彼は、攻撃総指揮に集中するため偵察席に座っている。
だが雷撃を行う以上、総隊長機が失敗するわけにもいかないため、操縦員は技量甲の者が当てられていた。
その機体が飛行甲板を、なめらかに滑っていく。
その機体の腹には、黒光りする魚雷が見える。
それが、敵艦の腹を食い破り撃沈させるのだ。
第一航空艦隊の、主力と言える機体である。
そんな機が何十機と群がれば、戦艦でさえ撃沈できるだろう。
だが今日は、空母や補助艦のみを徹底して狙う様に支持されていた。
特に空母の撃滅は、絶対と厳命されてる。
そしてその九七式艦攻が、飛行甲板を走りきる。
その瞬間艦橋から機体は、見えなくなる。
急激に海面へ向け、支えるもののなくなった機体が降下するからだ。
だがそれに、いちいち動揺する者はいない。
それが当たり前だからである。
そして分もかからぬうちに、再度上昇し艦橋から見える位置に姿を現わす。
やはり技量甲の者だけあって、その操縦に無駄はない。
美しい飛行である。
零戦に比べれば、寒気がするほどのとろさで、九七式艦攻が上昇する。
出撃時の機重が、重いからである。
それは機体自体の重みもあれば、魚雷の重みもある。
そんな機体を、零戦と等しい栄発動機で飛ばすのだから、遅くなって当たり前だった。
機体を上昇させながら、空気抵抗の権化である車輪が、零戦と同じ様に主翼に格納される。
すると、見るからに上昇速度が上がる。
空気抵抗が減るだけでそれほど、速度に差が出るのだ。
そして飛行甲板では、1番機に続けとばかりに、次の機体が、滑走を始めている。
他の空母からも、九七式艦攻が飛び立ち始めている。
すでに零戦は、すべての機体が空にあった。
九七式艦攻も、それに遅れじと発艦する。
海面まで降下した後、上昇に移る際主翼に負荷がかかり、上方にたわむ。
少々肝を冷やすかもしれないが、慣れてしまえば気にならなくなる。
「順調だな」
南雲が、どこか安心したように言った。
発艦事故がなく、無事に発艦を終了出来そうからだろう。
「ですね」
長谷川が、そう短く返す。
「彼らには、出来るだけ多く帰ってきてもらいたいものだ。
彼らの腕は、何事にも変えられない貴重なものだからな・・」
「その通りです。
搭乗員は国の宝です。
それを無駄遣いする事など出来ません」
言ったのは、源田だ。
「そうか・・戦力では敵に勝っているから、損害もそう大きくならないと思うが・・・」
南雲はどこか不安げに言う。
おそらく、これからの戦いを考えた時、搭乗員の不足を恐れているのかもしれない。
「来る決戦に置いて、搭乗員不足での敗北は避けなければならぬ。
ここは山口君にならい、3次攻撃は未定とし敵の反撃を見て考えよう」
「それはいくらか、消極的なのではないですか?」
源田が、食ってかかる。
「搭乗員の消耗を避けると言ったのは、貴様では無いか。
ならば、様子見すればいい。
それに第一次、第二次で空母をやれない訳じゃない。
日が暮れる頃には、敵の主力艦はレキシントン級だけになってるよ」
南雲は、いつになく真剣に言った。
第43話完
ということです
会話が、次回に持ち越されるという、めちゃくちゃやりました
なんでか知らんが、今月に入ってすでに20冊近く本買ってる(漫画ありラノベあり、架空戦記あり(だいたいブックオフですけど)
めちゃくちゃやりましたが、どんなものでもいいので感想切にお願いします!




